OTHERS

<その他コンテンツ>
ニューカー、ヤングタイマー、クラシック、オーナー、ライフスタイル、
カタログ、100ドロ、ミニカーなどなど
COLUMN

故郷で再生するNAロードスターマツダ"NA"ロードスター名車宣言! その2

マツダが「NAロードスターのレストアサービスを開始する」とアナウンスしたのは2017年暮れのこと。高級車以外では前例のないプログラムはなぜ生まれ、どのような意味を持っているのか。その本質をロードスターアンバサダーに訊く。

TEXT / 吉田拓生 PHOTO / 平井大介
SPECIAL THANKS / マツダ(https://www.mazda.co.jp

故郷で再生するNAロードスター

広島のマツダ本社敷地内某所に並ぶ、バラバラにされたNAロードスターのパーツたち。こちらは復刻パーツを開発するための研究材料として使用された。こうしたひとつひとつのユーザー目線にたった真摯な姿勢は、ただただ頭が下がるばかりだ。

1989年にユーノス・ロードスターの名前でデビューした初代(NA)マツダ・ロードスターは、今日までに世界で43万台、我が国では12万台の販売を記録している。オープン2シーターという趣味性の高さから現在でも多くの個体がオーナーの元で大切に扱われ、ヒストリックにも通じる味を醸し出し始めている。

現存個体が多ければ、それだけ補修パーツの要求も存在する。そこでマツダは2017年、NAロードスターの補修パーツを新たに150点も復刻した上で、自社でレストアも行うという前例のないプログラムを発表したのだ。そこで今回はレストアサービスの拠点である広島のマツダ本社を訪ね、現行NDロードスターの開発主査を務め、その後はロードスターアンバサダーとして活躍している山本修弘さんにお話を伺った。

「NAロードスターのレストアサービスの計画は、2011年頃からマツダの商品本部内にありました。プログラムを発表した時、我々はレストア済のグリーンのVスペシャルと赤のスペシャルパッケージを展示しましたが、グリーンのクルマは2013年には完成していたんです。モノを売るだけでなくお客様に提供できる価値としてNAロードスターを末永く楽しんで頂くにはどうすればいいか、いわゆる”コトを売るビジネス”ですね。そこでパーツの有無を調べて、実際にマツダE&T(エンジニアリングや少量生産等を行う子会社)で1台レストアしてみました。どれくらいの手間や時間がかかって、どれくらいの仕上がりになるのかということの確認作業です」

NAのレストアサービスは、オーナーの声から立ち上がったという話を聞いた。

「我々は毎回ファンミーティングに参加していて、その中で以前からパーツ供給の要望はありました。最近は愛車をオリジナルの状態に戻したいと言う方も増えてきています。生産からけっこうな時間が経過していて、皆さんクルマを色々とカスタマイズしていて、そういえばオリジナルの感触ってどうだったかな、という思いが湧く頃合なのかもしれません。NAにいくら人気があるとはいえ、放っておいたらどんどん数が減っていってしまう。そのために我々も行動を起こさないといけないタイミングでした」

2010年代以降のヒストリックカーシーンはまさにカスタマイズからオリジナルとは? といった形にテーマが変わってきている。NAロードスターも誕生から25年以上が経過し、自動車史に名を残すヒストリックカーとしての風格を身に着けてきたということだろう。

「2015年後半からは、レストアをビジネスにするための仕組み作りに集中しました。プログラムの目的はロードスターに長く乗ってもらうためお客様との絆を結ぶこと。マツダがそういうクルマ作りをするブランドになっていくというこ

となので、レストアで利益を出せとは誰も言いません。でもプログラムを継続させるため絶対に赤字を出すわけにはいきません。その活動の中で、2016年に半年かけて赤い2号車をフルレストアしました。ビジネススタディ半分、モノ作り半分といった感じです。何しろマツダとお客様と1対1でビジネスをするという前例のない形なので、承認や輸送といった基本的なことから新たに考えていく必要がありました」

今回のNAロードスター・レストアサービスの凄いところは、まさに国産メーカーが苦手としている部分にメスを入れている点である。これは日本車というより、日本のモノ作り全体に言えることかもしれないが、昨今は使い捨ての文化が一般的になっている。旧いモノを直して使うことが美徳とされる感覚はあっても、それを実行している分野はごく僅かしかない。例えばイギリスやドイツのそれと比べれば、国産旧車のパーツ供給はお粗末な状況と言わざるを得ない。パーツが揃わなければレストアという話も出てこない。そしてロードスターは今なお命脈を繋いでおり、マツダとしては新車、現行NDロードスターも売らなくてはならない。

「中には『そんなことしていないでもっと新車を売らないと!』みたいに言う人もいます。それは当然ですよね。でも我々のさらに上に立つ人は、新車の販売も大切だけれどレストアサービスのようなことも将来のマツダのブランド作りには必要だということをちゃんと理解してくれています」

レストアサービスの概要を見ると対象車種は1.6リッターのいわゆるNA6のみ、しかも事故歴や修理歴、ボディにサビがあるクルマなどは受け付けていない。本来はサビているクルマを直すような行為こそレストアのはずだが、そこはメーカー主導の難しさだろうか?

