TMB IMPRESSION

<インプレッション>
実際乗ったらどうなんですか?
TMBが選りすぐった“名車”を運転してみて感じたこと

RENAULT LUTECIA (IV) R.S.

4代目ルーテシア(本国名クリオ)のルノー・スポール版は2012年10月にデビュー。エンジンが直噴ターボ化し、パドルシフトが加わるなど、大幅にモダナイズされ、熟成の極みに至っている。

TEXT / 斎藤慎輔 PHOTO / 神村 聖
SPECIAL THANKS / ルノー・ジャポン(http://www.renault.jp

古典的ホットハッチ、だがそれが愉しい

ホットハッチなる呼び方は、もしかすると死語なのか、あるいは死語に近いのか、最近あまり聞くこともなくなった。

それに類するクルマも、日本車ではスズキ・スイフト・スポーツ、日産マーチ・ニスモあたりしか思い浮かんでこないのだが、2017年のモデルチェンジでやけに評判のいいスイフト・スポーツを除けば、「そういえばあったかも……」程度の存在感でしかないように思えてしまうのは、なんにしても残念ではある。最近、トヨタGRヤリスが加わってはいるが……。

そんなことを頭に思い浮かべながら、2017年7月にマイナーチェンジされたルノー・ルーテシアR.S.のシャシーカップを、2週間近く手元に置いて、それこそ日常の足として使いながら、仕事に乗じて、箱根周辺などに何度か連れ出したのだった。

ちなみに、シャシーカップは、ルーテシアR.S.に設定される3グレードの中において、シャシースポールとトロフィーの間のモデルで、一度、日本市場への導入が途切れた仕様でもある。この3グレードは、スポーツ度の違いであり、もっとわかりやすく言えば足の硬さの違いとなる。ただし、トロフィーはエンジンも20ps上乗せされた仕様となり、スポールはマイナーチェンジで、オートエアコンをマニュアルにするなど装備の見直しで従来より20万円以上も安い価格となったが、受注生産ということからして、価格訴求用のモデルのようだ。

もっとも、ルーテシアR.S.は日本に入ってきた台数はあっという間に売れてしまい、バックオーダーを抱えている状況というから、受注生産でも納入までの期間はそう変わらないのかもしれない。

ヴァン・デン・アッカーによる大胆なデザインが採用された。

ルノー・ジャポンとしては、日常乗りにはいささかハードな乗り心地をもたらすトロフィーより、再導入を果たした、少しは優しい(?)シャシーカップの受注が増えるのではないかと踏んだらしいのだが、蓋を開けてみれば、やはりトロフィーに受注が集中することになったそうだ。このテのクルマを買うなら、少しでも高性能版に、どうせなら最速版にという思いも、トロフィーに乗っているという自負や誇りを持てるといった心情も、もちろん理解できるものだが、シャシーカップに、サーキットを一度も走る機会なく10数日間の試乗をした今回の経験からすれば、スポーツ性能はこれで十分堪能できるし、正直、もう少し柔らかい足がほしいくらいだ。

ルーテシア、本国名クリオは、日産Bプラットフォームの流れを組むものだが、実際に共用化されているのはごく一部に過ぎない。とはいえ、設計や考え方は決して新しいものではないし、ボディまで含めた構造としては、2012年発売の車両という時代感は否めない。その一つが、シャシースポールでさえも、日常の移動や特に巡航などで、バネ上が上下にせわしなく動くことで、頭も視点も上下に動かされてしまう挙動である。

ホットハッチに限らずとも、以前はスポーツカー、スポーツモデルは、足をガチガチに固めて、ロールを減らして、バネ上の無駄な動きをなるべく封じ込めて、シャープな動きを得る、旋回速度を高めるというのが常套だったが、最新のスポーツカーの多くは、驚くほど乗り心地が良かったりする。それら多くは精度の高いダンパーであったり、電子制御のアジャスタブルダンパーの類いを採用しているが、減衰力を抑えた状態でも、与えたエンジン性能を担保できる操縦安定性を得られるようになったからだ。

そこには、最新の解析やボディ設計があり、ボディを構成する素材の溶接や接着方法の進化があり、サスペンションを効率よく動かし、あるいは動きを抑えることができるようになったからだといった話を、各社のエンジニアから聞くことが多くなっている。

ある意味、出来の悪いクルマほど足を固めないとスポーツ性の高いハンドリングが成立しないということにもなるが、ガチガチの足のスポーツ車は、次第に過去のものとなりつつあるのは事実。

その過去と、最新の狭間にあるのがルーテシアR.S.であると感じている。しかし、すでに古くて魅力に欠けるのか、といえば、無論そうではない。ルノー・スポールといえどもベース車両の素性や特性を越えたクルマ造りは出来ないわけで、持てるポテンシャルをどう活かし引き出すかの解答が、この走りなのだ。

