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COLUMN

最新セブンのしっとり旅・後編CATERHAM SEVEN 160 IN SHINANO-JI #2

人は誰しも歳をとる。その一方で時代はどんどん進化する。でもガンバラナクチャ……。そんな日々の中「なんだか最近、慌ただしくって色々な事について行けねーや」なんて、ふと思う瞬間がある。そんな時は原点回帰。今、新車で手に入る"最も初期のロータス・セブンに近い"セブン160を駆って、ふらりと遠くに出かけてみよう。目を三角にして競争ばかりしていたら、見落としてしまう様なことが、きっとたくさん見つかるはずだ。

TEXT / 長尾 循 PHOTO / 田中秀宣

最新セブンのしっとり旅・後編

かつて声高に趣味を語って痛い目にあったオジサンは、
今では人知れずひっそりしっとり、自分の好きな事に打ち込む

徒然その3  趣味のはなし

(前編はこちらから https://themotorbrothers.com/others/13368

ずいぶん前のこと、とある仕事絡みの会合で、どこぞのお偉いさん方の「○○さんは、実に多趣味でいらっしゃる」「いやいやそれほどでも」といったオトナな会話が聞こえてきたのだが、すると私の先輩である某氏(=とある趣味世界では筋金入りのお方)がすかさず「多趣味ってなぁ、結局無趣味のことだぜ……」とつぶやいたのを、私は聞き逃さなかった。

またある時、社内で若いスタッフたちがモデルガンやサバイバル・ゲームの話題で盛り上がっていた。その時、その場にいた新人のA女史は、会話に加わる事も無く静かに仕事を続けていたのであるが、実はそのA女史は防衛大学卒で、こちらに来る前は本当にその手の訓練に明け暮れていたとわかったのは、その少し後の事。若いスタッフたちはその時「これはF1レーサーの前で運転自慢をしてしまった様なもの」と、青ざめていたとか。

趣味の世界は奥が深い。ちょっとくらい好きだからといっても「そんな程度で趣味人を名乗るとは、片腹痛いわ」という剛の者が必ず現れる。だから私はカメラとかプラモデルとかミニカーが好きだ、なんてことは決して公言しない。

公言はしないが、ちなみに私はカメラが好きである。ただ単に好きなだけなので、普段はそのことを内緒にしている。しかし今回の旅のお供には、いつも仕事で事務的に使っているニコンのデジタル一眼レフは持って行かなかった。しっとり旅には、しっとりカメラがよかろうと、広報車ならぬ広報機材を手配してもらったのである。それがライカのM(Type240)。昔も今もライカはドイツ製精密機械の代表選手。第二次世界大戦後に開発されたMシリーズも台を重ね、今ではデジタルとなっていることにも時代を感じるが、取材に同行したプロ中のプロ、田中カメラマンをも虜にする、精密機械としての緻密な操作感から画像のボケ味にいたるまで、ライカならではの揺るぎない世界は健在。自分にとっては、大戦時のドイツ軍のPK(プロパガンダ・カンパニー/宣伝中隊)が最前線でバルナック型を使っていたという歴史エピソードだけでも、ご飯三杯もの。この記事の前編でご紹介したエアロレザーのレザージャケット同様、こちらも自分にとっては”ちょっと遅めの一生もの”候補筆頭だ。

閑話休題。こちらも公言はしないが、実は私はミニチュアモデルも好きである。というか、幼稚園の頃からずっとクルマが好きだったのだが、幼稚園児は実車を運転することが叶わないので、その代わりにクルマのオモチャで遊んでいた、というのが正確なところ。逆に、免許取得年齢前後になってからクルマに興味を持ったという方の中には、ミニチュアモデルに対しては特に趣味的な興味が湧かないという方もいて、それはそれでよく理解出来る。

ともあれミニチュアモデルが好き、というのは決して悪い趣味ではないと思うのだが、時々自分の中でも思考が錯綜することがある。すなわち。本来は、クルマが好きでそのミニチュアも好きだったのが、逆にミニチュアからホンモノに興味が移るという、趣味の逆輸入状態が生まれるのだ。自分にとっては戦車や飛行機、船などのプラモデルがそれに当たる。”中島飛行機”とか”キューベルワーゲン”なんてキーワードに反応してしまうのは、それが原因。

趣味のルートを、幼稚園児のクルマ好き発・少年時代のミニチュアモデル経由で来たためか、クルマのカタチは大切。もちろんキビキビした走りは外せないけれど、速さそのものにはあまり執着しない。実は機械にも疎い。その辺は、競争とか速度記録とか、そっちのルートでクルマ趣味にやって来た人たちとは違うんだろう、と思う。

ともあれ、自分の中ではセブンと、カメラと、ミニチュアモデルは等しく愛すべき存在として同居しているのだ。

長い歴史を誇るライカのMシステム。「M」はドイツ語で距離計(レンジファインダー)を意味する「Messsucher」に由来する。今回の旅のお供に連れ出したのはライカMのTyp240。レンズはエルマリートM f2.8/28mmASPH、ズミルックスM f1.4/50mm ASPH、マクロ・エルマーMf4/90mmの3本。単なる実用を越えた孤高のカメラ。性根を据えて付き合うだけの価値アリ。
協力:Leica Camera Japan(http://jp.lica.camera.com/)
かつて声高に趣味を語って痛い目にあったオジサンは、今では人知れずひっそりしっとり、自分の好きな事に打ち込む。

