TMB IMPRESSION

<インプレッション>
実際乗ったらどうなんですか?
TMBが選りすぐった“名車”を運転してみて感じたこと

ALFA ROMEO 164 QV

神奈川県横浜市のスペシャルショップ『エスパート』で、1台のアルファ164に出会った。グレードはクアドリフォリオ・ヴェルデ。"ブッソV6"として知られる、3リッターV6シングルカムを搭載するFFモデルだ。その走行距離に驚きながら、ご縁あってひと時の逢瀬を愉しむこととなった。

TEXT / 平井大介 PHOTO / 佐藤亮太
SPECIAL THANKS / エスパート(https://themotorbrothers.com/special-shop/13247

走行距離23万8000㎞の
アルファ164は買いか?

カー・マガジンNo.500のベーシックカー特集で『シトロエン 2CVチャールストン』をお借りするため、横浜のエスパートさんを訪れた時のこと。店主の鶴岡省一郎さんが「こっちも取材して下さいよ〜」と、冗談めかして言ったのが始まりだった。見たところ確かにキレイそうではあるが、目の前にいるのは何の変哲もない黒い『アルファ164』だ。しかし聞くと、その走行距離は何と約23万8000㎞! いくら同店でフルレストアを受けたとはいえ、そんな距離を走っているようには到底見えない。見た目のキレイさもあるが、全体的にシャッキリしているのだ。そんな過走行のヤングタイマー世代のイタリア車がまさか無事に走っているとはと、素直に驚いた。ちなみに2オーナーで、エンジンは3機目とのことだ。

その時はグレードをよく確認せずに帰ってきたのだが、実はこれ、クアドリフォリオ・ヴェルデ(QV)という初期のFFモデル。エンジンは3リッターでシングルカムのV6。そう、ジョゼッペ・ブッソ技師が開発したあの名機だ。個人的に最初に体験した”ブッソV6″は2.5リッターツインカムを搭載する新車のアルファ156で、当時カーマガ編集部にあったレポート車。こんな気持ちいいエンジンがこの世にあるなんて! アルファロメオってスゴイ! と確か朝霧高原の近くのワインディングで感動したのを覚えている。そして3.2リッターの156GTA(セダン)はスタイルを含めまさに完璧で、これを新車で買わずして……と自宅駐車場で悶々とした記憶も鮮明だ(買えなかったけど)。そして後日、そのシングルカムが名機中の名機であることを伝説として理解することになるわけだが、ご縁なく実体験としてなかったこともあり、今回、試乗と取材を申し込んだ次第。というわけでエスパートを再訪し、横浜から撮影場所に選んだ都内某所を目指すこととした。

お店を出て数10mでまず思ったのは、クルマが軽い! ということだ。4WDであるQ4より200㎏以上軽いですよ、と鶴岡さんに言われてから乗ったのだが、これが暗示やフラシーボ効果でないと断言できるほど、その大きな体躯からは想像できない身のこなしの軽さを感じたのである。とは言いつつも現代のモデルが安全性などの大義名分を前に肥大化している昨今、ボディサイズがコンパクトにすら感じられたことは書いておきたい。

しかもボディがしっかりしていて、その過走行が信じられなくなってメーターを二度見するも、やはりオドメーターは23万8000㎞を超えている。確かに30年選手ということでシフトノブや一部プラスチックパーツに年相応感はあるが、何度も書くがその走行距離が信じられないほどのフィールなのだ。

しばらく一般道を走っていたら、もう既にパーツがでないということでモンロー製のショックを装着した足まわりにしなやかさを感じ、これがイタリアでは当時ランチア・テーマと並ぶ高級車であったことを思い出す。室内の赤いステッチはザ・ヤングタイマーといった雰囲気で、そういった高揚感、軽快感、高級感という様々な印象が織り交ざった頃、高速道路の入口が迫ってきた。

街中を流す程度でも充分にそのよさが伝わってきていた”ブッソV6″だが、高速道路に乗り入れ、右足に少しだけ力を籠めて、レブカウンターがほぼ12時の位置、4000rpmに達したあたりから、”クォォ〜ン”とハーモニーを奏で出した。当然”キタキタキタ!!”とほくそ笑むわけだが、以前体験したツインカムたちと圧倒的に違ったのはその吹け上がり。ツインカムが重厚に感じてしまうほど、気持ちよく回転が高まっていくではないか。

“嗚呼、なんということだ!”

“メチャメチャ気持ちいいじゃないか!”

しかもツインカムのサウンドは確かにキレイだが、どこか”演出過多”にすら思えてしまうほど、このシングルカムは”設計どおりにちゃんとキレイな音が出ている”気がしたのである。エンジンヘッドが軽いからなのか鼻先は軽く、高速道路のアプローチのようなコーナーでもすっと入っていく感じがよくわかった。ナリは高級車でも、ちゃんとアルファロメオのスポーツセダンをしているのだ。

ロケ地に到着し、ピニンファリーナ時代のエンリコ・フミアが描いたプロポーションを改めて眺めてみる。確かにはっとするような美しさではない。決して絶世の美女ではない。しかしどこか目が離せない。きっと毎日見ていたら段々と好きになっていき、それは愛へと変わるに違いない……とまで思えてきた。黒いボディはどこか気高く、いかにも高級な場所が似合いそう。夜、どんな見え方がするかも興味深い。聞けば実はこの取材車、撮影の直前に売約済みとなってしまったのだが、購入したオーナーは同じアルファロメオのジュリア・スーパーからの乗り換えだという。なるほど、わかりやすい話ではないか。

取材後、鶴岡さんと話していたら、QVのMTはサイドシルに補強が入っている、と教えてくれた。サイドスカートを外すとA/Tと形状が違うそうなのだ。また、下回りに錆がほとんどなくボディがしっかりしていて、エンジンルームが想像以上にキレイという状態のよさがあったり、レストア時に鶴岡さんの手でサブフレームに補強を入れたりという、いくつかの偶然と適切なレストアを経ていたことがわかった。つまりこの日の素晴らしい体験は、その車歴中に関わった人々、オーナーやレストア担当(=鶴岡さん)が大切に扱ったからこそ得たものだったのだ。

“164のベストバイ”と、鶴岡さんはQVを評したが、実はこの個体そのものが現代における164のベストバイなのかもしれず、こういう奇跡的な個体には、なかなか出会えるものではないだろう。まさに一期一会だ。

名機、シングルカムの”ブッソV6″。ちなみに取材車は3機目のエンジンとのこと。
1992年式なので30年近くの間に約23万8000kmを走行している取材車。
かなりのパーツをストックしていたエスパートでフルレストアを受けたりしたとはいえ、これだけのコンディションを維持しているのは奇跡に近いだろう。ステアリングもご覧の通り。
ホイールも純正を維持。しかし純正パーツが出ないということで、ショックとエキゾーストはノンオリジナルだった。