TMB IMPRESSION

<インプレッション>
実際乗ったらどうなんですか?
TMBが選りすぐった“名車”を運転してみて感じたこと

CITROËN DS 21 RALLY MODIFIED

DS/IDがラリーシーンで活躍していたと聞いて、意外と思う人もいるだろう。ラリーカーにしては大きく、重く、遅く、そして信頼性に欠けると。しかしシトロエンに普遍的なロジックが通用しないのは今も昔も一緒。WRCの前身であるERC(欧州ラリー選手権)では、強大なライバルを相手に互角以上に渡り合い、特に路面状況が悪ければ悪いほどその力を発揮。優秀な成績を収め、DS/IDの信頼性の高さを証明したのだ。

TEXT / 武田公実 PHOTO / 内藤敬仁

DSとラリーの意外な関係

激動の20世紀も終盤を迎えていた1999年。シトロエンDSシリーズは、全世界の自動車評論家・雑誌編集者などの投票によって選考された「カー・オブ・ザ・センチュリー」において、第1位のフォード・モデルT、2位のBMCミニに次いで「20世紀に作られた偉大な自動車の第3位」という評価を得た。

今やシトロエンとは別ブランドとして独立した新生DSレーベルの「偉大なるオリジン」でもあるシトロエンDSシリーズだが、この歴史的名作にはもう一つの側面がある。1960年代を代表する、卓越したラリーマシンとしての顔である。

60年代ラリーシーンの主役

巨大な体躯を誇る4ドアベルリーヌであるとともに、パワーユニットは車体とは相反するように小さな4気筒OHV。したがって、スペシャルステージが中核となった現代ラリーの常識では計り知れないのだが、前輪駆動と低重心によってもたらされる操縦安定性と、ハイドロニューマティックの資質である走破性を利したシトロエンDS/IDは、ラリーのスピード競技化が進行する以前、1960年代における最強のラリーマシンの一つと目されていた。

ラリーにおけるDSの歴史は、デビュー翌年の1956年には早くも幕を開けていた。この年のモンテカルロ・ラリーに、プライベーターたちとともにエントリーして非凡なパフォーマンスを示したのち、59年にはポール・コルテローニの駆る、事実上のスタンダード状態のID19がモンテカルロで初優勝するとともに、この年の欧州ラリー選手権チャンピオンを獲得。そして、その成果に勇気づけられたシトロエンは、翌60年にワークスチームを結成。まずは当時の最新モデルDS/ID19とともに積極的な参戦を始めたのだ。

こうしてラリーフィールドに乗り出したDS/IDは常にトップコンテンダーであり続け、1963年のモンテカルロで総合2位、翌64年のアクロポリス・ラリーでも総合2位など、多くの国際ラリーで上位入賞を果たしてゆく。さらに1966年には、若干ながら高速化が図られた新型エンジンを搭載するDS21が登場。ラリーにも実戦投入された。

そして、シトロエンDSにとって1959年に次ぐ戦歴となったのが、この年のモンテカルロ・ラリー。実は1位から3位を独占したイギリスのBMCミニ・クーパーSが「灯火器のレギュレーション違反」という理由で失格となるという事態に助けられつつも、パウリ・トイヴォネン/エンシオ・ミッカンダー組のDS21が総合優勝を果たしたのだ。

1960年代末になるとラリー競技が、例えばポルシェやアルピーヌのごとく、より速くアジリティに優れたクルマの時代を迎えてゆくが、それ以前のラリーシーンにおけるシトロエンDSは、間違いなく主役の一角を担う存在だったのである。

心躍らせる操縦フィール

シトロエンDSを運転するときは、いつも心に高揚感を覚えてしまう。今回、取材させていただいたワークスカー・スタイルのDS21は、英国スラウ工場で生産されたマニュアル仕様をベースに仕立てたクルマなので、イグニッションスイッチは「Cマティック」仕様車のごとくシフトレバー兼用ではなく、コンベンショナルにキーを捻るタイプとなる。

走り出して最初に感銘を受けるのは、もはや誰もが周知の乗り心地。3124mmという長大なホイールベースにハイドロニューマティックの魔法も相まって、これも使い古された表現だが「巨大な船のような」フィールを示してくれる。この、路面の数センチ上を滑空するごとき感覚は、世界中のあらゆる高級車にも似ていない。例えば、フランス人が実は憧れていたと言われる1950~60年代のアメリカ製大型車とも、あるいは同じハイドロニューマティックを分け与えたロールス・ロイス・シルヴァーシャドウとも違う。シトロエンDSシリーズだけの世界観が、濃厚に体現されているのだ。

