TMB IMPRESSION

<インプレッション>
実際乗ったらどうなんですか?
TMBが選りすぐった“名車”を運転してみて感じたこと

RILEY ELF MK-Ⅲ

半世紀以上も前に作られたコンパクトな一台。しかしその小さなボディから溢れる気品は、現代のどんな車でさえも敵わないかもしれない。そんな気持ちにさせる小さな宝石ともいうべき一台。とくとご堪能あれ!

TEXT / 吉田 匠 PHOTO / 内藤敬仁
SPECIAL THANKS / ウィザムカーズ(https://www.witham-cars.com

洒落モノのミニ

EU離脱に加えて、新型コロナの感染拡大と、かつての大英帝国は今、揺れに揺れているようだ。 歴史的な意味では、19世紀から20世紀初頭までが大英帝国華やかなりし時代だったが、僕ら自動車好きの視点でいうと、その最盛期は1950年代後半から60年代に掛けての頃だったといえる。例えば50年代にはジャガーが4勝、アストンマーティンが1勝するなどル・マンを席巻、やがて58年には戦後型小型スポーツカーの傑作ヒーリー・スプライトが登場、続く59年にはこれまた戦後小型車の代表作のひとつ、BMCミニが世に出る。

60年代に入ると、Eタイプ、エラン、MGB等々、スポーツカーの名作がイギリスから続々と出現し、スポーツカー大国であることを立証すると同時に、コンペティションの世界ではミニがモンテカルロラリーに連勝、F1でもイギリスのコンストラクターが大活躍するなど、モータースポーツの本場としての地位も確立されていた。 そんな佳き時代のイギリスの自動車のなかからもしも1台だけ選ぶとすると、クルマそのものの独創性や魅力に加えて、その後のクルマに与えた影響の大きさまで加味すると、ADO15ことミニが最右翼ではないか。

今回のこのページの主人公はADO15だが、しかしそのエクステリアを見れば一目瞭然なように、それは単なるミニではない。ミニよりもクラシックな印象を与えるラジエターグリルに加えて、2ボックスの革命児ミニにあるまじきトランクルームをリアに出っ張らせた、3ボックススタイル。 往時の英車通には説明不要かもしれぬが、このクルマの名はライレー・エルフ。姉妹車のウーズレー・ホーネットとともにBMCによって市販された、ミニでありながら「サルーン」と呼ばれた、3ボックスの豪華版である。

ではなぜBMCはオースティンとモーリスだけでなく、ミニにライレーやウーズレー版を加えたのか。そこにはあのグッドウッドの主、マーチ卿のような貴族が今も活躍する階級社会、イギリスならではのお国柄がある。

例えば「今度BMCから出た小さいクルマ、乗ってみるとなかなかいいらしいが、オースティンとモーリスしかないところが問題じゃな。わが家は爺さんの代からずっと、ライレーにばかり乗ってきたからのぅ」、といった階層の人々が、いたからである。

だから当時のBMCは、ADO15だけでなく、その上のADO16にも、さらに上の1.5~1.6リッター級の後輪駆動サルーンにも、オースティンやモーリスだけでなく、ライレー、ウーズレー、MG、ヴァンデンプラ等々、高級モデルやスポーティモデルをラインナップしていた。で、そうやってブランドのマークやグリルだけ替えて別のモデルを生み出す手法が、「バッジエンジニアリング」と呼ばれたのだ。

もちろんモデルによっては、バッジやグリルを替えるだけでなく、エンジンをツインキャブレターにしてチューンし、脚を固めるなど、メカニズムにも手を入れていたのだが。では、そんな当時のイギリス社会が生み出したADO15サルーン、ライレー・エルフとはどういうクルマか?

外観は写真にあるとおり、戦前には幾多のスポーツカーを生み出していたライレーの伝統を受け継ぐ、スポーティにして高級感もあるグリルと、トランクルームが後方に22㎝ほど突き出した、3ボックスボディがすべてを物語る。ただしシャシーの基本はミニそのものだから、2036mmのホイールベースはミニと変わらない。

インテリアも基本はミニだが、センターメーターの周囲が上質なウッドパネルでカバーされたダッシュボードや、本革張りのシートが与えられる。運転席に収まると、ドライビングポジションはミニそのものだが、ぐっと優雅な気分に浸れるというわけだ。本来ステアリングは大径の樹脂製だが、試乗車はマニアのクルマの多くと同様、モトリタの小径ウッドに替えてある。

