TMB IMPRESSION

<インプレッション>
実際乗ったらどうなんですか?
TMBが選りすぐった“名車”を運転してみて感じたこと

LANCIA FULVIA COUPE & COUPE 1.3S

小型車であるにもかかわらず、流麗なボディフォルムを持ち、当時デビューするや否や瞬く間に人気を博したランチア・フルビアクーペ。40~50代のクルマ好きにとって、フルビアクーペはラリーHFのベースとなったマシンというイメージがあるだろうが、実はその美しさから「イタリアの小さな宝石」と呼ばれ、愛されたクルマでもあったのだ。

TEXT / 森口将之 PHOTO / 奥村純一
SPECIAL THANKS / LES MAINS S.P.R.L.(http://les-mains.sakura.ne.jp/) ノリタケの森(https://www.noritake.co.jp/mori/

イタリアの小さな宝石

僕がクーペ好きであることは、各媒体で何度か書いてきた。クーペとスポーツカーが違うクルマであることも、それ以上にアピールしてきた。

クルマの楽しさは加速やハンドリングだけではない。スタイリングの美しさは外せない要素だし、インテリアの仕立ても重要だ。使い勝手や乗り心地も然り。これらと走りの楽しさを、もっとも高次元で両立できているのがクーペではないかという気がする。

実際、そういう気持ちで作られたクーペは数多い。なのにラインナップ中にスポーツモデルがあって、それがレースやラリーで活躍したからと言って、それだけを取り上げ、あとは無視してしまっていいのだろうか。ここで紹介する2台とともに考え直してみてほしい。

ランチア・フルビア。僕もかつて初代を所有したイプシロンのルーツと言える、このブランド最小の車種として1963年に発表。第2次世界大戦前からアウグスタ、アルデア、アッピアと続いてきた1リッター級モデルの進化形でもあった。

ランチアは戦前から、狭角V型4気筒という独創的なエンジンを使い続けてきた。一方1960年にはひとクラス上のフラビアで前輪駆動も実用化した。フルビアはこの2つの技術を融合させた、狭角V4前輪駆動としてデビューした。

同じイタリアのカロッツェリアの手になるクーペボディを用意したこともランチアの伝統のひとつで、アッピアはピニンファリーナ、ザガートなどの競演となった。フルビアでもこの伝統は受け継がれ、クーペとスポルトと名付けられた2タイプが用意された。

今までと違っていたのは、ザガートの手になるスポルトとは対照的に、クーペは社内でデザインされたこと。しかしさすがはイタリア、ベルリーナ(セダン)の2480mmから2330mmに縮めたホイールベースの上に載るボディは、簡潔な線と面でパーソナル感を表現した、クーペらしい粋を感じるものだった。

一方でこのボディは、当時のランチアでは最小最軽量だったことから、ワークスラリーティームの目に留まるところとなる。その結果、車名にHFやラリーを加えた高性能車が登場することになり、排気量は当初の1.2リッターから1.3、そして1.6リッターへと拡大していった。

おかげでWRCの前身である国際マニュファクチャラーズ選手権で1972年のチャンピオンを獲得するなど、華々しい成績を収めることになるのだが、後継のストラトスと違うのは、ラリーのために生まれた車種ではないこと。独創と洗練の小型車というフルビア本来の評価を、忘れてはいけないと思う。

今回はシリーズ1の1.2とシリーズ2の1.3Sという、非HFのクーペ2台に集まってもらった。おかげでヒストリーを眺める楽しみも味わえた。

ランチアは1969年にフィアット・グループ入りしている。シリーズ2が発表されたのは翌年だ。このストーリーだけでも、マイナーチェンジにフィアットの影響が関与したことが想像できる。

エクステリアで大きく違うのはフロントマスクだ。グリルが大きいシリーズ1は60年代の香りがするし、モダンなシリーズ2は70年代風だ。インテリアは、シリーズ1ではリアルウッドだったインパネがシリーズ2では木目調になり、ステアリングやベンチレーションのスイッチなどが変更され、センターコンソールの追加などの違いを発見する。

