TMB IMPRESSION

<インプレッション>
実際乗ったらどうなんですか?
TMBが選りすぐった“名車”を運転してみて感じたこと

LOTUS ESPRIT hc

鋭利ともいえるボディフォルムにミッドシップレイアウト。スーパーカーのお手本のようなエスプリだが、「たった」163psしか発揮しない2.2リッターNAエンジンというだけで不当に市場価格が低いS3。しかし、ステアリングを握り右足に力を込めれば、絶妙のバランス感覚に心酔し、まぎれもないロータスであることを思い知らされる。ロータスを知る人にこそふさわしいエスプリ、それがS3なのだ。

TEXT / 山田弘樹 PHOTO / 内藤敬仁
SPECIAL THANKS / スクーデリアオールドタイマー(http://www.s-oldtimer.com/

ジウジアーロボディのラストモデル

よくここまでキレイな個体が残っていたものだと思う。ロータスが特許を持つ真空吸引成型(VARI)の投入は次世代シリーズ4からのようだが、「最後のジウジアーロボディ」と謳われるシリーズ3、ロータス・エスプリhcの外皮はひび割れや波打ちひとつなく、ハンドレイアップのFRPボディを保っていた。それでもオールドタイマーの手塚さんいわく、このS3は「シリーズの中では、一番中途半端で人気がないモデル」なのだという。

エスプリで一番人気は、現在のクラシックカーブームも手伝って圧倒的にシリーズ1。そのシンプルな作り(車重なんてたったの897kgだ!)や、ボンドカーとしての栄光がその理由だろう。そして次に、当然パワーに勝るターボ搭載モデルたちとなっている。だから代を重ねるごとに重たくなって行ったエスプリの、しかもNAモデルは、確かに中途半端である。数字だけで物事を考えてしまえば。

既に暖気を済ませてあったエンジンは、キャブ仕様ながら一発で始動した。搭載されるのは「タイプ912」と呼ばれる、シリーズ2.2からキャリーオーバーされた自然吸気の直列4気筒。その排気量は2174ccと直4にしては大きめだが、ボア×ストロークは95.28×76.2mmとショートストローク化されており、おっとりとした中にも歯切れ良い吹け上がりを持っていた。これには自然吸気エンジン用にハイコンプ化されたピストンも効いているのだろう。「hc」という名前の由来である。

デロルト製のキャブレターは従順な躾けで、アクセルを踏み込めば加速ポンプが燃料を増量し、グッ! と車体を加速させる。ちなみにその最高出力はたったの163psで、最大トルクは23.0kg-mしかないのだが、重たいとはいえその車重は1050kgに過ぎないから、身のこなしは予想より遙かに軽い。

重心高に配慮してだろう斜めに寝かされた直列4気筒の後ろには、ミッションが縦置きで搭載される。これはシトロエンSM用の5M/Tを流用したもので、ワイヤータイプながらそのタッチは明確。過去の経験から言うと、同じ縦置きミドシップであるヨーロッパよりも手応えも良く操作がしやすい気がする。

一番のハイライトはこれぞロータス! と叫びたくなるシャシーバランスだ。伝統のバックボーンフレームを中心に、エンジン搭載用のサブフレームを介したシャシーは、モノコック世代のドライバーにとっては剛性感のなさを感じてしまうかもしれない。

しかしそれ故にその乗り味は、まるで「フレームに乗って走っている」かのような軽快さがある。

サスペンションのストローク感には現代のエリーゼにも受け継がれるしなやかな過渡特性があり、フロントのダブルウイッシュボーンは、ゆったりとした流れの中にあってそのハンドリングに正確性をもたらす。追い込んでみたわけではないがリアのラジアスアーム+トランスバースリンクは路面を捕らえ続け、たとえタイヤがズルズルと滑り出しても、コントロールできてしまいそうな気持ちにさせる。

サイドシルの形状から車体中央寄りに配置される3ペダルには慣れが必要だが、アクセルとブレーキの間隔が狭くヒール&トゥがしやすい。また荷重を調整するためだけの左足ブレーキは、その位置関係から面白い程よく決まる。

剛性感はないがタッチのよいブレーキをリリースしながらハンドルを切って行くと、エンジンがリアサスにのしかかり、タイヤに接地荷重が増えて行く様子がわかる。フロントタイヤで行く手をバシッ! と決めるというよりも、クルマ全体で曲げる。寝そべるようなポジションで運転するその感覚は、空力が横行しない時代のジュニアフォーミュラのようだった。

