OTHERS

<その他コンテンツ>
ニューカー、ヤングタイマー、クラシック、オーナー、ライフスタイル、
カタログ、100ドロ、ミニカーなどなど
COLUMN

木を見れば、その価値がわかるMORGAN ROADSTER

モーガンに関する逸話は数多あるが、”木で作られている”というのは良く言われる話だ。木が使われているのは本当だが、昔のマーコスのように完全に木製のシャシーを持っているわけではない。鉄製のラダーフレームとアウミニウム製のボディパネルの仲立ちをするかたちで木骨が介在しているのである。そんなモーガンのロードスターで木工家具職人を訪ねた。

TEXT / 吉田拓生 PHOTO / 田中秀宣
SPECIAL THANKS / モーガンカーズ・ジャパン(http://www.morgan-cars.jp)/GENYA WOOD WORKS(http://genyawood.com/

木を見れば、その価値がわかる

これまでも数回ドライブしているモーガン・ロードスターを前にして、少々センチメンタルな気分になってしまった。こんなことは初めてだ。彼らは1936年から作り続けられている名車である4/4の生産を終えようとしている。4/4が83年間も基本設計を変えずに作り続けられてきたことは奇跡に近いが、しかしそんな4/4の生産が終わるというのもまた耳を疑う、奇跡のような話だ。イギリスの少量生産車に対する特殊なレギュレーションに守られてきたこのクルマは、軽く100歳を越えるものだと考えられてきたからである。

モーガン・モーター・カンパニーは2019年にイタリアの投資会社、インベストインダストリアルからの資本を受け入れ、彼らはモーガンの筆頭株主になった。投資会社は条件なしに資金を提供してくれる気のいい連中ではない。伝統的な自動車メーカーを手に入れて満足するようなクルマ好きの大富豪とは違う。短期的な視野で金儲けをするか、さもなければ会社の価値を高めて売り払ってしまうか。

モーガンは手に入れた資金で古くなった工場施設を刷新し、生産台数を倍増させる計画を打ち出していた。だがその直後に発せられた一言が4/4の生産終了である。不人気モデルだったからではもちろんない。儲からない商品だから切られたのである。

4/4の生産が終わるとなれば、同じシャシー形式を持ったモデルも軒並み終わることになるだろう。もちろん、チャコールグレーのスーツに身を包んだ乱暴者のようなこのモーガン・ロードスターの運命も同じことである。

かつてロータスのコーリン・チャプマンは、誰よりもかわいがっていたレーシングドライバーであるジム・クラークがホッケンハイムのF2レースで事故死すると、追悼の意を表しロータス車のエンブレムを1年間だけ黒くした。モーガン・ロードスターはお洒落のつもりで漆黒のユニオンジャックを掲げているのだろうが、それが僕には物悲しく見える。

モーガンに関する逸話は数多あるが”木で作られている”というのは良く言われる話だ。木が使われているのは本当だが、昔のマーコスのように完全に木製のシャシーを持っているわけではない。鉄製のラダーフレームとアウミニウム製のボディパネルの仲立ちをするかたちで木骨が介在しているのである。現代ではまさに恐竜レベルの話に聞こえるが、4/4が生まれた1930年代には木を利用するのが当たり前だった。フレームは木骨、そしてボディはファブリック(布地)なんていうスタイルも珍しくなかったのだから、軽くて強い素材と言えばその筆頭が木材だったのだろう。

だがもし4/4が儲からないクルマなのだとすれば、その原因もまた木骨にあるのかもしれない。21世紀初頭に世に出たモーガン初のアルミシャシー・モデルであるエアロ8のボディ内部にも木は使われていたが、それは4/4と比べればそこまで重要な役割を負っていないように見えた。かつてモーリス・マイナーのトラベラーは、リアのワゴンボディの形成に本当の木骨を使用していたが、ミニのトラベラー/カントリーマンは鉄ボディの上から木材を張り付けただけのシロモノだった。エアロ8のそれはミニほど簡略化されてはいなかったが、アルミ・シャシー自体が幅を利かせていたのは確かだ。その方がクラッシュテストの結果もより均一になるのだろう。

