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CITROËN C5 AIRCROSS SUV

DSが独立ブランドとなった今日、シトロエンの乗用車ラインナップの中で最上位に位置するのがC5エアクロスSUVであり、最新サスペンションシステムを備えて“新世代のハイドロ”を謳う。その乗り心地と快適性の真価は果たしていかばかりか。じっくり検証した。

TEXT / 斎藤慎輔 PHOTO / 神村 聖
SPECIAL THANKS / グループPSAジャパン(https://www.citroen.jp/

“シトロエンらしい”乗り心地の現代的解釈

各社からSUVが続々と投入されてきている今、ユーザーサイドからすれば、予算の中でも選択肢が増えてきていることになる。セダン系が主力であった頃よりも、SUVの方が各社の個性が現れているのも、それはそれで喜ばしいことと好意的に捉えられないこともない。

プジョーとシトロエンは、SUVモデルラインには、いずれも正式表記としてSUVと付け加えることになったが、車名が数字表記のプジョーならいざ知らず、シトロエンは、エアクロスと名付けた上で、さらにSUVだとわざわざ説明することもないだろうにと思ったりもする。

一時期個性が失われかけたシトロエンだが、C4カクタス以降のデザインの統一性と、シトロエンとしての乗り味を明確にしてきたこと、国産車と比べても割安感のある価格設定など、日本でもC3を中心に女性層も取り込んで、販売台数を地道に伸ばしてきた。かつての、良く言えば先進性と強い個性を備えた、悪く言えばヘンテコリンで近づき難いといったイメージも、少なからず薄れつつある。

C5エアクロスSUVが日本に導入されたのは2019年5月。この際のエンジンはBlue HDIと呼ぶ2リッター・ターボディーゼルのみだったが、2020年4月に1.6リッター(ガソリン)ターボが追加されている。

今や一目でシトロエンと知れる2段重ねグリルもすっかり定着した感があり、厚みあるボンネット高はSUV系によくフィットしているように思う。全体のボリューム感から、とても大きいクルマにも感じさせるが、全長は4500mmであり、例えば同じDセグメントのSUVであるマツダCX-5などより短い。全幅の1850mmは狭い路地や駐車時などでは幅を意識させるのは現実としても、もはや特別幅広というわけではない。

ただ、フロント両サイドウインドウはドアミラー部で遮られる死角が大きいことから、右左折の時などには視線移動だけでは済まず、首を回して見渡す必要に迫られることも多い。後方も後続車が近づくとその存在が確認しづらかったりする。360度カメラは備わらないものの、幸い後退時には進行方向の画像を合成しつつ上方からの視点とした画像がモニターに映し出される他、ルームミラーの左側にはボディ左サイド下の画像も映してくれるので難儀することはないが、外観から想像するより、車両まわりの視界で遮られる部位が多いのは気になった。

視界ついでに言うならば、このクラスでヘッドライトがいまだハロゲンタイプである。オートハイビームは装備されるが、最近のより明るいLEDヘッドランプ、さらにマトリクスタイプのオートハイビームの有効性を知る身には、特に雨天時などには暗く感じた。こうした所にこそ、先進性を誇ってきたシトロエンの姿を垣間見せてほしいところだ。

PSAグループのミドル以上向けプラットフォーム、EMP2を採用。大きく見えるが全幅は1850 mmに留まる。
タイヤはミシュラン・プライマシー4の225/55R18。
立体的な造形のLEDテールランプ。
ルーフレールは2トーンで明るい印象だ。
エアバンプのアクセントカラーもお洒落。
厚みあるフロントマスクが特徴。

そして、シトロエンといえば乗り心地である。かつてのハイドロニューマチックサスは、魔法の絨毯のような、といった分かるような分からないような表現で伝えられてきたものだが、C5エアクロスSUVは機構的にはずっと単純で、ダンパー内にセカンダリーダンパーを仕込んだショックアブソーバーを使う。リアサスも、ただのトーションビームで特別でも何でもないのだが、それでいて、やんわり、あるいはふんわりとした乗り心地を提供しているのは確かで、初めて乗る人には、強い印象をもたらすと思う。

極端にいえば、C5エアクロスの特徴はそこに集約されているくらいで、ストロークをしっかりとさせながらも底付き感や引き戻し感はよく抑えられているので、車体の上下動自体は小さくないにもかかわらず、乗員に強い入力感もたらさないことで、優しい乗り心地に感じさせるものだ。つまり、バネ上が動くことは許容しつつ穏やかに収束させている。

