TMB IMPRESSION

<インプレッション>
実際乗ったらどうなんですか?
TMBが選りすぐった“名車”を運転してみて感じたこと

RENAULT 10

ルノーの昔の車名が数字であることは、クルマ好きの人ならご存じの事と思う。その中で、キリのいい“10”を与えられたモデルが、今回紹介する『ルノー10』である。しかしこの10、生産年数が6年とかなり短い。なぜそのような短命で終わったのか? インプレションとともにお届けしよう。

TEXT / 森口 将之 PHOTO / 内藤敬仁
SPECIAL THANKS / アウトレーヴ(http://www.autoreve.jp

フランス実用クラシックカーの世界

バンパーがまるで口ひげのよう。愛嬌のある顔つきにやられてしまう。

第2次世界大戦直後から1970年代のオイルショックまでの約30年間は、日本だけでなくフランスでも高度経済成長の時期で、「栄光の30年」と呼ばれたことは以前どこかで書いたことがある。その20年目、つまり1965年に発表されたルノー10のボディには、その時代の生まれらしい上昇志向が漂っている。

写真を見て分かる人もいるだろう。10は3年前に登場した8の前後を205mmストレッチして、ちょっと高級な装いを与えた上級車だ。この成り立ちがまず、経済成長まっただ中の車種であると感じさせる。

この時期は他のメーカーも同じようなモデルを送り出していた。たとえばプジョーは204をベースに前後を伸ばして仕立てを豪華にした304を69年に発表している。ただし304が前輪駆動だったのに対し、こちらはリアエンジン。ホイールベースが短いので、伸ばしたオーバーハングがやたら長く見える。

一方、弁当箱と呼ばれるほど四角四面だった8と比べると、こちらはノーズやテールの先端が低く丸くなっているし、フロントフェンダーの開口部も角から丸に変えてあって、洗練度はグッとアップした。

ルノー10は1968年にマイナーチェンジしていて、このときヘッドランプを丸型から角形に付け替えるなどのリファインを受けている。つまり取材したのは後期型だ。

角形ヘッドランプと間の細いモール、中央に収めたスペアタイヤの出し入れのために台形になったバンパーの組み合わせは、メガネをかけ口ひげを生やしたお父さんっぽくて、素朴な8とは違う意味で親しみが沸く。でもサイドやリアにはシルバーのプレートを装着して、高級感を出そうとしているのが分かる。

8と共通と思われるドアを開けて、シートに腰を下ろす。その瞬間、体がスーッと沈み込んで、何とも言えない心地良さに浸ることができる。ドライビングポジションも8に似ていて、右足の延長線上にクラッチペダルとステアリングシャフトがある。ドライバーがクルマに合わせる時代のクルマであることを教えられる。

一方でインパネは、10独自の部分。平板なパネルにメーターやスイッチを並べた8とは違い、メーター部分を盛り上げ、ステアリングのスポークともどもウッドパネルを貼った。当時としてはモダンでクオリティにも配慮した仕立てになっている。21世紀の今見ればシンプルこのうえない作り。でも1960年代は8より新しく上級なクルマだと認識する人が多かったことだろう。

ホイールベースは2270mmと、前輪駆動のライバル204/304と比べると300mm以上も短いが、後席にも身長170cmの僕が座れるスペースを持つ。でもルノー10のパッケージングでいちばん驚くのは、やはり前にあるトランクだろう。

深くはないものの、幅だけでなく長さもたっぷり取ってあって、コタツを置けるんじゃないかと思えるほど。205mmのオーバーハング延長のうち135mmをフロントに費やしたというデータに納得だ。

当時のフランスは、第2次世界大戦前から前輪駆動を実用化していたシトロエンに続き、1960年代に入るとルノーとプジョーもこのメカニズムを採用したことで、ユーティリティに対する要求が高まっていたのかもしれないが、荷室に関しては不利というリアエンジンの評判を忘れさせてしまうような空間だ。

エンジンは、8では1964年に追加された上級車種マジョールに積まれた1108ccの直列4気筒OHVだ。最高出力は50ps、最大トルクは9.0kg-mと、同じ排気量から95psを絞り出していた8ゴルディーニと比べると、なんともおとなしい。

ところが走り出すと、低回転から粘り強いトルクを発生してくれるので、とにかく乗りやすい。4600r.p.m.というディーゼルエンジン並みの低回転で最高出力を発生する、実用域の扱いやすさに配慮したチューニングの成果だ。8より重いとはいえ900kgに満たない車両重量に対して1.1リッターだから、余裕もある。平らな床から生えた長いシフトレバーが、見た目とは裏腹に確実なタッチを示すのは8と同じ。でも10ならひんぱんにこのレバーを動かさなくても必要な加速が手に入る。当時のユーザーは、アンダー1リッターの8との違いを実感したことだろう。

