TMB IMPRESSION

<インプレッション>
実際乗ったらどうなんですか?
TMBが選りすぐった“名車”を運転してみて感じたこと

CITROËN DS 19

1955年のパリ・サロンに登場するやいなや、その先進的なデザインとメカニズムで会場の話題を一気さらったDS。瞬く間にバックオーダーを抱えるほどの人気を博したという。半世紀を超えて、その伝説に今一度触れてみる。

TEXT / 森口将之 PHOTO / 内藤敬仁
SPECIAL THANKS / LES MAINS S.P.R.L.(http://les-mains.sakura.ne.jp

60年たっても色あせない、
高貴なる気品

取材などでこれまで20回ぐらい、クラシックDS(IDを含む)に乗ってきただろうか。しかし今回の1台は、その経験の中でもいろいろな部分が特別だった。

まずは写真で見てお分かりのとおり、塗装がツヤ消しだった。このような見た目になった経緯は分からないけれど、名古屋駅前のモダンなビル群に囲まれてたたずむ姿は一種独特だった。

でも違和感は抱かなかった。近年採用例が増えつつあるマットカラーを、DSは見事に着こなしていた。石や粘土で作った芸術作品のようにも見えた。DSのデザインの魅力は、塗装のツヤ程度ぐらいで変わるものではないことを教えられた。

むしろマットカラーなので、朝日に照らされたフェンダーのラインなどがくっきり映し出される。エレガントなプロポーションをより魅惑的に見せてくれる。DSをフランス語で読むと女神を意味する音に重なる。きらびやかなドレスではない、普段着でお忍び姿の女神。そんなストーリーを作り出したくなるシーンだった。

しかも今回のDSは自分にとってはひさびさの2つ目である。1965年式で、フォグランプやサイドモールを追加しているので、この年登場した上級グレードのパラスだろう。

個性では内側が操舵に合わせて向きを変える4つ目のほうが上かもしれないが、追加されたフォグランプを含めて1950~60年代のスポーツカーのような顔立ちで、DSがあの頃のクルマであることを濃厚に感じさせてくれるたたずまいがいい。

DSはもともとこちらの顔がオリジナルだ。4つ目を見慣れているだけに、ひさびさの対面で最初は新鮮な印象を抱いたが、眺めていくうちにキャビンの造形との釣り合いがとれていることも分かってきた。

インテリアも見慣れたDSのそれとは少し違う。クラシックDSのインパネは3世代あって、フラットなパネルに丸いメーターを並べた後期型をもっともよく見かけると思うけれど、今回の車両はひとつ前のスタイル。

アーチを描くパネルに横長のメーターを置いていて、小さなスイッチの形からも、旧き佳き時代の面影が伝わってくる。細くて大径のリムを持つステアリングがしっくり溶け込んでいる。味わいという点ではこちらのほうが上ではないだろうか。

パラスに設定されていたレザーシートは極上のふっかり感。フロアカーペットまでフカフカなのはクラシックDSならではの世界だ。試乗車は4速M/Tを油圧でコントロールするハイドローリック・トランスミッションだったので、エンジン始動もまた独特の作法になる。

キーを捻ったあと、ステアリングの向こう側に斜めに生えるシフトレバーを左側に押してスターターを回す。車高が上がったら同じレバーを奥に押して1速、手前に引いてニュートラルを通過して2速、そこから右に倒して3速、4速という順番だ。

ちなみにリバースは1速のすぐ右。よって縦列駐車などでの前後の微調整がしやすい。そういえばインパネから生えた2CVのシフトレバーも、僕が現在乗っているC4カクタスのボタン式セレクターも、ローとリバースのポジションが隣り合っているので切り替えが楽だ。

フランスの街はパリを筆頭に、路上駐車をギチギチに詰め、前後のバンパーをぶつけながら出入りすることで有名だ。DSのハイドローリック・トランスミッションならそんなシーンもスムーズにやってのけることができそうだ。パリ生まれのシトロエンらしい考えと言えるかもしれない。

今回の取材車はエンジンもまた、僕のDS体験では希少だった。DSのエンジンは1966年に直列4気筒OHVのまま、ショートストローク5ベアリングの新設計に切り替わっており、DS19は1911ccから1985ccに拡大。同時に2175ccのDS21が登場した。つまりトラクシオン・アヴァンから受け継いだロングストローク3ベアリングのユニットを積んでいることになる。

