コンパクトスポーツハッチ200万円対決!
言いたいことはわかるけど、この2台を比べるなんてあんまりじゃないか? かたやスイフトは現役バリバリのBセグスポーツであるのに対し、もう一方は「アバルト」のバッジこそ付いているけれど07年から使い続けるシャシーをベースにしたファッション・コンパクト。本ッ当に、いつもティーポは考え無しの無茶ブリだなぁ……とブツブツ言いながら、ブーンと繰り出したワインディング。
「本当に、スンマセンしたーーーーッ!」
いや決してナメてたわけじゃない。むしろアバルト500の足さばきには、かねてから敬意すら抱いてた。チンクエチェントを人気者にしている最大の理由でありながら、その運動性能においては一番のお荷物である重心の高い“丸餅ボディ”。これを巧みに支えながら、ちょっと上質感のある乗り心地すら出して粘るそのサスセッティングには、本当に感心していたのだ。
だがしかし……3万5000kmも走った14年式のアバルト500が、こんなにイイなんて誰が思うだろう!? そのダンパーは、ヤレたというよりこなれた感じ。ブッシュだって全然イケてて、試乗車は駆動系やラック周りのガタすら感じなかった。パワーは現行「595アバルト」の145psに対して10ps落ちの135psだけど、比べでもしない限りそこの速い・遅いは全く気にならない。
当日は気温が10度を下回るような寒さ。そこでアバルト500は新車同様しっかりと地に足を付けて、195/45R16インチのタイヤを素早く発動させながら、2300mmの短いホイールベースでキビキビと旋回した。そして日陰の危うい路面では、リアタイヤをズルズル~ッとさせながらも、そのグリップを最後まで見放さなかったのだ!!
実はココ、とても重要。こういう場面で後輪荷重の少ないFFにも関わらず一気にスパーッ! と行かないのはすごいこと。ましてやそれを乗り手がスローモーションに感じるくらいの安心感を持って操縦させるのは、アンダーステアを嫌いながらも、大衆車としての安全性を忘れない、フィアットだからこそできる芸当だ。
おしりのセンサーを働かせながら、重心の高いボディの慣性を逆に使ってクイクイ曲げて、切れ味のよいターボパワーで立ち上がる。そんな走りをする上で、独特のシートポジションから操る5速M/Tは心地よいリズムを作る。そしてのんびり走っても、上級モデルのコンペティツィオーネよりもちょっとソフトな足まわりが実に心地良い。こんなコンパクトカーが188万円で手に入るの? これは事件ですよ!
ただねぇ……スイフト・スポーツは「次元」が違う。なんせ車重は6速M/Tモデルで970kgと、500アバルトより140kgも軽い上に、同じ1.4リッターターボでもパワーは5ps高い140ps。そしてそのパワーを活かし切るボディを“スイスポ”は持っている。Bセグにして3ナンバー枠まで車幅を広げたのは、居住性が求められるベース車両の重心高に対しトレッドを広げてロールを抑えたかったから。ホイールなんてこの車格で5穴ですよ。
それでもサスセッティングの楽しさはアバルト500が上。スイフト・スポーツは、基本的にオーバーステアの“オ”の字も許容しない安定志向だけれど、フロントエンドのグリップが高いからグイグイ曲がるし、軽さとパワーを活かしたボトムスピードの速さが圧倒的だから、本気で走ると汗をかく。狭い峠の道幅がいっぱいに使えて、コースになってしまう。
ただあまりに軽すぎる車重に対し、意を決して選んだであろうコンチネンタル・スポーツコンタクト6を抑えきるダンパー容量が足りず、またそのエンジンも、オイシイところでリミッターが入って「あと1000、いや500回転あったらな……」と思わされる。
そういう意味ではあと100万円くらい高くてもよいから「スイフト・スポーツR」みたいなモデルを出して、ギア比やサスセッティング、LSDの投入などをしてくれたら絶対に売れると思うのだが、車両価格が170万円(税抜)と破格値なのだから、それは自分好みに仕上げればよいのかもしれない。
奇しくも当日はシビック・タイプRに試乗したのだけれど、ここまで言えばどっちが等身大で楽しめるスポーツハッチかはわかってくれると思う。
そのベクトルは両者で全く逆方向。ただ運転する愉しさを追いかけているのは、どちらもおんなじ。スイスポは速さを極める熱血漢。いつでもどこでも快楽を求め、なにより可愛いのはアバルト500。サムライ魂に共感してスイスポをコツコツ仕上げるか、ちょうど食べ頃なアバルト500をぺろっとやるか。200万円予算でこれだけ楽しめるのだから、ここは大いに悩むべきである!
SUZUKI SWIFT SPORT
正統派スポーツハッチ


3ナンバーサイズだけあって堂々としたボディフォルム。立体的な造形のリアランプが目を引く。グラスエリアが異常な程小さいのが分かる。

新開発の1.4リッター・ブースタージェットエンジンは、リッター100psを実現する140psを達成。これに組み合わされるマニュアルトランスミッションは、クロスレシオギアでダイレクトな味わいのスポーティな仕上げとなっている。

コンパクトカーのスイフトとはいえ、タイヤ&ホイールはついに17インチへ大径化。

オーソドックスなデザインながら、ドライバーのやる気を喚起させるべく、メーターやパネルなどに「赤」が配されたコクピット。

フロントシートにはスイフトスポーツ専用のヘッドレスト一体型スポーツシートを採用。ヘッドレストの下にはSportの文字が躍る。

リアシートは狭いながらも大人3人が座れるスペースを有する。

トランク容量は265リッター。リアシートは分割可倒式を採用している。
SPECIFICATIONS
SUZUKI SWIFT SPORT
全長×全幅×全高:3890×1735×1500mm
ホイールベース:2450mm
トレッド(F/R):1510/1515mm
車両重量:970kg
エンジン:水冷直列4気筒DOHC+ターボ
総排気量:1371cc
最高出力:140ps/5500r.p.m.
最大トルク:23.4kg-m/2500-3500r.p.m.
サスペンション(F/R):ストラット/トーションビーム
ブレーキ(F/R):ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤ(F&R):195/45ZR17
価格:187.4万円~214.17万円
ABARTH 500
キャラ系スポーツハッチ


アルミホイールや大型バンパー、アバルトのバッジが付いてはいるものの、やはりこの丸っこいボディフォルムはカワイイと思ってしまう。

アバルト・グランデプントから採用が始まったお馴染みフィアット製の1.4リッターターボは、シリーズ中最も大人しい135ps仕様。

オプションで豊富な種類が用意されているアバルトのホイール。この車両は赤い縁取りのセンターキャップが目を引く16インチを履いていた。

前面のボディ同色パネル、丸をモチーフにしたデザインレイアウトなど、500のキャラを上手に生かしたインテリアはやはりシャレている。

フロントはセミバケットタイプのスポーツシート。

リアはフィアット500と同じながらセンターラインを入れることで、スポーティな雰囲気を漂わせている。ここら辺の演出はやはりうまい。

トランクのサイズは185リッターと小さなスーツケース2つでいっぱいなほどミニマム。リアシートは分割可倒式。
SPECIFICATIONS
ABARTH 500
全長×全幅×全高:3655×1625×1515mm
ホイールベース:2300mm
トレッド(F/R):1415/1410mm
車両重量:1110kg
エンジン:水冷直列4気筒DOHC+ターボ
総排気量:1368cc
最高出力:135ps/5500r.p.m.
最大トルク:18.4kg-m/4500r.p.m.
サスペンション(F/R):ストラット/トーションビーム
ブレーキ(F/R):ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤ(F&R):195/45ZR16