TMB IMPRESSION

<インプレッション>
実際乗ったらどうなんですか?
TMBが選りすぐった“名車”を運転してみて感じたこと

IKEYA FORMULA IF-02RDS

2017年の東京モーターショーでデビューし存在感を放っていた、宇都宮ナンバーのスーパースポーツカー。チューニングパーツ界で有名なイケヤフォーミュラが生み出したオリジナルマシンだ。そんなマシンに公道で試乗する機会を得た。

TEXT / 橋本洋平 PHOTO / 内藤敬仁
SPECIAL THANKS / イケヤフォーミュラ(http://www.ikeya-f.co.jp

宇都宮ナンバーを掲げる
スーパースポーツの正体は?

栃木県鹿沼市の田舎道。そこをまるでCカーのようなクルマが走り回っていることは、この辺りではちょっとした噂になっていた。近隣住民からは「あんなクルマが公道を走っていていいのか?」と110番通報が飛び、パトカーが現場へと急行! だが、決まってその時に警官が発する言葉は「ああ、やっぱりアナタ達でしたか」と、違反切符を切られることもなくパトカーは退散する。そう、このクルマは正真正銘ナンバー付きの合法車両。それも鹿沼産のスーパーカーなのだ。

IF-02RDSと名付けられたそれは、かつてM/Tミッションにポン付けでIパターンシーケンシャルに変身させてしまうチューニングパーツで名を知らしめた「イケヤフォーミュラ」が、イチから造った一台だ。同社はこれまでに足周りからLSD、そしてFJやF3といったフォーミュラカーまで製作した経験があるが、ナンバー付きのスーパーカーを造ったのはこれが初めてのことである。

一体なぜそんなクルマを製作したのか? それは同社がIST(イケヤ・シームレス・トランスミッション)というトランスミッションを発明・開発したことがきっかけだ。ISTは通常のM/Tをベースに、シンクロの代わりにドグクラッチをギア間に入れることで、駆動の途切れを一切無くしたのがポイント。シフトアップ時に次のギアが結合してミッションがロックする寸前で、今まで繋がっていたギアが自動的に抜け、ミッションブローすることもなくシフトアップを可能にした。シンプルな構造でコストや重量がアップすることなく、シームレスな加速を達成したところが凄いのだ。

このISTの良さを証明するには、それを解りやすく表現できるクルマが必要だと考え、IF-02RDSの開発に着手。イケヤフォーミュラではかつてフォーミュラカーを製作した経験もあるから、クルマ自体を作ることはそれほど難しいことではない。それに公道を走るラジアルタイヤを装着するクルマであれば、パイプフレームで十分! そこでトライが始まった。

だが、ナンバーを取得するとなると、それはかなりのハードル。ガラスやダッシュボードなど、規格に合致するパーツの制作にも苦労したそうだ。国交省とのやり取りも難しかったそうだが、ISTはこれから世界へ羽ばたく可能性があるミッションだという熱意が伝わり、実に協力的だったという。結果としてナンバーが付くまでには3年もの月日が必要だった。

エンジンはホンダのインテグラ・タイプRなどが採用していたK20Aをベースに、HKS製ターボを加えることで約350psとしたものを縦置きで搭載。それにF4用ミッションをベースにしたISTを組み合わせている。これでも十分なパフォーマンスが期待できるが、同社ではすでにオリジナルのV10エンジンを開発すると宣言。今のエンジンは仮の状態と言ってもいい。同社の目指す道はまだ先だ。

ISTとともにスポーツドライブを極める

そんなIF-02RDSにいよいよ試乗。ガルウイングを跳ね上げ、幅広のサイドシルを何とか跨いでコクピットに滑り込む。両足をまずはシートの座面に置き、下半身を入れてから上半身を入れ込むその作業は、まさにCカーのよう。ABCペダルが中央にオフセットされていて、右側にチェンジレバーが生えているのは、かなりレーシーな雰囲気だ。やや寝そべった体勢で座ることも特別な感覚。快適性は正直言って無いのだが、それは独特な空間があれば許せる範囲内。湾曲したフロントガラスから見える田舎道が、まるでル・マンのユノディエールに感じられるほど。この雰囲気はたまらない。

エンジンを始動させてクラッチを踏み、Iパターンのシーケンシャルシフトを手前に弾けば、「ガコン!」という音と若干の振動と共に1速にギアがシフトされる。やや重めのツインプレートクラッチをそっと繋ぎ、いよいよ走り出す。車重1150kgということもあり、動き出しはかなり軽快! ターボ化されたK20Aも低速トルクが豊かであり、即座にスピードを重ねていく。回すことを許された6000回転あたりで2速へとシフトアップ。その際にクラッチを踏み込む必要はない。するとどうだろう。まるで駆動が途切れることなく、「コン!」と弾かれたように加速が続くのだ。それを3速、4速と続けて行くと、まさにシームレス! 変速ショック自体は大きいが、これはエンジンとの協調制御がまだまだできていないからとのこと。

