TMB IMPRESSION

<インプレッション>
実際乗ったらどうなんですか?
TMBが選りすぐった“名車”を運転してみて感じたこと

BMW M3 & BMW M2

ここ30年ほどの自動車の劇的ともいえる進化の流れにあって、似通ったドライバビリティを成立させることは難しい。だがそれでも、メーカーはスタイリングやスペックの端々に往年のモデルに対するオマージュを巧みに含めて、マニアの心を奮い立たせる。マッシブに膨らんだBMW M2のボディが意味するところは当然、初代M3へと通じている。

TEXT / 吉田拓生 PHOTO / 田中秀宣
SPECIAL THANKS / オート・スクエアー・エノモト(http://www.ase-site.com),ビー・エム・ダブリュー(https://www.bmw.co.jp/ja/

ドライビングファンの到達点

横Gの希薄な異次元のような
コーナリングスピード

サーキットで純粋なスポーツドライビングに興じている時には、リアシートなどは全く無用の長物だ。リアのシート自体が悪いわけではないのだけれど、しかしリアタイヤのセンシングに少しでもダルな感触が混じると、間延びしたホイールベースがもたらすボディのねじれに眉を顰めたくなる。それでもなお我々が速いハコをスポーツカーと同格に据えてきたのは、大柄なボディに似合わぬスポーティなハンドリングのギャップに絆され、またモータースポーツのイメージが強く色褪せないことが理由として挙げられる。

近年のBMWのモデルラインナップを俯瞰して感じるのは、一生懸命に流行をなぞっているな、ということ。「これがBMWだ!」というモデルを自信をもって市場に投げるのではなく「こんなタイプもありますが、いかがですか?」とお伺いを立ててくるようなバリエーションの豊富さ。これは現代のドイツ・メーカー全般に言えることで、売れるクルマの方程式を彼らが定めてしまったことにより、自身の方向性にも独自の選択肢がなくなってしまったように感じられる。

2014年にお目見えした2シリーズのクーペ、M235iにファンが湧きたったのは、流行の後追いではなく、BMWが培ってきた遺伝子がそこに見え隠れしていたからだろう。2016年のデトロイトにお目見えした2シリーズ・クーペ最強のM2が登場したことでファナティックの興奮は最高潮に達することになる。グラマラスに盛り上げられたM2のフェンダーは、シャープなエッジこそ立ってはいなかったが、それを目の当たりにした者の脳裏に往年のモデルをイメージさせた。言わずもがな、E30型の初代M3だ。

原初のM3が大いなる尊敬を集めたのは、ツーリングカーレース・シーンにおける大活躍があってのことだろう。けれど今日、10万キロを軽く超えるような個体であっても、その人気が一向に陰らない背景には、件のレーシングヒストリーに加え、優れたスポーツサルーンとしての資質が備わっているからだと考えられる。

スポーツドライビングのレベルを高めるための素養は、エンジンパワーやリニアに反応するシャシーといった特定の要素だけに求めることはできない。1000馬力オーバーのスーパースポーツにドライビングファンを求めるのは酷だし、精巧なアシを持ったレーシングプロトであっても、競争もせず淡々と走らせたところでアドレナリンは湧き出ない。そしてまた、現代のGTレースで活躍しているBMWのベース車両であるM6クーペを駆って真剣に日本のワインディングを走らせたところで、多くのドライバーはそのサイズ感とスピードにヒヤヒヤするだけで、ドライビングによる充実感は一向に得られまい。ドライビングの高みを味わうために重要なのはドライバーとクルマの距離感が何より大事で、そのためにはボディサイズがエンジンパワー以上に重要となる。

もし初代M3に憧れを抱かないM2オーナーがいたとしても、抑揚豊かなコンパクトボディを持ったこのクルマをワインディングに持ち込まないという選択肢はないだろう。実際のところ、M2の登場をもってしても我々はそこまで強く興味をそそられなかった。だが昨年6速マニュアルシフトの仕様が追加導入されたことでいよいよ偉大なるスポーツサルーンカーの遺伝子をチェックしたくなったというわけだ。

