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COLUMN

愉しくて速いリアエンジン・ルノーRENAULT DAUPHINE GORDINI & TWINGO GT

リアオーバーハングにパワーユニットを置くRRは、VWビートルの影響で拡散し、しかしいくつかのデメリットによって進化が途絶えていた。かつて印象的なRRモデルをリリースしていたルノーも現代ではすっかりFF専業のイメージを纏っている。だが新型トゥインゴが再びRRとなったことで脈動は再びはじまった。ドーフィン・ゴルディーニのDNAをトゥインゴGTの中に探してみた。

TEXT / 吉田拓生 PHOTO / 田中秀宣
SPECIAL THANKS / ツール・ド・フランス(ドーフィン), ルノー・ジャポン(トゥインゴ https://www.renault.jp

愉しくて速いリアエンジン・ルノー

クルマに興味がない人にとって、エンジンの搭載位置など知りたくもないだろうが、ファナティックにとっては違う。原動機が車体の後方に行くほど興奮は高まる。それは何も、羽の生えたポルシェ911のような特別なモデルである必要はなく、普通のアシグルマでも話のネタには充分だ。現代ならばルノー・トゥインゴがその代表格だろう。

今から2014年に3代目ルノー・トゥインゴが発表された時、エンジンがリアエンドに搭載されている事実に注目が集まった。現代においてリアエンジン(RR)車はそもそも数が少なく、もはやそのドライブフィールを体感したことがある人も少ない。それゆえにRRレイアウトのクルマにポルシェに通じる何かを期待する人がいても不思議ではない。さらにルノーのホットハッチ作りの精神とRRが組み合わさるとなればスポーティな化学反応も当然のように起こるだろうという読む人も少なくなかった。

今回200台の先行発売というかたちでリリースされたトゥインゴのチューンアップ・モデルであり、後にカタログモデルとなることが発表されているトゥインゴGTはつまり、デビュー当初から期待されていた化学反応の第一弾といえる。

平凡なリアエンジン4ドアのルノーに、チューニングを施したモデルは同社のアーカイブにも存在する。ルノー初のリアエンジン車である4CVの後継モデルである5CVことドーフィン。このクルマのパワーユニットに、魔術師アメデ・ゴルディーニがチューニングを施したドーフィン・ゴルディーニがそれである。速いルノーのRRといえばR8ゴルディーニもつとに有名だが、今回上陸したてのトゥインゴGTと肩を並べることになった1台はドーフィンの方である。

1956年生まれのドーフィンのベースとなったのは、戦後のルノーを一気に世界的な自動車メーカーへと押し上げた中興の祖、4CV。我が国では日野自動車によってノックダウン生産され、タクシーにとしても重宝された。4CVは乗用車としても優秀だったが、RRレイアウトによってロードホールディングがめっぽう高く、モータースポーツシーンでも非凡な成績を挙げた。1954年のミッレ・ミリアでクラス7位までを独占した他、ラリーやレースで無数のトロフィーを集めたのである。そんな4CVの抑揚豊かなボディラインを思い浮かべれば明らかだが、後継たるドーフィンのボディは4CVのそれをシンプルに構築し直して室内空間を広く確保しつ、モノコック構造の完成度を高めたものだ。

素のドーフィンはリアエンドに845ccの水冷直列4気筒エンジンを縦置きし、エンジン前方に3速M/Tのギアボックスとファイナルドライブを備えていた。4CV譲りの圧倒的なロードホールディングはドーフィンにも受け継がれており、ゴルディーニのマジックに頼る前の段階でもミッレ・ミリアの1リッター以下のツーリングカークラスで無敵を誇り、ツール・ド・コルスではオーバーオールウィンを成し遂げていたのである。

そんなドーフィンに対してアメデ・ゴルディーニが行ったチューニング・メニューは真っ当なものだ。キャブレターを径の大きなものに換え、これに合わせてシリンダーヘッドに手を入れて圧縮比を高め、排気系を効率の良いものに改める。これによって26psだった最高出力は35psまで高められているのである。また同時にギアボックスも新開発の4速が導入されたので、素のドーフィンからの進化は圧倒的だった。

とはいえそんなスペシャル・チューニング・ドーフィンの見た目は実に穏やかで滋味深い。グレーの塗色もそのままフランスの枯れた映画に出てきそうな雰囲気だし、外観をぐるりと見回してみても“スペシャル版”を思わせるバッヂはどこにも見当たらない。インテリアを覗き込むとシートも平たいので、モータースポーツというよりもピクニック・バスケットの方が似合いそうだ。

