TMB IMPRESSION

<インプレッション>
実際乗ったらどうなんですか?
TMBが選りすぐった“名車”を運転してみて感じたこと

ABARTH 124 SPIDER

21世紀によみがえったアバルト124スパイダーに富士スピードウェイで試乗する機会が訪れた! FRスポーツとしてのポテンシャルはいかに? そしてアバルトならではの個性は?

TEXT / 山田弘樹 PHOTO / 神村 聖
SPECIAL THANKS / FCAジャパン(http://www.abarth.jp/

サソリの走りの遺伝子を
サーキットで検証

アバルト124スパイダーの輸入元であるFCAジャパンは、その実力を多くのジャーナリストに知ってもらうべく、富士スピードウェイという舞台を用意してくれた。しかもそれは一見スパイダーの特性に合うはずのショートコースではなく、本コースだったから驚いた。もっとも国内最長と言われる1.5kmのストレートには、パイロンでシケインが作られていたが、それでも第一に確認しなければならないFRターボとしてのコントロール性は、十分に確認することができた。

アバルト124スパイダーは、ご存じの通りNDロードスターがベースとなっている。両者の決定的な違いは4気筒エンジンの性能で、ロードスターが1.5リッターの自然吸気としたのに対し、アバルトは1.4リッターのマルチエアターボを採用。その出力差はパワーで39ps、トルクでは10.2kg-mにも及ぶから、ドライビング・ファンの引き出し方は大きく変わってくる。

具体的には、FRスポーツカーの醍醐味であるリアタイヤのコントロール幅が、アバルトは大きい。対して元祖ロードスターはその歴史が示す通り、パワーに頼らない走りが信条。車体の軽さを活かしてコーナーへ滑り込み、4輪のスリップアングルを絶妙にコントロールしながらこれをクリアする、ライトウェイトスポーツカーの美学がその理想の頂点にある。

しかしそんな、ロータス・エランのような走りを難しくしたのもロードスター自身だとボクは思う。その足下に、車格的にはハイグリップなADVAN Sport V105を選んだことで、その限界はかなり上がってしまった。初代NA型と二代目NB型が本格派ユーザーにも愛されたのは、タイヤのグリップがそれほど高くなかったからだ。それは別に、のべつまくなしリアタイヤを滑らせることが楽しいと言ってるのではない。クルマの挙動やタイヤのしなりが手に取るようにわかる素朴さが楽しかったのだ。

話を戻せば、アバルトには“この感じ”がある。わかりやすい解決策ではあるが、パワー&トルクを増強したことで乗り手が挙動をコントロールしている実感がグッと増えたのだ。

もちろんネガティブな部分もある。これはワインディングではわからなかったことだが、前後オーバーハング重量が増えたことでイナーシャ(慣性)が大きい。ロードスターと比べて明らかにノーズダイブ量が多く、横に荷重が掛かってからの滑り出しが早い。

だからその動きを把握していないうちは、勢い勇んでターンインすると、リアがズバッと滑り出す。もう少しフロントのバンプ側減衰力を上げればこれは収まりそうだが、乗り心地や低荷重域での軽快さを出すためには仕方ないのだろう。

よってアバルトを速く走らせるには、ブレーキング終了からノーズを持ち上げターンインする必要がある。外側の2輪でグリップを高めて旋回するコツがいる。しかしそこからは、最高の時間が待っている。リアサスの粘り腰は見事で、タイヤが路面をしっかり捕らえてくれる。コーナーミドルから慣性でリアが滑り出しても、ターボのトルクで容易にリアに荷重が増やせるから、高速コーナーでも、姿勢コントロールができてしまうのだ。これは感動的。

ABS、EBD(電子式制動力配分)以外の、ESC(横滑り防止)といった安全機能は、任意で機能を解除することが可能だ。

低速コーナーはもっと余裕。あっ…… くるくるッ! とおシリがムズムズを感じたときにアクセルを多く踏み込めば、機械式デフが駆動力を与え、斜めを向きながらコーナーを立ち上がる。この動きになれたら、クリップ手前からコーナー脱出の縁石まで、ずーっとドリフトアングルが維持できるのだ。別にドリフトを推奨する気は無いが、コントロールが楽しいのは事実。こういうポテンシャルをスパイダーが持っているという事実がわかっただけでも、今回の試乗は大収穫だった。また一部ではNC用と噂されるトランスミッションの強度も見事だった。

ここからは贅沢な要求。“アバルト”にこだわるなら、やっぱり速さは欲しい。今も小型FRとしては十分に速いスパイダーだが、アバルトはやっぱり火の玉ボーイであって欲しい。595アバルトのように、小さいクルマでカッ飛ぶ魅力が欲しいのだ。そういう意味では、今はまだお洒落路線だ。

でもそれは、チューナーたちが夢を叶えてくれるだろう。そのベースマシンとして、アバルト124スパイダーには十分合格点をあげられる。さらにフィックスドクーペをベースにしたら、かなり面白いことになりそうだと思う。

やっぱり庶民の味方はFRスポーツカーですよ。イタリア人も、ほんと僕らに感謝して欲しいよねッ!

全長はベースとなったNDロードスターより145mm長く、全幅と全高は5mmずつ大きくなっている。

ドライバーの眼前には大径の赤いタコメーター。レブリミットは6500r.p.m.から。

ビルシュタイン製モノチューブショックアブゾーバーやオーバーサイズのアンチロールバーなどにより、ハンドリングの精度を高めている。

ブレンボ製ブレーキシステムは、フロントにアルミ4ピストン対向キャリパーを搭載。

SPECIFICATION
ABARTH 124 SPIDER(6速M/T)
全長×全幅×全高:4060×1740×1240mm
ホイールベース:2310mm
トレッド(F/R):1495/1505mm
車両重量:1130kg
エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1368cc
ボア×ストローク:72.0×84.0mm

圧縮比:9.8:1
最高出力:170ps/5500r.p.m.
最大トルク:25.5kg-m/2500r.p.m.
トランスミッション:6速M/T
サスペンション(F/R):ダブルウィッシュボーン/マルチリンク
ブレーキ(F/R):ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤ(F&R):205/45R17

PROFILE/山田弘樹

元ティーポ副編集長にして、現在は様々なクルマ媒体に寄稿しているガチ走り系モータージャーナリスト。近年はCOTY選考委員も務めている。