TMB IMPRESSION

<インプレッション>
実際乗ったらどうなんですか?
TMBが選りすぐった“名車”を運転してみて感じたこと

PORSCHE 718 BOXSTER

ポルシェのミッドシップスポーツ、ロードスターのボクスターとクーペのケイマンは、2016年に982型となった際に6気筒NAから4気筒ターボに。そして2019年から再び、上位モデルに6気筒NAを導入してきている。

TEXT / 斎藤慎輔 PHOTO / 神村 聖
SPECIAL THANKS / ポルシェジャパン(https://www.porsche.com/japan/

トラッドなスポーツカーの集大成

ポルシェを誉めると「ああ、またか」みたいな反応を示す人も少なくない。そこには「高いのだから当たり前」、「ポルシェをことさら持ち上げてる」、「そんなクルマ関係ないし」等々、さまざまな思いがあるのは当然だし、拒絶したい気持ちが生じることも否定はしない。

だが、久々に718ケイマンと718ボクスターに濃密に接する機会を得て、ボクはまた白旗を上げることになった。「参りました」である。

真意としては、その言葉の前に「悔しいけれど」と付け足すことにもなるのだが、日常を共にするスポーツカーとしての動的性能及びその質、官能性、そして荷物スペースまでを含めた実用性の圧倒的なバランスの高さに、他のスポーツカーではなかなか太刀打ちできそうもないと思えている。

ケイマン/ボクスターに718の名が冠されてから5年が過ぎたが、これまでグレード追加、エンジンラインナップの変更等に留まっている。スポーツカーのモデルライフが長いのは普通だが、718は実質的には2012年に登場し僅か3年余と短命に終わった981からのビッグマイナーに近い内容だった。

型式は982に代わったが、エンジンが水平対向6気筒NAから、ついに水平対向4気筒ターボへと換装されたことは、ケイマン/ボクスターとして大きな変化で、これを機にケイマンとボクスターのポジショニングも入れ替わった。ただ、981からの流れも換算すれば、982の基本設計自体は10年以上前となる。

その一番の変化として、ポルシェがライトサイジングと呼ぶ6気筒から4気筒へ、排気量を2.8リッターから2リッターターボへ、S以上に搭載されていた3.4リッターは2.5リッターターボとなったエンジンであったが、2019年にGT4が4気筒ターボから、再びまさかの6気筒自然吸気に換装となった。それも4.0リッターと大排気量である。

燃費計測に世界基準としてWLTCが採用され、高速域、高負荷域での計測割合が増し、いわゆるダウンサイジングターボの優位性が薄れてきたため、大排気量自然吸気の選択が可能となったと聞く。

もっとも、718ケイマン/718ボクスターでも、GT4と今回メインに試乗したGTSだけが6気筒自然吸気で、それ以外は4気筒ターボのままだ。結果、エンジンの数値性能でなくキャラクターの違いがより明確になった感がある。

982型ボクスター/ケイマンの基本骨格は、2012年登場の981型からほぼそのまま継承。
ステアリング追従機能付きLEDヘッドライト。
ポルシェ・セラミックコンポジット・ブレーキ(PCCB)は110万円超のオプションだが効果絶大。
リアウィングはハイグロスブラック。
空力効果の高そうなディフューザー。
電動の幌は50km/h以下なら走行中に開閉可能。

今回はケイマンもボクスターも一緒に述べるということで、広報車の中から、まずは一番手の届きやすいベースモデルである718ケイマン、いわゆる素ケイマンと、復活した6気筒NAモデルのうちボクスターGTS 4.0を主に乗った。加えて、最新ポルシェの方向性を知り、それとの設計年次、思考等の変化を窺い知るために911(ベースモデル)も加え、それぞれ1週間ほど乗らせてもらった。

まず素ケイマンだが、718ケイマンデビュー当初の2016年は619万円(6MT)と破格ともいうべき車両価格だったのだが、2020年モデルは773万円まで上昇している。ただし、今回の試乗車は2019年12月登録のPDK仕様で、この当時は741万円+PDK 43.7万円ということで車両本体としては784.7万円と見るべきだろう。もっとも広報車はボディカラー、内装色も含めオプションが約473万円相当与えられていたので1200万円超えというものだった。

これならケイマンでもS以上を買った方が賢明なのは明白だが、広報車にはオプション装備を知ってもらうという役割もあるので、そこは深く考えないでおきたい。ただ、走りに大きく影響するオプションとしてPASM(ポルシェ・アクティブ・サスペンション・マネジメントシステム)と20インチホイール/タイヤが装着されていた(双方で約60万円弱)ことは見逃せない点だ。

スポーティさと快適性とユーティリティが融合したコクピット。
ホールド性と快適性が両立したシート。
ステアリングに備わるスイッチは走行モード切替のみ。
フロントのラゲッジは150リッターで深みもあり使いやすい。
リアにもラゲッジ。
各種操作はセンターコンソールに物理スイッチとして集約。結局これが一番使いやすい気がする。