見た目より重量感のあるドアを開け、フランス車特有の5センチ以上沈み込んでからお尻をやさしくホールドしてくれるシートに腰かけると、ようやくダッシュパネルの中央に象徴的なGORDINIの文字が見つかった。

チューンド・エンジンを搭載したモデルであるにも関わらず、ドーフィン・ゴルディーニの走りを支配しているのはエンジンパワーではなく圧倒的な軽さだった。卵の殻に包まれたようなボディの軽さが剛性感を演出し、エンジンパワーをそのまま推進力に変える。細身のステアリングは切り込んでいく際には軽く無表情な感じだが、コーナーのエイペックスから戻していく際にはセルフセンタリングが強く、手のひらでリムを滑らせているだけできれいにロールを収束していく。

コーナリングではRRレイアウトを感じさせるほどお尻が重い感じはしないし、スロットルアクションに対するフロントタイヤのグリップの変化も微々たるものだ。リアサスはファイナルドライブのすぐ脇から生えるドライブシャフトの根元を起点としたスイングアクスルなので、雑なスロットルオフは厳禁だ。リアの車高変動と合わせてリアタイヤの接地面積も変化し、唐突なリバースステアが起こりかねない。だがこの現象は四角くて太いタイヤを履くと顕著になるものなので、標準サイズのタイヤをチョイスし、常識的な走りに徹していれば全く問題はない。

ドーフィン・ゴルディーニの静かな室内で、かつてドライブしたR8ゴルディーニの記憶と重ねてみると、思っていたほどピタリと一致しない事実に気づかされた。R8の方が全体に重く、フロントサスペンションの上下動が大きい。R8はボディが重いので、乗っていてもっと太いタイヤとさらなるエンジンパワーがほしくなる感じだ。

ドーフィンの車重は驚くべきことに660kgしかない。R8は850kgもあるので、ドライブフィールが異なるのは当然なのかもしれない。見た目以上にスッキリと走り、現代の交通に交じっても遜色ないドーフィン・ゴルディーニ。35psと聞くと何ともちっぽけなパワーに思えてしまうのだけれど、丸みを帯びた愛らしいボディにはスペックを遥かに超越したポテンシャルが備わっているのである。

すっきりとしたミネラルウォーターのようなドーフィンに比べると、オランジェブレイズMという専用色と黒いストライプで飾られたトゥインゴGTは昨今流行りのエナジードリンクのような押しの強さがある。

コンパクトなボディに17インチ・ホイールという組み合わせも威圧的だが、ルノースポールの仕立てによってポテンシャルがきっちりと上げられているので、タイヤのアップレートが欠かせないのだろう。

時代柄を考えれば当然のようにシンプルな見た目に終始するドーフィン・ゴルディーニ。スポーツモデルを思わせるギミックは皆無に近く、ただ素のドーフィンよりも25%アップとなった動力性能によって主張する。ダッシュパネルには視認性の高いスピードメーターは備わるがレヴカウンターは存在しない。それでもエンジンの感触でそこそこのリミットは判別がつく。オリジナル度がすこぶる高くコンディションも極上であるこの個体はアルピーヌA110のスペシャリストであるツール・ド・フランスの販売車両だった。

今回借り出したトゥインゴGTのパワーユニットは0.9リッター・ターボの3気筒で、ノーマルの90psから109psまでパワーアップされている。ギアボックスは後のカタログモデルには6EDCも用意されるが、今回の取材車は5速M/Tだ。

かつて我が国に新型トゥインゴが上陸した際も、リアエンジンを大いに意識して試乗した。だがパワーに対してシャシーが完全に優っている印象で、コーナーの途中から全開加速で立ち上がるようなことをしてもリアをグッと沈めるわけでもなく飄々と走っており少し残念な感じがした。

一方でステアリングはやけに軽く、前輪が90度横を向いてしまったように思えるほどよく切れる。ちなみに普通のFF車の前輪切れ角は30度程度。対するトゥインゴは49度というから、これは最強の縦列駐車マシーンである。これまで軽自動車でなければ収められなかったようなタイトな駐車場でも楽々入れることができそうだ。とはいえ今回は実用性の面はどうでもいい。むしろ気になるのは、リアエンジン・ルノーのDNA判定であり、さらにトゥインゴGTがベースモデルを遥かに超越したコンパクト・スポーツカーとして完成しているのかという点である。