でも小柄なのに端正なボディや、タイトだけれどセンスの良いキャビンを目にすると、些細な違いなどどうでも良くなってしまう。はるかに大きく重いクルマでさえ忘れてしまった真の上質が、全長4mに満たない2ドアに凝縮している。これこそフルビアクーペの最大の魅力ではないかと思ったのだ。

シリーズ1はキーを押して、シリーズ2は回してV4に火を入れる。雰囲気ではやはりシリーズ1が上か。しかしシリーズ1はバスのようにレバーが長い4速、短くなったシリーズ2はレーシングパターンの5速となるシフトレバーは、後者に軍配を上げる人も多いだろう。同時代のアルファロメオに似て、どちらもねっとりとしたタッチだが、作動は確実そのもの。縦置きのメリットを感じる。

ともに生まれてから40年以上が経過していて、個体差もあるので、1.2リッター80psと1.3リッター90psの違いに言及することは避けておきたい。共通して言えるのは、アイドリングは独特のビートを刻み、低回転のトルクは細いのに、回すと俄然スムーズになって上を目指したがること。当たり前だが昔乗った1.6HFよりも軽やかだ。力で押すタイプでない分、その性格を街乗りでも堪能できるし、ランチアらしい精緻さも濃密に伝わってくるような気がする。

乗り心地は固くはなく、分厚いシートのおかげもあって快適。リアウインドウまで手が届くコンパクトなキャビンと最高の視界のおかげで、狭い道でも自信を持って入っていける。ステアリングの反応はそんなに鋭くはないけれど、ホイールベースは短いし、車重は1トン以下だから、身のこなしは軽快そのもの。エンジン同様、街乗りレベルでも操る喜びを満喫できるのがいい。

いまならこういう役目を担うのは、フィアット500やMINIなどだろう。でもカッコ良さではやっぱりクーペが上。フルビアの端正なフォルムはそんなシーンを狙ったのでは? という気がしてきた。パーソナルでスタイリッシュな移動空間として今でも通用しそうだ。

ラリーの栄光の陰に隠れていた、本来の世界をじっくりたしなむ。知識と経験がある人こそ、こういう路線に進んでいってほしいと切に願う。

1966 LANCIA FULVIA COUPE Series 1

フロントマスクを見るとグリルは中央部分のみで、クラシカルな雰囲気を持つ。
ボディ後端のエッジの効いたデザインがフルビアの特徴だ。
グリルの形状に特徴がある。
フロントボンネットには中央にモールが走る。
トランクはスクエアな形状。
ホイールにはFULVIAの文字入りの鉄製カバーが付く。
車名を表すエンブレムは筆記体の切り抜き仕様と非常に凝ったもの。
エンジンは特徴的な狭角V型4気筒ユニット。排気量1216ccにソレックスのツインキャブで80psを発揮。
中央にランチアのエンブレムが備わる細いリムのウッドステアリングが、クラシカルな雰囲気を生む。
大きなチューブで縁取りしたかのようなデザインのフロントシート。ちょうど中央に体が沈み込むような感じ。
とても今から50年前の個体とは思えない、非常に程度の良いインテリア。シート表皮の張りはそこそこ強い。
本国でのシリーズ1の通称は「ロングレバー」だそうで、その由来がこの長いシフトレバー。
シックな装いの内張りを持つ。
初期モデルでは、インストゥルメントパネルがリアルウッドをくり抜いたもの。
筆記体のエンブレムが何とも洒落ている。
各種スイッチ類がまるでソファのような形状。
ランチアファンはやはり、フィアット傘下になる1969年の前と後を気にするだろう。

SPECIFICATION
LANCIA FULVIA Series 1 Coupe
全長×全幅×全高:3975×1555×1295mm
ホイールベース:2330mm
車両重量:960kg
エンジン形式:V型4気筒DOHC

総排気量:1216cc
最高出力:80ps/6200r.p.m.
最大トルク:10.6kg-m/4000r.p.m.
サスペンション(F/R):ダブルウィッシュボーン/リジッドリーフ
タイヤ(F&R):145-14

