クルマが先か模型が先か

同社代表の高林徹さんは、生粋のクルマ好きにして模型好き。世界的な模型メーカーとして知られるタミヤに入社して、そのキャリアをスタートさせます。その後、自分自身で模型メーカーを立ち上げたいと考えるようになり、さらにいくつかのメーカーで修行を積んだ後、いよいよミニカーの企画・製作を始めることになったのです。
最初に手掛けたのは1/43スケールのKPGC10、いわゆるハコスカです。高林さん自身はランドローバー・ディフェンダーのオーナーで、ミニのマークⅠやメルセデスのW123ワゴンが社用車(!)という、生粋の欧州車好きですが、日本の模型メーカーとして、まず国産車のミニカーを作ってみたかった、と。
ところが、その完成度とはうらはらに、出来上がって来たミニカーはなかなか売れない。そこで高林さんは一計を案じ、在庫のミニカーのホイールを交換し、フロントスポイラーやリアウィングを取り付けて、実車の世界で言うところの”ライトカスタム”化した商品に作り替えてみました。するとこれが大ブレーク。
それまでのミニカーは、基本的にカタログ写真のような”ノーマル”の姿で模型化される事が一般的。実車オーナーが、個人の好みでカスタムした状態を再現したミニカーというものは、当時まだ珍しかったのです。もちろん実車同様の”カスタム”を再現するわけですから、ホイールや外装パーツの組み合わせなど、けっして趣味のツボを外さないセンスの良さと実車に対する知識が求められます。高林さんをはじめとするスタッフは、今でも日本中の実車オーナーやチューナーの元に通い詰めているそう。
やがてこうした熱意とユニークな製品企画が知られるようになり、ミニカー・ファンはもとより、実車オーナーたちからも一目置かれる存在となっていったイグニッションモデル。そんな同社が、少し前からまた新しい試みを始めました。それが『イグニッション.モータース』という実車の販売。かつて模型メーカーは、プラモデルを作る”研究用資料”として実車を購入する事すらありましたが(タミヤがポルシェ911を買って分解したエピソードは有名)、タミヤ時代からそんな模型作りのDNAを受け継いで来た高林さんならではの挑戦でしょう。ミニカーから実車まで、趣味パワー全開の、同社の今後に注目です。

イグニッションモデルを展開するティーケー.カンパニーの社屋は、外観も内部もまるで個人宅のガレージのよう。ミニカー・メーカーにも中古車屋さんにも見えない。

同社代表の高林徹さん。プライベートではランドローバー・ディフェンダーなどに乗る欧州車好き。

写真だと実物と見分けがつかないが、モールトンの自転車も同社の1/6スケールのミニカー。

同社のガレージに収まる1/1のアルファは67年の右ハンドル、伊藤忠モノ。残念ながら売り物に非ず。

77年式のA110 1600Sもオーナー車。

ガレージの中のモールトン群は、模型にもなったスタッフの愛車。サーフボードからもお分かりの通り、高林さんはサーフィンもたしなむ。