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商用車離れしたジウジアーロの意欲作SUZUKI CARRY VAN

書画骨董の様に珍重されるヴィンテージ期の高級車などとは対照的に、道具として生まれ、役目を終えたら静かに歴史の舞台から去っていく商用車。しかし、我々の生活に欠かせないその存在は、“道具”ならではの機能美とも相俟ってあたかも古民具の様な郷愁を感じさせる存在にもなる。今回取り上げたのは、ジウジアーロの手による大胆なデザインが印象的な、4代目スズキ・キャリィバンだ。

TEXT / 増田 満 PHOTO / 内藤敬仁
SPECIAL THANKS / 小松田一恵

商用車離れしたジウジアーロの意欲作

ジウジアーロ/イタルデザインが初めて手掛けた量産車

国産車のなかで初代発売から現在まで、連綿と同じ車名が続く車種は意外と少ない。トヨタ・クラウンとカローラ、日産スカイラインとフェアレディZなど乗用車でも数えるほどしかないが、商用車となるといすゞエルフとスズキ・キャリイくらいなもの。クラウンの1955年発売は別格だが、エルフも同じ50年代の1959年発売、そしてキャリイは1961年の発売。そしてこの3車は、いずれも現在の市場で販売台数的にも成功している。特にキャリイはコンスタントに月4000台以上を販売する、軽トラック1位の車種でもある。

その歴代キャリイのエポックは、今回取り上げる1969年発売の4代目、L40型といっていい。カロッツェリア・ギアから独立してイタルデザインを設立したばかりのジョルジェット・ジウジアーロがデザインを手掛けているのだから。実はこのキャリイこそ、イタルデザインが初めて手掛けた量産車でもある。だが、L40は商業的に成功したモデルではない。特にバン・モデルは前後が同じようなデザインで異彩を放つが、それゆえ荷室容量ではライバルに対し分が悪かった。このことは個人商店などがメインの顧客だった当時としては致命的。スズキ・ファン以外の市場を開拓するまでには至らなかった。

やはり軽自動車規格の絶対的なサイズの制約は如何ともしがたい。類似性が指摘されるフィアット600ムルティプラですら3530mmの全長と1450mmの全幅を持つ。だが360cc規格でとびきり小さな当時の軽自動車ゆえ、キャリイは全長2990mm、全幅1295mmでしかない。当初のデザイン画ではもう少し大きなサイズを想定していたとも受け取れ、ここにスズキとジウジアーロの誤算が生じた。

商業的に成功しなかった1960年代〜70年代の軽商用車が辿る運命は、悲しいかな廃車される一方。おまけにL40キャリイ・バンのエンジンにはアルミ・シリンダーが採用されていた。このFB型空冷2ストローク・エンジンは初代ジムニーにも採用されている。そしてジムニーの方はコスト面から鉄シリンダーを採用。これが後になってキャリイの運命を左右する。キャリイの多くがジムニーの部品取りとして活用されてしまうのだ。だから現存しているキャリイバンは非常に貴重な存在となってしまった。

1970年のマイナーチェンジでボディ同色から黒いガーニッシュを備えるグリルにデザインが変更された。同時にエンジンは25psから27psへパワーアップされた。上り坂は苦手だが、平地では痛快に加速する。

L40キャリイは販売台数を上向かせるため、発売翌年の1970年に早くもマイナーチェンジしている。といっても荷室容量を増やせるわけもなく、フロントグリルのデザインを変更した程度。だが空冷エンジンは当初の25psから27psへと出力を向上させた。

スズキの2ストロークエンジン車といえば、水冷3気筒3キャブレターを採用したフロンテクーペが有名だが、L20キャリイに始まりジムニーにも採用された空冷2気筒もスズキらしい楽しいエンジンだ。さすがにフロンテのようにパワフルではないが、クランクへ直接オイルを潤滑させるスズキCCI方式により高回転域を得意としている。どうしても低速トルクが不足がちになるので、その分高回転でパワーを稼ぐ特性だ。

2ストローク時代のジムニーには乗ったことがあったが、この世代のキャリイは初めての経験になった。まずエンジン始動は何のコツもいらない。また発進時にも2ストロークだからといって3000回転や4000回転までエンジンを吹かす必要もない。アイドリングプラスの回転数でクラッチを繋げば、スルスルと動き出してくれる。そのまま回転数を上げていくと、そのフィーリングはまさにスズキ。独特のビート感を伴ってエンジンは抵抗らしい抵抗を感じることなく吹け上がる。つい面白くて2速3速と引っ張ってしまったほどだ。

とはいえ、このクルマでコーナリングを楽しもうなんて思ってはいけない。前述したように全幅は1295mmでしかなく、逆に全高は1575mmもある。重い母屋を背負っているバンであることを、運転していると嫌でも感じることになるのだ。自然とコーナーリング云々という気持ちはなくなる。またブレーキはこの時代の国産車としては標準的な4輪ドラム。しっかり整備されていたので不安はなかったが、ガツンと効いてくれるタイプではない。そして10インチタイヤ。エンジンが面白いからといって、トータルの走行性能はやはり50年以上前の軽自動車であると教えてくれるものだ。

取材したキャリイバンは1971年式の後期モデル。ボディカラーに合わせてカラフルな色に内装を張り替えてあり、オーナーはなんと女性。神奈川県で結成されたキャリイのオーナーズクラブに加入していて周囲にL40が数台ある環境。このバンが売りに出ると、仲間とともに引き取りに行ったそうだ。

キャリイにはトラックとバンが存在するが、バンはジムニーの部品取りにされたことが響いて残存数が非常に少ない。クラブで調べたところ、実働状態にあるバンは全国でも5台程度ではないかということだ。

荷室スペースを追求した商用車と言うよりも、フィアット・ムルティプラにも通じる“貨客両用車”といった風情で、今となっては大きな個性。

荷室はリアシートを立てた状態で740mm×1170mm×1010mm、リアシートを畳むと1320mmまで全長が広がる。空気を入れて膨らませる人形は当時のノベルティであるCCI坊や。

キャリイ・バンにグレードはなく、インパネにウッド調パネルが貼られるデラックスな仕様。そのシートはボディ色に合わせて前オーナー時代に張り替えられたもの。
エンジンはフロント・シート下に配置され、直後にスペアタイヤを装備するためリヤシート前に大きなデスクが備わり、伝票書きなどに使える。

サイドブレーキレバーにチョークとヒーターノブが備わるのも、この時代のクルマならでは。

SPECIFICATION
SUZUKI CARRY VAN(1971)
全長×全幅×全高:2990×1295×1575mm
ホイールベース:1475mm
車両重量:595kg
エンジン形式:空冷2ストローク2気筒
総排気量:359cc
圧縮比:5.8:1
最高出力:27ps/6000r.p.m.

最大トルク:3.7kgm/5000r.p.m.
トランスミッション:4速M/T
燃費:22km/リッター(60km/h)
サスペンション(F/R):ダブルウィッシュボーン/リジッドアクスル
ブレーキ(F/R):ツーリーディング式ドラム/リーディングトレーリング式ドラム
タイヤ(F&R):5.00-10-4PR
新車当時価格:37万9000円