「実際にプログラムが始まってみないと我々としてもわからないことが多いので、最初は程度のいいお客様の車両から手を付けて、少しずつ広げていきたいと思っています。実際にレストアを行うマツダE&Tのキャパシティもあって、1台のクルマを2ヵ月かけて直すプログラムになっていますし、作業の中で鈑金やフレームを修正しなければならない箇所があるとその分手間が掛かってしまうということもあります」

自動車メーカー自身によるレストアサービスは昨今では珍しいことではない。フェラーリやポルシェはもちろん、国産車ではホンダが初代NSXで同様のサービスを行っている。しかし今回マツダのプログラムがそれらとは一線を画している点は、NAロードスターが高級車ではないという点だろう。コストに関しても自ずと厳しくならざるを得ない。レストアの基本メニューは250万円となっており、その中には全塗装やフタ物(センターモノコック以外の外板部分)、ランプやワイパーの新品交換、復刻ソフトトップへの張替え等が含まれる。ヒストリックカーのレストアを理解している人ならば、新品ばかりを使って直す修理に違和感を覚えるかもしれない。だがマツダでは古いパーツに手をかけて直すより新品を使った方が、コストが掛からずクオリティも高くなるという。

「現状は36名ほどウェブで申し込んで頂いて、そのお客様のクルマを審査している段階です。車両確認は日時を決めてディーラーにクルマを持ってきて頂いて行うのですが、お客様自身は知らなくても、我々がリフトに上げてチェックしてみると補修歴があったりして、当初思っていたよりも時間がかかっています」

もちろんレストア・メニューの中にはインテリアやエンジン&パワートレイン、シャシー&サスペンション、エアコン、そして復刻ホイールとタイヤ交換といった個別のオプションが設定されており、それらを全て含んだフルレストアの価格は485万円に設定されている。価格に関して色々な見方はあるだろうが、内容とメーカー自身がレストアを行いそこに1年1万kmの保証を付けるということを考えれば、一般的なヒストリックカーのレストアと比べた場合でも、非常にリーズナブルと言っていいだろう。

「お客様からは価格が高いと言われると思っていたのですが、説明会で意見を聞いてみると、『お金じゃないよね』って言ってくれる方もいて安心しました。基本メニューさえやっておけば、後は部品の脱着が主ですから我々でなくてもできると思います。メーカーにとって重要なのはやっぱり部品の供給です。10年経ったら部品を作るのをやめてしまうのではなくて、需要がなくなってしまうから作らなくなるんです。我々がレストアサービスを行うことで”直せるんだ”という意識が広がって、部品の需要が増えてくれたらいいなと思います」

NAロードスターの修理は全国に数多あるスペシャルショップでもできるが、基本となるボディのリフレッシュなど”メーカーにしかできないこと”をしっかり理解している点は流石である。レストアの記録を付帯することもマツダしかできないサービスのひとつだろう。

「レストアの様子を写真に撮った記録とプログラムの概要をまとめた冊子を作り、そこにレストア前と後に私がチェックしたことに関してのサインをしてお客様に渡すというサービスも基本メニューに含まれています。レストアによってクルマのフィーリングがどのように変化したかということをお客様に伝えるんです。我々にはレストア車とは別にNAの”マスターカー”があるので、オリジナルの感覚というのは理解できている。こういったサービスこそ僕らのロードスターに対する想いをよく表していると思います。冊子を付けるというのは我々の発案ですが、でも他社さんも似たようなことはやっていました。ベンツやポルシェ、そしてNSXはアポを取って実際に工場を見に行きましたから」

現在はNAロードスターのレストアサービス実現に尽力する山本さんだが、レストアされたNAと自らが手塩にかけた現行NDの関係性をどのように捉えているのだろうか?

