TMB IMPRESSION

<インプレッション>
実際乗ったらどうなんですか?
TMBが選りすぐった“名車”を運転してみて感じたこと

RENAULT ALPINE V6 TURBO

他国のスポーツカーとは一線を画する繊細なスタイル、3000r.p.m.あたりから盛り上がりを見せるターボエンジン、RRならではの運転感覚など、V6ターボの魅力は多岐にわたる。だがそれだけではない、独特の不思議な魅力をこのクルマは持っている。ある種の官能にも似たその感覚を、改めて味わってみた。

TEXT / 嶋田智之 PHOTO / 内藤敬仁

官能にも似た不思議な感覚をもう一度

V6ターボ固有の扇情的な匂い

どう言葉にすればいいのだろう……? アルピーヌV6ターボに触れるといつも決まって覚える、そっと絡みついてくるような、しっとりと濡れたようなこの微妙な余韻を。不快なものではなくむしろはっきりと悦楽であり、ある種の官能にも似た、しばらくの間、心地好い湿り気をもって口元を綻びさせる、その不思議な感覚を。それはオリジナルA110やA310にはなかったものであり、A610ではもう少し乾いていて、そして新世代のA110とも異なる、このV6ターボだけが漂わせる固有の扇情的な匂いなのだ。

とはいえ、V6ターボが特殊な作り方のなされたモデルであったわけではない。それどころか、ドライに斬り捨てるような言い方をなぞるなら、構造的にはA310のそれを受け継いだ発展版に過ぎない。しかも1978年にジャン・レデレが立ち去ってしばらくの後、創設者の関与なしに開発されたモデルであり、ファン達を熱狂させたレデレの名作A110ベルリネッタの“小さく、軽く、俊敏”とは対極にあるかのような、豪華で実用性のあるグランツーリスモへと変貌を遂げていた。そんなところから、醒めた眼差しで見られたりすることも少なくない。

確かにV6ターボが、A310を下地にして開発のなされたモデルであることは疑いようもない。アルピーヌの最初のモデルであるA106以来延々と採用され続けてきたRRという駆動方式が踏襲されているのはもちろん、鋼管バックボーンフレームにダブルウィッシュボーンのサスペンション、2+2のシートレイアウトにFRP製ボディという基本構成もA310と共通していて、スタイリングもA310の面影をはっきりと偲ばせている。室内はあきらかに豪華さを増し、2+2のリアシートまわりはさほど大柄でもない限り大人が苦もなく収まるほどまで拡大され、GTカーとしての実用性は大幅に高まっている。A310まではギリギリ1トン程度に収まっていた車重もV6ターボでは1220kgへと増加し、車体もひとまわり大きくなっている。

それを補うため、A310時代から搭載されていたPRV製のV型6気筒エンジンはストロークを10mm縮めたΦ91.0×63.0mmというショートストローク型の2458ccとなり、ギャレットT3タービンと空冷式インタークーラーが備わりボッシュKジェトロニックで制御された結果、本国仕様では200ps/5750r.p.m.、29.6kg-m/2500r.p.m.を発揮した。その増大したパワーを受け止めるバックボーンフレームはもちろん、サスペンションもしっかりと強化されている。ボディもかなり徹底したフラッシュサーフェイス化が推し進められ、Cd値0.28というエアロダイナミクスに優れたものになっている。その甲斐もあって最高速度はA310 V6から一気に30km/hも伸びた250km/hという数値を得るに至っている。この時代、ルノーのモータースポーツの分野はすでにルノー・スポールが担っていたため、アルピーヌはサーキットやスペシャルステージで勝負するのではなく、もっと日常に寄り添った別の舞台で、それまでと違った見せ場をモノにするクルマへと転身することになったわけだ。

その速さは今になっても侮れない

本領を発揮したのはおそらく夜の街であり、シュパーッ! と飛ばしていく先々までの流れの最中であり、あるいは小洒落たアパルトマンまでの道のりだったことだろう。フランス人ほど、それが束の間のものであれ普遍性を前提としたものであれ、逢瀬というものを大切にする国民はいないのだから。その極めて印象的なスタイリングも、適度に引き締まっているのに優しい乗り心地も、厚手で快適なシートも、マルチェロ・ガンディーニ作のモダン建築のようなインテリアも、耳障りでないサウンドも、大いに役立ったはずだ。3000r.p.m.を超えたあたりを境に、それより下の領域では粘っこいトルクで、それより上はターボパワーでと、理解してさえいれば苦もなく使い分けて走ることのできる緩急のはっきりしたパワーユニットの性格も、場面によっては非常に使い勝手のいいものだったはずだ。

