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波に乗るように、クルマに乗るCITROËN CX AMBULANCE

「架装車」。クルマ好きの皆さんなら、何度も耳にしていることだろう。大雑把に言えば、「生産車両をベースに、特定の目的のために特殊部品や装置を取り付けたり、車体やシャシィに改造を加えることによって作られた車両」となる。今回紹介するのは、シトロエンCXベースの救急車に、さらに手を加えて「波乗り仕様」としてしまった一台だ。

TEXT / 森口将之 PHOTO / 内藤敬仁
SPECIAL THANKS / ジャベル(https://javel.co.jp/

波に乗るように、クルマに乗る

この原稿を書いているのは2020年2月下旬。毎日のように新型コロナウイルス感染のニュースがテレビやインターネットから流れてくる。もちろん僕も恐怖を感じているひとりではあるけれど、同時にある車種に注目するようになった。それは救急車だ。

幸いにしてこれまで救急車のお世話になったことはないが、一連のニュースでさまざまな車両があることを改めて教えられた。某インターネットメディアから感染病患者搬送用救急車についての記事の依頼があったこともあり、今年になってこの分野の知識が一気に増えてもいる。

それとともに、自分にとってもっとも多く足を運んだ外国でもあるフランスの救急車を思い出してもいる。

昔の救急車は患者を病院に運ぶことが任務で、救急隊員は応急処置しかできなかった。しかし搬送中に命を落としたりすることも多かったことから、現在は車内で救命行為などができる車両が主流になりつつある。そのためワゴンではなくワンボックスをベースとすることが多くなった。これは日本もフランスも同じだ。

しかしながら見た目で言えば、ワゴンタイプのほうに引き寄せられる。特にフランスは、おそらく快適性の高さが理由で、ハイドロニューマティックを備えたシトロエンが数多く起用された。ただでさえ個性的なシトロエンのブレークをベースに専門業者が架装を担当したその姿は独特の機能美にあふれており、任務を含めて考えれば尊敬の気持ちさえ抱くものだった。でもそれを日本で見ることができるうえに、ドライブすることになろうとは思わなかった。

ここからはフランス流にアンビュランスという言葉を使わせていただくとして、僕がフランスに足を運ぶようになったのは1980年代、当時の主役は今回の取材車でもあるCXだった。

前任車であるDS/ID同様、CXにもカタログモデルとしてアンビュランスが用意されていた。ブレークやファミリアールと同様、ベルリーヌでは2845mmもあったホイールベースを3095mmまで伸ばし、ルーフは途中からキックアップしていた。

しかしそのままでは狭いことから、実際はコーチビルダーの手でハイルーフを架装した車両が主流だった。CXの時代に数多くその仕事を担当していたのがウリエーズだった。

1920年創業の同社は、いまはバスの車体製作で知られているが、かつてはルノー5ターボやプジョー206CCなどのボディを手掛けており、シトロエンではBXやXMのブレークの他、ロータリーエンジン搭載のM35、WRCマシンのBX4TCなどを担当してきた。

ウリエーズの綴りはHeuliezで、これをユーリエと書く記述も見かけるが、たぶんそれは英語読みで、ユーチューブに登場するバスボディ部門のフランス人スタッフはウリエーズと発音しているようなので、この表記を使っていく。

ウリエーズが製作したCXアンビュランスでポピュラーなのは、ブレークのホイールベースはそのままにハイルーフ化したカザール(Qasar)と呼ばれるモデルだが、今回取材したシリーズ2の車両は明らかに違う。

シトロエンのスペシャルショップとして知られるジャベルの代表であり、取材車のオーナーでもある竹村洋一さんに車検証を見せていただくと、全長5・5mとある。日本仕様のファミリアールは全長4.95mで、前後バンパーはファミリアールと共通に見えるので、ホイールベースは約3.6m! 軽自動車がすっぽり収まってしまう。

1987年式のこのアンビュランスは、スイスにある救急車専門の中古車販売店で見つけ、チェコのファクトリーでパワートレイン換装、白からライトブルーへのボディカラー塗り替えなどを行い、日本にやってきた。

見た目以上に驚くのは中身だ。もちろん竹村さんは救急搬送用としてアンビュランスを手に入れたわけではない。趣味のサーフィンのパートナーとして迎え入れたのだ。巨大なリアゲートを開けると、3枚のロングボードの下にウエットスーツなどが収まっている。撮影のために荷物を出すと、その量に圧倒された。さすが全長5.5mの前輪駆動車だけある。