その中で昔っぽさを感じさせてくれるのは音だ。アクセルペダルを踏んだときのベーッという響きは、快音ではないものの、なぜか親しみを感じさせる、この時代のルノーの大衆車っぽいサウンドなのである。

サスペンションはそんなにフワフワではないが、路面からのショックは巧みにいなしてくれる。ふっかりしたシートのおかげもあって、旧き佳きフランス車ならではの心地良さが存分に堪能できる。

大径で細いリムのステアリングはこの時代ならでは。80km/hぐらいまでなら直進安定性に不安はない。身のこなしは8ゴルディーニに比べればおっとりしているけれど、コーナー出口で右足に力を込めていくと旋回を強めていく特性は、前輪駆動では味わえない感覚だ。

このあとルノー10は1970年、前年デビューした12のために開発された1289ccを譲り受けてパワーアップを実現しているが、次の年にはフランスでの生産を終えてしまった。8の上級版として送り出された10であったが、ルノーが考えていた本命は12のほうだったようだ。

ルノー12はリアエンジンではなく、4や16のようにエンジンをキャビン側に寄せた前輪駆動でもない、エンジンをフロントにオーバーハングした、新しいレイアウトを持っていた。8と16のちょうど中間の数字を車名としていたことを含めて、ルノーの力の入れ具合が分かる。

でも当時はルノーが前輪駆動を手掛けてまだ数年という時期。このメカニズムに懐疑的な目を向けていたユーザーもいたはずだ。だからこそリアエンジンから前輪駆動への移行をスムーズに進める必要があった。

10と12、同じ車格の4ドアセダンを2車種用意していた背景には、そんなルノーの気配りがあったのではないだろうか。だから10の生涯がわずか6年で終わったことは、ルノーにとってはむしろホッとする出来事だったのかもしれない。

時代を感じさせるシンプルなコクピットまわり。
スピードメーターは150km/hスケールの横長の指針式、下側左に燃料計、中央には警告灯などが配置される。
ダッシュボード中央には、上部に時計、その下に灰皿、下側には空調類のスイッチが並ぶ。
この特徴あるデザインのバンパーが、ルノー10のキャラクターを形作っていると言ってもいいだろう。
フロントグリルに備わる鉄製のロサンジュ。中央にはRENAULTの文字が刻まれる。
ビニールレザー製のシートは同時代のファブリックほどではないが、柔らかく体に馴染む。
ホイールベースは2270mmと当時の同クラスの中でも短い方ながら、後席の居住性は足元も広く狭さを感じさせない。
前後左右方向に広いフロントのトランク。深さはないため嵩のあるものは搭載できないが、容量は相当なもの。
快適な乗り心地に一役かっている細身のタイヤ。この時代らしくスチールホイールにスチールキャップの組み合わせ。
リアに搭載されるエンジンは、8マジョールに採用されていた1108ccのOHV4気筒。50ps/9.0kg-mというパワー/トルクを発揮する。パンチはないが実用域のトルクに優れていて扱いやすい。
1965年に発表されたルノー10は、4CV~ドーフィンと続いたリアエンジン・ルノーの流れをくむ8をベースに、前後のオーバーハングを伸ばし、内外装を高級に仕立てたフラッグシップモデル。エンジンは前年8の上級グレード、マジョールに積まれた1.1リッターを受け継いでいた。10のグレード名もマジョールで、8マジョールのボディを専用設計とした車種とも説明できる。
4年後のマイナーチェンジでは、フロントマスクだけでなくリアまわりの造形も一新している。この年には実質的な後継車である前輪駆動の12がデビューしているが、10は翌年、この12のために開発された1.3リッターエンジンを譲り受けた。生産はフランスでは1971年、スペインでは1973年まで続けられた。

SPECIFICATION
RENAULT 10
全長×全幅×全高:4204×1524×1410mm
ホイールベース:2267mm
車両重量:792kg(乾燥)
エンジン:直列4気筒OHV
総排気量:1289cc

最高出力:52ps/4800r.p.m.
最大トルク:10.0kg-m/4500r.p.m.
サスペンション(F/R):スイングアクスル/セミトレーリングアーム
ブレーキ(F&R):ディスク
タイヤ(F&R):145-380