TMB IMPRESSION

<インプレッション>
実際乗ったらどうなんですか?
TMBが選りすぐった“名車”を運転してみて感じたこと

ALFA ROMEO 1750 GTV RACER

その日筑波に佇んでいたのは、深紅のボディに身を包み、心臓部には丁寧にチューニングされたアルファツインカムを積む、アルファロメオ1750GTV。ナンバーなしのサーキット専用車らしく、ヘッドライトの一部を取り外してエアインレットとし、加えて前後バンパーレス、車高は徹底的に低められ、今にも飛び掛かってきそうな獰猛なフォルムを身に纏っていた。

TEXT / 山田弘樹 PHOTO / 内藤敬仁
SPECIAL THANKS / スクーデリア・オールドタイマー

サーキットに舞い降りた、かわいい悪魔

“キュン、キュン、キュン、キュン!” インパネのスターターボタンを押すと、短い間隔でクランキングが行われ、右足に少し力を入れると“ヴァンッ!”と火が付いた。

憧れのクルマが目の前にある。1969年式のアルファロメオ1750GTV。エンジンが2000GTV用の2リッターユニットに換装、スクーデリア・オールドタイマーの手によりフルチューニングが施された現役のヒストリックレーサーだ。

もともとはこのGTV、かつてティーポの誌面で活躍した耐久レーサーだった。まだ所々に内張が残っていた“フツーのジュリア”を、スクーデリア・オールドタイマーの手塚代表と一緒にストリップダウンして、イチから作り上げた思い出の一台。ただし当時は僕もサーキットの経験が浅く、耐久性や扱い易さを考えて、敢えてエンジンはノーマルの2リッターユニットを積んでいた。しかしそれでも、第1回目のアイドラーズ12時間耐久(だったと記憶している)で、総合3位になった。それだけ、レーシング・ジュリアのポテンシャルは高かったのである。

その時から、「いつかはフルチューンした2リッターエンジンのジュリアを走らせてみたい!」と思っていた。68年式のGTA1300ジュニアを持つ身分としては非常に贅沢な話だが、速さでは到底2リッターにはかなわない。もっと歴史を細かく説明すれば、ジュリア最強の一台は狭角ヘッドを搭載した2000GTAmとなるが、現存台数が極めて少ないうえに、GTAと同じく、ヒストリーを持ったマシンを全開で走らせるなんて甲斐性も、残念ながら持ち合わせていない。

もっとも現実的で、しかしなかなか手が届かない憧れの存在。それが、スクーデリア・オールドタイマーの“2リッターフルチューンジュリア”だったのである。

1万r.p.m.まで刻まれたスタックのタコメーターは、2000r.p.m.以下の数字が小さい。のっけから「低回転なんて使わないだろ?」と言われているようで、ちょっと武者震い。

右足に反応するエンジンのレスポンスは鋭く、ブリッピングすると簡単に4000r.p.m.あたりまで針が跳ねる。軽量化されたフライホイールの音がシャンシャンとけたたましくせかすのでクラッチをつなぐと、1750GTVはスルリと走り出した。ピットロードを徐行すると、注目の的。突き刺さる視線がちょっと恥ずかしく、しかしながら誇らしい。

午前中激しかった雨はほとんど止んだが、路面はウェットの状態。S字ではかなり手前からブレーキングをしてみたが、サスペンションはしなやかに沈み込み、ADVAN A050の感触もいい。コーナーは小回りでクリア、立ち上がりを直線的にラインを取って全開をくれてやる。タテにトラクションを掛けると、1750GTVは一瞬グッと沈み込んだ後、タイヤのキシミとともにすぐさま力強く加速した。

現代目線で見ても、なかなかに頼もしい中速トルク。クロスレシオの6速ドグミッションを使っているからシフトアップは一瞬だが、つないでしまえばブワッと加速体勢に移り、これが7500r.p.m.まできっちり続く(ちなみにレブリミットは8000r.p.m.だが、今回は大事をとった)。1300/1600ユニットのような“発狂系”ではないが、狭角ユニットのように洗練され過ぎてもいない。IN/EX310度! のハイカムと、圧縮比11のハイコンプピストン。そしてチェーン駆動よりもラグの少ないギアトレーンが、もったりとした2リッターユニットをここまでスカッと吹け上がらせるのには感心した。48φのウェーバーはグズつく気配すら見せないから、立ち上がりでガバッとアクセルを開けても失速なんてしない。これはパーツの威力というよりも、調律師のセッティング能力の高さだと感じられた。

大体のタイヤ内圧を把握し、70度以上に上がらない水温ではと、オーバークール対策にテープでラジエターを塞ぐ。バックストレートで4速に上げた際の加速感を補正するために、燃圧を少し上げ、再びアタックへと入った。

