TMB IMPRESSION

<インプレッション>
実際乗ったらどうなんですか?
TMBが選りすぐった“名車”を運転してみて感じたこと

ALFA ROMEO GIULIETTA SPRINT

ヒストリックカーの楽しみ方の一つとして、憧れたクルマを自分好みのレースカーに仕上げ、サーキットを疾走ることを目標とする人も多い。例えそれが、もったいない! と思われるクルマでもだ。

TEXT / 山田弘樹 PHOTO / 内藤敬仁
SPECIAL THANKS / スクーデリアオールドタイマー(http://www.s-oldtimer.com/

ヒストリック・レーサーで疾走る愉しみ

ヒストリック・アルファロメオといえばボクにとっては「ジュリア」が何より憧れの存在で、正直ジュリエッタと言われてもピンと来るのはせいぜい“SZ”や“スパイダー”と言った役付き有名モデルが関の山だった。

ミラノの紋章を戴いた盾型のグリルこそ威厳があるけれど、1900シリーズの流れをくむフランコ・スカリオーネのデザインはいささか古くさいし、やっぱりジウジアーロはクルマの、いやアルファロメオのデザインを一気にモダン化した天才だよなぁ! と、若い頃は思っていた。いや、当時はこんな風に分析できなかったけれど。

そしてそんな青二才の自分に、ジュリエッタのすごさを教えてくれたのが、何を隠そう今回このジュリエッタ・スプリント・レーサーを作った「スクーデリア・オールドタイマー」の手塚雅一さんだった。当時ボクは自分が持っていたGT1300Jr.を速くすることに夢中で、新進気鋭のヒストリックカーチューナーだったオールドタイマーにことあるごとに出入りして、色々なことを教わった。なんせ97年当時で、ジュリアに車高調サスを組み込んでしまうショップなんて、こことガレージGOTOくらいなものだったのだ。

そんな手塚さんがジュリエッタ・スプリントのサスペンションを見ながら話してくれたことは、今でも覚えている。その足まわりはジュリアと違って、要所要所にピロボールが使われていること。そこにいちいちグリスをさす必要があって、手が掛かるけれど性能が高いこと。この時代から量産車にダブルウィッシュボーンを採用し、フロントスプリングは路面からの入力を受け止めるべくロワアームのハブ側付け根から対角線上に配置されていること。ダンパーもその同軸上にあり、スプリングの伸縮軌跡をジャマしないこと。

このほかにもアルファ75まで続くツインカムなど、とにかく60年代においてはまんまレーシングテクノロジーと呼べる内容がジュリエッタにはふんだんに盛り込まれていて、量産車としては考えられないくらいお金が掛かった造りをしていた。そこには戦前、アルファがまだ超高級車メーカーだった頃の香りが残っていた。だからジュリアなどはむしろその反省から、大幅にコストダウンを強いたクルマだったのだ。

そんなジュリエッタ・スプリントを、惜しげもなくレーサーにしてしまうのだからオールドタイマーにはいつもながら呆れる。そしてこれを問い質しても、決まって言うのは「だってやっぱり、レーシングが一番カッコいいだろ!?」なのだ。ジュリエッタなんてこのご時世、投機対象でもあるだろうに。

一番の目玉は、オールドタイマーが手塩にかけたフルチューンエンジンだ。これはオリジナルの1.6リッターではなく、2000GTV用の2.0リッターユニットがベースとなっている。ビッグバルブ用ポートチューンを施したヘッドには高角度カム(暫定仕様)が組み込まれ、腰下にはOS技研製のハイコンプピストン、純正流用の偏芯コンロッド、ダイナミックバランスを取ったクランク。更には点火タイミングをチェーンではなく、ギアトレーンで取って、そこに正確性を与えている。

そしてもうひとつ。今この2.0リッターエンジンでオールドタイマーは、一つの実験を試みている。それは点火プラグ位置の最適化。GTAやGTAmのようなツインプラグでも狭角ヘッドでもない通常の80度ヘッドで、半円球の燃焼室とおにぎり型ピストンが作り出す圧縮混合気を、デトネーションを起こさず燃やす工夫を重ねているのだという。

実際これ以外は内外装のストリップダウンを行っただけ。足まわりなどはダウンサスにコニのクラシックダンパー。タイヤはダンロップCR65と、詳しいレギュレーションはわからないが、そのまま「サイドウェイ・トロフィー」に出て走れてしまいそうな、とても素朴な仕様となっていた。というよりとにかく広角ヘッドで最大の問題となる、点火系チューニングをテストしたくて、他に手を付けている時間がなかったというのが本音なのだろう。