遺伝子を継承していると思しき両者だが、実際にキドニーグリルを突き合わせてみると、そのサイズ感はまるで別物である。そこでE30の存在感が薄れてはいけないと配慮した1枚が、2台絡みの写真であり、遠近法にごまかされてはいけない。E30のボディは実際にはM2よりも完全にひと回りは小さく、特に車幅に関しては17.5センチも狭いのである。ちなみに標準モデルからの拡幅は、2シリーズ・クーペ比でM2が8センチアップであるのに対し、E30は3.5センチに留まる。それでもM3のブリスターフェンダーがランチア・デルタHFと人気を二分するほどのアイコンとして今なお輝きを失わない理由は、ボディサイドのキャラクターラインに沿って、はっきりとエッジが立てられ、車幅いっぱいまで膨らんでいるからだ。というのは表面的な理由であり、実のところフェンダーの形状はこのクルマの出自に強く関係している。つまりレースのレギュレーションである。

規則が許す最大サイズのタイヤを、ボディの外側まで目一杯張り出させることがモーターレーシングの常套手段。さらにレギュレーションを厳密に理解するならば、車高を落とした際にタイヤのショルダーがインナーフェンダーに触れることすら許されない(実際にはステアリングを切ると当然のように当たっていたが)。このためノーマルのE30と比べた場合の初代M3の拡幅は、ロードモデルのスペック上では3.5センチだが、スリックタイヤを装着しそこに目一杯のネガティブキャンバーを付けた時のグループAマシーンのタイヤ外側の下縁で計った場合の寸法アップは片側で10センチを軽く超えるほどになる。

このようなグループA仕様の伝説は枚挙に暇がないほどであり、それらが初代M3を孤高の存在に押し上げているわけだが、ことロードモデルを評価する場合には少し冷静になる必要があるだろう。ロードモデルのM3は伝説のスピードを直に体感できるほどのスペックは持ち合わせてはいないというのが定説となっているからである。

M2の発想の原点とその到達点は
思いのほか初代M3のそれに近い

ショートサーキットで行われた今回の撮影で、僕がM2ばかりドライブしていたのは、流すようなペースで走った時の初代M3の素直なドライブフィールが、素のE30と大差ないことを理解しているからだ。ノーマル3シリーズのボディシェルに大改造を加えることで成立している初代M3の本当のポテンシャルに触れたければ、レーシング直系のS14エンジンをリミット過ぎまでブチ回して容赦なく挑む必要があるのだが、今回のオーナー車でそれを試すのは大いに気が引ける。エンジンをリミットまで回し続けていないからこそ多くのファナティックによる初代M3評は伝説ほどには芳しくないのである。

’90年代の終わり頃、気っ風がいいオーナーが僕にしばらくの間初代M3を貸してくれたことがあった。当時は走りたい盛りの年頃であり、毎日のように首都高中央環状線を熱心に走り回った。借り出した当初は当然のように落胆を感じた。エンジンパワーが倍くらい欲しいと切に願った。それくらいシャシー優勢な乗り物に感じられたのである。ステアリングをどれだけ切ってもハナが入るし、コーナーの中ほどでフェイントのような真似をしてもリア外輪のスキール音がキッと聞こえるのが関の山で、なかなか「自分が操っている!」と実感できる領域には踏み込めなかった。ところがいよいよエンジン回転をリミットまできちんと回して走るようになると、無口なカタブツが態度を和らげ、スロットルの言うことを聞いて鼻先を揺らし、ミリ単位の姿勢制御が成功した時のみ、横Gの希薄な、しかし異次元のようなコーナリングスピードに達することがわかった。

初代M3が搭載するパワーユニットはBMWモータースポーツがM1のために開発したストレート6、M88の2気筒を切り落としたものである事実は有名だ。ロードモデルの最高出力は195psであり、ファンもそれを頑なに信じているのだけれど、しかしディチューンされているとはいえ、高出力の自然吸気ユニットのパワーカーブは鋭く尖っていることも忘れてはならない。ロードチューンのS14ユニットが頂点に達するのは6750r.p.m.付近のほんの一瞬であることを今一度理解すべきなのだと思う。車重1.2トンのクルマにとって195psは十分に刺激的だが、しかしエンジンのスイートスポットを探りながらハイペースを維持する作業は容易ではないのである。

