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<インプレッション>
実際乗ったらどうなんですか?
TMBが選りすぐった“名車”を運転してみて感じたこと

MORRIS MINI COOPER 1275S RALLY

かつてラリーシーンで、小排気量で小さいにもかかわらず、大排気量車を相手に大立ち回りを見せ、時には上位に食い込むマシンが多々あった。その代表格ともいえるのが、今回紹介するミニ・クーパーだ。当時のラリーシーンに思いを馳せ、ミニをワインディングに解き放ってみた。

TEXT / 吉田 匠 PHOTO / 内藤敬仁
SPECIAL THANKS / 山添 明

60年代のラリーミニ、その走りの真価

昔から旧いクルマを本気で走らせるのが好きで、1980年代にはホンダS800でヒストリックカーレースに熱中したものだが、ここ数年は愛車ポルシェ356Bを駆って、公道を走るヒストリックカーラリーやヒルクライムに参戦している。そうすることで、自分がまだ若造だった1960年代に、当時のスポーツカーを駆ってコンペティションしていた往時のドライバーの悦びを、今日の路上を舞台に体験できた気分になれるのが愉しい。

そんな最近のイベントのなかで、僕が3年連続で出走しているのが、ACCR=アルペン・クラシック・カー・ラリーという、1975年までのクルマによるヒストリックカーラリーだ。これは、山中のクローズドなSS=スペシャルステージでタイムを計測、速く走ったクルマが上位の成績を得られるという、本気のイベントなのが気に入っている。

今回の主役、アイランドブルーのボディにオールドイングリッシュホワイトのルーフを組み合わせた1967年モーリス・ミニ・クーパー1275SマークIは、そのACCRの2014年版に出ていたクルマだ。とはいえ、僕の1962年ポルシェ356Bとはカテゴリーも排気量も違うので直接のライバルというわけではなかった。それでも、ミニのラリーカーは走らせるとどんなクルマなのかという点に、大いに興味があったのだ。

もともと848ccだったミニに最初に加わったスポーツモデルが997ccのクーパーだったが、さらにその高性能版であると同時に、競技用車両のベース車としての意味も与えられて投入されたのが、当初はレースの排気量クラス毎に970cc、1071cc、1275ccの3モデルが市販されたクーパーSだった。で、そのなかで最も高性能なのが、1.3リッタークラスを狙った1275Sである。

BMC AタイプOHV 4気筒1275ccエンジンは、ツインSUキャブレターと9.7の圧縮比によって、76ps/5900r.p.m.と10.9kg-m/3000r.p.m.を発生、4段ギアボックスを介して、650kg前後という車重を158km/hまで引っ張るとされた。

しかも今回の1275Sは、ノーズにルーカス製のフォグとドライビングランプを備える面構えから一目瞭然なように、本格ラリーバージョンに仕立てられたクルマで、エンジンにも手が入れられている。排気量を拡大すると同時に、シリンダーヘッドとカムシャフトを交換、キャブレターをツインSUながら大径の1と1/2インチに替えるなどして、100psを絞り出しているという。

しかもこのクーパー1275S、そういった数字はともかくとして、いかにも60年代の正統派グループ2ラリーカー風に仕立てられているのが魅力だ。

エクステリアでは、3基の補助灯のみならず、オーバーフェンダーなしで収まる145/80R10という純正サイズのヨコハマGTスペシャルを、正真正銘のミニライト4.5J×10に履いているし、リアフェンダー後端左右に備わる燃料フィラーキャップも決まっている。さらに、インテリアの雰囲気も実にいい。ダッシュ左端にセットされた現代のラリーメーターを別にすれば、60年代のラリーミニの世界そのもので、スミスのタコメーター、クラシックなラリーウォッチときて、38cmはありそうな大径フラットスポークのウッドリムステアリングはかのレスレストン製であるなど、すべて逸品揃いなところが堪らない。

その一方で、シートは標準品のままだが、実際に座ってみるとそれが意外なほどホールドがよく、4点式ベルトを締め上げたら、ドライビングポジションは問題なく決まった。ダッシュ下の遠い位置にあるキーに手を伸ばしてそれを捻ると、いかにもブリティッシュらしく、エンジンが弾けるように掛かった。

レバーが長いわりに剛性感のあるシフトを1速に入れ、ストロークの短いクラッチを繋ぐと、クーパーSは力強く走り出した。100psにチューンされているとはいえ、もともとロングストロークのトルキーなエンジンゆえに神経質な印象はなく、2000r.p.m.以下からも踏めば有効なトルクを捻り出して、小さなボディを軽々と引っ張り上げる。

このエンジン、低いギアでは6000r.p.m.プラスのトップエンドまでストレスなく回るが、トルクカーブは想像するよりフラットな印象で、高回転に至って明確に盛り上がるという傾向はない。しかしだからこそ、ラリードライビングには向いている、といえるはずだ。コーナーからの脱出加速は、車重900kgを75psで走らせるわが356Bとは、比べ物にならないくらい力強い。

