OTHERS

<その他コンテンツ>
ニューカー、ヤングタイマー、クラシック、オーナー、ライフスタイル、
カタログ、100ドロ、ミニカーなどなど
CLASSIC&YOUNGTIMER

極上の964カレラ4を味わう1990 PORSCHE 911 CARRERA4

いまこそ手に入れて楽しみたい"ヒストリック・ポルシェ"。ここで取り上げるのは、人気が再燃した感があるタイプ964の中では、数の上では少数派のフルタイム4WDモデルの『カレラ4』だ。カレラ2と一線を画すかのように語られがちだが、その目指した場所は変わらない。

TEXT / 清水雅史 PHOTO / 佐藤亮太
SPECIAL THANKS / エヌドライブ(http://www.ndrive.biz/

極上の964カレラ4を味わう

初めて4駆が楽しいと思ったのは、ランチア・デルタHF4WDに乗ったときだ。すでにHFインテグラーレ16Vが走り回る1990年のことだったけれど、フロントヘビーの横置きFFをベースにした4駆だというのに、身のこなしはひらりひらりと軽やか。箱根のワインディングを攻めるうち、本気でほしくなった。

ほぼ時を同じくして、ぼくはMY91のポルシェを取材している。当時の正規インポーターであるミツワ自動車が、つくば市にあったJARI(日本自動車研究所)テストコースで国内試乗会を開催するのが恒例となっていたのだが、この年の主役はやはり964。’89年に911カレラ4がデビューし、翌年にはカレラ2が加わったばかりだから、当然関心が集まっていたわけだ。走行シーンの撮影は、バンクでストレートをつないだオーバルコースが舞台。直線に入ると、カレラ2、カレラ4ともにメーター読みで250km/hを楽々越える911らしいパフォーマンスを披露してくれたが、強く印象に残ったのはカレラ4の優れたスタビリティだった。最高速度付近の安定感は、これが4駆にした理由かと腑に落ちるもの。デルタで4駆の可能性に気づかされていたことも重なり、ぼくのなかで911の4駆は”アリ”になった。実用的なグランドツーリングカーであることが本来の911の姿だと考えていたから、その素養をさらに高める駆動レイアウトの採用は、正常進化なのだと受け取ったのだ。

それから30年近く経ち、取材のために用意された90年式911カレラ4を前にして、思わず息をのんだ。素晴らしいコンディション、しかもほぼオリジナルの状態を保っている。964はMY92からドアミラーが角張ったデザインから丸みを帯びた”ターボミラー”へと、また同時にディッシュデザインのホイールが5本スポークの”カップ”タイプへ変更された。そのためMY89〜91であっても、ミラーとホイールを交換し”後期型”を装うのが定番のモディファイとなっているけれど、目の前のカレラ4は正しく前期型。新車時の佇まいを美しく残している。

さて、カレラ4の4輪駆動システムは、”959の技術を量産車に落とし込んだ”というように紹介されることがあるが、それはあまり正確ではない。当時のポルシェ先進テクノロジーのショーケースだった959には、電子制御を用い可変トルク配分が可能な非常に凝った機構が盛り込まれていた。964カレラ4はよりシンプルでメカニカルなシステムを採用し、それは84年のパリ-ダカールラリーで優勝するなど活躍したタイプ953と呼ばれる競技車両の発展型と言ったほうがしっくりする。

その機構をざっくり説明すると、ギアボックスと前輪のデファレンシャルハウジングを鋼管チューブでリジッドにつなぎ、このなかにドライブシャフトを通し4WD化を行なっている。ギアボックスに伝えられた駆動力は、中空のセカンダリーシャフトからギアボックス前端の遊星歯車式センターデファレンシャルに伝達され、そこで前後に配分を行う。前後トルク配分は31: 69の固定で、これはパリダカ車のタイプ953を踏襲。このほか電子制御の油圧作動多板クラッチによるデフロックを備え、ABSセンサーがホイールスピンを感知すると、電子制御でセンターデフの多板クラッチを自動的にロックする(手動での操作も可能)。

注目したいのはトルク配分が一定のフルタイム4WDであることだ。これによって高速域での直進性や低ミュー路での操縦性など安定方向への性能向上は目を見張るものがあったが、その裏返しとしてアンダーステアが強めだという声が聞かれるようになった。発売1年後にはリアスタビライザーを18mmから21mmへと強化するなど対策を施したが、次世代のタイプ993がフロントに通常10〜15%のトルクを伝える可変のビスカスカップリング方式を採用したのは、安定志向でつまらないというイメージを払拭するためだった。

そう、いちばん体感したかったのはこの点だ。964カレラ4はつまらないのか? もちろんヘタレの911ファンだから、本領を発揮する領域で見極めたわけではないが、答えは否。オンロードで気持ちよく走らせるなかで、カレラ4はじつに楽しいクルマだった。引き締められてはいるけれど、しなやかさが心に残る足まわりの感触や、強いキックバックが抑えられたステアリングフィール。そういった部分を魅力として訴求しつつ、このクルマには刺激がある。コンパクトなボディディメンジョンゆえの、一体感のある操縦性。そして、惚れ直してしまったM64ユニットの胸のすくレブフィール。このエンジンは傑作だよなぁ、なんて呟きつつ、カレラ2とカレラ4の魅力は、根っこのところでは変わらないと感じた。