徒然その4  旅のまとめ

今から数年前、2013年のフランクフルトのモーターショーでスズキ・エンジンを搭載したセブン160が初めて公開されたとき、実はあまりピンとこなかった。日本の軽自動車のエンジンがよく出来ているのはわかっていても、あのピュンピュンまわるエンジンの独特な感触や音が、セブンの世界にどうシンクロするのか、いまひとつイメージがわかなかったのだ。

しかしその後160が日本に上陸し、何度か触れる機会を重ねるうちに、だんだんこのクルマの事が好きになって来て、その想いは、今回の”しっとりツーリング”でよりはっきりしたものとなった。

80馬力という手に余らないパワーが、現行セブンのラインナップ中、最も軽い490kgというボディを軽やかに加速させて行く快感。絶対的な速度は大したことはなくても、目線の低さや圧倒的な開放感が、クルマを運転する根源的な楽しさを与えてくれる。それは、まぎれも無い”セブンの世界”であって、走っているうちにエンジンの氏素性などは頭の中から消え去ってしまうのだ。

例えば昔から「フェラーリはともかくエンジンが第一であって、その他のパートは二の次」みたいな言い方をされるが、逆にロータスに代表される英国系バックヤード・ビルダーは「コンセプトとシャシーが第一で、エンジンはそこらから合うヤツを持ってくればよい」なワケで、その伝でいけばスズキの3気筒などはまさにドンピシャな選択肢わけだ。ボディの幅を調整するなどして、日本では法規上軽自動車の枠に収まる160だが、クルマ好きにとってむしろそれは副次的な話題だろう。セブンの世界はあくまでセブンの世界であって、「軽自動車の本格的スポーツカーです!」というホンダS660が提供してくれる世界感とは、まったくの別ものなのだ。

かつては、趣味のヒストリックカーに乗っている友人・知人らと連れ立って、あちこち走りに出かけたりもしていた。それはそれで愉快なのだが、最近は逆に人様のペースを気にする事無く、ひとりで勝手に飛ばしたり流したり休んだり、という気楽な楽しみ方が、今の自分には相応しいと思う様になって来た。そんな自分の”今”に、これほど相応しいスポーツカーは、他にあまり見当たらない。

サーキットで最新のGT-Rやポルシェと勝負する予定があるのであれば話は別だが、今新車で買えるクルマのなかでは、このセブン160は間違いなく世界最高のスポーツカーのひとつだろう。

“旅”と呼ぶにはいささか短い今回の一人ツーリングであったが、色々な道を走り、色々な人にも出会い、そして東京へと向かう帰路で、既に次の旅に想いを馳せる自分がいた。東京で生まれ育った自分には、帰るべき故郷は無い。だから実は、妻の実家にセブンで帰るのが長年の夢だったことを思い出した。

それは仕事の事、子育ての事、もろもろの事情でいつの間にか忘れてしまい、いまだに実現していなかった”旅”だが、この歳と状況になって、ようやく実現出来そうな気がして来た。

そう、セブンはいつの時代でもクルマ好きに素敵な夢を見せてくれるのである。

小径ステアリングの奥にタコメーターとスピード・メーター。その周囲に水温系や燃料系、ワイパーやヒーターなどのシーソー式スイッチが配置されるお馴染みの眺め。現行モデルはパーキング・ブレーキが一般的な位置にあるので、小柄な人でも不便は無い。サイドカーテンも”居住性”が考慮された外側に膨らんだタイプ。

1985年から、ド・ディオン・アクスルの導入にあわせ採用されたセパレート・シートだが、その後、リジッド・アクスルのモデルでも使われる様になった。ヘッドレストの備わる革のシート、ロールバーにはハイマウント・ストップランプも付くなど、かつてに比べるとディテールの近代化もずいぶんと進んで、その辺はしっかりと現代のクルマ。

160の心臓は、80馬力を発生するスズキ製のターボチャージド3気筒660ccエンジン。カタログ車重490kgの160を必要にして十分な加速で軽快に走らせる。今時のスポーツカーにあって、日常使いでパワー使い切る快感は貴重。

ヘッドライトは法規の問題で、以前のモデルに対しだいぶ前に飛び出た”出目金”となっている。簡単な幌は昔と同じ構造。耐候性は意外と高い。

SPECIFICATION
CATERHAM SEVEN 160
全長×全幅×全高:3100×1470×1115mm
ホイールベース:2225mm
トレッド(F/R):1220/1301mm
車両重量:490kg
エンジン形式:直列3気筒DOHC+ターボ
排気量:658cc

ボア×ストローク:68×60.4mm
最高出力:80ps/7000r.p.m.
燃料タンク容量:36リッター
懸架装置(F/R):ダブルウィッシュボーン+コイル/ライブアクスル+コイル
制動装置(F/R):ソリッドディスク/ドラム
タイヤ(F&R):155/65R14
価格:399万6000円