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見ためより大きな中身の進化PORSCHE 911(964) CABRIOLET

911カブリオレは、歴代モデルのどれも出来映えが素晴らしく、クーペと遜色ない走りを披露してきた。今回取り上げたタイプ964もそれは変わらず、エキサイティングな走りを堪能することができるが、高性能化と快適性向上を両立するため大きく進化したシリーズであることも、改めて感じとれたのである。

TEXT / 清水雅史 PHOTO / 内藤敬仁
SPECIAL THANKS / エヌドライブ(http://www.ndrive.biz

見ためより大きな中身の進化

ポルシェ911シリーズ、タイプ964。さてみなさんは、どんなイメージをお持ちだろうか? デビューはもう30年以上前のこと。そう書きながら“そんなに経つんだ!”と僕自身びっくりしているのだけれど、タイプ964はRWDモデルのカレラ2よりひと足早く、フルタイム4輪駆動のカレラ4が正式に発表された。1988年11月のことだが、それ以前にもプロトタイプの開発状況は事あるごとに伝えられている。

カレラ4の発売は翌年の8月、直後のフランクフルトショーではカレラ2がお披露目され、90年モデル(MY90)として販売がスタートする。MY89のカレラ4はクーペのみだったが、MY90ではカレラ2/4どちらもクーペのほかカブリオレとタルガが用意される。

ちなみにMY91には930ターボ譲りの3.3リッターM30/69ユニットを搭載して蘇ったターボが加わり、MY93には3.6リッターM64/50を得たターボ2に進化している。タイプ964には、このほかにもスピードスターやカレラRSがMY93として追加。カレラ4を含めたラインナップの拡充で、彩り鮮やかな魅力を訴求したところにも、タイプ964の新しさがあった。

中身の進化だってスゴイ

さて、最初の問いかけに戻ろう。タイプ964はあなたの目にどんな911と映るだろう? 僕はいつもビッグバンパー、それも最終期の3.2カレラと比べてしまう。「964って、3.2カレラとボディパネルがだいたい同じだし、前後バンパーまわりだけシュッとして、3.6リッター・エンジンを載せただけでしょ」なんて思っている方は多いはず。けれどもう少し“中身”に注目してみると、その輪郭がはっきり浮かび上がってくる。

確かに964のシルエットは3.2カレラに重なる。デビュー時の外寸(全長、全幅、全高)を比較すると、3.2カレラが4291×1652×1320mm、そして964カレラ2が4250×1652×1310mmとほぼ変わらず、お化粧直し程度と思うのも致し方ない。それでも、タイプ964は大きく進化していた。そのポイントとなるのがエクステリアのブラッシュアップのほかに964へ盛り込まれた4つの新機軸である。まずひとつ目はカレラ4の設定と、四輪駆動システム搭載を前提としたモノコックの刷新。ふたつ目はトーションバーに代わってコイルスプリングを採用した前後ストラットサスペンション。3つめは4速A/Tのティプトロニックの設定とパワーステアリングの標準装備。そして4つめはツインプラグを採用したM64型3.6リッター・エンジンの搭載だ。

タイプ964は3.2カレラにちょこっと手を入れた993への繋ぎ役と見る向きもあるけれど、それは否。この4項目は911の歴史を俯瞰しても、実にエポックメイキングなものばかり。高性能化に伴うスタビリティの確保と、快適性向上を目指して投入されたメカニズムは多岐にわたり、そこには先進技術のショーケースと言われた959の面影を見ることもできる。時代の求めに応じてきっちり用意された渾身の模範回答が、タイプ964だったのである。

さてタイプ964は一部のモデルを除き93年にタイプ993へバトンタッチする。その中でMY91までを前期型、MY92以降を後期型と区別するのが一般的だが、これはもっぱら見た目の違いによるところが大きい。3.2カレラ譲りの四角いドアミラーがエアロダイナミックなデザインのものに変更されたことと、標準サイズの16インチホイールをディッシュタイプから5本スポークの“カレラカップデザイン”に履き替えたことが識別点となる。ちなみに今回借り出したカレラ2カブリオレは、MY90の前期型。ミラーとホイールを交換する“定番”の後期仕様へのモディファイを行っているが、内外装は美しく保たれ、年式を感じさせない。

走らせて納得する新しさ

久しぶりに接したタイプ964は、心の奥底に残っていたイメージ通り、際立つ軽快感であっという間に僕を魅了した。小振りなサイズにもかかわらず、タイプ964は3600ccという大排気量のエンジンをリアスペースに収めている。最高出力250ps、最大トルク31.6kg-mは、いまとなっては目を丸くするような数値ではないけれど、額面以上の力強さで乗り手を「さあ、楽しめ!」とあおってくる。そうしてスロットルを踏み込めば、ゾクゾクするような切れ味に思わず笑みがこぼれ、気持ちはさらに昂ぶる。

M64/01ユニットは、ほんとうにステキなフラットシックスだ。テンロクNAツインカムみたいに吹け上がり(いやいやそれ以上か)、厚みがあるのに目の詰まった感じがする濃密なトルクで圧倒する。ここにタイプ964の大きな魅力がある。

そんな胸のすくエンジンフィールに感動しながら、さらに印象に残ったこと……それはビッグバンパー時代とは一線を画すライドフィールだ。端的に表現すれば“洗練されている”ということになるだろうか。トーションバーをコイルスプリングに変更したサスペンションは、明らかにしなやかさが増した。さらにパワーステアリングを採用したことで、3.2カレラで感じるガツンとくるキックバックが影を潜めた。それでいてステアリング・インフォメーションは豊かだから、街中、ワインディング、高速とシチュエーションを選ばず楽しい。ギアボックスは3.2カレラのMY88から導入されたG50だが、操作感によりメリハリがありシフトチェンジが心地よい。