だが、レーシーに感じられるダイレクトなフィーリングがあるならば、変速ショックはむしろスパイスのようにも思えてくる。まだ粗削りなところが逆に好感触なのだ。これなら一般道をゆっくりと走っても気分は高まる。シフトダウン時にはクラッチを踏み込んでヒール&トゥが必要だが、瞬時にダウンシフトを可能にするシフトも心地よく、リズムに乗って走れることがたまらなく心地いい。

音に関してはナンバー装着を前提にかなり排気音が抑えられていて、さらにターボ化されたことでかなり静か。どちらかといえば重低音を奏でながら、ギアの唸り音などが車室内に響き渡っておりレーシーだ。シャシーはかなりダイレクト感溢れる仕上がりで、まるでフォーミュラカーを走らせている感覚。とはいえ乗り心地は悪くない。ステアリングのギア比はややスローで、交差点などでは3/4回転くらい回すイメージだから、ピーキーで公道を走りにくいということはない。

このようにIF-02RDSは初手からして、かなり完成度が高い。エンジンについてはV10の登場時が本来の狙うところなのだろうが、その時どのように仕上がるのか? 目指すところは超高回転エンジンとISTのシームレスな加速の組み合わせにより、「スポーツドライビングに特化したクルマ」だそうだが、その実現も今の仕上がりを見れば決して夢ではない。

単にカッコを追求したのでもなく、速さを目指しただけでもない。新発明のISTを広めるという崇高な思いを乗せたIF-02RDSが日本から誕生したことを誇りに思う。ニッポンのモノ創りはどう成長するのか? 未来への期待は高まるばかりだ。

車両重量はわずか1150kgで、その走りはスパルタンそのもの。

鋼管スペースフレームにFRPボディをまとったIF-02RDS。ボディデザインは、池谷信二代表自ら線を引き、チームでCADを駆使して仕上げたという。

思いの込められた「Ikeya Formula」のエンブレムが深紅のボディに輝く。
エアロダイナミクスを駆使したFRPボディの造形は、FJやF3といったフォーミュラカーを製作してきたイケヤフォーミュラならではの仕上がり。
TWSの鍛造ホイールにミシュランパイロットスポーツを履き、フロント275/30R19、リア335/30R20。ディスクブレーキはAPレーシング製でフロントが6ポッドのφ362mm、リアが4ポッドでφ330mm。
フロントカウルを開けるとダブルウィッシュボーンが見える。ダンパーはイケヤフォーミュラ製。
ミドに縦置きされる2リッターのホンダK20AエンジンはHKS製ターボキットを装着。そこに、このマシンの魂とも言うべきISTが組み合わされている。
タイトでレーシーなコクピット。シート右側にIパターンのシーケンシャルシフトがあり、手前に引くことでシフトアップしていく。
やや後ろに寝そべったような着座姿勢になるシートも、独自の世界観を演出す る。

TOPICS

イケヤ・シームレス・トランスミッションとは

既存のミッションのシンクロ部分に対して独自に開発したドグクラッチを組み合わせることで、駆動の途切れ、つまりはトルク抜けを一切無くしたシームレスな加速を達成したのが、イケヤフォーミュラの発明したIST(Ikeya Seamless Transmission)だ。変速する前の段にドグクラッチを接続した状態で、次のギアにドグクラッチを接続。変速されたギアにトルクがかかった瞬間、ゴア比の差によるトルク循環を利用して、前の段のギアが自然に外れる機構を採用することで、シームレスな加速を達成している。それをDCTのように重量アップせずに行えたことは素晴らしい。シングルクラッチのミッションとは思えない走りを実現できるのだ。

模型:従来のミッションでは1速から2速へとクラッチスリーブが移動。ISTでは4速にドグクラッチが接続した状態で、5速にもドグが接続。

そうすると4速と5速の回転差によって、4速側のギアが自然に外れ、ミッションブローも起こらない。V字に掘られた溝がこの仕組みのポイントだ。

OWNER/IKEYA FORUMULA

イケヤフォーミュラはチューニングから駐車場機器まで、乗り物にかかわるモノを幅広く扱う技術集団だ。

PROFILE/橋本洋平

ジェイズ・ティーポ出身のモータージャーナリスト。エコランからタイムアタックから86レースまで、業界きっての走り好きで知られる。