TMB IMPRESSION

<インプレッション>
実際乗ったらどうなんですか?
TMBが選りすぐった“名車”を運転してみて感じたこと

FIAT GIANNINI 127 NP

1920年創業のジャンニーニ社はミッレミリアの黎明期から活躍し、イタリアにその名を轟かせた名チューナーで、アバルトともライバル関係にあった。そんなジャンニーニが手掛けたイタリアンピッコロをお楽しみいただこう。

TEXT / 藤原よしお PHOTO / 内藤敬仁
SPECIAL THANKS / SCC(http://www.scc-g.com

アバルトと鎬を削った名チューナー

たとえイタリア車エンスー、フィアット・エンスーでなくても“ジャンニーニ”というチューナーの名前を聞いたことがある、という方は多いだろう。しかしながら、彼らがいつ、どんなことをしたのか……という話になると、意外と知られていないことが多いかもしれない。

1917年、ローマ出身のアッティリオ、ドメニコのジャンニーニ兄弟は、機械修理を専門とする小さなワークショップを設立。20年にはローマ郊外のヴィコロ・デッラ・フォンターナに自動車専門の修理工場をオープンした。

その後22年に、今はなきイタリアの名門イターラの専属修理工場となったジャンニーニは、レース用のエンジン、シャシーの改良にも着手。27年の第1回ミッレミリアには、ペレグリーニ公爵から依頼を受け製作したイターラ・ティーポ61をエントリーさせている。

イターラの倒産後、フィアットの修理を手がけるようになったバンディーニは、508バリッラやトポリーノのチューンにも着手。長い戦争が終わると、彼らのエンジンを搭載したスタンガ、ジャウルなどの“イタリアの虫”たちが様々なレースで活躍し、ジャンニーニはフィアットの名チューナーとして、広く知られるようになった。

しかし61年に多角経営が仇となって経営破綻。兄弟は別々の道に進むことになる。そこで弟のドメニコは新たに“ジャンニーニ・オートモビリSpA”を設立、発売されて間もないチンクエチェントのチューニングに力を入れる。

ところが、590GTなど数々の作品を送り出し順風満帆にいくかに見えたジャンニーニの運命は、67年にドメニコが心臓発作で急逝したところから再び流転する。跡を継いだ息子のフランコは、OTASを製造していたロンバルディ・グランプリにエンジンを供給する提携を結ぶなど、生き残りを図るものの状況は改善せず、ジャンニーニの理解者でエンスージアストでもあった弁護士のヴォルファンゴ・ポルバレリに経営の立て直しを依頼。ポルバレリは73年に正式に会社のオーナーとなり、現在もポルバレリ家がその歴史を引き継いでいる。

藤沢のショップ「SCC」が輸入したジャンニーニ127NPは、ジャンニーニが大きな変革期を迎えていた70年代を代表するモデルの1つである。

その名の示すとおり、127NPの元になったのは、71年にデビューしたフィアットのハッチバックとして初めてダンテ・ジアコーザ式のFFレイアウトを採用し、72年の欧州COTYも受賞した70年代小型車の傑作、フィアット127だ。

はたして、ジャンニーニは127にどんなチューニングを施したのか? 取材車はイタリアのコレクターが長らく保管していたという、ジャンニーニによる出生証明書付きの73年型だ。無論、これまでにリペイントなどの化粧直しは行われていると思われるが、サビ、腐りなどがないのはもちろん、ボディ全体にしっかりとした節度感と剛性感(この時代のフィアットのボディはお世辞にも良いとはいえない)が残った、奇跡のような1台である。

オリジナルに保たれた外観は、フロントグリルなど各部に付くジャンニーニ・バッジ、2灯のフォグランプ、オリジナルのツインマフラー、そして13×4.5Jのクロモドラ製アロイホイール以外は、ノーマルと変わらない印象だ。

一方のコクピットは、ステアリングが年代物のモモ・モンツァに変わっていたり、ノーマルには用意されない8000r.p.m.スケールのレヴカウンターがメーターナセルに収まっている辺りが127NPならではの特徴で、シートなどはノーマルのまま。ステアリングコラム横のキーを捻れば特別な儀式も必要とせず素直にエンジンがかかり、思いのほか静かに安定したアイドリングを奏で始める。

