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COLUMN

開発テスト参加者が語るA110完成までの軌跡DEVELOPMENT OF ALPINE A110

モータージャーナリストの石井昌道氏は、新型アルピーヌA110の国内上陸を、ある意味で最も待ち望んだと言える。なぜなら日本でただひとり、A110の開発テストに参加したからだ。ここでは開発に参加した経緯、そして生産モデル完成までを本人に振り返ってもらおう。

TEXT&PHOTO / 石井昌道
SPECIAL THANKS / アルピーヌ・ジャポン(https://www.alpinecars.jp

開発テスト参加者が語る
A110完成までの軌跡

2016年の冬、アルピーヌから1本の電話がかかってきた。発売まで約1年にせまったA110の開発テストに参加しないか? というお誘い。日本メーカーではそういった経験はあるものの海外メーカーは初めてであり、それも大いに期待を持っていたA110とあって喜んで“YES”と返したのだった。

狙いは、開発の最終段階に入ったところで数人のモータージャーナリストにも乗ってもらって意見を聞こうというもので、フランス、イギリス、ドイツ、日本といった有望市場からひとりずつピックアップされたのだった。自分に電話がかかってきた経緯は詳しくは知らないが、アルピーヌに関心があってそこそこ乗れる奴、ということだったらしい。英語もままならないのが不安ではあったが、先方は大丈夫と言うし、クルマの話ならある程度は通じると思い、まずは2016年12月にスペインに向かった。

石井昌道氏は自動車専門誌の編集部員を経て、モータージャーナリストへ転身。エコドライブの研究を熱心に進めており、クルマのジャンルを問わない執筆活動を展開している。ワンメイクレースなどへの参戦経験を持ち、“走って書ける”モータージャーナリストとして、アルピーヌA110の開発テストへ参加した。自らも2020年秋に新型A110を購入している。

テストは2日間。1日目は、業界では有名な自動車エンジニアリング会社『IDIADA』近くのワインディングを中心に走り回った。ここは開発テストのメッカでもあるらしく、実に走りがいのある道。しかもそこを知り抜いたテストドライバーが先導してくれたので、安心して猛烈なスピードで走れた。A110のコーナリングスピードは想像していたよりも速く、後方からついてくるメガーヌR.S.トロフィーがコーナーを2つ3つクリアしたところでルームミラーに映らなくなるほど。これならロータス・エキシージやアルファロメオ4C、ポルシェ・ケイマンといったライバルを遙かに上回るだろうと確信したものだ。

2日目は貸し切りのサーキットでテスト。シャシーはすでにほぼ出来上がっていたが、リアスタビライザーを2種類用意して乗り比べた。径を太くしてロール剛性を高めた仕様は安定性が増すものの、アンダーステア傾向になりコーナー入り口で待ちの時間が生じるようになる。もうひとつの径が細い方はほぼニュートラルになってそれこそミズスマシのように自在。参加したすべてのドライバーが後者を推し、それが市販車のセッティングに決定した。1年前の開発テストのわりにずいぶんと煮詰まっていると感じていたのだが、先日来日していたシャシー・エンジニアのテリー・バイヨン氏に改めて聞いたところ、1年をかけて理想の性能目標に向けてコンピューター・シミュレーションを繰り返し、それを実車に落とし込んだ最初の開発車両(2013年春)からして、すでに完成度が高かったそうだ。

アルピーヌが有望市場と目する、フランス、イギリス、ドイツ、日本の5ヵ国から開発テストに参加するメンバーが選出された。完成したA110の魅力はズバリ、アンダーステア知らずのハンドリング性能だ。

シャシー系で唯一気になったのはパワーステアリングのフィーリング。フロント荷重が少ないA110はあまりアシストに頼る必要がないため、さほど容量が大きくはないコラムタイプを採用しているが、中立付近や微舵域がやや曖昧だった。それよりも課題はパワートレイン。ルノー日産の新ユニットの開発に最初に着手したモデルだったことも苦労した要因だろう。低・中回転域ではトルクが太くていいのだが、5000r.p.m.を超えると回転上昇感が鈍り、スポーツカーにとっては伸びやかさが今ひとつ。DCTとの連携でも、レブリミットにあてるとぎこちなくなることがあった。また、高回転を多用しているとすぐにセーフモードに入ってしまうという現象もあったので、クーリングの改善か、それに問題がないのならプログラムを書き換える必要があった。

DCTのレスポンスが遅いことも問題。ただし、データを見るとそんなはずはないと言うので皆が首をかしげていたが、イギリスのジャーナリストがパドルの剛性が低いので操作に対して反応が遅れていることを発見。単純な話だが、意外なところに落とし穴があるのだった。帰り際には「日産GT-Rの2017年モデルのパドルが素晴らしいので試してみて」と伝えた。チーフエンジニアのデビッド・トゥーヒグ氏は“901活動”のときに日産にいたので、たくさん知り合いがいるのだ。

翌年6月には2回目のテストに参加。今度はフランスだったが、1日目はワインディング、2日目はサーキットというメニューは変わらない。1回目で出た課題はすべてクリアされていて、いま乗る市販車とほぼ変わらないことを確認してあとはひたすら楽しんだ。

A110の見所はやはりアンダーステア知らずのハンドリングだが、それは最初からの狙いであり、理想通りに仕上がっていると言えるだろう。快適な乗り心地との両立も見事だが、デイリースポーツカーというコンセプトも当初からブレていないのだ。