TMB IMPRESSION

<インプレッション>
実際乗ったらどうなんですか?
TMBが選りすぐった“名車”を運転してみて感じたこと

PEUGEOT 304 BREAK

1969年のパリサロンでデビューした304。そのブレークの真価は、サイズを超えた直進安定性を生かしたロングランにあるだろう。1960年代生まれの小型車で、「遠くに行きたい」という気持ちになることが、そもそも異例だ。この面では最新のプジョーとまったく同じだった。

TEXT / 森口将之 PHOTO / 奥村純一
SPECIAL THANKS / LES MAINS S.P.R.L.(http://les-mains.sakura.ne.jp/

日本に現存する唯一にして極上の個体

フロントマスクを隠したら、このクルマがプジョーだと分からない人がいるかもしれない。でもかつてのプジョーはこういうクルマだった。スポーティなハッチバックがメインの時代が長く続いているけれど、1983年に205がデビューする前は、落ち着いたデザインと耐久性に優れたメカニズムを合わせ持つ、ネコ科というよりイヌ科に近いキャラクターだった。

これはプジョー創業の地が、ドイツ国境に近いことと無関係ではない。パリやその近くに本拠を置いたシトロエンやルノーと比べると、ドイツ的な部分も合わせ持っていたのだ。その世界観を味わうべく、日本ではなかなか見掛けない1台を取材してきた。304ブレークだ。

1969年のパリサロンでデビューした304は204をベースに、フロントマスクを格上の504に似たデザインに換えるなど上級車っぽく仕立て、前輪を駆動する直列4気筒エンジンを1.1リッターから1.3リッターに拡大した車種。ベルリーヌ(セダン)ではリアも伸ばしていて、204とは異なるスクエアなトランクを持っていた。

ブレークのボディは長さ4m以下、幅は1.6m以内と、現在の路上ではかなりコンパクトだ。でもそう感じさせないのは、ピニンファリーナが関わった均整のとれたプロポーションと、504に似た立派なフロントマスク、サイドウインドウやサイドシルなどに加えたクロームメッキのモールのおかげ。204と304はしばらく併売されていたから、差別化したのだろう。それを象徴するような仕立てが、実は荷室にある。

写真でお分かりのように、全面フローリングで、荷物をスムーズに出し入れできるレールまで設けているのだ。オーナーがドレスアップしたのではない。プジョーは404や504のブレークに、シュペールルクスという名前でこの仕立てを設定していた。それを全長4m、排気量1.3リッターの車種で実現したというわけ。小さな高級ワゴンだったのだ。

カチャッと確実に閉まるドアに、作りの良さを実感しながら、運転席に移る。幅が広くふっかりしたシートはこの時代のフランス車ならでは。思わず顔がほころんでしまう。後席は身長170㎝でも楽に座れる。大きな窓がキャビンを明るくしてくれる。当時のフランス人家族の光景が浮かんでくるような空間だ。

304のエンジンは基本1.3リッター。セダンやクーペ、カブリオレには最高出力を10ps高めた304Sも存在したけれど、ブレークは65ps仕様のみだ。それでも確実な手応えのコラムシフトを操っていくと、1トンに満たないボディは気持ち良く加速していく。

加速時のギアの唸りはこの時代の前輪駆動プジョーならでは。でもエンジン自体は4000r.p.m.以下なら静かだし、力の出方が均一なので、回さなくても速い。それ以上に実感したのは機械精度の高さ。ドアの開閉やコラムシフトの動きもそうだが、あらゆる動きがスムーズで、そこだけ取っても気持ちいいのだ。

サスペンションは、同じ時代のシトロエンやルノーと比べればストロークはほどほどながら、段差や継ぎ目は絶妙にいなしてくれる。当時からネコ足の持ち主だったことが分かる。ふっかりしたシートとのコンビは快適そのもの。ステアリングは低速では重く、切れ味はおっとりしているけれど、街中で味わうハンドリングはけっこう素直だった。

でも304ブレークの真価は、サイズを超えた直進安定性を生かしたロングランにあるだろう。1960年代生まれの小型車で、「遠くに行きたい」という気持ちになることが、そもそも異例だ。この面では最新のプジョーとまったく同じだった。それを落ち着いたデザインとともに味わえるのが、昔のプジョーの魅力かもしれない。