ハッチバックは5ドアだけになり、後席のドアハンドルはCピラーに内蔵された。

過去、足がガチガチのスポーツモデルに散々乗ってきた経験からすれば、シャシーカップは相当に洗練されたガチガチであり、ウエット路面でも、ハードブレーキングでは優れたコントロール性を備えたブレーキのおかげもあり、前輪への荷重移動が思ったようにいかないといった状況にはまずならないし、そうした際には電子制御式ディファレンシャルが効果的に作動し、狙ったラインへと導いていく。過剰なトラクションでのESC介入は、R.S.ドライブのモードをスポーツにしておけばかなり抑制され、邪魔に感じることもほとんどなくなる。

一方で、レースモードではESCは非作動で、そこはもう右足のコントロール次第で、ターボエンジンのFFらしいアンダーステアに陥る可能性も当然あって、ドライバー次第である。

ただ、公道域では、さすがに意図的にでもそうでなくても、リアが破綻するような領域に持っていくことは難しく、先代メガーヌR.S.のような、時として強い緊張感をもたらす挙動には入りにくい。そういう点でも洗練されているし、ドライバーのスキルもひどく限定はしない。

その上で、エキサイティングな感覚をもたらしているのだから、これはこれでなかなか練られたハンドリングなのだと感じさせる。ちなみに、シャシースポールとカップの足の違いは、車高を3mm下げ(とあるが、これは製造工程でいえば誤差の範疇だ)、フロントは27%、リアは20%、よりハードにしたとある。

トロフィーは、車高をそこからフロント20mm、リア10mmダウンとあるが、バネレート等の変更に関する記述はない。つまりは何をどう変えているのかの詳細はわからないのだが、有効ストローク長は減っているわけで、サーキット領域での操安性の向上と引き換えに、さらに乗り心地は厳しさを増すわけだ。

正直、シャシーカップでも、高速道路で長い距離を巡航するのは嬉しくなかったが、高速域の加速力といった点は、この200ps仕様でも申し分なく、気を許すと、東名高速の大井松田~御殿場間のような上り勾配のワインディング区間でも、思った以上にかなり速度が上がってしまっていたりして、右足の力を緩めることを何度か経験した。

シビックHBやスイフト・スポーツのM/T比率の高さを知るにつけ、M/T仕様がないことを残念に思う人も多いだろうが、ボクはDCTの変速の正確性や速さ、何より小気味よい感覚を好ましく思っている。さらに減速しながらマイナス側のパドルを引き続ければ、適時ダウンシフトを続けるという便利な機構も備えるのだ。渋滞時のクラッチワークの煩わしさから解放されるのも、一台で全てをこなすことの多いだろうこのクラスのスポーツモデルでは有り難い。箱根で痛快な走りを楽しんだ後に、大渋滞に遭遇した際には痛感した。

既に次期モデルも登場したルーテシアだが、古典的感覚を備えるところが逆に魅力だったりする。その中に織り込まれた洗練性に、ルノー・スポールの技術と知見が垣間見える。スポーツモデルとしては控えめな外観とともに、こういうのも嫌いじゃない。

2017年7月のマイナーチェンジ以後はヘッドランプがフルLED化され、モダン・ルノーを象徴するCシェイプが組み込まれた。
新型バンパーのチェッカーフラッグ風R.S.ビジョンは、ポジションランプ、フォグランプ、ハイビーム、コーナリングランプとして機能。
R.S.専用リアスポイラーはノーマルグレードよりも少しだけ大型。
車体後部で発生するダウンフォースの8割は、ディフューザーが稼ぎ出す。
シャシーカップとトロフィーにはMCにより新デザイン18インチホイールが与えられた。R.S.のロゴ入り。

200ps/24.5kg-mを発揮する1.6リッター直4直噴ターボエンジン。ルーテシア3の2.0リッター直4自然吸気と最高出力は同じながら、最大トルクは2.6kg-m向上し、1750r.p.mという低回転から力強く加速するようになった名機だ。これに6速EDCが組み合わされる。

派手さこそ無いものの、R.S.ロゴ入りレザーステアリングなどのアクセントでヤル気を盛り上げるインテリア。

左が回転計、右は燃料計で、速度は中央にデジタル表示。
シフトレバーにも赤のアクセントが入っている。
走行モードはノーマル、スポーツ、レースの3種が用意されている。
マニュアルモードでブレーキペダルを踏みながらチタン製の左パドル(写真は右パドル)を引き続けると、一度に複数段シフトダウンできる「マルチシフトダウン」機能が便利だ。
滑り止めが施されたアルミペダルは操作性が良好。
ホールド性と座り心地に優れたR.S.謹製シート。MCで滑りにくい表皮デザインへ進化した。
後部座席の空間はこのクラスのHBとして不満ないが、R.S.の乗り心地はかなりハード。

SPECIFICATION
RENAULT LUTECIA R.S.(Chassis Cup)
全長×全幅×全高:4105×1750×1435mm
ホイールベース:2600mm
トレッド(F/R):1505/1500mm
車両重量:1290kg
エンジン型式:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1618cc

最高出力:200ps/6050r.p.m.
最大トルク:24.5kg-m/1750r.p.m.
サスペンション(F/R):ストラット/トレーリングアーム
ブレーキ(F/R):ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤ(F&R):205/40R18
新車時価格:320万8000円

PROFILE/斎藤慎輔

確かな洞察力とブレない評価軸に基づいた車両評価、特に動的性能の分析に定評のあるモータージャーナリスト。