モーガン・ロードスターでどこかへ旅して記事にしたら? と言われたのだがそんな気分でもなかったので、武蔵村山のGENYA WOOD WORKSに遊びに行くことにした。木工家具職人の坂野原也さんは”薪割り関係”の友達であり、当然のことながら木に対する造詣が深い。古いトライアンフ・ボンネビルとランクルをこよなく愛する彼はしかし、モーガンのことはほとんど知らないという。その方が新鮮かもしれない。

原也さんの工房は彼がひとりで切り盛りしている。天井の高い工房にはドイツ製の大きな製材マシン等が所狭しと置かれているが、それ以外の木製のものは当然のように彼の手作りである。彼にモーガンのことを話すと、さっそく木の部分に食いついてきた。

樹種はトネリコだと言われている、というと「なるほど、粘るからね。振動にも強い」という的確なコメント。製作する家具を全て木材から切り出して組み上げる木工家には、当然のように原木の状態から材を見立てる能力が求められる。木の種類とその特性、乾燥の具合、節のあるなし。それらを上手く組み合わせることで機能的な一品モノが出来あがる。

原也さんが見せてくれた椅子はボウバックチェアといい、背中を支える細い縦の支柱にトネリコ材が使われているという。粘りというか、しなりを考えての適材適所なのだろう。

モーガンの木の造作を見やすいのはドア周りの断面である。角材を組み合わせた四角いフレームにアルミのアウタースキンをかぶせ、内張の革も張りこんで釘で打ち付け、ヒンジを介してボディ本体とも接合される。ボディと一緒にウレタンペイントされてしまっている点が残念な点であり、辛うじて木目が見えるだけ。あとはリアボディの内側にずいぶんと木骨が使われているが、モーガンの木は、まあそんなレベルなのである

「あ、でもわかるな。段差を乗り越えたりすると、木の振動が。でも鉄の優しさもちゃんとある。コレほしいな」。狭山湖へと続く山道でさっそうとモーガンを走らせながら、原他さんはすぐにそういった。

個人的な印象を言わせてもらえば、モーガン・ロードスターは好きではない。かつてのプラス8を彷彿とさせる乱暴なまでのパワーは、いかにもイギリス人が好みそうなものだ。けれどフォードから供給されたV6エンジンに付いてくるフライホイールが重すぎて、エンジンがまさに”ブン回る”という感じに品がない。加速の度に木骨がミシミシいってそうだ。

「木はどんなに強度を考えて追及していっても、必ず弱点が出てくる。家具の場合、その弱点を知って使うのと知らないのとでは寿命が大きく違ってくる。でもこのモーガンみたいに、人から愛されるものを作れば、結果的に長持ちするんだけどね」

あって当たり前のモーガン。だが生産が終わると聞くと、妙にソワソワしてしまうのはなぜだろう。新世代のモーガンは現代的なアルミ・シャシーに引き続き木骨を載せ、もう少し早いペースで量産されるはずだ。効率に背を向けるスタンスにこそ価値があったモーガン。その未来は明るいのだろうか。

普段乗っているランクルに比べればモーガンはスムーズな乗り物? 木工家は初めてのモーガンでオープンエアドライブを堪能する。そこにあるのは木のしなり、鉄のやさしさ、そして粗野なまでのパワーだ。

SPECIFICATIONS
MORGAN ROADSTER
モーガン・ロードスター
全長✕全幅✕全高:4010×1720×1220mm
ホイールベース:2490mm
重量:950kg
エンジン形式:フォード・サイクロンV6 DOHC
排気量:3721cc
ボア✕ストローク:95.5×86.7mm

最高出力:284ps/6000r.p.m.
最大トルク:352N-m(35.9kgf/m)/4000r.p.m.
変速機:6速M/T
懸架装置:(F/R)スライディングピラー+コイル/5リンク+コイル
タイヤ:(F/R)205/60/15
燃料タンク容量:55リッター
車両価格:1012万円