TMB IMPRESSION

<インプレッション>
実際乗ったらどうなんですか?
TMBが選りすぐった“名車”を運転してみて感じたこと

PEUGEOT 604 SL

1975年に登場した604は、41年振りに復活したプジョーのフラッグシップモデル。大きなボディにV6エンジンを搭載し、大統領の公用車としても用いられた。当時の時代背景もあって、セールスは成功しなかったものの、プジョーが本気で作り込んだサルーンは今もなお輝き続けていたのだった。

TEXT / 森口将之 PHOTO / 内藤敬仁
SPECIAL THANKS / Furu達工房(https://www.facebook.com/furutatsurenault/

ビッグプジョーの真骨頂

成功か失敗か。最近の日本は、まるでスイッチを押すように、あらゆるモノやコトを二者択一で判断したがる。でも成功にしても、失敗にしても、そこに理由はあり、その理由は様々だ。たとえばクルマなら、デザインや走りは優れていたのに、外的要因に足を引っ張られたパターンなどがある。プジョー604も、そんなストーリーが当てはまる1台かもしれない。

100年以上の歴史を誇るフランス最古の自動車メーカー、プジョーには、いくつかピークと呼べる時期がある。そのひとつが第2次世界大戦前の1935年だ。29年発表の201以降、プジョーは中央がゼロの3桁数字を車名とするラインナップを整備し、この年201/301/401/601の4車種を揃えるまでになっていたのだ。

このうちフラッグシップの座にあった601は1934年に登場した。生産期間はわずか2年間だったが、他のプジョーが2リッター以下の直列4気筒エンジンを積んでいたのに対し、オーバー2リッターの直列6気筒を積み、世界初のリトラクタブル式ハードトップを用意するなど、フラッグシップモデルにふさわしい内容だった。

大戦によってこのラインナップは一度消滅。戦後も1950年代までは、最大でも2車種を用意するのがやっとだった。ところが60年代に入ると、経済成長の後押しを受けて、戦前のようなワイドバリエーションを構築しはじめる。

1965年に彼らにとって初の前輪駆動車204を発表すると、4年後に304を追加。この間68年には504を送り出した。さらに1970年代に入ると、204の下に104を登場させ、75年に604をデビューさせた。60年生まれの404も含めると、1から6まですべての第4世代が並んだ。

ただし当時のプジョーが経営的に安泰だったかというと、そうではない。むしろ激動の真っ只中だった。1973年に勃発した第1次オイルショックは、604のような大型車にとっては完全に逆風。しかもシトロエンが経営危機に見舞われたことで、PSAグループを結成することにした。さらに78年には、米国クライスラーの不振を受けて、同社の欧州拠点も傘下に収める。

PSAは604に加えて、同じクラスにシトロエンCXも持つことになった。604は後輪駆動で金属バネの3ボックス、CXは前輪駆動でハイドロニューマティックのファストバックだったから色分けはできていたかもしれないけれど、共用部分が無いのは明らかにマイナスだった。

おまけにクライスラーの欧州拠点も同クラスの新型車を開発中であり、開発コスト削減の為プジョーは自身のコンポーネンツを与え、タルボ・タゴーラの名前で1980年にデビューさせた。第2次オイルショックが世界を揺るがしている頃、PSAはこのクラスに3台も持ち駒を抱えることになってしまったのだ。

604はさらに、搭載されるエンジンも紆余曲折があった。プジョーがルノー、ボルボと共同開発した、V型6気筒エンジンは、当初はV8になるはずだった。それがオイルショックでダウンサイジングするという判断になり、バンク角はV6にとってもっともバランスの良い60度ではなく、90度になってしまった。

当時のデスタン大統領の公用車となるなど、フランス製高級車らしい役目もしっかり果たした604だったが、残念ながら販売台数は伸びなかった。3年間で約2万台とタゴーラは上回ったものの、10年間で約15万台という数字は、17年間で約117万台のCXに遠く及ばなかったのだ。

でも今回、西武自動車販売の正規輸入車を新車時から乗り続けているオーナーさんのご厚意で乗った604は、こういった表面的な数字だけで判断してはいけないクルマの代表格であることが理解できた。

