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COLUMN

最新セブンのしっとり旅・前編CATERHAM SEVEN 160 IN SHINANO-JI #1

人は誰しも歳をとる。その一方で時代はどんどん進化する。でもガンバラナクチャ……。そんな日々の中「なんだか最近、慌ただしくって色々な事について行けねーや」なんて、ふと思う瞬間がある。そんな時は原点回帰。今、新車で手に入る"最も初期のロータス・セブンに近い"セブン160を駆って、ふらりと遠くに出かけてみよう。目を三角にして競争ばかりしていたら、見落としてしまう様なことが、きっとたくさん見つかるはずだ。

TEXT / 長尾 循 PHOTO / 田中秀宣

最新セブンのしっとり旅・前編

小雨が降ったり止んだりの生憎の空模様でも
暖かい言葉をかけてくれる宿場町の人情がうれしい

セブンに乗り始めた頃は、ひんぱんに峠や走行会に出かけたりしたが、それも今は昔。別に自分とクルマの限界まで頑張らなくても良いんだと思い始めた最近では、ひなびた街道を流すのも楽しい。

徒然その1  セブンとの歳月

もともとサンデー・レーサーのための小型・軽量戦闘機といったコンセプトで始まったセブンの歴史だが、ひたすらハードでストイックなスポーツカーというキャラクターの一方で、昨今では”ヒストリックカーの味わいを新車で味わえる、シンプルなスポーツカー”という、長寿モデルならではのキャラクターも兼ね備えてきている。

メーカー自体もそんな時代の風を感じているのでは、と思わせる1台が、少し前にデビューしたセブン160だ。既にカー・マガジン本誌でも何度か取り上げているが、改めて概略をご紹介するならば、これはスズキ製の3気筒660cc+ターボエンジンに、軽自動車用のデフを組み合わせて黄色ナンバーの枠に収めたモデル。

“ツクバで1分を切る!!”みたいな方向性とは対極の、その性能を日常で使い切る快感にフォーカスした1台だ。

このクルマを今回のツーリングに連れ出して、改めてセブンと暮らす生活について徒然なるままに書き留めて行こうというのが、このツーリングの主旨。口を開けばついつい昔話が多くなってしまうのは、年をとった証拠かもしれないが、そこは同世代のよしみということで、しばしお付き合いを。

ロンドン・モーターショーでロータス・セブンがデビューしたのが1957年のことだから、『セブン』は実に70年以上の歴史を持つスポーツカーだ。最初のシリーズ1と最新のケータハムを比べれば、もちろんフレームからパワーユニットに至るまで、まるで別物ではあるのだが”パイプフレームにアルミパネルをリベット止めした軽量・簡便なボディに、量産メーカーのコンポーネンツを巧みに流用して作った究極的にシンプルなスポーツカー”という、基本的なコンセプトは不変だ。

そんな潔いコンセプトに心を奪われ、私がセブンを手に入れたいと具体的に思い始めたのは、今から30年以上前の事。その始祖たるシリーズ1、イギリスのTVドラマ『プリズナーNo.6』のオープニングで一躍有名になったシリーズ2、ロータス・ツインカムを搭載したシリーズ3、ロータス時代としては最後となるシリーズ4、ケータハム時代になって、最新・最強のセブンとして登場したケータハムのBDR……。30年前の時代も、セブンの世界は豊かで、お好みのタイプがよりどりみどりの状況であった。まぁ、ただひとつ、予算の問題を除けば……。

社会人となって間もない身には、たとえ学生時代からアルバイトでためた貯金に長期のローンを足しても、ロータス時代のセブンや、ツインカム・エンジンを搭載したケータハムは高嶺の花。なんとか頑張って手に入れることが出来たのが当時5年落ちの、1600GTスプリントであった。

以来30年余、走ったり壊れたり直したりを繰り返し今に至るのであるが、その付き合いの中でウチのセブンは、”スプリジェット辺りに比べれば、ちょっと不便でちょっとハードだけど、まぁなんとか日常使いもこなせる相棒のような存在”となっていった。

そして今日、信濃路の宿場町をひとりトコトコと走っているうち、この160にうちの老セブンと同じ”吾唯足るを知る”多様性を感じたのである。

いま新車で手に入るセブンの中では最もオリジンに近い印象の160。現代の乗用車から乗り換えても過度なストレスは無く、セブンならではの世界が気軽に味わえる。これならば助手席の女性からも苦情は出ないかと。