100ps以上を楽に出していたDS21と比べると、こちらは80psそこそこしかない。となると力不足が気になるところだが、車両重量が後期のモデルより軽いこともあって、トランスミッションを的確に操ってあげれば、予想以上に軽快に名古屋の街を走って行くことができた。高速道路に出れば排気量が大きくショートストロークのDS21が優位になるだろうが、街中なら差は少ないと感じた。ボタンを踏むようなブレーキも扱いやすかった。

一方の乗り心地は、後期型とはちょっと違う印象を抱いた。もちろん車両の個体差やタイヤなどの違いもあるかもしれないけれど、ふんわりした心地良い揺れの中に骨っぽさが伝わる、ちょっと2CVを連想させるような乗り味だったのだ。若さ、軽さを感じるフィーリングだった。

年式や車両重量だけでなく、油圧システムに使うオイルの違いが差を生んでいるのかもしれない。DSは当初、LHSという赤色の植物性オイルを使っていたが、取材車と同じ1965年に無色のLHS2に切り替わり、2年後には信頼性の観点から、その後のGSやCX、BXなどにも使われた緑色でおなじみの鉱物性LHMにスイッチしたからだ。

同じ油圧でアシストされるステアリングも、感触は後期型よりさらに繊細であり、愛でるように優しく扱いたくなる。身のこなしは大柄なボディを感じさせないほど軽快。希少な2つ目DSということでプレッシャーもあるけれど、一方で軽やかな気分にもさせてくれる。

日本では4つ目のほうが人気が高いというが、今回ひさしぶりに2つ目に乗って、シンプルでありながらエレガンスを感じるデザイン、若さや軽さが伝わってくる走り味など、世代の違いを感じることができた。クラシックDSの奥深さをあらためて教えてくれた1台でもあった。それをピカピカに磨き上げず、マットカラーで乗る。これもまた粋な付き合い方ではないかと思うようになった。

塗装は艶もなく小傷も多い。直したいところであるが、乗っているうちに、これはこのままで乗り続けるのが正解のような気になるから不思議だ。
当時の純正スチールキャップ。後期になるとアロイホイールも用意された。シンプルなデザインがよく似合う。
ウインカーランプは矢頭のような形状でCピラー上に備わる。
クロームのパーツを隔てて、テールランプとリフレクターが並んでいる。
エンジンが車体中央寄りに置かれているのが分かるカット。エンジンルーム前方にはスペアタイヤが備わる。
シトロエンのサスペンションシステム、ハイドロを司るアキュムレーター。この時代は植物油のLHS2を使用していた。
大きく細身のステアリング、整然と並べられたスイッチ類、取っ手の付いた物入れ。旧き佳き時代を思い起こさせるディテールだ。
横長の指針式メーターを採用。その手前にあるスティックがシフトレバー。
シートはフッカフカ、おまけにカーペットもフッカフカ。それはもう、雲の上にいるような気分。
リアシートは応接室にあるソファのような設え。一度味わったら忘れられない極上の乗り心地。
ピラーに備わる吊り革は文字通り本革製で洒落た造り。クロームで縁取られた小さなルームランプが何ともエレガントな雰囲気を醸し出す。

多彩なバリエーションを誇るDS

クラシックDSの最初の車種であるDS19は、1955年のパリ・サロンで発表された。その後1957年(以下モデルイヤーで記載)に廉価版のID19、2年後にパーテーションを備えたDSプレステージュと、ブレークやファミリアールなど4タイプがあったIDのワゴン、61年にオープンのデカポタブルと、次々に車種追加を行っていく。一方で62年にはフロントバンパーとインパネを一新。今回の取材車でもある上級グレードのパラスが加わった65年にはLHSがLHS2に切り替わり、次の年には新エンジンの投入とDS21の追加、67年にはLHM採用など、60年代はメカニズムの改良が目立った。そして68年に顔が2つ目から4つ目に変わっている。

SPECIFICATION
CITROËN DS 19
全長×全幅×全高:4838×1790×1470mm
ホイールベース:3125mm
トレッド(F/R):1500/1300mm
車両重量:1215kg
エンジン形式:直列4気筒OHV

総排気量:1911cc
最高出力:75ps/4500r.p.m.
最大トルク:13.5kg-m/3000r.p.m.
サスペンション(F/R):ハーフウィッシュボーン/トレーリングアーム
ブレーキ(F/R):ディスク/ドラム
タイヤ(R&F):165-400

PROFILE/森口将之

自動車評論家ではあるけれど、クルマだけでなくバイク、そして自動運転や交通インフラなど、乗り物に関わること全てに造詣が深い。