ボディサイズは全長4720mm、全幅1770mm、全高1430mmで、現在のフラッグシップ508より小柄だが、シックなブルーをまとうピニンファリーナが描いた3ボックスボディは、そうとは思えないほど落ち着き払っている。ドアを開けて、ブラウン系でコーディネートされたキャビンに入る。高めのサイドシル、ふっかりした座り心地のシート、上を向いたステアリング、これら一つ一つがこの時代のプジョーらしい。着座位置に対して低めのインパネは、エクステリアに似て大人っぽい造形。プレステージという言葉が思い浮かぶ。本物の高級は、ゴテゴテ飾りたてることではなく、逆に研ぎ澄ませることなんだと、604のインパネに教えられたのだった。

後席はさらに高級感が溢れている。シートは前席以上にふっかりした座り心地。しかも足元も頭上も余裕だ。前席より高めに座るので見晴らしは最高。でも外からはCピラーが乗員の顔を隠してくれる。ショーファードリブン適性はロールス・ロイスに匹敵するんじゃないだろうか。

2.7リッターV6エンジンの日本仕様はキャブレターだが、始動は一発。レバーの下を握ってロックを解除する、凝った構造のA/TセレクターでDレンジを選んで走り出す。最高出力130ps、最大トルク20.3kg-mに対して車両重量は1465kgで、A/Tは3速だから速くはないけれど、PRVのV6らしく全域で扱いやすい力を発揮してくれるから、2000r.p.m.あたりに回転をキープしたまま、なめらかに加速していける。

さすがはプジョーのフラッグシップ、乗り心地は極上だった。試乗ルートは首都高速道など段差や継ぎ目が多かったのに、それらをヒタヒタっといなす。猫足そのものだ。そこに2800mmのロングホイールベースが、ビッグフレンチらしい懐の深さを加えている。僕が昔乗っていたCXと方向性は少し違うけれど、快適性では互角だ。

ドライビングの楽しさという点でも、まったく引けを取らない。身のこなしはゆったりしていて、ビッグフレンチであることを実感するけれど、コーナー出口が見えたところでアクセルを踏んでいくと、穏やかに旋回が強まっていくのが分かる。いわゆる街中をゆっくり流すようなスピードでも、4輪が絶妙なるバランスで仕事をしていることが伝わってくる。

短く真っ平らなエンジンフードを眺めながら、姿勢を正して、適度なペースで、穏やかだけれど模範的な動きを味わう。フランスの老舗が40年ぶりにフラッグシップに挑んだクルマらしい、素晴しき走りの世界がそこにあった。売れたかどうかで判断してはいけない。こういうクルマこそ後世に語り継ぐべきだ。

PSAとルノー、ボルボと共同で開発したPRVのV6エンジンを搭載。ミッションは3速A/Tを組み合わせる。2000r.p.m.あたりの回転をキープして走るのが気持ちイイ。
オリジナルは175HR14だが、撮影車両は185/65R15に交換されていた。
インパネは同じグループ内のシトロエンCXと比較すると、シンプルでオーソドックスなデザインだが、サルーンと呼ぶに相応しい質感でまとめられている。大きな3連メーターは左から回転、速度、時計と並ぶ。
エアコンの吹き出し口の前には、パワーウインドウ、ハザード、パーキングランプなどのスイッチ類が並ぶ。
A/Tは3速。ギア比がワイドなので、今運転すると新鮮なドライブフィールだ。
大柄でクッションの分厚いシートは快適な座り心地。表皮、クッションとも程度がいい。
後部座席は170cmの大人が足を組めるほど足元にスペースがある。前方の視認性も考慮して、着座位置が若干高くなっている。

SPECIFICATION
PEUGEOT 604 SL
全長×全幅×全高:4720×1770×1430mm
ホイールベース:2800mm
車両重量:1465kg
エンジン型式:V型6気筒SOHC
総排気量:2663cc

最高出力:130ps/5750r.p.m.
最大トルク:20.3kg-m/3500r.p.m.
サスペンション(F/R):ストラット/セミトレーリングアーム
ブレーキ(F/R):ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤ(F&R):175/HR14

PROFILE/森口将之

フランス車、イタリア車への造詣が深い自動車評論家。最近はMaaSについても研究を行っており、2019年「MaaS まちづくりのためのスマートモビリティ戦略」(学芸出版社)という書籍を執筆/出版し、今年第45回交通図書賞を受賞した。