TMB IMPRESSION

<インプレッション>
実際乗ったらどうなんですか?
TMBが選りすぐった“名車”を運転してみて感じたこと

MATRA M530 SX

フランスにもスポーツカーは数多くあるが、一際個性的なモデルをリリースしていたメーカーといえばマトラだろう。M530SXは、丸い目と口を開けた愛嬌のあるスタイルだったが、その中身は4シーターミドと先鋭的だった。

TEXT / 森口将之 PHOTO / 宮越孝政
SPECIAL THANKS / Premier Auto Mobile(https://www.premiere-japan.com/

幻の自動車メーカーが展開する
斬新な世界観

ライトウェイトか否かという以前に、この姿だけでティーポの誌面を飾る資格がありそうだ。マトラM530SX。ミサイルやロケットの開発からクルマづくりに参入してきたマトラ初の自社設計市販車M530のエントリーモデルだ。

マトラは史上初のミドシップ・ロードカーであるジェットを生み出したルネ・ボネを吸収することで、1964年に自動車業界に加わった。同時にモータースポーツにも参戦し、69年F1チャンピオン、72年からル・マン24時間3連勝などの輝かしい成績を残している。ところがロードカーは、2003年までの40年間で9車種しか作っていない。

そのうち4作目ムレーナと9作目アヴァンタイムを所有した僕が感じているマトラらしさとは、航空宇宙の世界出身らしく、斬新な発想で新鮮な移動を体験させてくれたことだと思っている。その点ではこのM530も例外ではない。

開発が始まったのは1965年。2シーターで高価だったジェットの販売不振に悩んでいたマトラは、ベビーブーム世代が20歳に近づいていることに注目。次期型は2+2キャビンとすることを決めた。当初は前輪駆動も考えたそうだが、スポーティではないことから方針転換。リアエンジンはアルピーヌがあるので、結果的にジェットと同じミドシップを選んだ。よってM530は史上初の4シーター・ミドシップとなった。

シャシーはロータス・エリーゼに似たスペースフレームで、アルミではない代わりに、航空機のように丸い軽減孔がずらっと開いていた。ジェットに続きFRPボディを用いたのも軽量化のため。おかげでBMW2002に匹敵する大柄なボディサイズながら、その車両重量は僅か935㎏に収めていたのだった。

問題? のスタイリングは、1966年のル・マン24時間レースに出場したMS620がモチーフで、Cd値は0.34と優秀。名前は同社の空対空ミサイルR530から取った。当初はフルオープンを考えていたそうだが、ソフトトップは使い勝手が悪く、剛性でも不利であることから脱着式ルーフになった。

マトラが自社開発したエンジンはモータースポーツ用だけで、市販車は量産車の流用となる。フォルクスワーゲンやプジョーなどを当たった結果、コストを抑えたいという理由もあってフォードに決定。2+2ミドシップということで、ドイツ・フォードのタウナスに積まれた前後長が短いV型4気筒1.7リッターにした。

デビューは1967年のジュネーブショー。価格はジェットの約3分の2だった。2年後に最高出力を85psから90psにアップしたM530Aに進化すると、翌年M530LXに発展。バンパーの形状が変わった。今回紹介するSXは71年に登場したモデルで、リトラクタブル式ヘッドランプ、脱着式ルーフ、リアシートを備えずにコストダウンを図っていた。

ところがこの間の1969年、マトラはクライスラーフランスと提携を結んだ。フォードのエンジンを使っているのにどうして? と思うかもしれないが、過去に固執しないのもまたマトラらしさ。マトラはシムカの横置きパワートレーンを用いた新型スポーツカーの開発に入り、73年にバゲーラとして登場させる。

M530SX/LXは、バゲーラの登場と入れ替わるようにこの年で生産を終了。67年からの累計生産台数は約9600台、うちSXはわずか1146台と、5万台近くが作られたバゲーラと比べれば少数に終わったのは、やっぱりアクの強いスタイリングのためだったのかもしれない。