「レストアして新車のようになったNAに乗るかNDの新車に買い替えるかとなった時に、レストアサービスの250万円という基本価格はちょうどいい選択肢になると我々は思っています。どちらも走る歓びという点においては同じですからね。4代目NDは、その価値を『守るために変えよう』と言って作り込みました。NDはNAに比べて、走る、曲がる、止まる、環境対応、リサイクル含めて全部の領域で勝っています。でもファントゥドライブという面では、NDは背負っているものが多い。高級なフレンチは確かに美味しいけれど、でも日本人が塩むすびと味噌汁を食べた時の『あぁ美味しい!』っていう感覚がNAにはあるんです。何の飾りもないNAはピュアな原石であり、その点ではいくら性能が良くても勝てない。我々は自信をもってNDを出しましたけど、それでもピュアさではNAに勝てないんです」

四半世紀が過ぎても色褪せない原石。ミニやビートル、マスタングといった名車たちと同じように、NAロードスターは積極的なパーツの再生産によっていよいよ名実ともにヒストリックの仲間入りを果たそうとしている。 「レストアは年間で最大6台しか手掛けられませんけど、でもこれを通じて補修パーツの数が増えて、何かが変わっていくと僕らは思いたいんです。このプログラムが軌道に乗ってパーツ供給が充実すれば、海外のオーナーも恩恵を受けることになる。我々のところには日々世界中のファンから様々な手紙が届くので、彼らの気持をひしひしと感じています。ロードスターはマツダのブランドアイコンですから、我々はこの事業をやり続けなければならないのです」

こちらはNAロードスターのレストアサービスを実施するにあたり、マツダE&Tで実施されたレストアのトライアル。可能な限り新品の補修パーツを使用することで、リーズナブルかつクオリティの高い自動車メーカーならではのレストアが行われる。E&Tは設計や解析だけでなく特装車や少量生産にも対応するスペシャリスト集団であり、手塗りとなる塗装は新車を凌ぐほどだ。(写真:マツダ)
山本さんの元には日々、世界中のロードスター・オーナーから活動報告や手紙、写真や要望が寄せられる。マツダのブランドアイコンでもあるロードスターは一介のクルマという意味合いをとうに超越しているのである。

マツダ ロードスターアンバサダー/山本修弘さん

NDロードスターの開発主査として知られる山本さんは現在『ロードスターアンバサダー』という肩書きを持ち、その魅力を伝えるため積極的に講演活動等を行っている。NAロードスターのレストアサービスにおいても、走行フィールチェックなど重要な役割をこなす。トライアルで仕上がった2台、赤いスペシャルパッケージとグリーンのVスペシャルと共に。

NAロードスター レストアサービス概要

◎ レストア受付からの流れ
WEB申込み→書類審査→車両確認→受付(広島/横浜)→レストア作業→TUV認定→納車(広島/横浜)

◎ レストア作業の流れ(マツダE&Tにて通常約2ヵ月)
受入作業→分解→塗装→組立→完成検査

◎ 対象機種
NA6C 前期/NA6C 中期/NA6C 後期

◎ 対象グレード
標準車/スペシャルパッケージ/Vスペシャル/Jリミテッド

◎ 対象カラー
クラシックレッド/マリナーブルー/クリスタルホワイト/シルバーストーンメタリック/ネオグリーン/サンバーストイエロー/ブリリアントブラック

◎ 受付できない車両状態
錆が発生している車両/カスタマイズ部品装着車/ボディに修復歴がある車両(事前のヒアリングや確認を念入りに実施)

◎ 基本メニュー
ボディ&エクステリア(価格250万円)
車両診断/全塗装/フタ物新品交換/ランプ/ワイパー等交換/復刻ソフトトップへ張替

◎オプションメニュー (オプションのみの申込みは不可)
  A(インテリア/価格70万円)……インパネ/トリム類/シート表皮張替/カーペット交換
  B(エンジン&パワートレイン/価格80万円)……エンジンOH/吸排気部品交換/冷却系部品交換/トランスミッション交換/ドライブシャフト交換/デフ調整
  C(シャシー&サスペンション/価格40万円)……サスペンション交換/ブッシュ類交換/ベアリング類交換/ブレーキ部品交換
 D(エアコン/価格25万円)……エアコン関連部品(一部リビルト品使用)
 E (アルミホイール&タイヤ/価格20万円)……復刻アルミホイール/復刻タイヤ(1台分)

◎ フルレストア
基本メニュー+全オプションメニュー/価格485万円

◎ 保証
サービス施工内容および新品交換部品に対し1年1万km

*こちらは取材時点の内容です。詳しくは公式HPなどでご確認ください

●関連記事