いや、誤解なきよう申し上げておくけれど、V6ターボは高速巡航性と安定性と快適性を併せ持ったグランツーリスモとしてはもちろんのこと、実はスポーツカーとしても第一級だった。ターボが自らの存在を主張しはじめてからトップエンドまでの、背筋から気持ちよくなっていくようなダッシュ。ポルシェ同様RRというものの特性を知り尽くしたブランドならではの、フロントタイヤへの荷重の載せ方ひとつで小さくも大きくも素早く正確に曲がっていける身のさばき方。そうした美点を自分のドライビングで引き出すことさえできるなら、ワインディングロードで気怠い仕草に悩まされることなんてない。まるでクライマックスに向かって登り詰めていくときのような高揚感をドライバーにたっぷりと感じさせながら、想像するより遙かに高いスピードでシャープにコーナーからコーナーへと駆け抜けてくれるのだ。その速さは、今になってもちょっと侮ることができないほど。上手く息を合わせることができたときには、いうまでもないことだが、たまらなく快感だ。

アルピーヌV6ターボというクルマは、一事が万事そうなのである。ちょっとばかり変わり者で、敬意を持って接しないとギクシャクするところもあるのに、上手くできたときにはちゃんと褒美をくれる。例えば、普通に操作しようとすると爪先が干渉してしまうからクルマに合わせて踏み方を変えてみると、妙にヒール&トゥがしやすくなる下生えのペダル類。ステアリングからスッと右手を降ろしたところにセンターから大きくオフセットして配置されているシフトスティックは、少し位置が掴みにくいのに、正しく探り当てるとクシュッと柔らかく気持ちよく受け入れてくれる。エンジンの性格しかり、コーナリング特性しかり。そしてどこにも歯切れのいい乾いた感覚というのがなく、人肌に触れたかのような湿り気のある、柔らかいものばかりが伝わってくる。あらゆるところが有機的なのだ。

目の前にいたらつい目で追ってしまう艶やかなルックスに秘められた、そうした気性。少し前に流行った言葉でいうなら、“ツンデレ”か。けれど、知らず知らず夢中にさせられてのめり込まされてしまうのは、間違いなくこちらの方なのである。こういうのを”femme fatale=魔性の女”、というのかも知れない。

ふと思った。助手席に美女をエスコートする必要などなくて、逢瀬の相手なら、このクルマだけでも充分なんじゃないか? と──。

2.5リッターとなるRPV製のV6をリアに縦置きする、RRレイアウトを採用するルノー・アルピーヌV6ターボ。テールゲートを開け、エンジンルームの蓋を上げるとこちらの光景が目の前に広がる。

こちらは車名のとおりターボだが、発表当初はNAのV6も用意され、スペックはNAが160ps、ターボが200psとなっていた。ちなみに派生モデルのアルピーヌ・ル・マンでは185psにディチューンされている。取材車はサムコのハイパフォーマンスホースを装着していた。

フロントフード内にはスペアタイヤが収まり、ロングツーリングの際のラゲッジは後部座席を活用するしかなさそう。奥側に見えるのは給油口だ。

スクエアなデザインを基調とした、フル4座に近い2+2のシートレイアウトとなる室内。

シフトノブは右手の位置に近く操作しやすいが、慣れるまではシフトの入っている位置がわかりにくかった。またペダルの上側が狭く、操作する靴を選びそうだ。

メーターはVeglia製。センターにターボのブースト計が備わっている。

SPECIFICATION
RENAULT ALPINE V6 TURBO
全長×全幅×全高:4330×1750×1190mm
ホイールベース:2330mm
トレッド(F/R):1495/1455
車両重量:1220kg
エンジン形式:水冷V型6気筒SOHCターボ
総排気量:2458cc
内径×行程:91.0×63.0mm

圧縮比:8.6:1
最高出力:200ps/5750r.p.m.
最大トルク:29.6kg-m/2500r.p.m.
トランスミッション:5速M/T
懸架装置(F&R):ダブルウィッシュボーン
制動装置(F/R):ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤ(F/R):195/50VR15/225/45VR15

Variation of “V6” Models

1971年に登場した、A110の後継となるGTスポーツカーがA310。これは1977年のマイチェンで登場した『A310 V6』。

A310 V6はグループ4仕様がフランス・ラリー選手権などで活躍した後、グループBとしても公認され、プライベーターが活動を継続した。

1985年にA310の後継車として『アルピーヌV6(GTA)』が登場。これはかのジャン・ラニョッティが1988年にドライブしたレースカー。

V6ターボを大幅にリファインした後継車、A610は1991年に登場。250psの3リッター・ターボ・エンジンとリトラクタブルライトが特徴。