だがそれが、かえってジュリエッタ・スプリントらしいクラシカルな味わいを引き立てていた。ソフトな足まわりは現代のタイヤに比べ剛性が低いCR65をいきなり潰すようなことはなく、実にゆっくりと荷重を掛けてくれる。だから基本何をやっても滑るのだけれど滑り出しが穏やかで、ブレーキングさえ気をつければ、余裕を持ってこれをコントロールすることができるのだ。そして慣れていくほどに、ジュリエッタとの対話ができるようになる。

エンジンはGTVの2.0リッター・アルファツインカムをベースにハイカムなどで武装して搭載。シリンダーヘッドはビッグバルブ用のポートチューンを施したもの。

エンジンはきっとまだ本調子ではなく、オールドタイマー製ユニットとしては、高回転域で弾ける感じがもの足りなかった。とはいえ2000㏄のトルクがあるからサーキット走行に退屈するようなことはまるでなく、むしろ柔軟なアクセル追従性をもってその挙動に対応する手助けとなった。

ウォーム・アンド・ローラー式のステアリングはタッチも曖昧。それに細身のステアリングが拍車を掛ける。しかし全ての動きを予測しながら、低い限界を目一杯使って最大限に速く走ろうとする行為は知的かつ野蛮なパズル遊びのようで「次はどのくらいまで攻められるかな……」なんて考えながら走ると、いつまでも飽きないのであった。

ちなみにそのタイムは1分26秒中盤と、ボヨンボヨンの足まわりとしてはなかなかのタイム。そしてφ48DCOEのウェーバーをセッティングし出すとさらにエンジンは高回転でパンチが出るようになり、手塚さんの走りで最終的に2秒縮んだというから、24秒くらいは出せるのかもしれない。ならばここから足まわりを固めれば……いやいや、CR65の剛性レベルを超えても意味はないわけで、ダンパーでロールスピードを早めるくらいがちょうどいいのだろう、22秒くらいは狙えるのだろうか?

いまやヒストリックカーは世界的に貴重な……いや、残念ながら完全な投機対象となってしまっている。けれどこうした純粋なレーサーを走らせると、そんなことがまるでウソのように本来のピュアな姿を取り戻すことができる。だからボクは思う。本来の魅力を失ってまで得る価値なんていらない。本当に欲しい人にヒストリックカーが手に入る世の中が、もう一度くればいいと。

リアウインドウにはエアアウトレット用のベンチレーターが備わる。
キレイに仕上げられたホイール。装着タイヤはダンロップCR65。
勇ましいエキゾーストノートを奏でるマフラー。排気系統はタコ足から中間パイプ、エンドまでワンオフにて製作。
走るために必要な装備以外を省き、各スイッチ類を整然と配置しただけのシンプルなコクピットは非常にコンペティティブな雰囲気。
メーターパネルの中央には10000r.p.m.まで刻まれたレヴカウンターが正位置で備わり、右は上が油圧計で下が水温計、左は油温計といったレイアウトを取る。
フットレストなどの足元はスチールプレートで武装。ブレーキ&クラッチペダルはOMP製を奢る。
6点式のロールケージが張り巡らされた室内。シートはレカロ製のフルバケット、ハーネスはサベルト製の4点式に換装されている。

PROFILE/山田弘樹

ティーポ出身のレースが大好きな武闘派ジャーナリスト。愛車はAE86と、暫く動くところを見ていないジュリアGTA。

オススメ! ヒストリックレース・ベース車

いくら何でも、いきなりアルファロメオ・ジュリエッタというのはハードルが高すぎる! そんな嘆きが聞こえてきそう。そこでここでは、比較的タマ数が多く、入手後手を入れやすいヒストリックカーを紹介しよう。

AUSTIN MINI COOPER
値が上がってきているとはいえヒストリックカーの中では比較的安価でタマ数も多く、手を入れた分だけ速くなるからイジリ甲斐がある。

ALFA ROMEO GIULIA SUPER
アルファであれば、200万円台からとジュリエッタよりもグッと安く、またクーペのパーツが使え、さらに希少性のあるスーパーがおススメ。

MGB
100万円台から探せるMGBは、そこそこタマ数があり、軽くてトルクフルと扱いやすい。さらにチューニングパーツも膨大に揃っている。

LOTUS ELAN
値段は上がるけどやはりロータスは外せないということでエランをチョイス。ほとんど手を入れなくても楽しめる素性の良さが魅力。