起きて半畳、寝て一畳 最近になって、やっと欲張りじゃなくなって来た。
霧ヶ峰高原のワインディングを走っている途中に立ち寄った、ころぼっくるひゅって。その創業は1956年というから、ロータス・セブンのデビューより1年早い。山好きの間では古くから知られた存在。こんな大自然の中で、暖かいコーヒーが飲めるシアワセ。
協力:ころぼっくるひゅって(https://koro-kirigamine.hardrain.rocks/cafe/)

徒然その2  残りの時間

巷ではよく”一生もの”なんて言葉を耳にする。そのジャンルは色々だが、いずれにしてもそれらはたいへん上等な作りで、適切なメンテナンスさえ行っていれば、子々孫々にまで伝承出来る逸品。

しかし、本当に一生ものを大切に一生使い続け、さらにそれを次世代にバトンタッチするといったシチュエーションが、果たして今の自分の生活に於いて、どのくらいあるのだろうか。

スマホやパソコンを筆頭に、ありとあらゆる道具と大量の情報までもが計画的陳腐化の波にさらされる昨今では、うっかりすると身の回りが、自分の人生100回分でも使い切れない”なんちゃって一生もの”で埋もれてしまう危険もあるが、そんな世の中であっても、本来の意味での一生ものは確実に存在するはず……。そういえば、ウチのガレージに住み着いているセブンも、一生ものになりつつあるのかな……。

そんな事を考えながら旅の途中に立ち寄ったのが、白樺高原の女神湖からほど近い場所にオフィスを構える『エアロレザークロージングジャパン』。1975年に創業され、スコットランドでレザージャケットを製造している『AERO LEATHER CLOTHING」の日本輸入総代理店である。つい最近、その存在を知り合いから伝え聞いて、ちょっと興味深かったのでお邪魔してみたのだが、同社のレザージャケットは、まさにバイク乗りやオープンスポーツ乗りに適した逸品。ストックの中には第二次大戦中のRAF(ロイヤル・エア・フォース/英国空軍)の戦闘機乗りのフライト・ジャケットのデザインを再現したものなどもあって、セブン乗りとしてもちょっと気持ちが盛り上がる。

まず手にしてみて驚くのが、その重さと固さ。個人的には今まで欧米の”革の文化”には馴染みが薄かったのでなおさら。いずれのジャケットも、まるで鉛の板の様な堅さで、同社代表の屋氏が薦めてくれたジャケットを試しに羽織ってみると、大リーグ養成ギブスもかくやと思えるほど、まぁ満足に動けない。このままバイクなりセブンに乗ったら、最初の交差点も曲がれないんじゃないか。

これは、世界で最も品質の良いフロントクォーターという馬革を使用したレザージャケットならではの特徴で、10年、20年という時間をかけて”着倒す”事により、持ち主の体型や使い方に馴染んでくるという。

自分のものとなるのに、20年!!

“定年”の二文字を、近い将来の現実的なスケジュールとして認識する様になり、子どもは既に独立し、めっきり痛んで来た自宅のローンは残り僅か……。”残された時間”などというといささか大仰だが、自分の周囲の状況が、否応無くそんな現実を意識させる。自分の年齢と、自由に遊べる時間を考えたとき、やりたい事・やっておくべき事の優先順位を、無意識のうちに考えてはじめている自分に気が付く、今日この頃。

年をとるということは、そういったモノゴトをゆっくり考えるチカラが身につく、ということかもしれない。実際にこのジャケットを手に入れるかどうかも、自分の”残された時間(そしてもちろん妻!)”と相談しながらじっくり慌てずに考えよう。時間が少ないくせに、妙に落ち着いていられるのも、実はオジサンの得意技だ。

どうせ安いからと後先考えずにファストファッションを浪費する行為とは真反対。実にゆったりとした、人間らしい時間が流れていたエアロレザークロージングジャパンのオフィス。

「もし今からオーダーしていただければ、来年の冬には間に合うと思いますよ」そんな𡈽屋さんの声に送られてオフィスの外に出ると、秋の夕暮れの信州の高原は、ひんやりとした空気になっていた。

(後編に続く https://themotorbrothers.com/others/13384

スコットランドのAERO LEATHER CLOTHING社の日本輸入総代理店、『エアロレザークロージングジャパン』は、都会の喧噪とは無縁の静かな高原にある。本国と同様のオーダーメイドも可能とあって、熱烈なファンも多い。
協力:エアロレザークロージングジャパン(http://aeroleatherclothingjapan.com)