というのも、25年ぶりにM530のキャビンに収まって走りを味わったら、時代を考えればあまりに斬新な世界観にむしろ感心してしまったからだ。

インテリアは楕円のステアリングを除けば素直にスタイリッシュだと思える。トレイの上にメーターパネルという造形は、その後バゲーラ、ムレーナを経てエスパスまで受け継がれたマトラ・スタイル。低いウエストラインに大きな窓の組み合わせはフランス車そのものだ。

FRPフレームのシートの座り心地は、お尻をメインに優しくホールドしてくれて、記憶の中にあるムレーナに似ている。SXのリアは本来トレイになるはずだが、取材車はLXのリアシートが付いていた。こっちのほうがM530のコンセプトを明確に表していて好ましい。

1.7リッターのフォードV4は音はドルルと勇ましいけれど、90PSだけあって加速はそんなに鋭くはない。でも1トンを切る車重のおかげで反応に遅れはないし、どの回転域からでも踏めば応える扱いやすさが、街でのドライブではありがたい。

それにしてもこの乗り心地はなんだ。2560㎜というロングホイールベースと、ストロークをたっぷり取ったサスペンションという、フランス車の文法どおりの成り立ちゆえだが、最新のスポーツカーに負けないほどの快適性なのだ。

その代わりステアリングを切っても、スパッとノーズがインを向くわけではない。ミドシップらしさはそれよりも、コーナーでの安定感で伝わってくる。低い車高に加え、短く重心が低いエンジンを縦置きしたことが奏効している。低いスタンスでスルッとコーナーを抜けていくフィーリングは、とにかく爽快だ。

ミドシップが一般的になった60年代、多くの自動車メーカーは運動性能向上のためにこのレイアウトを採用した。しかし早くも2作目となるマトラは、そこから脱して、新しいドライビング体験を多くの人に提供するという方針に転換していた。体育会系が当然だったこの時代に、物理的な軽さより精神的な軽さを追求していたところが、いかにもフランスきっての前衛派らしいではないか。

コンパクトにまとめられたコクピット。乗降性や足元のスペースを考慮してか、LXに設定されている楕円形状のステアリングに変換されていた。
ステアリング越しに見られる、6連のメーター。中央は右が速度で左が回転計。その左が水温計と燃料計、右が油圧計と油温計といううレイアウト。
スポーツカーらしいタイトな室内。バケット形状のフロントシートは、LXのリクライニング機構付きに換装されている。よく見ると後部座席があるものの、そのスペースは基本荷物置き場と考えるのが妥当な広さだ。
前後タイヤ&ホイールは14インチながら異サイズのタイヤを装着する。
フロントフード内には、燃料タンクやバッテリー、ウインドウォッシャーなどがレイアウトされており、ラゲッジとしての容量はミニマム。
フォード製の狭角60度のV型4気筒という非常に珍しいエンジンを搭載。ミド2+2のレイアウトを実現させるべく選択したエンジンだ。
フランスきっての前衛派らしいクルマ。

SPECIFICATIONS
MATRA M530 SX
全長×全幅×全高:4200×1620×1200mm
ホイールベース:2560mm
車両重量:935kg
エンジン:直列4気筒OHV
総排気量:1699cc

最高出力:90ps/5000r.p.m.
最大トルク:15.2kg-m/2800r.p.m.
サスペンション(F/R):ダブルウイッシュボーン/トレーリングアーム
ブレーキ(F&R):ディスク
タイヤ(F/R):145R14/165R14

ANOTHER MATRA

マトラ社が製作した個性的な面々たち。日本ではイベントなどで見かけることができればラッキー! という程度の、どれも激レアなクルマばかり。

MATRA RANCHO
マトラ社が唯一リリースしたSUV。オフロードスタイルだが、駆動方式はFFを採用。FRPなどにより軽量に仕立てられていた。
MATRA DJET
市販車初のミドを採用した、ルネ・ボネ・ジェット。同社を傘下に収めたマトラが1965年に再販したのがマトラ・ジェットだ。
MATRA M530
M530はマトラ・ジェットの後継モデルとして登場。世界初となる2+2のミドレイアウトを採用するが商売としては奮わず。
MATRA MURENA
バゲーラの後継モデルとして登場したムレーナ。横3人並びのシートという個性的なパッケージを採用。83年に生産が終了。