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COLUMN

夕陽に向かって奔れ!MAZDA ROADSTER

輸入車では意外と選択肢のあるオープンモデルであるが、国産車になると極端に少なくなる。そういった中で4世代に渡り作り続けられている、ある意味奇跡的な存在となるのがマツダ・ロードスターだ。ここでは"オープンカーは七癖隠す"を持論とする筆者が、とは言っても七癖などない素晴らしいスポーツカーであるロードスターと共に、リフレッシュの半日旅へと出た模様をレポートする。

TEXT&PHOTO / 平井大介
SPECIAL THANKS / マツダ(https://www.mazda.co.jp/

夕陽に向かって奔れ!

午前中都内で別の取材を終え、意気揚々と出発した。実は今回の締め切りを抜けたら、ひと段落したら日帰りでいいから(取材と称した)旅に出たいと、密かにマツダ・ロードスターを借りてあった。今年も年始から忙しく、大きな山を乗り越えたら頭をリフレッシュするための何かをしたいと思っていて、それが” オープンカーに乗ってひとりで遠出する”だった。

昔からオープンカーが大好きだ。きっかけはとある先輩のこんなひとこと。

「20歳代のうちにオープンカーに乗っておかないと、一生乗れない体になるよ」

根拠はよく思い出せないが妙に説得力があり、かくして私はフィアット・バルケッタを新車で購入。かなり無理なローンを組んだけれど、それはそれは本当に楽しい日々で、それがオープンカー好きになったきっかけ……という話は長くなるので、閑話休題。

この日は晴れていたこともあり、とにかくずっとオープンの状態で奔ろうと誓い、屋根を開けたまま近くのICから高速道路へと乗り入れた。左右ウインドーは閉めたままなので風の巻き込みはそれほどでもないが、当然周囲の音は容赦なく入ってくる。トンネルに入ればクルマの”騒音”に気がつき、どこからか聞こえるクラクションもいつもより大きく思えた。

湾岸線を抜け左に進路をとり、アクアラインを一気に抜け今度は右に進路をとり、館山道へと突入。すると周囲に緑が増えてくるのが、いつもよりわかりやすく感じられた。時には鳥の鳴き声さえも聞こえてきて、だんだん自然と一体になっていく感覚を覚える。思いっきり何かを叫びたい衝動にかられたが、息を吸い込んだ瞬間に”広報車”に装備されているドライブレコーダーが目に入って躊躇した。しかし奔っていくうちに、そうせずとも徐々に心が穏やかになるのを実感していた。

富浦金田ICで館山道を降りると、下り坂の向こうに海が見えてきて、今度は気持ちが高揚してきた……のも束の間、一般道を奔り始めると、2019年の台風で被害を受けたと思われる爪痕が各所で見受けられ、北西のほうとはいえ千葉県出身の筆者は、複雑な気持ちになった。自然がもたらすのはもちろん、いいことばかりではないのだ。

さてお目当ての定食屋さんは閉まっていたが、引き返す気持ちには全くならず、あてもなくそのまま南へ。だんだん道幅が狭くなっていったが、コンパクトなロードスターは全く苦にせず、ひらりひらりと海岸線の道を駆け抜けていった。そうやって奔り続けるのは実に楽しかったが、お腹も限界に近かったので、見えてきた看板につられて入った店は、以前も来たことのある有名店だった。それほど期待せず刺身定食を頼むと……美味し。

館山道を富津金田ICで降り、少し南に奔ったところにある有名店で昼食。刺身定食を選び、その美味さに舌鼓を打った。

この猫の写真は、ロケ場所を探していた時に視線を感じて思わず撮ったもの。そういう出会いがあるから旅は楽しい。

店を出ると、だいぶ気持ちが解れてきたのがわかった。さてお次は撮影ポイントの選定だ。タイミング的に夕陽狙いなのは当初の予定どおりだが、この時点で15時過ぎと、日の入りまで約3時間。その1時間前にはセッティングを終えることを考えると、意外と時間がない。迷っているとアウト……ということで、そこから1時間ほどのよく訪れる某砂浜をゴール地点と決め、今度はロードスターの鼻先を北に向けた。

その途中、桜の並木を見つけた。と言っても生活道路の脇に10本咲いている程度で、見上げている人は誰もいない。そこで一瞬駐車し、車中で一時の花見を楽しんだ。そういった景色がダイレクトに入ってくること、そして飲食店なのか夕食の準備なのか、時にいい匂いがこれまたダイレクトに入ってくること。そういった周囲との一体感こそ、オープンカーの醍醐味だ。クルマと運転手が人馬一体になると表現されるロードスターならなおさらで、まるで四隅に手が届きそうなサイズを感じれば、その一体感はぐっと増してくる。この1台があればどこにだって行ける——。そう思った瞬間に、ロードスターと自分のシンクロ率は100%に達していたように思う。

寄り道をしたせいもありだんだん日が暮れてきた。時間がない。しかしそれでも、立ち寄りたい場所があった。それは『明治百年展望塔』。その正しい名称を知ったのは今回が初めてなのだが、撮影の時によく見かけていて、いつかちゃんと見ておきたいと思っていたのだ。これは明治100年を記念して昭和48年に五葉松を模って建てられたらしく、これまた今回初めて自分と同い年と知ってちょっと驚いた。

近づくと確かに50 年近く経っていることもあり老朽化が感じられ、自分と重ね合わせて何だか切なくなる。しかも日暮れで気温が下がり、頂上は風が強くてかなりの寒さ。残念ながらそこから見えるという海堡(かいほう=明治〜大正に作られた人工島に砲台を備えたもの)をじっくる見ることもなくあっという間に退散したが、そこから見た夕陽は、さらに心を穏やかにしてくれた。

道中では偶然見つけた桜並木でひとり花見を楽しんだ。

『明治百年展望塔』に立ち寄り。当記事の一番上の写真はその頂上からの光景。

さて目当ての砂浜にロードスターを置き、カメラ位置を決め、ストロボをセットし、あとは夕陽が沈む直前のマジックアワーを待つばかりとなった。ポリメタルグレーのボディは地味なようで存在感があり、主張があるようで意外と周囲に馴染む。そのボディに夕陽が溶け込む様子をぼんやりと見ていて、我々は果たしてどこに向かっているのだろうか、などと考え始めてしまった。

移動の制限が現実となって、クルマという道具がいかに偉大か身に染みてわかるようになった昨今。でも仮にこのまま制限され続けたとしても、ちょっと動かしているだけで楽しいロードスターの唯一無二感は、新車で買って一生持っておきたいと思わせるほど。ならば、このロードスターをパートナーとし、その”向かう先”を探して奔り続けるのも悪くないのではないか——そう感じたのである。

撮影を終え片づけを済ませると、私は何の躊躇もなく屋根を閉めていた。それは寒いから……ではなく、ロードスターとの1日で心が充分に満たされたからであった。

今回取材に連れ出したロードスターは、『シルバートップ』と呼ばれる特別仕様車で(販売終了)、2019年11月の改良で追加されたポリメタルグレーのボディに、シルバーのソフトトップを組み合わせている。

初期のロードスターで唯一の難点と言えたステアリング位置の調整幅は、前後調整も追加することで克服。心なしか他も熟成したように思えて、まさに完璧と思える仕上がりだった。