カタログデータを紐解いてみると、ノーズに横置きされた850由来の直列4気筒OHVの排気量はノーマルと同じ903cc。そのかわり、圧縮比を9:1から9.6:1に上げ、専用のカムシャフトを奢り、キャブレターをウェーバー30DC10に変えるなどのチューンを施すことで、最高出力57.6ps/6400r.p.m.(ノーマル比1.6psアップ)、最大トルク6.88kg-m/4600r.p.m.(同0.48kg-mアップ)と、パワーより扱いやすさを重視したセッティングが施されているようだ。

軽く、ミートポイントの分かりやすいクラッチペダルを繋いで127NPを走らせるのは、難しいことではない。それどころか、小さなOHVエンジンは1リッター以下とは思えないほどトルクフルで、芦ノ湖スカイラインの急な山坂道でも3速ホールドで走りきれるほど、扱いやすく、乗りやすいのである。

また2225mmとアウトビアンキA112より長いホイールベースがいい方向に作用しているようで、直進安定性もよく、乗り心地も想像以上に素晴らしい。しかもこの時代のFF車にありがちな頑固なアンダーステアもなく、700kgという軽い車重も相まって、勾配のきついタイトコーナーでも扱いやすく、軽やかな身のこなしをみせる。

このように、ジャンニーニ127NPは、所謂パワーやスピードが命のチューニングカーとは一線を画する存在といえる。言うならば、マスプロダクト製品ではコストや手間の関係で、妥協せざるを得ない部分をひとつひとつ改善し、本来あるべきポテンシャルを引き出すように最適化させた、正統派のエヴォリューション・モデルという表現が相応しいかもしれない。

思えばジャンニーニはチンクエチェント全盛の時代も、42psを発揮する700ccの700/4Cや、派手なオーバーフェンダーを備え36psを発揮する652ccエンジンを積んだ590GTといった“カリカリ”のチューニングカーを送り出す一方で、排気量を変えずに4psアップの22psに止めた500TVのような、ノーマルでは物足りない部分をちょっとだけ補ったファイン・チューニングカーを作るのが上手いチューナーであった。

そういう意味でもこの127NPは、オリジナルにひと手間加えることで127本来の旨味を引き出すという“ジャンニーニらしさ”に溢れた1台ということができるだろう。

ライトとグリルが分かれているのがシリーズ1のマスクの特徴的なところ。
低回転域では控えめながら、高回転域では元気のよいエキゾーストノートを奏でるマフラー。
非常にきれいな状態に保たれたクロモドラ製のアルミホイール。これを見ただけでクルマの程度の良さも理解できる。
低回転域がトルクフルで扱いやすい、ファインチューニングが施されたエンジン。
シンプルなコクピット。年代物のモモ・モンツァ・ステアリングがドライバーと対峙する。
2225mmというホイールベースの長さもあって、室内は想像以上にルーミー。インテリアのクリーンさも特筆もの。
このフィアット・ジャンニーニ127NPは、付属品として当時のカタログの他に、ジャンニーニ社発行の出生証明書も付属される。

TOPICS

NPとNP-Sの2車種をラインナップ

戦前からフィアットのエンジン・チューンを手がけてきたローマのジャンニーニが手がけたフィアット127ベースのチューニングカー。127NPは903cc 4気筒OHVの吸排気系を改良して57.6psとしたファインチューン版で、ホイールやマフラーなどをアップデートした以外は、外観もノーマルに近い。一方、そのハイパワー仕様として用意された127NP-Sは、ストロークはそのままにボアを66.5mmとすることで排気量を950ccへと拡大。圧縮比を9.8:1に高めるなどのチューンを施し最高出力63ps/6500r.p.m.、最大トルク7.01kg-m/4600r.p.m.を発揮した。なお127NP/127NPSは、77年に127がシリーズ2になると、それぞれ950cc、1050ccへ進化している。

SPECIFICATION
FIAT GIANNINI 127 NP
全長×全幅×全高:3595×1527×1370 mm
ホイールベース:2225mm
トレッド(F/R):1280/1295mm
車両重量:775kg
エンジン形式:直列4気筒OHV

総排気量:903cc
最高出力:57ps/6400r.p.m.
最大トルク:6.8kg-m/4600r.p.m.
サスペンション(F/R):ストラット/ウィッシュボーン
ブレーキ(F/R):ディスク/ドラム
タイヤ(F&R):135SR13

PROFILE/藤原よしお

カー・マガジンの編集長を務めた後、フリーランスに。旧車への造詣は深く、グッドウッドへも毎年訪れるエンスージアスト。