撮影のために慌てて用意したというイエローバルブが独特の雰囲気を醸し出す。
リアスタイルは、先に生まれた204ブレークとほぼ同じ手法に則っている。荷室の開口部を広げるために、リアランプは極力邪魔にならないよう、小さな三角形となっている
鉄のホイールに、同じく鉄のキャップを被せる。マッドガードの程度も極上。
小さなリアコンビランプ、PEUGEOTのロゴとその下のディーラーステッカー、そして小さなフューエルキャップと、ゾクゾクするディティールが目白押し。
右のフロントフェンダー下部に、積載重量や積載面積、車両総重量などが刻まれたプレートが付く。これはワゴンやバン、トラックなどに当時義務付けられたもの。
ボンネットの先端には車名の304、グリルにはゴールドに輝くライオンのエンブレムが取り付けられている。
華奢なアシのフェンダーミラー。こちらもピカピカ。
リアゲートのヒンジの作りの良さにただただため息。
リアゲートハンドル付近のディテール。バンパーは中央部分のないセパレートタイプ。下は現地の仮ナンバーだそうだ。
エクステリア以上に興奮を禁じ得ないのが、インテリアの程度の良さとデザインの秀逸さ。フッカフカのシートの出来はもちろん、シンプルなステアリングとインストゥルメントパネルに加え、メーターの配置や各スイッチ類にも感心させられる。
荷室には木目パネルが付くが、なぜかキズ1つなくピカピカ。
座面を前に倒し、その後背面を倒せばフラットで広大な荷室となる。
シフトレバーはコラム式を採用。
各スイッチ類は時代を感じさせる作り。
バックミラーの根元には大きな室内灯が備え付けられている。
助手席の足元にある棚はネット状に穴が開いていて、ホコリが溜まらないあよう工夫されている。
ドアの内張りもキレイ。ウインドウレギュレーターが懐かしい。
運転席も同様にソファーのような座り心地。それでも運転に支障をきたすどころか、長距離でも最小限の疲労で済むのだから恐れ入る。
リアシート。車体の大きさの割りには、足元にも余裕がある。腰を下ろせばまさにソファーのような座り心地で、快適至極。
マニュアル、整備手帳などが揃っている個体を探し出すのは、ショップ側のコダワリ。
フロントウインドウ前に備わるエアベンチレーション。普段はフロントウインドウのくもり止め。
上部を持ち上げると直接顔に当たる角度となる。
エンジンは65psを発揮する1290ccの直列4気筒を搭載。フラットなトルクで回さなくても速度が上がっていくタイプ。
左フェンダー上部にはホイールナット用のレンチが備わる。
プレートには車体番号の他、積載重量や総重量、指定オイル等が書かれている。
オイル交換時期を記した札が付けてあったのだが、この札はかのYACCOオイルのもの。

SPECIFICATION
PEUGEOT 304 BREAK
全長×全幅×全高:3990×1568×1430mm
ホイールベース:2590mm
車両重量:950kg
エンジン形式:直列4気筒SOHC
総排気量:1288cc

最高出力:65ps/6000r.p.m.
最大トルク:10.2kg-m/3750r.p.m.
サスペンション(F/R):ストラット/トレーリングアーム
タイヤ(F&R):145-14

プジョー第4世代カタログ

1960年の404から1989年の504まで、実に30年、1~6まで全ての車格にわたって生産された「第4世代プジョー」。
日本でこそなじみは薄いかもしれないが、世界的には大ヒットの第4世代を、簡単に紹介しておこう。

104
1972年、ボトムレンジの隙間を埋めるべく登場したのが104だ。メカニカルコンポーネンツは204を踏襲し、エンジンはボアストロークを縮めた直4の954ccで、フロアシフトの4M/Tを搭載していた。ボディは当初ベルリーヌのみであったが、73年にクーペ、77年にフルゴネット(ワゴン)が加わった。
204
204は新世代のスモール・クラスとして、1965年に登場した。プジョー初の前輪駆動車である204は、当初ベルリーヌのみであったが同年にブレークが、その翌年には豪華版のベルリーヌ・ルクス、オープンのカブリオレ、2+2のクーペが加わった。エンジンはガソリンの1.1リッターを始め、ディーゼルの1.4と1.3リッターもあった。
304
1969年にベルリーヌがデビューし、翌年クーペ、カブリオレ、ブレークが追加された304は、4年前にプジョー初の前輪駆動車として生まれた204をベースに、上級車504に似たフロントマスクが与えられ、エンジンを1.1から1.3リッターに拡大するなどして、ひとクラス上を狙った車種。1980年までに約118万台が作られた。
404
1960年、最初の第4世代のクルマである404がデビューした。デザインはピニンファリーナが手掛け、シャープでキレのあるデザインが当時のフランスで話題となった。62年にはカブリオレとクーペが加わり、63年にはべルリーヌにディーゼルモデルが登場。豊富な車種展開は、他の第4世代プジョーに引き継がれた。
504
1968年に登場したミドルサルーンの504。このクルマこそが、世界にプジョーの名を知らしめた傑作車であった。というのも生産期間は68年から89年の21年間と長期間に渡り、生産台数は実に338万台を数えるからだ。ボディバリエーションもベルリーヌを始めクーぺ、カブリオレ、ブレーク、ピックアップと多岐にわたる。
604
第4世代のフラッグシップモデルが、1975年に登場した604。6の数字を持つプジョーは、戦前の601以来実に41年ぶりの復活だった。エンジンはPRVの2664ccのV6を搭載。トランスミッションは4M/Tか3A/Tのどちらかが選べた。79年にはプジョー初のディーゼルターボ車、604Dが追加設定された。

PROFILE/森口将之

今回の取材はかなり気合いが入っていた模様のエンスー大王こと森口氏。氏もあまり見たことのない304と、そのあまりの程度の良さに驚いた様子。