高速域でのスタビリティの向上とあらゆる場面での快適性の確保。911の生き残りをかけ、タイプ964はこの2点について徹底追求して世に出た。そしてこのキャラクターを際立たせ、未来の911のあるべき姿を提示したのが”カレラ4″なのだ。89年、パリサロンでの964発表時には、まずカレラ4のみがベールを脱いだ。そんな経緯も重ね合わせつつポルシェの矜持を想うとき、カレラ4こそ964、そう断言してしまいたくなるのである。

ドライブシャフトを通すためフロアのセンタートンネルを高くしたが、これは結果的にボディ剛性向上にも貢献。前後バンパーのリデザイン、前後ウインドーまわりの変更、アンダーカバーの採用により、3.2カレラでは0.4に限りなく近かったCd値が3.2まで改善された。サスペンションは伝統のトーションバーをコイルスプリングに変更している。
インストルメントパネルのレイアウト&デザインは、基本的に3.2カレラを踏襲。ステアリングはMY92からSRSエアバッグ付きとなるが、この4本スポークモデルのソリッドな操作フィールがたまらない。
速度計は300km/hまでのスケールで、回転計は6800r.p.m.からレッドゾーンとなる。写真左のメーターは油圧と油温のコンビだが、上部の警告灯にはデフロック作動時のコーションランプが盛り込まれている。
取材車両の大きな魅力がオプションで用意されたスポーツシートを装備していること。座面、シートバックともにサイドサポートが張り出したタイプで、サポート感が絶妙だ。シートヒーターも装備していた。
後席は左右別々にシートバックが前倒し可能で、ラゲッジスペースとして利用できるのは911のよき伝統だ。4駆化によって、ビッグバンパー時代と比べるとセンタートンネルの張り出しが大きくなっている。
フロントラゲッジルームは大きく変わった。スペアタイヤを取り囲むように配置されていた燃料タンクがバルクヘッド側へ移動。そのぶん前後長は短いが、スペアタイヤをより下へ落とし込み天地を稼いだ。
MY91まではフロント6J、リア8Jの16インチ・ディッシュデザインホイールがオリジナル。タイヤサイズはフロント205/55ZR16、リア225/50ZR16と3.2カレラ時代と変わらず、カレラ2も同サイズ。
このデザインのドアミラーもMY91まで。3.2カレラ時代のキャリーオーバーだが、材質がダイキャストでお金がかかっている。ターボミラーはスマートで空力コンシャスだけれど樹脂製。どちらがお好み?
デビュー時に話題となったのが可動式のリアウイング。80km/h以上で起き上がり、10km/h以下になるとエンジンリッドに収まる。前後バンパーのフラッシュサーフェス化とともに空力向上の秘策だ。
ドライブシャフトを水平に通すことに起因し、ビッグバンパー時代までわずかに前方へ傾けて搭載されていたエンジンを水平にする必要があった。これによってエンジン搭載位置が若干高められている。
M64/01型はツインイグニッションを採用するからディスビもツイン。11.3:1の高圧縮比やボッシュ・モトロニックなども採用し、250ps/6100r.p.m.、31.5kgm/4800r.p.m.を発揮。環境性能にもこだわった。
カレラ2は新開発のティプトロニック(ベースは4速A/T)も選ぶことができたが、カレラ4は5速M/Tのみの設定となる。シフトレバーがトルクチューブの上に取り付けられたため、剛性感がより高められた。
クライメートコントロールが刷新されたのもトピック。クーラーではなくフルオートエアコンが標準化され、ヒーター関連のパイプレイアウトなども見直された。いま964を楽しむなら、これは大きな魅力だ。

Historic 4WD Porsche

カレラ4以前の4WDポルシェ
1900 Lohner-Porsche electric Car
ローナー・ポルシェ製電気自動車
当時の最先端の電気工学を習得したフェルディナント・ポルシェ博士が、馬車製造を手がけていたオーストリアのローナー社で開発に携わった電気自動車。4輪それぞれのハブにモーターを取り付けるというユニークな4輪駆動方式を採るタイプも製作し、英国からも注文を受けたという。
1947 Porsche Type 360
ポルシェ360
ユニークなスポーツカーを送り出すことで知られたイタリアのチシタリア社を創業したピエロ・デュシオ氏の依頼で、カール・ラーベなどポルシェ設計事務所のメンバーが図面を引いたGPマシン。水平対向12気筒をミッドシップに置き、パートタイム4輪駆動方式を採用。
1984 Porsche Type 953
ポルシェ953
911の4WD化は1980年代初頭から開発が進められていたが、その成果が試されたのは1984年のパリ-ダカールラリーにおいて。911をベースとしたタイプ953が参戦し優勝を飾る。944用のプロペラシャフトやデファレンシャルを流用し、4駆システムが構築された。
1986 Porsche 959
ポルシェ959
83年に発表された『Gruppe B(グルッペ・べー)』から発展したスーパースポーツ。当初は競技車両として開発が進められており、水冷ヘッドを持つ450psのツインターボエンジンを電子制御のフルタイム4WDシステムと組み合わせ、最高速は317km/hをマークした。

取材車両:1990 PORSCHE 911 CARRERA4

注目度赤丸急上昇中のタイプ964だが、ターボや特別なモデルは別として人気の中心にあるのは5速M/Tのカレラ2だという。カレラ4はもともとタマ数が多くないこともあり、いまひとつ目立たない存在だが、964が目指した高みを最も堪能できるように思う。このような程度のよいオリジナルの個体が数多く流通していれば、その価値も再認識されるのだろうが、それは無いものねだりというところか。
車両本体価格:770万円(取材時)