TMB IMPRESSION

<インプレッション>
実際乗ったらどうなんですか?
TMBが選りすぐった“名車”を運転してみて感じたこと

ROVER MINI COOPER

一大ムーブメントを起こし、多くの個体が輸入され楽しまれてきたローバー・ミニ。限定モデルも多数存在し、アフターパーツの量も豊富に揃うなど、趣味グルマとして始めるには最高のモデルと言える。環境が整い過ぎているだけに「もうちょっと先でもいいかな」と思っている自動車趣味人にこそ、今すぐローバー・ミニの魅力を体感していただきたい。

TEXT / 吉田拓生 PHOTO / 田中秀宣

毎日乗れるクラシック、ローバー・ミニ

当たり前だった存在が
時間をおいて気になり出す

クロームメッキのドアハンドルを握って、硬めの押しボタンを押すと、ガチャっという独特のタッチでドアが開く。他のあらゆるクルマとも、マーク1に代表されるオールド・ミニとも異なる感触。室内から仄かに広がってくる昔懐かしいイギリスの、ローバーの匂い。

テレビでは「100年前にタイムスリップ!」なんてセリフをよく聞くけれど、自分が存在していなかった太古の時代よりも、10数年くらい前の方が”懐かしい!”と強く思えるはず。40歳代の人にとっては”つい先日まで新車で売っていた”という印象が強いローバー・ミニだが、例え最終モデルであってもすでに約20年もの歳月が経過している。そして今、ヒストリックカーとして認識されつつあり、極上車は少しずつ値を上げている。走行距離が少ない個体や限定モデル等には当時の新車以上の価格がつけられることも珍しくないのである。

言うまでもないことだが、一般的なクルマは年数を経るごとに、走行距離が増えるごとに評価額が一定の角度で下がっていき、10年もすればタダ同然になる。人気がないモデルならば補修パーツも量もたかが知れていて、メーカーのストックが切れた時点でおしまいだ。ヒストリックカーとは、単に古くなったクルマのことを指しているわけではないのである。”国民が選んだ”とされる政治家の背景には出来レースの影が付き纏うが、古くなったクルマが趣味的な”ヒストリックカー”として認められるか否かのジャッジは、中古車屋がいくら価格を操作しようとしてもダメで、決めるのは結局お金を出すオーナーたちなのである。「なんでローバー・ミニがいまだに100万円以上もするの~」と思う個人も少なくないはずだが、クラシック・ミニを愛する人の世界全体で考えれば、これは喜ばしいことに違いない。いつでもボディシェルからメッキモールを留めるクリップ1個まで確実に手に入るし、90年代にローバー・ミニが大量に売り捌かれた我が国なので、お金次第でいまだにランニングコンディションから新車同様まで、あらゆる状態のミニを手に入れることができる。お金と言っても、昨今のヒストリックカー世界で聞こえる5000万とか1億とかいう現実離れしたレベルの話ではないのだから。

ミニを知らずして
クルマ趣味は始まらない

このローバー東松山から借り出した撮影車は1998年式のクーパー。ギアボックスはオートマティックである。新車当時は”あぁ、いつもの感じね”としか思わず、まるでスターレットに乗るような気持ちで運転していた自分が恥ずかしいのだけれど、現代的な視点から見ると、これはちょっとした骨董であることがわかる。シートに使われている革も、ダッシュパネル一面に使われているウッドパネルも、”あり得ない”レベルのものだ。クラフトマンシップとか入手困難な原料などコストの観点から考えてもそうだし、ウッドパネルに関しては安全規則においても、現代のクルマでこれと同じものを採用することはできない。

そう考えると、かつて英国発祥の自動車メーカーとして最大の規模を誇り、日本全国にも立派な正規ディーラーが存在し、ところが現在は跡形もなくなってしまったローバーというブランドのイギリス車濃度に感心せずにはいられない。当時ローバーのショールームに行けば、当たり前のように数台の初代ミニの末裔と、1971年から続く初代レンジローバーと、そして一時期ではあるが、MGBのモノコックを再び使用した”恐竜のような!”MG RV8が並んでいたのである。あれは今になって考えればかなりマニアックなラインナップだったと言い切れる。もちろん、そんなマニアックさ(=技術の古さ)が災いしてメーカー消滅に突き進んでいくことになったのだが……。

初代レンジローバーはクラシック・ミニと同じような扱いで、しっかり手が入れられた個体が300万円以上で取引されている。RV8は日本での異常な安さに気が付いた英国人が相当な数を持ち帰ってしまったらしい。そしてローバー・ミニは、かつて相当数いた”ミニ好き”という枠を越え、お洒落なクルマに敏感な世界中の人たちによって尊敬を集めつつある。

そう、タヒチブルーに塗られたフルオリジナルと思しき今回のクーパーをドライブしていて感じるのは”お洒落”という感覚である。全体を俯瞰しても、パーツレベルで見てもそうだし、ドライブしている最中の各ウインドウが切り取る風景もどこか懐かしくて絵画的。そして3メインベアリングのOHVエンジンが発するちょっとした振動も、ラバーコーンサスペンションのちょっとだけ余計なバウンシングも、ほの暗い室内も、ウインカーリレーのキレのいいリズムも、足元に引かれたカーペットのきめ細かさまでもが、現代のアシグルマにない粋な雰囲気を持っている。

若者のクルマ離れは経済的な話ではなく、かつてのローバー・ミニのような小粋で求心力のある1台が新車市場からいなくなってしまったことが原因では、と真面目にそう思ってしまう。景気を考えれば新型車が次々とデビューする世の中であるべきだけれど、でもローバー・ミニのような伝統を背負った決定版ともいえる存在が、ずっと息づいていけるような自動車シーンでもあるべきだと思う。実際にコンディションの良いローバー・ミニを今日のアシにすることは全く問題がないのである。

40代以上のクルマ好きにとっては”懐かしい”とか”いつかは乗ってみたい”と思われているクラシック・ミニ。新車を知らない世代の人でも、ちょっと上向きに取り付けられていて、しっかりとした反力を伴うステアリングを握って走り出せば、かならずやその独特のドライブフィールの虜になってしまうに違いない。

極上のローバー・ミニは今でも、これから先も常に我々の身近にいる。趣味車の世界では「新車じゃないといやだ」とか「走行距離が進んでいると不安」なんてことを言う人の方が珍しくなる世界がもうすぐ始まろうとしている。クルマ趣味の最初の一歩にも、添い遂げるための伴侶にもなるミニ。この1台を知らずして、クルマ趣味は始まらないのである。

現代の同セグメントを基準にすれば、”ありえない”程の高いクオリティをもつウッド製のダッシュパネル。英国車であることを強烈に主張する部分だ。
シートを覆うレザーは上質で、当時のミニだからこそなしえたクオリティだ。エンボス加工で”MINI COOPER”の文字がデザインされている。
ボディにはデカール。61年に登場し、高性能モデルに付けられた”クーパー”の名は、後年になるとミニ=ミニ・クーパーと誤解されるほどクルマ好き以外にも浸透した。
リアウインドウに貼られた『ROVER JAPAN』のステッカーは、今となってはミニを語る上では外すことの出来ないディテールだ。
A/Tのシフトパターンには”P”が追加され、セレクターは樹脂製になったが、それ以外は初代から続く伝統的なもの。
搭載される1.3リッター4気筒OHVエンジンは、現代の基準で言えば物足りなさを感じるスペックだが、ミニ特有のフィーリングを体感すればパワー=楽しさではないことを教えられる。