TMB IMPRESSION

<インプレッション>
実際乗ったらどうなんですか?
TMBが選りすぐった“名車”を運転してみて感じたこと

PORSHE 911 TURBO

尖ったポルシェの象徴的な存在、いまや最新の911シリーズはどれもターボエンジンを搭載する。「カレラでも3リッターツインターボで385psですよ」なんて言われたって、どこかぴんとこない空冷ファンとしては、過給器付きの911なら、やはりこのクルマが真っ先に頭のなかに思い浮かんでしまう。じつにパワフルな乗り味が心に残るのは確かだけれど、爪を隠しつつ街中を優雅に泳ぐ姿にも惹かれる、そんな1台だ。

TEXT / 清水雅史 PHOTO / 田中秀宣
SPECIAL THANKS / エヌドライブ(http://www.ndrive.biz/

異形の911、しなやかに誘う別世界

カンッと耳に残る音を響かせドアを閉め、ドライバーズシートに収まる。コックピットの空気感は、同時代の3.2カレラとなにも変わらない。繊細なステッチがあしらわれたレザー張りのダッシュボードや、レブカウンター内にブースト計が追加されていることだって、”特別な911″であることをさりげなく主張する程度。けれど、電動調整スイッチに手を伸ばしながらドアミラーに視線を投げたとき、下端に映るリアフェンダーの様子にドキッとした。なんというボリューム感。もちろん、ぐるりと一周してグラマラスなエクステリアを堪能済みだったのだけれど、四角い鏡の中に切り取られたことでその独特な膨らみがさらに迫力を増し、心に迫ってきたのだ。

そう、911ターボはこのフェンダーライン、そして大きなリアウイングに尽きる……。

数字を挙げれば、同年代のNAモデル3.2カレラの全幅は1652mm。そしてターボは1775mm。じつに120mm以上幅広い。リアだけでなく、フロントも張り出し、なまめかしい造形を得ている。とは言っても、ボン・キュッ・ボンの美ボディになりたかったわけではない。よりファットでグリップパワーに優れたタイヤを収め、加えて前後トレッドを拡大するために必要だったのだ。3.2カレラのトレッドは前:1372mm、後:1380mm。一方911ターボは前:1432mm、後:1501mmという値。フロントは60mm、リアは121mmも拡げられているのである。全長とホイールベースは一緒だから、見た目に与えるインパクトは大きい。

さらにリアウイング。当初の2993ccから3299ccへ排気量をアップし、空冷式チャージクーラー(いわゆるインタークーラー)を採用した930/60型ユニットを搭載する1978年式から、エンジンリッドにそびえ立つウイングが採用された。上面がフラットで周囲のラバートリムがせり上がっていることからティートレイタイプと呼ばれるが、これは高性能化に即した空力対策でありつつ、フラットシックスの上にレイアウトしたチャージクーラーをクリアするための変更でもあった。

こうしてフェンダーを膨らませ、マッスルなウイングを背負い、いろいろなものを纏うことで911ターボは完成した。そういう意味で大元はNAモデルと一緒なのだが、高速道路のI.C.を目指して街中を走りだせば、”やっぱり違う”という気持ちが高まっていく。感心させられたのは、拍子抜けするほどの安楽さ。ごくごく普通のタウンスピードで、ずぼらなシフト操作を決め込んでも、911ターボは想像していなかった包容力でさらりと許してくれる。圧縮比7.0:1の過給器ユニットとはいえ、すでに2000r.p.m.で25kg-mほどのトルクを発揮するから、日常にもスッと溶け込める柔軟さを身につけているのである。

料金所を通過し高速道路の流れに乗っても、ストレスなくステアリングを握ることができる。すでに一般道を走って気づいていたけれど、ドライバーの手足の動きにリニアに反応しながらも身のこなしにどっしりとした安定感があり、軽やかさのほうが心に残る3.2カレラとの差を痛感する。一般的にリアトレッドの拡大は、直進安定性の向上に貢献するが、911ターボはまさにそれが利いている。轍にクルマの動きを乱されないのは意外だったが、スタビリティの高さは911らしい硬質感をより強固なものにしていた。文字通り硬いものに包み込まれて移動しているあの感じが、より密度を濃くしたというか、このままどこまでも走って行きたい……そう思わせる心地よさがある。まさに万能、911ターボが何を目指していたのかが、じんわり伝わってきた。

