TMB IMPRESSION

<インプレッション>
実際乗ったらどうなんですか?
TMBが選りすぐった“名車”を運転してみて感じたこと

BMW 2002 & ALPINA B3 S BITURBO

BMW1500"ノイエクラッセ"をさらに高性能なロードカーに仕立てることからスタートしたアルピナは、レースで大きな成功を収めながら、日々味わうことができるハイパフォーマンスにこだわり続けてきた。現在もアルピナが送り出す少量生産モデルは、優しく寄り添いつつ奥深い魅力でドライバーを虜にする。

TEXT / 清水雅史 PHOTO / 内藤敬仁
SPECIAL THANKS / ニコル・オートモビルズ(https://alpina.co.jp/),CS Garage(https://cs-garage.com/

日常で味わう、アルピナ・チューンの真骨頂

BMWアルピナB3 Sビターボで走り出す。今日の目的はBMWアルピナの正規インポーター、ニコル・オートモビルズがその仕上がりを絶賛し、世田谷ショールームに展示されていたほど魅力的なアルピナ・スペックの2002を取材すること。高速道路を巡航し、サービスエリアでひと息つくためクルマを降りると、ふと「アルピナっていつ乗ってもほんとにいいよなぁ」とひとり言のようにつぶやいてしまった。いつの間にかB3 Sビターボの乗り味に魅せられていたのである。BMWアルピナの魅力は、じんわりと染みてくる。そして忘れられなくなる。

それほど多くのモデルに乗ったわけではないけれど、歴代モデルも然り。圧倒的な性能を実現しながら、なんの気負いもなく快適に移動できる。けれど、ステアリングを握っている時間は、どんな場面でも上質なパートナーとともにあることを意識させるもの。E36セダンのエンジンルームに4.6リッターV8ユニットを詰め込んだモンスター、B8 4.6だって同じ雰囲気を漂わせていた。つまりは完成度。クルマをまとめ上げる勘どころを、アルピナは心得ている。

アルピナは、もともとタイプライターなどを生産する事務機メーカーで、創業者Dr.ルドルフ・ボーフェンジーペン氏の子息、ブルカルト・ボーフェンジーペン氏が、発売されたばかりのBMW1500をより快活に走らせるべく、父親が経営する会社の工場の一角において’62年に産声を上げた。そしてツインキャブレターや、それを装着するためのインテークマニフォールドの開発に手を染めたことから、プライベートチューナーとしての道を歩み始める。カスタムの手腕を発揮する素材として最初に選んだ1500は、新開発4気筒エンジンのほか、フルモノコックボディ、ストラット+セミトレの足まわりなど、当時の4ドアサルーンとしては先進性に満ちあふれたBMWの意欲作で、ノイエクラッセ(NEW CLASS)と呼ばれた。この1500に吸気系チューンを用意したのだが、優れたパフォーマンスとハイクオリティによって、カスタマーはもちろん自動車雑誌からも高い評価を得る。’64年、アルピナが手がけたBMWにメーカー車両保証が与えられるようになったことは、それを象徴する出来事だろう。お墨付きが与えられ、以降、アルピナはBMWと固い絆で結ばれる。

そして’65年、アルピナ・ブルカルト・ボーフェンジーペン合資会社を設立。従業員8人からのスタートだったが、’66年にBMWがマルニシリーズ最初のモデルとなる1600-2(のちの1602)を発表すると、このスポーティな2ドアモデルにも積極的にチューニングパーツを用意する。ノイエクラッセのイメージを受け継ぎつつ、ホイールベースを50mm短縮し、ひと回りコンパクトな2ドアボディをまとったマルニシリーズは、より軽快で優れた走行性能を実現し好評をもって迎えられたが、’68年にはさらなるハイパフォーマンス版として2リッター・エンジン搭載の2002を追加。ベースグレードにはシングルキャブレターが組み合わされ(101ps)、ツインキャブ仕様(120ps)の2002tiも設定。さらに’71年にはクーゲルフィッシャー製メカニカルインジェクションを備えた2002tii(130ps)が加わり、’73年に発表された2002ターボとともに高い人気を誇る。

