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ベルリーヌとはまた違った魅力CITROËN DS 23 SAFARI

いまだ熱狂的なファンが多く存在するシトロエンの誇る名車「DS」。愛され続ける理由は、ハイドロニューマティックといったメカニズムももちろんだが、なんといっても宇宙船のような美しいボディライン。ここで登場するのは、その派生モデルであるワゴンボディのサファリ。こちらにはまた、別の魅力が備わっている。

TEXT / 森口将之 PHOTO / 内藤敬仁
SPECIAL THANKS / コレツィオーネ(https://www.collezione.co.jp/

ベルリーヌとはまた違った魅力

ハイドロニューマチック、略してハイドロはワゴンに向いていると昔から言われてきた。荷重によらず車高を一定に保ち、快適性能や運動性能を維持する特徴は、ラゲッジスペースに多くの荷物を積むワゴンにこそ適したものと考えられたからだ。だから歴代ハイドロ量産車でSMとC6を除く全車種に、ワゴンを用意したのだろう。

ただパイオニアであるDSとIDについては、その前のトラクシオン・アヴァンからの系譜も見逃すわけにはいかない。トラクシオン・アヴァンには3種類のホイールベースがあり、もっとも長いホイールベースには3列シートのファミリアールや商用のコメルシアルなどが設定されていたからだ。

その流れを受け、パリサロンでまずID19のワゴンがお披露目されたのは1958年。翌年からまずブレークとコメルシアルが生産開始となり、1960年にはファミリアール、次の年には救急車のベースとなるアンビュランスが加わった。

3125㎜のホイールベースはベルリーヌと同一。ブレークは7人乗りで、折り畳み可能な後席の他、荷室にも向かい合わせに座る2人分の補助席も用意された。ファミリアールは3+3+2の3列8人乗り、コメルシアルはベンチシート2列の6人乗り、アンビュランスは後席を2:1分割折り畳みとして担架の格納を可能としていた。

ちなみに今回の取材車のことを、DSのブレークと総称することが多いようだが、このボディにDSの2文字が与えられたのはモデルライフの最終盤、1973年のことで、それまではワゴンボディはすべてIDだった。

DSの廉価版という位置付けだったベルリーヌのIDとは内容がやや異なる。ベルリーヌのIDは、サスペンション以外のブレーキ、ステアリング、ギアボックスにはハイドロリックシステムは用いられなかったのに対し、ワゴンのブレーキは当初からハイドロ系を用い、1968年からは同じ油圧を用いた2ペダルのギアボックスも選べるようになっていた。

エンジンは当初はトラクシオンから受け継がれた3メインベアリングの1911㏄直列4気筒OHVで、この時点ではベルリーヌと同じだったが、1966年に5ベアリングの新設計OHVが登場すると、車名はID19のまま排気量は1985㏄に拡大され、ベルリーヌではDSにしか積まれなかった2175㏄版がID21の名とともに登場している。

DSを名乗るようになった1973年は2347㏄も投入され、DS20とDS23の2本立てとなったのだが、2年後には生産を終了しているわけで、このボディの呼び名はもう一度議論し直す必要があるかもしれない。

取材車のサファリという名前は、ブレークの英国向け名称で、ファミリアールにはツアーマスターという名を与えていた。右ハンドルなのはそのためだ。

シトロエンは1926年に英国バークシャー州スラウに生産施設を開設しており、トラクシオン・アヴァンや2CVなどを作っていた。DS/IDもその流れで英国での生産を開始。現地では2ペダルのハイドロリックトランスミッションはあまり好まれなかったようで、MTの比率が多かった。

ワゴンボディは商用車や救急車は用意されず、サファリとツアーマスターの2タイプがラインナップされた。エンジンについては同じ時代のフランス製に準じている。1966年からはフランスからの輸入になったが、サファリ/ツアーマスターというネーミングはモデル末期まで継承した。

取材車はDS23サファリなので、右ハンドルではあるがフランス製になる。ハイドロリックトランスミッション装備車でステアリングもパワーアシストだったから、ベルリーヌのDSのスタンダードスペックに近い。

DSのクルマづくりは当時のアメリカ車の影響を多かれ少なかれ受けていると思っているのだが、サファリはテールフィンやラップラウンドしたリアウインドーなど、スタイリングからもその傾向が読み取れる。その一方で洋上を駆けるクルーザーっぽい雰囲気も伝わってくる。