フラッグシップとしての万能性

ポルシェはターボエンジンの市販モデルへの搭載を、60年代の終わりから検討していた。そして69年には、2リッターのフラットシックスターボユニットが完成していたという。結局、この計画は実現しなかったが、12気筒ターボを搭載する917/10Kと917/30Kが72、73年のCan-Amシリーズを圧倒的な強さで連覇すると、ポルシェは過給器技術が未来を切り開くカギになることを確信する。そうして、近い将来のメーカー選手権におけるレギュレーション変更、つまり76年からのグループ5導入を見越して、市販車にターボモデルを用意し、それをベースにした競技車両の開発を進めることにしたのだ。モデルラインナップには911ターボが加わり、グループ4/5規定に則ったホモロゲモデルとして934と935が登場。この間にも、74年シーズンを戦ったプロトタイプマシーン、2.14リッターエンジン搭載のマルティーニ911カレラ・ターボも存在感を示していた。

しかし、911ターボ誕生の理由がすべてモータースポーツだったわけではない。跳ね馬や猛牛などイタリアンエキゾチックに熱いまなざしが向けられていた時代だ。それに対抗し得る、より高性能で豪華なフラッグシップモデルの投入が待たれていたのである。そして911にターボエンジンを搭載するという発想は、73年9月のフランクフルト・ショーにおいて1台のプロトタイプにより周囲に知らしめられた。市販型がお披露目されたのは74 10月のパリ・サロンで、その後75年2月に量産がスタートする。

この頃の逸話として興味深いのは、”TurboPorsche NO.1″と呼ばれるワンオフモデルの存在だ。それは74年8月29日、フェルディナント・ポルシェの長女(そしてフェルディナント・ピエヒの母!)、ルイーゼ・ピエヒの70歳を祝うバースデイプレゼントとして用意された。ポルシェ・ファミリーを巡っては、928のシューティングブレーク等々興味深い”誕生日Ver.”がたくさんあるけれど、この911は当時の75カレラ、つまりのちの3.2カレラに近いエクステリアながら、250psを発揮する2.7リッターターボエンジンが搭載されていた。70歳のおばあちゃんに贈られた”ターボ付き911″が、市販モデルのデビューよりひと足早く公道を走り回っていたことになるわけだが、このクルマ、内外装にタータンチェック柄がちりばめられるなど、とってもお洒落。ただ高性能を狙っただけでなく、よりラグジュアリーなコンフォートスポーツをコンセプトに仕立てられていた。こんなエピソードにも、911のターボ化が目指したところが透けて見えるようでおもしろい。

ひとたび鞭を入れれば……

やはりグランドツーリングカーとして完成度を高めていったんだなぁと納得しながらハイウェイクルージングを楽しんでいたが、そこはターボモデル。過給の高まり方も確かめてみたい。前が空いたところでスロットルペダルをグイッと踏んでみる。そのとたん、911ターボは豹変した。ブースト計がバネ仕掛けのようにぐ〜んと右へ傾き、それを追いかけるように回転計の針の動きが早送りになる。そして強烈な加速感。気持ちがついていけるようになるまでに、少々時間がかかった。クルマを用意してくれたポルシェ専門店エヌドライブの中村代表が、「楽しんできてよ」と、笑顔で自信たっぷりだったのを思い出す。なるほどこの911ターボ、絶好調だ。

ご紹介が遅れてしまったが、1日をともにすることができた911ターボは86年式。シャシーナンバーはWPOZZZ93ZGS000364だから、本国もしくは欧州仕様である。DME制御でLEジェトロニック燃料噴射を組み合わせた930/66型ユニットは、300ps、43.8kg-mを発揮。ギアボックスは4速、ポルシェ・シンクロの930/36型だ。車両重量はメーカー公称値で1335kg(車検証でもほぼ変わらぬ1340kg)だから、パワー・ウェイトレシオは4.45kg/ps。圧倒的な動力性能に合点がいく。

そうして高速道路を降り、アップダウンのあるワインディングロードに足を踏み入れても、乗り味はなんとも鮮烈。サスペンション形式は3.2カレラを踏襲するものの、ワイドトレッド化によって限界性能が引き上げられ、ブレーキは前後4POTキャリパーと大径ローターを採用するなど、きめ細かく手が入れられている。だから安定して速い。3500r.p.m.からはめくるめく世界、4000r.p.m.から5000 r.p.m.はあっという間、その上はひりひりするようなレブフィールが待っている。けれど、へたれの私が少々がんばったくらいでは、何事も起こらず、911ターボは右へ左へするりとコーナーを駆け抜けてゆく。この程度でホントのところをわかった気になんかならないでくれ、そう言われているかのようだ。