ーそこからはもう、夢心地だった。

所々に残るウェットパッチ。斜めにフルブレーキングする1コーナーの進入では、一瞬リアを左右に振り出したが、それでもタイヤは路面に張り付こうとしているから、意思通りのコントロールができる。S字はいまだにウェットで、早めの減速が強いられるから、その分ボトムスピードを上げて第1ヘアピンをターン。ダンロップの進入はアグレッシブに、しかし80Rは慎重に(これはオーナーカーなのだ!)。第2ヘアピンはヨーを残さないようコントロールして攻める。

速い、速い! マージンを取っても80RはN1スターレットよりも鋭く、直線で食らいついて来たお化けのように速いミニのレーサーを突き放す。APのフロント6ポット/リア4ポットブレーキは効き方が穏やかで、クァンタムのダンパーがジュワッと荷重をタイヤに押しつける。

バックストレッチを2速で立ち上がり、3速へ入れ、4速に。ウェーバーが大量にガソリンを吹き出して、独特なパンチのある加速を途切れさせない。最終コーナーは3速に落としてアプローチ。タイヤはなんとか粘ろうとしながら、しなりしなりと滑っている。微妙なアクセル操作を難なく受け付けてくれるエンジンは、その流れをピタッと止めてくれた。

ドライよりも奥目にクリップを取って、最後の全開加速。コントロールタワーを通過したときのタイムは、1分8秒5だった。

コンディション的には、なかなかのタイム。完全なドライであれば、7秒を切るかもしれない。でも大切なのは、たぶんそこじゃない。

ジュリア系の本当の素晴らしさは、集中力とドライビングがシンクロしたときに訪れる。頭の中が真っ白になって、それでも妙に冷静で、タイヤが常に流れながら、でもグリップしていると感じられるとき。そのテンションに持ってゆくには、今回のコンディションは少し厳しかった。

しかし条件さえ揃えば、その恍惚とした時間が体験できる。それはレーシング・ジュリアが持つ素性ーFRで、軽くて(この1750GTVの車重は840㎏!)、前後重量バランスに優れているからである。そしてもうひとつ大切なのが、このマシンのようなチューニングを施されていることである。

火の玉みたいにカッと燃えて、ドライバーと一緒になって飛んで行く。それがアルファロメオの魅力であり、楽しさだ。マシンに金を掛けるのは、偉ぶりたいからでも、ただ速くしたいからでもない。渾然一体となって、ぶっ飛ぶため。そう考えると、名のあるヒストリックカーでビクビク走るより、自分で仕上げたレーサーの方が、らしい。可愛い悪魔。それがアルファロメオである。

車体全身から溢れ出る闘気

エンジン冷却効率アップのため、内側のライトは取り払われ、さらにエアスクープが追加されている。
低く腹に響くエキゾーストを奏でるマフラー。リアはバンパーが取り払われ非常にシンプル。
エンジンは2000GTVのユニットに換装。それにスクーデリア・オールドタイマーのフルチューニングメニューが施されている。
ボンネットはドライカーボン製のものが奢られる。アルファの蛇マーク付き。
余計なものは全て取り払われたコクピット。ナンバーなしの完全レーサーなので、速度計さえも持たない。右に見えるスケルトンのケースはヒューズボックス。
リアシート部にはロールケージのみという潔さ。下のシルバーのボックスはバッテリーケース。
リアトランクには大容量の安全タンクをはじめ燃料系統の補器類が備わる。
今回のサーキット試乗に関しては、タイヤはレインタイヤで、ホイールはワタナベのバナナスポークタイプを装着した。
1963年にデビューした105系ジュリア・スプリントGT。これの後継モデルとして1967年に登場したのが1750GTVだ。新たに車名についた「V」は、イタリア語で「速い」の意味を持つヴェローチェから付けられたもの。1970年には1750GTVユニットのボアを84㎜に拡大し1962ccという排気量になった2000GTVが登場。この登場と同時に1750GTVには小変更が加えられた。外観ではフロントバンパーやシグナルランプ、エンブレムなど。機構面ではブレーキが2系統となり、それに伴いペダルも吊り下げ式となった。2000GTV登場後も1750GTVはしばらく併売という形を取っていたが、1972年をもって生産を終了した。

SPECIFICATION
ALFA ROMEO 1750 GTV RACER
全長×全幅×全高:4080mm×1580mm×1315mm
ホイールベース:2350mm
トレッド(F/R):1320/1270mm
車重:990kg

エンジン形式:直列4気筒DOHC
排気量:1779cc
最高出力:118PS/5500r.p.m.
最大トルク:19.1kg-m/3000r.p.m.
サスペンション(F/R):ダブルウィッシュボーン/トレーリングアーム
タイヤ(F/R):165S*14

PROFILE/山田弘樹

元本誌編集部員にして、アルファロメオ・ワンメイクマガジン「アルファ&ロメオ」の創刊&初代編集長。今回クルマを持ち込んでくれたスクーデリア・オールドタイマーの代表手塚さんとは旧知の仲、というより子弟関係に近い間柄。