走り出して最初に印象的だったのは、シフトタッチのよさだった。作動はクーパーSのように確実で、しかも1速にも滑らかにシフトダウンできる。68年型以降のマークⅢは1速にもシンクロが備わっているのだが、この手応えならMTに乗る価値がある。 エンジンはミニ1000と同じ、Aタイプ998㏄のシングルキャブ38psユニットを搭載、車重はミニよりやや重い645kgで、4速M/Tを介しての最高速は122km/hといわれた。試乗車はマニュアル仕様だが、独特の操作系を持つ4速A/Tも選べた。

ところがこの69年型エルフ、どう考えても1リッターのシングルキャブ仕様とは思えぬ勢いで加速する。明らかにトルクが太い印象だし、中速から上の伸びもいい。1リッターのクーパー仕様にでもチューンしてあるのかと思ったら、なんと1.3リッター、つまり1275ccのSUツインに換装済みだという。それなら気持ちよく走るはずだ。それでいて、クーパーSのように弾けすぎる感じもない、ライレーに相応しい絶妙なパワフル感で、実に爽快に走る。

それに加えて乗り心地も、ラバーコーンにつきものの跳ねる硬さがないと思ったら、この年式のサスペンションはハイドロラスティックだった。ハイドロにしてはやや硬めだが、ライレーの名に相応しい乗り味だし、締まったステアリングの感触も気持ちいい。

梅雨の合間の晴れの日に都内で走らせたライレー・エルフは、想像していた以上に気持ちいいクルマだった。室内にはクーラーの吹き出し口があるが、現状は作動しないという。でも試乗当日午前中の気温なら、サイドウインドーを開けば心地好い風がたっぷり入ってくるので、まったく問題ない。 ちょっとアッパーなイギリス人の気分でエルフを走らせる原宿は、60年代のスゥインギングロンドンのキングスロードに見えてきたりして、これだからヒストリックカーは堪らない。セカンドにシフトアップしてスロットルを軽く踏み込み、Aタイプユニットの快音を耳にしつつ表参道交差点を横切りながら、僕は心からそう思った。

「最高級のミニ」がテーマだけあって、ライレー・エルフはダッシュボード全体がウォルナットのキレイな木目で覆われる。もちろんこれがインテリア最大の特徴。

その豪華なダッシュボード中央には、ミニお約束の3連メーターが備わる。

62年型以降はシート素材がレザーとなり、高級感が一層増した。

リアシートは、大人二人だと窮屈ではあるが、ちゃんと座れる。

全長を22cm伸ばして作ったライレー・エルフ&ウーズレー・ホーネットのトランクルームは、2BOXミニの1.4倍の容積を持つ。容量はもちろん、開き方も変わったおかげで利便性が大幅に向上した。

エンジンは、ノーマルは1.0リッターだが、1.3リッターにSUツインキャブを組み合わせた仕様へと換装されていた。おかげで低速トルクが厚く、街中を軽快に駆け抜ける。

フェンダーミラーはステー部分で調整する特徴的なデザイン。

ライレー・エルフのリアビューを印象付ける縦長の大きなテールランプ。

タイヤ&ホイールは10インチを履く。ミニライト社のマグネシウムホイールっぽいが、詳細は不明。

グリルなどメッキを多用した顔つきは、それだけでクラシカルな雰囲気を醸し出す。

ライレー・エルフは姉妹車のウーズレー・ホーネットとともに、ミニ登場の2年後、1961年秋に発表された。本文にも書いたように、フロントグリルとその周辺をリデザインし、後方にトランクルームを22cmほど出っ張らせた「サルーン」ボディがその最大の特徴。同時にインテリアも豪華に仕立てられ、センターメーターの基本は残しつつ、左右に蓋つきのコンパートメントを持つウッドパネルでダッシュボード全面を覆っている。ちなみにウーズレー・ホーネットのダッシュボードは普通のセンターメーターのままだから、ライレーの方が高級ブランドだったことが分かる。実際、69年の税込みプライスは、ホーネットの£701に対して£720と、エルフの方が高価だったのだ。

SPECIFICATION
RILEY ELF MK-Ⅲ
全長×全幅×全高:3308×1410×1346mm
ホイールベース:2038mm
トレッド(F/R):1207/1168mm
車両重量:645kg
エンジン:水冷直列直噴4気筒OHV

総排気量:998cc
最高出力:38ps/5250r.p.m.
最大トルク:7.1kg-m/2700r.p.m.
サスペンション(F/R) :ウイッシュボーン/トレーリングアーム
ブレーキ(F&R) : ドラム
タイヤ(F&R): 520-10

PROFILE/吉田 匠

旧車に造詣の深い自動車評論家の匠さん、季節と車種に合わせたファッションを身に纏い登場してくれた。ライレーの窓を開け、街をさっそうと走ってまんざらでもないご様子。