一方、今回初めて触れたマニュアルシフトのM2は、ピットアウトの瞬間から刺激に満ちたマシンであることを隠そうとしなかった。ターボ過給でパワーをドンと立ち上げてリアを空転させ、それをDSCで瞬時に抑え込む一発芸は、ドスの効いた脅しのようだ。そしてアウトラップですでに3リッター直6ターボが発する370psが、拡幅された2シリーズ・クーペのシャシーにどう作用するのかも容易に理解できた。だからM2は流して走った時でもドライバーを落胆させることがない。

以前ドライブしたノーマルフェンダーのM235iと比べても明らかにフロントのワイドトレッドがハンドリングをシャープに躾けていることがわかるし、入力に対するアシの動きやロールも適正だ。タイトコーナーの立ち上がりだけ右足の動きを繊細にするだけで、あとは狙ったラインをリラックスしたままトレースできる。スポーツサルーンとしてはまさに一級。いつもは「太すぎないか?」と懐疑的なステアリングも、ハイスピード域におけるグリップの感知に有効である。

これで願わくば、ストレート6エンジンが高回転で吠えてくれれば言うことなしだが、回れば回るほど芯が定まっていくような過日のBMWビッグシックスの気持よさはそこには全く存在しない。5500r.p.m.以上はサーキットでギア比を合わせるための余白のような感じに思えた。

M2の優れたドライバビリティを手短に「初代M3の遺伝子」と結論づけてしまうことは強引だろう。レーシングの必要に迫られて磨き上げられ、それが思いもかけず唯一無二のテイストへと昇華した初代M3に対し、M2は偉大る先達の臭いを作為的に焚きつけた作品に過 ぎないのである。とはいえアイコニックなブリスターフェンダーを纏った初代M3が誕生していなければ、M2がここまでマッチョなボディスーツを纏って世に出ることもなかっただろう。そして実際にM2は、初代M3ほどクルマが身を削ることも、乗り手が精神をすり減らすこともなく、多くのファンにレベルの高いFRスポーツセダンのドライビングファンを提供してくれる存在なのだ。辿った経路はまるで違っても、M2の発想の原点とその到達点は思いのほか初代M3のそれに近いと言えるのである。

BMW M3
1985年の衝撃

グループAツーリングカーレースにおけるディビジョン2の絶対王者としてBMWの人気を底上げしたE30型M3。その攻撃的なスタイリングに加飾は一切なく、空力特性を変えるためにCピラー以降の形状を大きく変え、スリックタイヤのためにフェンダーを膨らませ、ボディ剛性を高めるためにウインドーを接着としている。そのロードモデルはデビューから30年が経過した現在でも高い人気を誇る。
ロードカーの装備がそのままポテンシャルの違いとなって現れるグループA規定に照らし合わせて作られた初代M3はエアロ、パワートレーンとも限界域のスピードでその効果を発揮する。
4連スロットルを持つS14ユニットはE36型3シリーズのレースカーにも採用された。
熱ですっかりシリンダーヘッドカバーの塗装が剥げたS14が勇ましいE30のエンジンルーム。タワーバーは非オリジナル。
室内は径の大きなステアリングがドイツ車らしく、硬めの布シートも車格に合っている。

BMW M2
そのサイズ感も”DNA”

歴代のM3が大型化の一途をたどったことでボディサイズの小さなMの誕生を願う声が高まり、2016年ついにM2が登場する。ダウンサイジング全盛の現代にあって敢えて3リッター直6エンジンをチョイスしたあたりに、完成度の高いロードモデルを作り上げようというメーカーの狙いが透けて見える。7速のM DCTギアボックスに加え自動ブリッパー付き6速M/Tも用意されており、上々のフィーリングを誇る。
ハイペースでサーキットを周回する際のストレスは驚くほど少なくて済むが、限界域までプッシュすると足まわりが若干柔らかく、特にブレーキングで適度なフロントの車高を維持することが難しい。トレッドの拡幅でホイールベースが短くなっているため、テールが横に滑り出した時のスピードは速い。
370psというパワーに合わせ、専用ブレーキや電制のデフ、前245、後265という極太のタイヤが備わるが、ドライブフィールはバランスしている。
直6ターボはトルクも分厚く扱いやすいが、高回転側の刺激に欠ける。重量増によるハンドリングへの悪影響は微細。
ダッシュパネルの立ち上がりに対し若干低い着座位置だが、クラッチやシフトレバーとの関連性は悪く無い。