ノーマルのトゥインゴは当たり前のようにシャシーファスターであり、さらなるパワーを許容できるはずという印象を多くの人が持ったはず。その読みというか願望に対する答えが、今目の前にある。

外観に呼応するオレンジ色が入ったスポーツシートに腰かけ、走り出す。昨今はパワーの盛り上がりがターボなのか可変バルタイによるものなのかよくわからないクルマも多いが、GTはすぐにターボの存在を嗅ぎ取れる。3000回転以下では少しダルくて、3500回転でモヤモヤとした予感が満ちて、4000回転以上でダムが決壊する。というほどダイナミックなものではないが、趣味人が喜ぶターボのクセがはっきりとある。けっこうエンジンを引っ張らないとシフトアップの度にトルクバンドを外してしまうのだが「誰でもうまく操れるわけではない」という部分をむしろ歓迎したい。40%高められたGT専用のショックアブソーバーも見事な捌きで、ストロークを規制しない代わりに、戻りをゆっくりとさせてドライバーに不安を抱かせない。

今回はほんの少しクルマに触れたという程度なのでハイスピードでトゥインゴGTがどのように立ち振る舞うのか確認できなかったのだが、なんとESC(横滑り防止装置)の介入をわざと遅らせて微かなドリフトを許容するように設定されているというではないか。

ボクはウェット路面でポルシェ911を10回くらいスピンさせた経験があるのだけれど、あの自分のコントロール下から外れた瞬間の、リアエンドに大量の米俵が落っこちてきたようなハプニング感覚はちょっとしたトラウマとなっている。だが一方、かつての愛車スズキ・フロンテ・クーペはリアに積まれた軽量な3気筒エンジンと、ドライバーの重さがいい具合に荷重を分配する結果となってミッドシップに近い一体感を得ることができた。トゥインゴGTもつまり、後者の傾向があるから“横滑り”を許容できるのだろう。

トランク下にあるエンジンルームを覗き込んでみるリアアクスルの真上に傾斜したエンジンが載っているように見える。さらに透視図でチェックするとエンジンの後ろにファイナルドライブがあるように見えるので、つまりトゥインゴはエンジンをホイールベース内に置くミッドシップではないだろうか?

その真意はともかく、ポルシェ911のように大パワーのエンジンがリアアクスルの後方に伸びるようなRRでないことは確かだ。しかもリア脚はドーフィンのスウィングアクスルではなく、なんとド・ディオンアクスル。つまりリア2輪のスパンはほぼほぼ正確に保たれる。言うなれば、ドリフト状態を感知しやすい形式なのである。ウェット路面で目一杯走らせたら、相当な満足感が得られるのではないだろうか?

現代においてトゥインゴGTのようなクルマがオーバーオールウィンできる国際モータースポーツはないから、このクルマの経歴は今後も白紙のままだろう。けれど偉大なるリアエンジンの先達、ドーフィン・ゴルディーニの末裔であることは確かであり、現代的なアシグルマでありながらクルマ好きのオーナーを喜ばせる術に長けた1台と言えるだろう。

かつてリアエンジンの実用車はトランクスペースの確保や操縦安定性の問題によって死に絶えた。けれどデメリットはパワーユニットのコンパクト化やスタビリティコントロールの進化によって潰され、再び脚光を浴びている。操舵輪と駆動輪を分けることができ、ドライブシャフトを持たないため組付けを含むコストが安く、ミッドシップと違い実用的な後席を確保でき、フロントボンネット下にエンジンがないことで歩行者衝突保護の面でも有利に働く。そして何より、RRで設計したシャシーはEVへの転用が容易である点も忘れてはならない。BMWのi3はEVのポルシェ911のような加速感を繰り出すことをご存じだろうか? そしてトゥインゴの兄弟車であるスマートにEVモデルがあるように、トゥインゴのEV化も物理的には可能なのである。

時代が巡って再びRRのブームがやってくる? さすがにFF車には少し飽きてきた人も多いと思うので、EVの時代と一緒にRRの時代が来るのも悪くないと思う。

普通のアシグルマとは違う、という自らの立ち位置をはっきりと表現するトゥインゴGTの外観。17インチの専用ホイールはボディの四隅で力強く踏ん張り、ハイパワーをイメージさせる。リアエンジンとはいえステアリングは電動アシストされ、適度なフィーリングに調整されている。トゥインゴGTはルノースポールによってチューニングされているが、実用性が損なわれていない点はさすがだ。左リアフェンダー上のインテークはターボチャージャーに繋がっており、吸気効率を23%も高めている。現在はマイチェンを受けたモデルが販売されている。