TMB IMPRESSION

<インプレッション>
実際乗ったらどうなんですか?
TMBが選りすぐった“名車”を運転してみて感じたこと

LOTUS EUROPA SPECIAL

1970年後半に日本中の少年たちを熱狂させた"スーパーカーブーム"。その中心となった漫画『サーキットの狼』で主人公が乗っていたロータス・ヨーロッパは、日本で"スーパーカー認定"されている。しかしヨーロッパがスーパーカーたる理由は、それだけではない。

TEXT / 西川 淳 PHOTO / 山本佳吾
SPECIAL THANKS / ACマインズ(http://ac-minds.com

スーパーカーとしての
ロータス・ヨーロッパ論

渋滞を抜け、信号を右折すると、そこは公園へと続くおあつらえ向きの上り坂であった。さほど自信のないドライバーを勇気づけるかのように、分かりやすいコーナーがいくつか続いているように見える。

それまでの欲求不満を吹き飛ばすかのように、1.6リッターの4気筒DOHCビッグバルブユニットが吠え始めた。自分の視線はすさまじく低い位置をなめていて、路面のアンジュレーションや速度抑制のゼブラ塗装までもが立体的に目に飛び込んできた。軽自動車のシケインがそびえ立っている。その脇を、JPSカラーのロータス・ヨーロッパ・スペシャルはすり抜けていった。

横方向にタイトで、さっきまではギア位置を掴むことすら苦労したマニュアルトランスミッションは、今では自ら呼吸をし、ギアレバーを吸い込んでは吐いていた。狙った位置に正確に、否、違う、ドライバーの思う方向をマシーンが先まわりして自ら鼻先を向けているかのよう。まるでワインディングロードに棲む精霊のようだ。そんな道がこの先もずっと続いてくれと思わず願っていた。

……と、まぁ、こんな風に書き出すと、あたかもヨーロッパを知り尽くした乗り手だと思っていただけるかもしれない。実際には、間近で見るたびにその車高のあまりの低さに毎度驚かされてしまうほどの回数しか、触ったことなどなかった。それでもヨーロッパには他のクルマにはない親近感がある。憧れの存在でもあった。なぜならそれは間違いなく、ボクたちのヒーローだったからだ。

そのことについて書き連ねる前に、この偉大なる名車の前でもう少し正直でいるために、冒頭のストーリーの時間を少し巻き戻してみることにしよう。

あたかも天国、楽園の如き

フェラーリの新型車発表が行なわれるローマへ出発するために、私はフェラーリGTC4ルッソTを駆って羽田空港に向かっていた。早朝に京都を出発したのは、その途中で岡崎のACマインズに寄り、ヨーロッパの試乗をこなすためだった。実をいうと、最近、英国車にはまっている。そんな人間にとって、ここはあたかも天国、楽園の如きだった。

新旧ロータスはもちろん、ミニやモーガン、レーシングカー、そして一度は乗ってみたいモノポストのBACまで、英国車好きならずとも心躍るクルマたちで埋め尽くされている。週末のイベントを前にして整備に余年のないヒストリック・フォーミュラの鼻先に、お目当てのヨーロッパ・スペシャルが停まっていた。ACマインズのチーフメカニックである板倉薫さんの愛車である。ヨーロッパを他の店で買ったあとに、ここに務めるようになったというから、ある意味、筋金入りだ。

板倉さんのヨーロッパは、年式相応のヤレこそあるけれど、佇まいはシャキッとしていて、長年のオーナーシップを感じさせる個体だった。ぴかぴかでも動きの悪い個体もあれば、一見くたびれていてもイキイキとした個体もある。ヒストリックやヴィンテージが生き物のようなパートナーでありえることの証だろう。板倉さんのヨーロッパは、停まっていても、はつらつとしていた。少し車高を下げている。ただでさえ低いヨーロッパの車高が、ほとんど私の座高ほどでしかない。小さなドアを開けて、乗り込む。ステアリングホイールの位置もオーナー好みに調整してあって、メタボな部外者の濫入を拒んでいるかのようだ。左足をステアリングの向こうに押し込み、腹のつっかえを堪えて腰を降ろすと、こんどは右足の行き場に困った。苦労して折り畳んだ右足を何とかスロットルペダルの上に持ち込み、ドアとベルトをしめる。キーを捻ったが、うんともすんとも言わない。「スタータースイッチに換えてあるんです。エンストとかしてもすぐに掛けられるように」と板倉さん。ふと見ると左手の上にスターターがあった。暖めてくれてあったのだろう、エンジンはすこぶる調子良く目覚めた。

街中でも苦労なく泳いでいける

上段の左からR、1、3、ODと4つのギア位置が並んでいるため、左右にとてもタイトで、それぞれのギアの位置を掴むのに苦労する。レバーの動きも繊細だ。さらに、エンジンの”吹け”はもちろん、”落ち”もすさまじくシャープで、発進しようとするといきなりエンストしてしまった。

何でも、ナロー乗りの兄にヨーロッパのエンジンフィールをバカにされたので、キャブをウェーバーの45Φに換装し、フライホイールを1/3程度の軽さにしたのだという。そのあとも何度かエンストをくらって、スタータースイッチの有り難みを痛感した。

動いてしまえば、車体の軽さと相まって、とても扱いやすい。視界は低く広がっているけれども、ノーズがよくみえて、意のままに動くから、街中でも苦労なく泳いでいける。メーターや計器類は縮小されているかのように小さく、最低限の情報を感覚的に伝えてくれるのみだ。乗り心地は悪くない。否、むしろ現役のスポーツカーだ。車体の軽さはブレーキにも効いていて、決してリッチではなかったが、制動に苦労はなかった。幹線道路で渋滞にハマってしまい、そのうえ不慣れなドライバーがタイミングを間違ってしまうものだから、もう何度かエンストし、ギアも泣かせてしまう。11月とは思えない晴天にも泣かされて、汗だくになり始めたころ、ようやく冒頭の交差点を右折するシーンへと辿り着いたというわけだった。

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