と言うのは簡単なのだが、これでタイヤの接地性をしっかり保ち、ロール遅れは出来るだけ抑えて、現代に求められるステアリングでの緊急回避性能までを得るのは難しい。その領域まで踏み込まなくても、ワインディングなどでも、ロールを積極的にとりこみながら高い接地感を保ちつつ、安定性に不安をもたらさないのは流石だと思える。また、高速時の安定性においても、地にへばりつくような感覚こそないが、ゆったりとストロークしながらも、ステアリングはセンターにしっかり座って真っ直ぐに走るので、この後で述べる動力性能も含めて、ドライバーは無駄な緊張感なく、乗員はとてもリラックスした感覚で乗っていられる。

ただし、ピッチングも明確に大きいため、低速時の初期加速度が高めの際のスクォット(尻下がり)や、なにより減速時のダイブははっきりと生じてしまう。加えて、これはプジョー、シトロエン、DSどれもに共通するのだが、ブレーキペダル踏み込み初期の制動力のジャンプアップの過度な強さにより、ふとした瞬間に強いノーズダイブを生じるとともに、その揺り返しで乗員はひどく揺すられる。

全体に丸みを帯びてリラックスできる雰囲気のコクピット。
高密度ウレタンフォームを使ったシートはふっかり柔らかい座り心地。
後席は独立3座でそれぞれの乗員が快適。
旅行鞄のベルトのような意匠を与えられたダッシュ。
空調の設定はタッチパネルから行なう。
デジタルメーターはボビン風の演出。
ラゲッジは標準580リッター、最大1630リッターまで拡大できる。

今回もディーゼル、ガソリン合わせて3週間近くにわたって試乗した中で、特に都内の混雑状況の中では、アイドリングストップからの立ち上がり時のスクォットとともに、これは厳しいと思えたことも度々だった。つまり、この乗り心地には功罪があり、少なくとも街中領域では快適・不快が隣り合わせにも近いので、手放しでは誉められない。

そこでは、ディーゼル/ガソリンのパワートレインの違いも、思っていた以上に差をもたらしている。PSAの2リッター・ターボディーゼルは、スペック的には最高出力も177psと標準的だが、いわゆるディーゼルらしい低回転からの力感をしっかりと備えている。むしろ、FFでは駆動力過剰傾向になるので、これ以上いらないだろうというくらいのトルクを素早く立ち上げてくる。100km/h巡航などはそれこそ僅かにアクセルを踏んでいるだけで、ともすればすぐに思った以上の速度に達していたりする。

2020年春に日本へ導入されたガソリン仕様はPureTech 1.6リッターエンジンを搭載。ディーゼル仕様より車重が100kg以上軽い。

もちろん、これは素晴らしいことなのだが、このシャシー特性と組み合わせると、特に低速域ではピッチングが起きやすいものとなる。この面でいえば、ガソリンの方がずっと気を使わないで済むことを知ったし、なにより前軸荷重で100kg軽いだけに、全てにおいて車両の動きがずっと軽い。動力性能も、最大トルクが25.5kg-mに留まる1.6リッターという排気量への不足感を感じさせることは、少なくとも2名乗車においては、高速道路からワインディングまで全くなかった。

ところで、ボディサイズの割にゆったりとした室内には、見た目に四角く平板でゆったりとしたサイズのシートが収まるが、ストローク感と減衰感を備えたものだし、リアシートも3座が同じサイズで文句のない5人乗りである。予算に余裕があるならナッパレザーパッケージを勧めたいのは、着座した際の触感がさらに優しいこと、前席にシートヒーターが備わることである。季節を問わず外気温に合わせた空調の適切な温度調整が難しいのが、いまだPSA車に共通する課題なので、冬場にまずはシートヒーターの助けを得たいというのが本音なのだが、快適性を謳うシトロエンならばこそ、空調系の抜本的な見直しも求めたいと思う。

C5エアクロスは、SUVだとあえて謳うのにAWDの設定はない。これはお家の事情ながら、そこをグリップコントロールなる駆動力制御システムで補う。なのに、標準装着タイヤは日本投入当初のM+Sから、サマータイヤに変更がなされた。乗り心地、快適性こそ最大の魅力だと、ますます思わせるではないか。

C5エアクロスSUVは本国でもFFしか設定されていないが、“グリップコントロール”と称する制御システムで路面状況に応じて、マッド(泥)、スノー(雪)、サンド(砂)、そして通常のESCオフを選ぶことができる。また、勾配5%以上の急な下り坂では、ヒルディセントコントロール機能で車速を低速に保てる。

SPECIFICATION
CITROËN C5 AIRCROSS SUV SHINE(ガソリン)
全長×全幅×全高:4500×1850×1710 mm
ホイールベース:2730mm
トレッド(F/R):1580/1610mm
車両重量:1520kg
エンジン型式:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1598cc

最高出力:180ps/5500r.p.m.
最大トルク:25.5kg-m/1650r.p.m.
サスペンション(F/R):ストラット/トーションビーム
ブレーキ(F/R):ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤ(F&R):235/55R18
車両本体価格:420