もうひとつ、走り出してすぐに感じたのは、ミニとしては乗り心地が柔らかいことだった。1967年型クーパーSの脚は、本来ハイドロラスティックが標準だが、このクルマはラバーコーンに変更されている。にもかかわらず、ラバーにありがちなゴツゴツ感のないソフトな乗り心地に終止し、ラリーカーであることを忘れるほどだ。いかにも軽そうなミニライトと細い10インチタイヤも、乗り心地に効いているのだろう。

だがこのソフトな脚は、コーナリングを若干難しくしているように感じた。ワインディングでペースを上げると、左右方向のロールだけでなく、前後方向のダイブ、スクォットも含めて、姿勢変化が比較的はっきりと顔を出す。だから、ブレーキングとステアリングとスロットルワークを連携させて理想的なコーナリングに持ち込むには、的確なタイミングとスムーズな操作が必要とされる。

それに加えて、路面の凹凸やスロットルのオンとオフによってステアリングの保舵力が明確に変化するし、LSDの備えがないため脱出時のパワーオンでホイールスピンを誘発する可能性があるのも、このクルマのコーナリングをジャジャ馬と感じさせる要素ではある。

ならばこのクーパーSラリー、コーナリングが愉しくないのかというと、むしろまったく逆だ。そういった少々ヤンチャな挙動を巧くコントロールして自分の狙ったとおりのコーナリングラインに載せたときには、ドライバーとしての悦びが明確に沸き上がってくるからだ。

しかも、スロットルとステアリングの連携プレーが決まって、適度なアンダーステアを意識しながら前輪にパワーを与えてコーナーを立ち上がっていくときの、レスレストンウッドリムがもたらす繊細な操舵感は、この時代のスポーツ系イギリス車だけに与えられた特技かもしれないと思うほどのレベルにある。

では、コーナリングスピードはどうなのか。これに関しては、芦ノ湖スカイラインのアップダウンのあるワインディングでコーナリング写真を撮っていた、Nカメラマンの言葉を引用してみよう。撮影が終わってベースになる場所に戻ってきたNカメラマンの口から出たのは、「このミニ、コーナリング凄く速いですね!」という言葉だった。まぁ、走らせた僕も頑張ったんだけどね。ハハハ。

さらに、10インチの小さなホイールの内側に収まるディスク/ドラムのブレーキも、充分な効きを示してくれた。

つまりこの1275S、ルックスがそうであるように、60年代のラリーミニを走らせるとこんな感じではなかったかと、ストレートに連想させるドライビング感覚を持っているところが素晴らしい。往時の乗り味を今に体験させてくれるのがヒストリックカーの大きな魅力であるなら、このクーパーSラリー、まさにその鑑といえる個体ではないかと思う。

繊細さも感じられるレスレストンのステアリングが目を引くコクピット。
ノーマルのシートに後付けのヘッドレスト。このヘッドレストは固定式ではなく、座って初めて固定される仕組み。
年代モノのロールケージは、交差部分を溶接ではなく、ナットで固定。随所に見られるアイテムも、垂涎ものの逸品ばかり。
エンジンは排気量を拡大し、Cパーツのカムシャフトとシリンダーヘッドに換装。これに大径のツインキャブを組み合わせることにより、実測で102psを達成。
フォグランプにドライビングランプ。レザーのボンネットベルトにヘッドライトカバーと、センスの良い小物が並ぶ。
ドアハンドルは年代物の凝ったデザイン。
MADE IN ENGLANDの文字が光る正真正銘の10インチミニライト。

MORE INFO.

最強のクーパー、それが1275S

ミニがデビューした2年後の1961年、997ccの排気量を持つ最初のミニクーパーが、試験的に1000台限定という条件付きで生産が許可された。更にその2年後の1963年、更なる戦闘力を求めて1071ccの排気量を持つ最初のクーパーSがデビューを果たす。好調なセールスを記録したこともあり、1964年この1071ccクーパーSをベースに、スケールダウン版としての970Sと、スケールアップ版としての最強モデル、1275Sの両方が登場した。1275Sのエンジンはストロークアップによるもので、排気量だけでなく圧縮比を9.5まで高めることで、76ps/10.92kg-mのパワー/トルクを得ることができた。その後1275Sは67年にMk-II、70年にMk-IIIへと進化し、数々の栄光を手にしたのである。

PROFILE/吉田 匠

ヒストリックカーを本気で走らせるのが大好きな匠さん。今回のミニは自分の好みに仕上がっていたようで、終始ご機嫌でニッコニコ。現在の愛車は文中に登場したポルシェ356と、普段のアシとして活躍しているミニ・クラブマン。