誰もが快適に移動できる実用性を持ちながら、乗り手を熱くさせる奥深いパフォーマンスも秘めている。そんな二面性は、いまでも色褪せぬ911ターボの魅力なのだろう。あのミラー越しに目にした光景のそのまた向こうには、異形の911だからこそ見ることのできるまったく別の世界が広がっているのである。

カラーコード:L700、シュバルツのボディ色には、華やかで上質感を湛えたバーガンディの内装がよく似合う。計器やスイッチ類の配置、トリム等の基本デザインは同年代のNAモデルと変わらない。横長のホーンパッドを持つ4本スポーク・ステアリングは1985年式から。
83年式でマフラーエンド形状がシングルからデュアルへ変更され、静粛性を向上。奥に見えるのは、過給圧を制御するウェイストゲートのサイレンサーだ。タービンなどのトラブルを防ぐため、排気ガスの一部をバイパスに分流し、タービンへの流入量を調節する。
5連メーターの中央に位置するレブカウンターは7000r.p.m.まで刻まれ、レッドゾーンは6700r.p.m.から。77年式においてメーター内の”空きスペース”にブースト計を追加。当初は1.5barまでの表示だったが、翌年には1.0barまでのスケールに変更されている。
大型のリアウイングも高性能を体現するアイテム。エンジン上部に収められた空冷式チャージクーラーをクリアするため、78年式より形状が変更された。それまでの通称”ホエールテール”に比べるとグリル形状や取り巻くラバーモールのデザインも大きく異なる。
G50型5速M/Tが組み合わされたのは最後の1年、89年式のみで、それ以外はすべてポルシェ・シンクロを採用した4速M/Tが標準。NA911用の915型をベースに大トルクに対応すべく開発された930型の変速比は2.250、1.304、0.893、0.625で、ファイナルは4.222。
3.3リッターエンジン採用と同時にブレーキシステムもアップデートされた。前後鍛造軽合金製4POTのキャリパーに、フロント304mm、リア309mmの大径ドリルドベンチレーテッドディスクが組み合わされる。パワーに見合った制動力とグッドフィールが魅力。
フラッグシップモデルとしてカスタマーを満足させるためには、パフォーマンスの向上とともに充実した装備やラグジュアリーな雰囲気を醸し出す演出も必要不可欠だった。そのためダッシュボードやトリムなどにレザーがあしらわれ、丁寧なステッチも施されている。
デビュー時の標準タイヤ・ホイールサイズは、F:185/70R15+7.0J×15、R:215/50R15+8.0J×15だったが、’86年式はF:7J×16+205/55R16 、R:9J×16+245/45R16。取材車両は、911ターボの承認タイヤ、ブリヂストン・ポテンザS-02を装着していた。
フロントの衝撃吸収バンパーは3.2カレラを踏襲するが、エアロダイナミクスの前後バランスと張り出したフロントフェンダーとの整合性を考慮して、フロンスポイラーの形状が見直された。ホイールアーチにまで回り込んだ樹脂製スポイラーが、より精悍な印象。
78年式から採用された3.3リッターターボユニット。幅40cm余り、奥行き30cmほどの空冷式チャージクーラーが水平にレイアウトされ、強烈な存在感を放つ。KKK製タービンはエンジン後方左側に位置するが、これまた上からも下からも目視するのは難しい。

SPECIFICATION
PORSCHE 911 TURBO
ポルシェ911ターボ(1986年型欧州仕様)
●全長×全幅×全高:4291×1775×1310mm
●ホイールベース:2272mm
●トレッド(F/R):1432/1501mm
●車両重量:1335kg
●エンジン形式:空冷水平対向6気筒SOHC+ターボチャージャー
●総排気量:3299cc

●圧縮比:7.0:1
●最高出力:300ps/5500r.p.m.
●最大トルク:43.8kg-m/4200r.p.m.
●変速機:4速M/T
●懸架装置(F/R)マクファーソン・ストラット&トーションバー/セミ・トレーリングアーム&トーションバー
●制動装置(F&R):ベンチレーテッドディスク
●タイヤ (F/R):205/55VR16/245/45R16
●新車当時価格:1860万円(日本国内)