スペックを見る限り、エンジン性能にはデビュー当初から変化はなく、水平対向2リッター直噴ターボは最高出力300ps、最大トルク38.8kg-mを発生する。ポルシェは車種、グレードのヒエラルキーを明確にしているので、ベースモデルとしての性能に留めてあり、ターボチャージャーも、Sのような可変タービンジオメトリーは採用されていない。

だが、少なくともポルシェとしての走り、それは速さというよりエンジン、ステアリング、ブレーキといった感覚性能面においても、実際の動きにおいても、不等長エキゾースト時代のスバル水平対向エンジンを彷佛させるサウンドを除けば、期待を裏切ることはほとんどない。エンジン排気量が499cc多いSと比べてしまうなら、ターボラグの差もあり極低回転域からの立ち上がりは明らかに違いを感じるのは以前に経験したが、単独で乗った限り、ワインディングで楽しむにもレスポンスにおいて不満を感じなかった。

何よりスポーツモード以上でのPDKの小気味良い変速制御が、ターボラグ分までを見越したかと感じられるもので、リズミカルな前後荷重移動の容易さときっちり曲がるハンドリングと相まって、爽快から豪快まで、スキルに応じた走りを十分に可能にしている。

ところが、ボクスターGTS 4.0のドライビングの歓びはそれを遥かに越えるものだった。まず驚くのが、通常クローズドボディのクーペからオープン仕様に乗り換えると、ボディ剛性には圧倒的差を感じるものだが、素ケイマンからこのGTS 4.0に乗り換えた直後ですら、ほとんど違いを感じさせないことだ。それが証拠に、素ケイマン以上にシットリとガッチリが共存したステアフィールを備えている。操舵の瞬間からつい「ありがとうございます」と言葉に出したくなるくらいに、応答遅れ感の無さ、自然な手応え、良質な接地感と接地状況の正確な伝達で、それだけでしびれる。そこに圧倒的なトラクションが加わり、求める荷重変化を正確にこなせるエンジンレスポンスとブレーキがあって、至福の思いでワインディングを駆け抜けていけるのだ。

718に搭載された水平対向6気筒4リッターNAエンジンは、992型の3リッターターボ(写真)を元にターボを取り去り、排気量アップしてチューンした成り立ちだ。

そして、GT4より僅かにディチューンされた水平対向4リッター自然吸気の、そのレスポンスの自然さシャープさ、8000r.p.m.近くまで軽やかに伸びやかに回りながらリニアにパワーが高まっていく感覚には高揚感がついてまわる。とはいえ、公道域ではこのパワーは全く使いきれないのだが、折角のMTを駆使すべく、スポーツモード以上で作動する正確極まりないオートブリッピングに任せながらMTの操作感とエンジンのレスポンスを楽しむのもよし、ワインディングなら2速のままエンジンの心地よさに酔いしれるのもよし、公道でのスポーツカーのエンジンとは、ハンドリングとはこうあってほしいと思う理想型に近い。

ブレーキにはオプションのカーボン・セラミック・ブレーキが装着されており、下り勾配の連続でも効きにもペダル踏力にも変化を感じさせなかった。

いわば、スポーツカーとしての一つの教科書ですらあると思えるのだが、見方を変えるなら、過去から引き継いできた価値観の集大成でもある。981から982になった際でも、室内の変更は最小限に留まり、特にインパネはセンターのモニターを除きほぼ変わらないので、それこそ旧世代ポルシェの雰囲気が漂う。ボクの世代には物理スイッチがコンソール周りにズラズラと並べられているのも、走行中には確実な操作性をもたらすものとして安心感をもたらすが、これから最新911に乗り換えると、大袈裟に言えば隔世の感すら覚えることになる。

718の、そのわずかに懐かしい味にも惹かれるのは歳のせいなのだろうか。

992型となった911ではフル液晶となったメーター。718ボクスター/ケイマンではまだ物理メーターが中心で、右側に控えめな液晶が備わる。アナログな感覚でスポーツカーを楽しめるのも、そろそろ最後かも。

SPECIFICATION
PORSCHE 718 BOXSTER GTS 4.0
全長×全幅×全高:4390×1800×1270 mm
ホイールベース:2475mm
トレッド(F/R):1525/1535mm
車両重量:1440kg
エンジン型式:水平対向6気筒DOHC
総排気量:3995cc

最高出力:400ps/7000r.p.m.
最大トルク:42.8kg-m/5550r.p.m.
トランスミッション:6速M/T
サスペンション(F&R):ストラット
ブレーキ(F&R):ベンチレーテッドディスク
タイヤ(F/R):245/35ZR20/265/35ZR20
車両本体価格:1152万円