さてマルニシリーズを手がけるようになると、アルピナはエンジンチューンにとどまらず足まわりや駆動系などのパーツも用意し、トータルにカスタマイズを施した完成車の注文にも対応する。年を追うごとにチューニングの内容も進化を続けるが、それと呼応するかのようにサーキットでも活躍。’69年には欧州ツーリングカー選手権(ETCC)にBMWアルピナ2002tiと1600tiが参戦。2002tiはポルシェ911やアルファロメオ1600GTA、そしてワークスの2002tiまでを抑えて優勝し、シーズンを通して快進撃を続けた。マルニシリーズだけでなく、この年のスパ・フランコルシャン24時間では2800CSを走らせ、モータースポーツの場でも準ワークス的な存在としてBMWの信頼を獲得。3.0CSをベースにETCCに参戦すべく用意されたホモロゲバージョン、3.0CSLの開発にもプロジェクトリーダーとして携わることになったのである。

この頃、BMWアルピナのステアリングを握ったのは、ニキ・ラウダ、デレク・ベル、ジェームス・ハント、ジャッキー・イクス、ハンス・スタックなどそうそうたるメンバーで、アルピナの輝かしいサーキットでの活躍に花を添えた。しかし、’70年代後半のオイルショックを契機にアルピナはモータースポーツから次第に距離をおいていく。そしてレースで磨き上げた技術力は、’78年発表のE21初代3シリーズベースのB6/2.8や、5/6シリーズ(E12/ E24)から生まれたB7ターボとして結実し、BMWをもとにした少量生産車を送り出すメーカーへと軸足を移していったのである。

公道で楽しむアルピナ・スペック

一方、私たちを待っていた2002は、目の前にすると明らかにサーキットで鎬を削っていた頃を思い起こさせるイメージでまとめられ、際立つオーラに圧倒されそうだ。’74年式、シングルキャブの2002をもとに仕立てたのは、BMWアルピナのヒストリックモデルを扱うCSガレージの平澤秀一代表。アルピナに対する愛情とともに造詣も深く、しかも幅広いコネクションを持ち、オリジナル車両のレストレーションから取材車のようなカスタムまでを任せられる、言わばアルピナのオーソリティだ。

平澤さんによれば、マルニシリーズがサーキットで活躍していた当時の姿をイメージしつつ、痛快な走りを楽しめる一方、街乗りも難なくこなせるフレキシビリティを併せ持ったロードゴーイングスポーツをコンセプトとしているという。気軽に乗り出せる速いマルニというわけだが、隅から隅までこだわりが詰まっている。まず、アルピナのレーシングマシーンに用いられたカラーのひとつ、インカオレンジにペイントされたボディは、アルピナ・スタイルのFRP製Gr.2オーバーフェンダーとフロントスポイラーを装着。マルニターボっぽいね、なんて思われるかもしれないが、リベット留めのオーバーフェンダーはボリュームがさらに印象的で、少し角張ったデザインには凄みも漂う。アルピナの2002というとワークススタイルのブリスターフェンダーが思い起こされるが、インパクトはこちらの方が上と感じた。ワイドなフロントスポイラーとのコンビネーションもゾクゾクするけれど、平澤さんもこのフェンダーには強い思い入れがあるそうだ。また、ボンネットフードとトランクリッドもFRPで製作。公道仕様ということでしっかり剛性を確保した表裏2枚構造を採り、フィニッシュも美しい。これに対し室内は後席が残されるなどレーシングライクなつくりからは一線を画すものの、”ALPINA”の刻印が入った当時のMOMO製ステアリングやエンブレムをあしらったシフトノブ、アルピナ・オリジナル3連メーターボックスなどが雰囲気を盛り上げる。

続いて足まわりは、ビルシュタインにオーダーしたスポーツショックとスプリングの組み合わせで、前後スタビライザーを装着。フロント4ポットキャリパー+2ピースベンチレーテッドローターで制動力も向上させたが、注目はアルピナ・クラシックスタイル・ホイールだろう。レースで使用されたマグネシウムホイールから型を取り、マルニと3.0CSLに合わせたサイズをアルミ素材で50セット製作したという! リムがシルバー、スポークがゴールドの3ピースだが、その後アルピナのトレードマークとなるフィンデザインに一脈通じるデザインがとても美しい。