一方で真横から眺めると、リアに大きな曲率のガラスを使うことで、開口部の大きさと荷室容量の広さを両立していることが分かったりする。リアシートは折り畳み式でありながら極上の着座感はベルリーヌと同じ。太めのピラーとスロープしたルーフによる独特の囲まれ感は得られないけれど、快適性能に一切の妥協はない。

操作系は左ハンドルと共通。キーを捻ったら、シングルスポークのステアリング奥から斜めに立ち上がったセレクターレバーを左に押してスターターを回し、エンジンが始動したらそのレバーを奥に追いやるように1速に入れ、ギアチェンジの際はアクセルペダルを戻しつつレバーを手前へ、そして横へと送り込んでいく。

今回の試乗車は、自分がこれまで体験したDS/IDの中では最上レベルで、前進している限りはベルリーヌのDSとほとんど同じ感触を抱かせた。でもしばらくすると、ルームミラーに目をやらなくてもワゴンボディであると分かる。エンジン音の届き方、ロードノイズの響き方、路面からのショックの受け流し方などが、ベルリーヌとはちょっと違っていたからだ。

騒々しいというわけではないのだが、分厚いプラットフォームのおかげで遮音性も図抜けていたベルリーヌのDSと比べると、フツーのクルマに近い環境を持っているように思えた。

DSをフランス語読みすると、「女神」という単語と同じ響きになる。ベルリーヌはその響き通り、世にある他のクルマからかけ離れた場所で、超然としているような存在に感じる。それに比べるとサファリは、後席周りの開放感や走っている時の音振の伝わり方などが現世的で、肩の力を抜いて付き合えそうな感じがする。

だから長きにわたりシトロエンはこのボディにDSの2文字を与えなかったのかもしれないけれど、ルーフラックをフル活用するような長旅をともにするなら、こういうキャラクターのほうがふさわしいと思うようになった。

使い古された表現だが、ソファのようなフカフカの座り心地の前後シート。リアシートはクッションが厚く快適な上、ダブルアクションで前方に倒すことができる。その場合はシート直前までフルフラットになる優れた作り。おかげで積載量はかなりありそうだ。
ダッシュボード上にバックミラーがレイアウトされるコクピット。ステアリングはスポークが斜めのこれが正位置となる。
A/TモデルはU字パターンのシフトレバーがステアリングラック上に備わるという独特のレイアウト。
ガラスのライトカバー、オーバーライダーなどによりフロントノーズは鋭利な印象が強く、これに長いフロントノーズが合わさることで特徴的なディテールとなっている。
ルーフ上には、現在となっては非常に貴重なアイテムとなる当時モノのルーフラックが装着されている。
鉄ホイールに鉄カバーと言う時代を感じさせる組み合わせ。タイヤは185/80R15と現代のトラックに使用されるサイズ。
トランクルームの右奥にあるのはクーラー。リアハッチのドアは上下に開く仕組みで、下側ドアはアオリになり荷物の積み下ろしの際に重宝する。

TOPIC

ワゴンモデルは全体の7%にも満たない希少性
一般的にDSブレークと呼ばれる車種が生産を開始したのは1959年で、当初の車名はID19であった。その後エンジンの刷新や排気量拡大によってID21やID20が登場する。実はDSを名乗るのは1973年からで、DS20とDS23の2車種構成になった。ワゴンボディの総生産台数は約9.4万台と、145万台に達したDS/ID全体からすると驚くほど少ない。フランスではブレーク、ファミリアール(7 人乗り)、コメルシアル(商用)、アンビュランス(救急)の4 タイプがあったが、この中ではブレークが最多。次は驚くことにアンビュランスで、年によっては4分の1を超えることもあった。すべてが救急車に使われたのかどうかは不明だが、意外なエピソードではある。

PROFILE/森口将之

DSのワゴンモデルは久しぶりとのことで、今回の取材を楽しみにしていた筆者。今回の試乗車は内外装はもちろん機関の程度が非常によく、この個体をすっかり気に入ったようだ。

Specifications
CITROËN DS 23 SAFARI
全長×全幅×全高:4991×1790×1537mm
ホイールベース:3124mm
トレッド:1499 / 1302mm
車両重量:1384kg
エンジン:直列4気筒OHV

総排気量:2347cc
最高出力:130ps/5250r.p.m.
最大トルク:19.9kg-m/2500r.p.m.
サスペンション(F&R):ハーフダブルウイッシュボーン
ブレーキ(F&R):ベンチレーテッドディスク
タイヤ(F&R):185/80R15