TMB IMPRESSION

<インプレッション>
実際乗ったらどうなんですか?
TMBが選りすぐった“名車”を運転してみて感じたこと

PEUGEOT 104

プジョーのベーシックモデルといえば、205以降が注目されがちだ。しかし、それ以前のモデルもシンプルなデザインとメカニズムで、今改めて対峙してみると味わい深い走りが楽しめる。今回試乗した104は走行僅か2200kmという奇跡のクルマだった。

TEXT / 森口将之 PHOTO / 内藤敬仁
SPECIAL THANKS / レマン(http://les-mains.sakura.ne.jp

時空を超えてやってきた奇跡の1台

極めてシンプルな2ボックスのフォルム。104はセダンからスタートし、3ドア、5ドアの順番でバリエーションを拡充していった。

あの織田信長が居を構えていたという城跡の脇で撮影をしていたのに、そこが日本だとは思えなかった。上陸したばかりの『プジョー104』は、フランスの香りを濃厚に携えていた。

コンディションが極上だっただけではない。ベージュメタリックのボディは、工場から出てきたばかりの眩さとは違う、40年の歳月を理想的な保管状況で過ごしてきたクルマだけが持つ、絶妙な色艶を残していた。黒地のライセンスプレートにイエローバルブのヘッドランプという、良き時代のフランス車の顔を保っていたところも好感を抱いた。

極め付けはボディに貼られたステッカーの類だ。リアウインドウの“ヌーヴェル104-5CV”からは新車当時の空気感が伝わってくるし、“GL”の2文字の下には、ロレーヌ地方の都市ヴェルダンのディーラーで販売されたことを示すバッジがある。取扱説明書も自分がタイムマシンに乗って40年遡ったのではないかと錯覚してしまうようなコンディションだった。

オドメーターの数字はわずか2200km。税金の納付状況を示すフロントウインドウのステッカーは、1988年のままだった。1977年に新車で購入したオーナーが、しばらく乗ったあと納屋みたいな場所にしまい込んで、そのまま2016年まで深い眠りについていたのかもしれない。とにかく奇跡の1台である。

僕が104に乗るのは、今年(取材時)に入って3度目だ。いずれも雑誌ティーポの取材と書けば、過去2回登場したブルーの個体を覚えている人がいるかもしれない。あのときは1974年式の4ドアで、今回は1977年式の5ドア。見た目はライオンのエンブレムがモダンになったほか、リアにハッチゲートが追加されたことが違う。

当初は4ドアのみで、2年後にホイールベースと全長を縮めた3ドアクーペを追加した104に、5ドアが登場したのは1976年のこと。このクラスの5ドアと言えば、市販車初のハッチバックでもあるルノー・キャトルが有名だが、ルノーのパワートレインは縦置き。つまり104はスモールカーのクラスで、2ボックス5ドアボディと横置きパワートレインをいち早く組み合わせたフランス車だった。

40年前のプジョーは
走行僅か2200㎞足らずの極上物

当時はさぞリアまわりに注目が集まっただろう。でもそれから40年経った今、趣味的な目で眺めると、顔にも語るべき点があることに気付く。

104のヘッドランプは、セダンはほぼ正方形だったのに対し、クーペは幅をワイドにしていた。そして1976年のマイチェンで、セダン改めハッチバックにも、黒い樹脂バンパーとともに横長ヘッドランプが与えられた。ところが1リッターエンジンを積むGLだけは、正方形ランプに細い金属バンパーのままだった。つまりこの顔を持つ5ドアの104は希少なのだ。

フォルム自体はシンプルな2ボックスのままで、4ドア同様古さを感じさせない。そこにベージュのカラーが落ち着きを加えている。今のスモールカーにはなかなか求め得ない大人っぽさだ。飾りっ気のない姿がそう見せるのだろう。

黒い樹脂で成形されたインパネもまたシンプル。メーターは速度計と燃料計だけだ。こちらも安っぽさはなく、車格を超えた品格を漂わせる。それでいてステアリングのスポークやベンチレーターのダイヤルからはフランス生まれらしいセンスを感じるし、この時代のプジョー特有のコの字型に動かすシフトレバーは、アクションだけで楽しめる。

ブラウン系でコーディネートされたシートも、色あせや破れはまったくない。腰を下ろした感触は、以前乗った304ブレークの幅を狭めたよう。ふっかりした心地良さはそのままだ。リアシートは身長170cmの僕なら、ひざの前に10cmの空間が残り、頭上も余裕。座り心地はフロントに劣らない。

リアゲートは以前のトランクリッドと同様、バンパーのすぐ上から開く。リアコンビランプも小さくしつらえてあるから、見るからに積み下ろしが楽そうだ。フロアは深く、奥行きは予想以上で、収容能力も文句なし。トノカバーもしっかりしていて、良心的な作りに感心した。

横置きパワートレインは、プジョーとしては1965年発表の204、4年後に登場した304に続く採用だ。しかし内容はかなり異なる。

当初は取材車が積む1リッターだけで、その後1.1リッター、1.2リッター、1.4リッターが追加されたエンジンは新設計。下にトランスミッションを抱き込んだ、いわゆるイシゴニス方式を継承しつつ、シリンダーブロックを72度も後方に倒している。おかげでエンジン上にスペアタイヤを置くことができた。2ボックスの空間効率を突き詰めた結果かもしれない。

以前乗った104も1リッターだったので、加速感は似ている。ヒューンというギアの音色は、まだOHVだったルノー・サンクや、空冷水平対向2気筒のシトロエン・アミより近代的な響き。モダンなスタイリングに合っている。長いのにコクコクと心地良い感触を返してくるシフトレバーを的確に操れば、たった45psでも今のクルマの流れに楽に乗れる。

ギアは4段しかないので、100km/hに近づくとエンジンが少し唸る。でも気になる点はそのぐらいだ。開口部が大きいのにボディはしっかりしていて、サスペンションがしなやかに動き、快適な時間を届けてくれる。とりわけ段差や継ぎ目のいなしが抜群にうまい。プジョーであることを実感する瞬間だ。

昔の前輪駆動車なので、コーナーに入るとハンドルが少し重くなるけれど、その後は素直に曲がっていく。水平近くに倒したエンジンが安定感を生み出していることも分かる。ブレーキも良く効く。モダンカー的なチェックをしても引けを取らない完成度の高さは、以前乗って驚いた304ブレークに近かった。104の後継車として登場した205を境に、プジョーは一気にスポーツイメージを打ち出すことになる。僕は205GTIのオーナーでもあったので、205が確立したブランドイメージにも共感する。でもスモールカーをスポーティに仕立てるのは常套手段でもある。コンパクトなボディに、2クラス上の504を彷彿とさせる大人っぽさを漂わせた104のほうが、衝撃的に感じる人は多いはずだ。

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