TMB IMPRESSION

<インプレッション>
実際乗ったらどうなんですか?
TMBが選りすぐった“名車”を運転してみて感じたこと

ALFA ROMEO 156GTA& 147GTA & 166

アルファロメオが日本でメジャーなブランドと認知されたのは、1997年に発表された156がきっかけだったのではないだろうか。その後デビューした147で、その地位を確実なものとし、日本におけるイタリア車のイメージをガラリと変える出来事となった。

TEXT / 嶋田智之 PHOTO / 内藤敬仁
SPECIAL THANKS / コレツィオーネ(http://www.collezione.co.jp

マイナーからメジャーへ昇格したあの頃

くっそー、やっぱ気持ちいいじゃん! と口走った。いや、汚い言葉を使うようだが、この場合の「くっそー」は最上級の感嘆符のようなもの。英語圏の人なら「Amazing!」だとか「Awesome!」と叫ぶところだ。僕は久々に味わうその感覚に、手放しで酔っていたのである。

最初はゴロゴロと眠そうな声で唸っていたのに、気づけばロロロとリズムを刻み始め、次第にルルルが重なってハーモニーを描く連続音になり、ついにはクォォという1本の旋律へと昇華する。変化していく音のシャワーを全身で浴び、弾ける音の一粒一粒に陶酔させられ、背筋が痺れて肌が粟立って抗えなくなる。何か言葉を発しでもしないと取り込まれちゃうんじゃないか? という気にすらなってくる。だからこその「くっそー」だったのだ。

ギアを切り替えるたびに、スピードは素早くメキメキと伸びていく。やばそうな領域に簡単に突入していく。そして右足に込めた力を抜かなければならなくなるのが、物凄い損失であるかのように感じられる。いや、スピードを削り取らなければならないなんていうのは些末な話だ。その美しい音色の張り詰めていく様子に一区切りをつけて、単調な音階の世界へと後戻りしなければならないのが堪らなく惜しい。まぁ単調でも構わないのだけどね。ハミングだって美しく、柔らかくて心地好いのだから。

そう。快感を与えてくれるエンジンというのは世の中に幾つもあるが、僕達の手が届く範囲でということになると、かなり限られてくる。その中のベストであり、手が届かない領域まで含めてのランキングでも相当な上位に喰らい込むと僕が感じてるのが、このエンジンなのだ。通称『アルファV6』、あるいは『ブッソV6』。稀代の名エンジニア、ジュゼッペ・ブッソが1970年代に設計した名機を源流にする、アルファロメオの歴史的なV6ユニットである。

21世紀に突入して20年ほどが経ち、ふとミレニアムに騒いでいた頃のことを思い出すと、最初に浮かんでくるのが実はそのV6エンジンのことだったりする。というのも、西暦2000年前後というのはアルファロメオがひとつの黄金期といえる時代にあった頃で、それにはアルファV6ともうひとつのツインスパークという”官能エンジン”が大きな貢献を果たしていたからだ。アルファV6は初登場が1979年と歴史が古く、当初は2.5リッターSOHCの158psからスタートしたが、最終進化形といえる3.2リッターDOHCの250psが2002年に登場して初めて走らせたときの衝撃が記憶にこびりついてることも、連想につながる。

タイミング的にアルファV6がまさに完熟の時代を迎えていて、あの頃に魂を奪われたクルマ好きは少なくなかったのだ。白状するなら僕も間違いなくそのひとりで、2007年に生産中止が決まることなど知りもせず、いつかはこのV6を積んだアルファを手に入れたい、と朧気ながらも考えていたものだった。

アルファ156の最高峰モデルとなる、156GTA。セダンとスポーツワゴンに用意された。

もともとアルファロメオは、日本では”ド”がつくぐらいのマニアのための乗り物だった。それをまがりなりにも一般に広めたのは、1992年から1998年にかけて販売されたミドル・クラスのサルーン『155』と、その後継車であり1997 年から2008 年にかけて生産された『156』だった。とりわけ156はミドル・クラスのセダンにしては異例といえるほどの華やかで美しいスタイリングが最初の大きな説得力になって、クルマにそれほど詳しくない人達にまで存在が知られるようになったほどだった。M/Tが苦手な人でもドライブしやすい2ペダルのロボタイズドM/T、『セレスピード』も設定され、家族のクルマとして使えたことも大きかった。

高まったアルファ人気を下地にして、マニアでも何でもない人にまで売れたのが、プレミアム・コンパクトカーの先駆け的存在といえる147だった。2000年から2010年にかけて作られた実用ハッチともいえるモデルだが、イタリアン・デザインならではの絶妙な抑揚があるフォルムとクセのない表情は好感度が高く、さらには156以上にセレスピードの存在が効いて、クルマ好きだけでなくお洒落に関心の高い女性達の間でも人気となった。

少しマニアックな存在だったともいえるが、1996年から2006年まで販売された斬新なスタイリングを持つクーペ、GTV。そしてそのオープン版である3代目スパイダー。それらはスポーツカーであるし2ペダルの設定がなかったこともあって台数的な伸びには限界はあったが、根強い人気となり、非マニアだった人をこちら側に誘う役割を果たしたりもした。