ちょうどよいパワー感と、控えめながらも明確なキャブレターの咆哮。リアクォーターに空いた冷却孔から、容赦なく入ってくる風音。そして麗しのシャシーバランス。これがミドルコーナーで渾然一体となって体に押し寄せてくる。そしてボクは思った。

あぁ、こんな走りが富裕層に、受け入れられるワケないじゃないか! エスプリはロータスがエランやヨーロッパで成功を収めた後に、上級移行を狙って送り出したスーパースポーツだ。しかし金持ちたちが求めたのは最高速と、エンジンの気筒数と、ステイタスだった。片やエスプリは形こそGTだったけれど、その走りは骨の髄までロータスだったのだ。クチではGT路線を語りながらも、結局はこの走りを実現するために直列4気筒を“積んでしまった”のだと思った。「SPORT350」でロータスは遂にV8ツインターボを搭載したが、実は初期にもV8を搭載するアイデアがあった。そしてこれが見送られたのは、資金的な問題以外にロータスが、このしなやかな走りを彼らのアイデンティティとしたからなのではないか? たとえそれがクルマ好きの妄想だとしても、ボクはそう思いたい。

エスプリを語るとき、「ステイタスならターボ。でも走りの楽しさはNA」という言葉がある。ボクはターボの経験はないが、この染み入るハンドリングに、その一片を見た気がする。

ガレージに戻り、ドアを開けながらその感動を話すために振り返ると、「な、でも面白かっただろ?」と手塚さんに先手を打たれた。………なんだ、わかってんじゃんか。そう、エスプリS3hcは世間的には中途半端でも、好き者にとってはれっきとしたロータスなのだ。そういう意味でこのS3hcが、400万円を切る値段で手に入るのはすごくいい。このクルマはお金持ちの為のクルマじゃなくて、ロータスを愛する人が所有するべきクルマだと思ったからだ。

ジウジアーロデザイン最後のエスプリらしく、まだまだエッジの効いた顔つき。リトラクタブルヘッドライトを上げると、途端に愛嬌のある顔つきに。
フロントフェンダー後部に配置されたエンブレムは、ジウジアーロデザインであることの証。
リアフェンダー前部には車名のステッカーが入る。
シリーズ3になって改良されたリアクォーターのエアインテーク。
ホイールはマーレBBS製で、これはターボモデルのシャシーに合わせて組み合わされるため、ターボのシャシーを持つhcにも装着された。
フロントボンネット内には、スペアタイヤをはじめ補機類が備わるため、荷室スペースはほとんどない。
縦置きに配される直列4気筒2.2リッターエンジン。NAらしく伸びのある回転感覚が気持ちいい。見た目より遥かに軽量なボディを気持ちよく走らせる。
メーターナセルはまるでステアリングラックの上に備え付けられた大きな箱のよう。黒一色でまとめられたコクピット周りはスパルタンな雰囲気を醸し出す。
手首の「コク、コク」といった動きだけで決まるショートストロークのシフト。センターコンソール下部には「esprit」の文字が映える。
サイドサポートの張り出しが強いスポーツシート。クッション性に富み、座り心地は望外に良好。

MORE INFO.

ジウジアーロボディ最高の完成度

シリーズ3の登場は81年。これは80年に登場した「ターボ・エスプリ」のシャシーに、やはり同年に登場したシリーズ2.2の直列4気筒「タイプ912」ユニットを搭載したものだが、自然吸気エンジン用の圧縮比を実現するために高圧縮ピストンが奢られていたことから、「hc」の名が付けられた(馬力は163psで、シリーズ2.2と同等)。また外観はリアクォーターのエアインテーク形状が新しくなり、これまでブラックの成型色となっていたスポイラーやサイドステップがボディと同色化された。ターボ・エスプリの登場によってその影は薄かったが、ブレーキやタイヤなどはターボと同等のものが装着されており、最も完成されたNAのエスプリだということもできる。

SPECIFICATION
LOTUS ESPRIT hc
全長×全幅×全高:4200×1860×1130mm
ホイールベース:2485mm
トレッド:1511mm
車両重量:1020kg
エンジン型式:直列4気筒DOHC

総排気量:2174cc
最高出力:163ps/6500r.p.m.
最大トルク:23.0kg-m/5000r.p.m.
サスペンション(F/R):ダブルウィッシュボーン/ラディアスアーム
ブレーキ(F&R):ディスク
タイヤ(F/R):195/60VR15/235/60VR15

PROFILE/山田弘樹

ティーポ出身のファイター系自動車評論家。過去にフォーミュラ隼やVW GTIカップ、ロータスカップ等のレースに参戦。愛車はAE86レビンから乗り換えたトレノとポルシェ911のタイプ993。