パワートレインは日本仕様にも積まれていた2.5リッター自然吸気と3速A/Tのコンビから、ターボとインタークーラーを装着したエンジンに5速M/Tを組み合わせたGTIターボ2用にコンバートしている。

この時代のターボエンジンとしては低回転から扱いやすく、スロットルペダルを踏んでいくと望みどおりに力を上乗せしていく。上までよく回るし、回すといい音がする。1720kgという車検証記載の車両重量を感じさせないほど自在に加速していける。

後ろを振り向くとマイクロバスのような景色が目に入って最初はドキドキしたけれど、サイドやリアにカメラを追加しているので、ボディサイズにはすぐに慣れた。各部に積極的に手を入れて使いやすさを高めようという姿勢に共感した。軽いステアリングや強力なブレーキのおかげもあり、走り出して10分ぐらいすると自信を持って扱えるようになっていた。

ハイドロニューマティックの乗り心地は、スタンダードのCXのふんわりゆったりした周期を、2〜3倍ぐらいに引き伸ばして届けてくるような感触。陸にいるのに波に乗っているようだ。そして海辺を離れ高速道路に入ると、このクルマの真髄を味わうことになる。3.5mを超えるウルトラロングホイールベースは、レールの上を走るような盤石の直進性。車線変更の時の向きの変え方は、まるで鉄道車両のそれのようだった。

患者の搬送という特殊な任務のために生まれたアンビュランスは、当然ながら極上の快適性や安定性を備えてしかるべきである。そこに着目してサーファーズエクスプレスに仕立てたオーナーの発想の豊かさと、想像以上の走りで期待に応えるアンビュランス。クルマ趣味における理想の関係を見せてもらえたこともまた、今回の取材の収穫だった。

「そびえたつ」という表現がぴったりなリアゲート。バンパーレベルから開くためかなり巨大だ。

まさに「広大」という言葉が相応しい荷室からの眺め。ルーフ上にも収納があり、おかげでロングボードも積載できる。明り取りの窓も備わる。

サーフボード専用の棚を取り付けることにより、ロングボードを含む3枚のボードが搭載可能となった。

エンジンは166ps/30.0kg-mのパワー/トルクを発揮するCX GTIターボ2のものを移植した。

エンジンをターボユニットへ載せ替える際、トランスミッションもそれに併せてA/TからM/Tへ換装したとのこと。

オーナーの好みにより、フロントシートは他のモデルのレザー張りを移植したそうだ。

普段はリアシートを使用していないそうだが、他のCXのフロントシートをリアに移植するという凝りよう。

フロントシートとリアシートの間の中央部分には、後付けの大型クーラーが備わる。夏はこれがないと暑くて車内にいられないそうだ。

タイヤ&ホイールもエンジン同様、GTIターボ2のワイズの広いものを移植し、ワイドトレッド化している。

実はカタログモデルのアンビュランス

シトロエンは第2次世界大戦前からアンビュランスをカタログに載せていた。戦後ではIDが有名で、ブレークやファミリアールとともに設定された。カタログモデルのルーフ形状はブレークと共通で、いくつかのコーチビルダーがハイルーフ仕様を手掛けていた。

CXアンビュランスがデビューしたのはベルリーヌの2年後となる1976年。やはりブレーク/ファミリアールと同時の登場で、IDではベルリーヌと共通だったホイールベースは250mmも伸ばされて3095mmになった。ハイルーフ化は架装業者の担当だった。

これ以外にH(アッシュ)のアンビュランスもあり、リアにハイドロニューマティックサスペンションを装備した車両もあった。

SPECIFICATION
CITROËN CX AMBULANCE
全長×全幅×全高:5500×1770×1910mm
ホイールベース:3665mm
トレッド(F/R):1520/1400mm
車両重量:1720kg
エンジン:直列4気筒SOHCターボ
総排気量:2500cc

最高出力:166ps/5000r.p.m.
最大トルク:30.0kg-m/3250r.p.m.
サスペンション(F/R):ダブルウィッシュボーン/トレーリングアーム
ブレーキ(F/R):ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤ(F&R):215/55VR15

PROFILE/森口将之

フランス車への造詣が深い森口さん、今回は仕事依頼の段階から「日本にあるの? しかも乗れるの?」とやや興奮気味に。当日はニコニコ顔で試乗をこなしてくれた。