またスタイリング重視で実用性の面では不利だったGTVと並行して、大人4人がそれなりに乗れて荷物もしっかり積み込めるハッチゲート付きのクーペ、『GT』もラインナップされた。2003年から2010年にかけて作られ、こちらは大人な感覚を持つ人達に穏やかに歓迎されていた。さらにはフラッグシップ・サルーンとして1998年から2007年まで販売された、166。大柄なサルーンにしては低く薄くデザイン・コンシャスなスタイリングが与えられ、感度の高い人には歓迎されたが、あまりにも個性的すぎたこととアルファロメオにしてはかなり高額だったこともあって、販売面で成功したとは言い難かった。

2000年代前半、アルファロメオはこうした豊かな布陣を日本国内にも敷いていた。昔ながらの生粋のアルフィスタ達も「薄味だけどねー」なんて──不思議とアルファロメオはいつの時代もそうなのけど──クチにしながら、とっておきの古いアルファと並行して156や147に乗るケースも多かったし、逆に華やかさや独特の美意識に惹かれて別のブランドから入ってくる人も多かった。マニアだけが大切にしていたブランドから名前の知られた少しメジャーなブランドに自然と変貌していったのも、この時代だったと記憶している。

それらプロダクション・モデルに積まれていたのが、アルファV6であり、直列4気筒DOHCのツインスパークだった。そしてこのふたつのパワーユニットは、ドライバーに常に快い刺激を与え続ける性格を全く隠そうとすることがなかった。冒頭ではアルファV6について触れているけれど、直列4気筒のツインスパークもなかなかのもので、回せば回すほどリズミカルな快音を放ち、全てを振り絞りながらクルマを加速させていくようなフィーリングは、他のエンジンでは味わえない類の気持ちいいものだった。それが当たり前のようにセダンや2ボックスカーに積まれていることが、にわかには信じられなかったほどに。

147の3ドアに用意された147GTA。3.2リッターV6をインストールした、まさにホットハッチである。

156には2.5&3.2リッターのV6、2リッターのツインスパーク。147 には3.2リッターのV6と、1.6&2リッターのツインスパーク。GTVとスパイダーには3&3.2リッターのV6と2リッターのツインスパーク。GTVのみ一部2リッターV6ターボ。GTには3.2リッターのV6。166には2.5&3リッターのV6。

こうして連ねるとエンジンのラインナップが豊富だったことにもあらためて驚かされるが、同時にV6同士でもツインスパーク同士でも排気量ごと、一部はモデルごとにチューニングが違って個性的だったことを思い出し、郷愁に近い気持ちにもなる。当時は今と違い、それなりに自由度を持ってエンジン開発をすることが許されていた時代だったのだ。効率やエコを重視することが社会的にもよしとされる現在。乗り手を喜ばせるためにテイストにこだわった、最後の時代といえるあの頃。どちらが”正”でどちらが”誤”なのかを決めつけることはできないけれど、僕は時代としてはあの当時の方が好きだ、ということだけはいえる。

今回の撮影では残念ながらツインスパーク搭載車は不在だったが、3台のアルファV6搭載車を走らせることができた。3.2リッターで250psの最終進化形を積む156GTAと147GTA、そしてやや穏やかな3リッター225psの166だ。それぞれの誕生年には僅かしか開きがないのに、並べてみるとスタイリング・デザインもほとんどバラバラ。かの時代はブランドとしての統一性よりもモデルとしてのキャラクターにこだわっていたのだな、と感じて何だか嬉しくなる。

乗り味はパワーやボディタイプ、ミッションの違いによってもちろん微妙に異なるのだけど、アルファV6が持つ本質的な気持ちよさや楽しさは、見事に共通している。冒頭では言葉足らずながら感じたことを書き散らかしているけれど、それは紛れもなく僕の本心。そして気が多いようだけど、どのモデルに乗っても”コレだよコレ!”と膝を叩きたくなる。40km/hで走っていても、クルマと情を交わしているような気分。たっぷりと濃厚で、それだからして全く別のクルマに乗り換えると、ちょっと物足りなさを感じることもあるくらいだ。

166の日本仕様は2.5リッターと3リッターのV6を設定。後期モデルで156、147GTAと同じ3.2リッターとなった。

今のアルファロメオのラインナップにあるジュリアも、現代のクルマとしては相当にいい線をいってると思う。クアドリフォリオはとりわけ素晴らしい。それに対して優劣でいうなら様々な部分がハッキリと劣る古くさいV6搭載モデルが唯一勝てる点があるとしたら、その濃厚さに他ならない。たったひとつだが、大きなひとつ、である。

いずれは電気とモーターで走るクルマがメインとなっていく時代が来るのかも知れない。モーターで走るクルマにも特有の楽しさがあるし、悪くないと僕は思ってる。もしかしたら所有することだってあるかも知れない。でも、僕はそれと並行して、こうした濃厚さや明確な息吹を持つ内燃機関のクルマを、ずっと傍らに置きたいとも思っている。……そうだ、自分の166、直さなきゃ!

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