1972 LANCIA FULVIA COUPE 1.3S

1972年式のシリーズ2でグレードは1.3S。グリルはライトまで伸び、スポーティな雰囲気を持つ。
基本的なデザインは変わらないが、リアバンパーにはプロテクターが付くなど進化。
ライトの縁までグリルの桟が伸びているのが分かる。
ボンネットの先端にはグレード名を示す1.3Sのエンブレム。
車名を表すエンブレムはプレートにアルファベットが刻まれたもの。
特徴的なデザインの鉄ホイール。
スペアタイヤの取り付け位置がやや右奥へと移動。
エンジンは1967年から1298ccに拡大、最高出力はクーペで87ps、Sで90psまで高められた。
インストゥルメントルパネルがウッド調になり、コストダウンされた感は否めない。助手席前にはラジオが備わる。
シートの形状はシリーズ1とほとんど変わらない。こちらはやや薄いベージュのようなカラー。
リアシートもシリーズ1と同じ。手触りといい座り心地といいこの程度の良さには恐れ入る。
センターコンソールが設けられ、シフトの位置が手前になった。
ドア張りの基本的なデザインはシリーズ1と一緒。

SPECIFICATION
LANCIA FULVIA Series 2 Coupe 1.3S
全長×全幅×全高:3975×1555×1320mm
ホイールベース:2330mm
車両重量:970kg
エンジン形式:V型4気筒DOHC

総排気量:1298cc
最高出力:90ps/6000r.p.m.
最大トルク:11.6kg-m/5000r.p.m.
サスペンション(F/R):ダブルウィッシュボーン/リジッドリーフ
タイヤ(F&R):165-14

LANCIA FULVIA CATALOGUE

フルビアの生産中にランチアはフィアットに吸収され、コストダウンと効率を求められながら、様々なモデルが登場した。そこでここでは、特徴的なモデルをピックアップして紹介しよう。

Sedan(1963)
アッピアの後継車種として1963年に登場したのがフルビア・ベルリーナ。フルビア用に新たに開発された狭角V4を鼻先に搭載し、前輪を駆動する。当初のエンジンは58psを発揮する1.1リッターであったが、67年に1.2リッターを搭載したGTと、更に高性能なGTEが登場した。1.2リッターは1199/1216/1231ccの3種の排気量があった。
Sedan(1969)
ベルリーナは1969年にシリーズ2へと発展。87psを発揮する1.3リッターを搭載することになった他、ボディもホイールベースを20mm延長して後部座席の居住性を向上させた。外観ではグリルまわりやリアエンド、室内ではダッシュボードのデザインが変更され、少し雰囲気が変わった。シリーズ2は72年まで生産された。
Sport(1965)
スポルトはザガート製の美しいクーペボディを纏って1965年のトリノショーでデビュー。ただ、競技志向の強いHFとは違って、こちらはパーソナル・クーペとしての意味合いが強かった。当初は1.2リッターだったが、1967年に1.3リッターに、1970年にシリーズ2となって90psに統一されるが、HF用の114psを発揮する1.6リッターも搭載された。
Coupe(1967)
1963年デビューのベルリーナに続いて、1965年の春にクーペが追加された。フルビアの特徴とも言える狭角V4エンジンは、ベルリーナの1.1リッターから1.2リッターへと拡大されていた。ボディはホイールベースを縮め、ベルリーナとは似ても似つかぬ流麗なデザインを身に纏っていた。1972年、シリーズ2へとバトンタッチし、役目を終えた。
Coupe HF(1970)
小型、そして軽量であるフルビア・クーペをべースに、ラリーに参戦するために仕立て上げた高性能バージョンがフルビア・クーペHF。当初は88psまで引き上げられた1.2リッターエンジンが搭載されていたが、1967年に101psというハイチューンの1.3リッターへ進化。そして1969年、114psを発揮する最強の1.6リッターが搭載された。
Coupe 3 Safari(1973)
シリーズ2時代にエクステリアをワークス風に仕立てた、具体的にはバンパーレス、ボンネット周辺をブラックアウトした1.3Sモンテカルロが用意されていた。これが意外と好評で、このモンテカルロはシリーズ3でも継続して作られたのだが、よりライトなスポーティ仕様として、このサファリが追加で用意された。

PROFILE/森口将之

旧車から最新車両、果ては乗り物ならなんでも興味がある森口さん。ライフワークとして交通システムについて調べており造詣が深く、電子書籍「これでいいのか東京の交通」などを執筆している。