つまり、タイプ964は先達より明らかに洗練された911だ。見た目もすっきりしたけれど、中身の進化がそれ以上に大きいことは乗れば理解できる。加えて、求めれば痛快この上ないパフォーマンスを披露しつつ、日常の中で使いこなすとしてもなんの不満もない。フルオートになったエアコンだってちゃんと効く。

そして、ここが重要なのだけれど、こういった印象は“カブリオレ”の試乗を通じてのもの。つまり、クーペだけでなく屋根開きモデルであっても、走りの鮮やかさと新たに手に入れた実用性は変わらない。プラスして爽快なオープンエアモータリングが楽しめるだけに、より奥深い魅力を湛えているとも言える。ボディスタイルにかかわらず、共通の魅力に浸れるのもまた、911シリーズのよき伝統なのだと痛感した。

全開状態でも80km/h前後までなら、コックピットへの風の巻き込みは十分に耐えられるレベル。こうしてオープンクルーズをゆったりとした心持ちで楽しむのもいいのだけれど、911カブリオレはやっぱり生粋のスポーツカーだ。研ぎ澄まされたM64ユニットの美味しいところを、存分に味わいたくなる。

電動昇降式のリアスポイラーを採用したこともトピックだった。80km/hを超えるとせり上がり、15km/h以下になると収納。室内スイッチの操作で“出しっぱなし”にすることもできる。一方、こちらも電動のソフトトップの開閉は、キーシリンダーの左上にあるタンブラースイッチで行う。ほぼブラインドタッチとなるが、ロックの解除などわずらわしさとは無縁で操作はいたって簡単。

3.2カレラはMY87で大型のベンチレーターダクトを採用したが、その時代と大きく変わらないインパネがドライバーの前に広がる。最も印象的な変更点は、メーターに警告灯が収められ(ティプトロ車はシフトインジケーターも)、さらに透過式照明となったことだろう。夜の撮影でなければ気づかなかったかも……。空調システムもさらにモダナイズされている。
前席はヘッドレスト一体型で、3.2カレラと比べるとポジションが若干高めの印象。後席は幌のフレームの収納スペース確保のため、左右幅がクーペより若干狭い。センターコンソールにはリアスポイラーの操作スイッチなどを配置。ペダルは相変わらず“下から生える”が、その左側のパネルが明確なフットレスト形状を持つのが新しい。
ラゲッジ内のレイアウトが刷新されたことに注目。ビッグバンパー時代は燃料タンクがスペースセイバータイヤを囲むように配置されていたが、タイプ964はバルクヘッド側に寄せて置かれる。これは4WD化に対応するためで、カレラ2/4に共通。

標準サイズは16インチだが、取材車にはオプションの17インチ・カップデザインホイールが装着されていた。ポルシェ承認のPOTENZA S-02Aが装着されているところをみると、大切にされていた様子。ブレーキはフロント4POTキャリパーが標準。

補機類ばかりが目につくエンジンルーム。クーリングファンは騒音低減のためにブレードのデザインが変更されている。タイプ964のフロアは空力向上のためアンダートレーで全体が覆われ、エンジンは下から覗いても見えない。

SPECIFICATION
PORSCHE 911 CARRERA 2 CABRIOLET
全長×全幅×全高:4245×1660×1320mm
ホイールベース:2272mm
トレッド(F/R):1380/1385mm
車両重量:1350kg
エンジン形式:空冷水平対向6気筒SOHC
総排気量:3600cc
ボア×ストローク:100.0×76.4mm

圧縮比:11.3:1
最高出力:250ps/6100r.p.m.
最大トルク:31.6kg-m/4800r.p.m.
変速機:5速M/T
サスペンション(F/R):マクファーションストラット/セミトレーリングアーム
ブレーキ(F&R):ベンチレーテッドディスク
タイヤ(F/R):205/55R16/225/50R16
新車当時価格:1100万円

HISTORICAL IMAGES

PORSCHE 911 CARRERA 4 3.6 & CABRIOLET & TARGA
MY89にカレラ4が登場。MY90にはカレラ2が追加され、どちらもクーペのほか先代3.2カレラと同様の成り立ちを持つカブリオレとタルガが用意された。MY93にはワイドボディをオープン化したカレラ2カブリオレ・ターボルックもラインナップ。

PORSCHE 911 RS
リアシートを取り、アルミボンネットを採用するなど軽量化を徹底したカレラRSは、MY92の限定車で総生産台数は2391台。専用サスペンション、17インチマグネシウムホイールなどが標準。エンジンはムービングパーツの厳選などで260psにパワーアップ。

PORSCHE 911 TURBO
1989年7月、930系ターボは生産を終えたが、タイプ964のシャシーに3.3リッターエンジン(320ps)を搭載しMY91に復活。さらにMY93には新開発の3.6リッターユニット(360ps)を搭載したターボ3.6(ターボ2)が登場。911シリーズ最後のRWDターボ。

PORSCHE 911 SPEEDSTER
3.2カレラのリミテッドバージョンとして登場し、大反響を呼んだスピードスターは、タイプ964でもMY93/94に用意された。カブリオレのボディをベースに2シーター化し、天地の狭いウインドスクリーンを組み合わせる手法は、3.2カレラのそれと同様だ。