そんな濃密なカスタードクリームのごときシャシーに対して、エンジンフィールはあっさりしたもの。エンジンが声高に存在感を主張しないのも、この時代のシトロエンの特徴なのだ。総排気量2175ccの直列4気筒OHVエンジンは、スペック上の最高出力では101psという細やかなもの。とはいえ、パワーというよりはトルクで走らせるというべきだろう。チューンの低い4気筒らしい、長閑だが健康的なサウンドとともに、いかにもシトロエン的な、フライホイールの質量を感じさせる重ったるいフィールとともにゆっくりと回転を上げていくのだが、その過程に退屈さなどは微塵もない。

スロットル操作と呼吸を合わせるかのように早め早めにシフトアップしてスピードを維持。車外から見ていると、まるでひっくり返るように大きなロールを伴いつつも、実は以外にもシャープな回頭性も示す。また、ゴムボールのようなブレーキペダルは、爪先で探るように丁寧な操作を要するが、慣れてしまうときわめてデリケートな操作も可能となる。スポーツカー的な爽快感とは対極にあるはずの巨大サルーンながら、シトロエンDS特有の、クルマと対話するように走らせる行為は、まさしく「愉しい」の一言に尽きるのだ。

1995年以前のモンテカルロ・ラリーでは、それぞれ約1000km離れた欧州各都市からモナコに参集する「パルクール・デ・コンサントラシオン」が設定されていた。翻って現在の路上で、このラリールックのDS21を走らせていると、あたかも一路モナコに向かっているかのごとき妄想に浸ることができる。それは、シトロエンDSという稀代の名車が持つ、もう一つの側面を体感していることにほかならないのである。

クラシカルなボディフォルムにワークスカーを思わせる鮮やかなフレンチブルーのカラーリングという組み合わせがなんともシャレている。
エンジンは不動車のものをレストア。ボディと合わせて約2年の歳月がかかったそうだ。
メッキパーツはほとんどが新品。これを探して集めるのに一番時間がかかったそうだ。
ホイールはスチールキャップを外し全体をホワイトにペイントすることで、スポーティさを演出している。
右後部にニョキッと生えたような細めのデュアルマフラー。スポーティには見えないのがまたいい。
上方へ抉ったようなリアホイールアーチ、これとエレガントなサイドウインカーのミスマッチがシトロエンらしい。
取材車両は右ハンドルのマニュアルコラムシフト仕様。
レストアの際、シート生地には敢えて毛足の長いモケットを採用したそう。おかげでソファ並の柔らかさと快適さを与えてくれる。
ステアリング脇には、チョークや空調、フォグランプなどのスイッチ類が並ぶ。
イエーガー製のメーターは、左から各種警告灯と作動確認灯、中央が速度計と距離計、右が回転計となる。
サイドブレーキレバーは、なにかのステッキのようなデザイン。
中央のゴムの塊はブレーキペダル。踏力により制動力が変わるが、ストロークが短いので慣れが必要だ。

CITROËN DSとは?

1955年に誕生、約20年に亘って生産されたシトロエンDSは、フランスを代表する高級セダンながら、あらゆる観点から見ても革命的と言うほかないモデル。サスペンションや半自動変速機、ブレーキも複雑な油圧機構で一括管理する“ハイドロニューマティック”に加えて、前衛芸術家としても知られるF.ベルトーニが手掛けた内外装デザインも今なお自動車美の極致として認知。後世のカーデザイナー、あるいは芸術家もインスパイアした。

モンテカルロでは無類の強さを発揮

DS/IDはモンテカルロラリーで強さを発揮した。これはトラクションの優劣で勝負が決するワインディングで、複雑に状況が変わる路面に対し、DS/IDの優れたサスペンションがもたらしたもの。成績では59年に初優勝。63年は2位、4位、5位、7位、10位と5台が10位以内に入る快挙。67年はDS21で再び優勝に輝いている。

PROFILE/武田公実

クラシックカーイベントの審査員として、海外から声がかかるほど欧州の旧車、主にロールスロイスやベントレーなど超の付く高級車に造詣が深い自動車ライター。