真骨頂はエンジンチューン

そして見逃せないのがエンジンだ。ノイエクラッセに搭載されて世に出たのち、1573cc、1766cc、1990ccと排気量を拡大しバリエーションを拡大。そしてマルニシリーズにも搭載されたM10系直4ユニットの素性の良さは、アルピナの成功にも大きな影響を与えたに違いない。そのチューニングの歴史は1602のA0にはじまり、2002ベースではA1、A2、A2S、A3、A4、A4Sと幅広く用意された。燃料噴射は別として、ツインキャブレター装着という得意の手法のほか、吸気バルブの拡大、ヘッド研磨、カムシャフト交換などメカニカルチューンを施したわけだが、このクルマのエンジンは、φ94にボアアップし排気量を2300ccに拡大。そして292°のカムシャフト、ハイコンプピストン、吸排気のビッグバルブなどアルピナ仕様に準じたパーツを用い、ウェーバー45DCOEツインキャブレターを組み合わせることで200psを絞り出している。

そのフィールが素晴らしい。事前にスペックが頭に入っているから気を引き締めてシートに収まったものの、アイドリングは1000r.p.m.前後で安定していて、クラッチミートも拍子抜けするほどスムーズ。そしてひとたび走り出してしまえば、軽い車重、それにニューパーツを多用してリフレッシュしたミッションが至って扱いやすく、また2〜4速がクロースしたギア比も相まって、気むずかしさが微塵もない。

それなのに、なんと刺激的なのだろう。超絶美味しいのは4000r.p.m.以上とはいえ、的確なギアを選べば1500r.p.m.以下でもスロットルワークに敏感に反応。ほんの僅かなテアリング操作にノーズは間髪入れず向きを変え、走れば走るほど身も心もクルマにとけ込んで行くような錯覚に陥る。いい意味でクルマとのスキマを感じない。サーキットに持ち込んでも楽しいだろうけれど、公道で堪能し尽くせるところが、アルピナ・テイストだなと感心してしまった。

左にエアファンネル、右にクランクシャフトを配したアルピナのエンブレムは、’67年から使われている。それはキャブレター交換にはじまり、ビッグバルブやカム、クランクといったエンジンの精緻なメカニカルチューンから、アルピナの歴史が紐解かれたことを想起させる。図らずも素晴らしい2002に出会ったことで、その事実を再認識したわけだが、想像を超えた”クルマの魅力”を生み出すのは、ものづくりへの徹底したこだわりなのだと、B3 Sビターボの乗り味に身をゆだねつつ、帰路をゆくなかで反芻することにもなったのである。

当時は2002tiiのメカニカルインジェクションに対応するチューニングメニューも用意されていたが、セッティングに幅のあるキャブレターは楽しみがより奥深いとCSガレージの平澤秀一さん。ウェーバー45DCOEツインキャブのリンケージはワイヤーでなくロッド式を選び、ラグのないダイレクトなフィールを追求している。

ダッシュボードの助手席側に備わるのはボックス型3連メーターユニット(油温・油圧・電圧計)。ステアリングはMOMO製のアルピナ3本スポークタイプ。

1974年式のシングルキャブの2002をもとにモディファイを施したが、オールアルミラジエターなどワンオフ製作したパーツも数多く盛り込んでいる。当時のアルピナの美点、惹きつけられる雰囲気を再現しながら、見えない部分には最新の技術を投入し、現代の路上でも安心してその走りを堪能することができるクオリティにまとめ上げた。

アルピナのエンブレムを配した初期タイプのシフトノブは、いまでは貴重な当時のアルピナ・パーツ。

インカオレンジのボディカラー、少し角張ったリベット留めのワイドフェンダー、そしてオリジナルから型を取って製作したアルピナ・クラシックスタイル3ピースホイールが、アルピナのレーシングマシンを彷彿とさせる。

取材現場ではアルピナ・チューンが施されたオリジナルのマルニを目にすることができた。1976年式の2002tiiをベースに日本人が直接本国にオーダーをして我が国にもたらされたたった1台の『A4』とのこと。

このエンジン製作の様子は会社設立当時のもので、加工技術やチューニングのノウハウを日々高めていった。

ウェーバー・ツインキャブレターは最初にBMW1500に用意されたキットだ。

BMWアルピナB3 Sビターボは、3シリーズをベースに、最高出力440ps、最大トルク67.3kg-mを発揮する3.0リッター・ツインターボエンジンを搭載。少量生産にこだわってきたからこその、濃密なドライビングプレジャーを堪能できる。