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サーブにこだわるという選択肢SAAB 900 TURBO 16S

北欧スウェーデンにかつて存在した自動車メーカー『サーブ』。その独特な出で立ちが記憶に残っている人も少なくないだろう。しかしながらサーブが実際にどんなクルマなのかはあまり知られていないのではないかと思う。そこでサーブオーナーである遠藤イヅル氏にサーブ900の魅力について解説してもらい、見えてきた"サーブにこだわる"という人生を考えてみたい。

TEXT / 遠藤イヅル PHOTO / 内藤敬仁

サーブにこだわるという選択肢

なだらかなルーフは3ドアモデルの特徴。900の前身、99に1974年に追加された”コンビ(旅客機で貨客兼用の意味)”から受け継がれるスタイルで、荷室を確保しつつ空力的に優ることから、サーブはワゴン車に否定的だった。

北欧スウェーデンのサーブというメーカーは、ある程度クルマに興味がある人ならばその名前をご存知のことだろう。だが実際にどんなクルマなのかはあまり知られていないのではないかとも思う。かくいう筆者も、サーブを代表するモデルだった初代900ターボ16を10年ほど前に所有するまでは、その個性の多くに気づいていなかったひとりである。

残念ながらサーブは晩年に流転を繰り返し、結果として消滅してしまった。詳細な歴史は長くなってしまうので割愛するが、同社初の量産乗用車となる『92』が発売されたのは1950年のこと。92は改良を重ねて93、96へと発展していった。そして67年に新設計の『99』を発表。78年には北米の安全基準強化に合わせ、キャビンはそのままに前後を延長した新型車を送り出した。それが今回紹介する『初代900(クラシック900)』である。初代900は94年まで生産され、GM資本のもとオペル・ベクトラとシャシーを共通化して開発された『2代目900(NG900)』に後を譲ったのだった。

初代900までのサーブ車は、どのモデルも実に個性的な設計を持っており、凡庸なクルマとはとてもかけ離れている。出自が航空機製造会社だったサーブは、その経験をクルマ作りにも存分に反映し、92にはモノコックボディの導入や空力的アプローチからのボディ設計を行っている。99においても基本は96としつつ、他メーカーより先んじて衝撃吸収ボディを採用、イグニッションキーをフロントシートの間に置くなど独自性を保っていた。前述の通り初代900は99のバージョンアップ版とも言えるモデルだ。それゆえ1960年代に育まれたサーブ独自の設計を色濃く残している。当時としては最先端の空力ボディ、湾曲しつつ切り立ったフロントウインドー、縦&前後逆置きのエンジン、前方に落とし込むように開くボンネットなど、サーブにしかない特徴を随所に持っている。

また、ドアを開けてもサイドシルが無く乗り降りの際にズボンの裾を汚さないボディ構造、雪でも凍らないようにあえてバネを採用したセダンのトランクハッチダンパー、雪道の道路事情に合わせたリアのリジットサス、シートヒーターのいち早い採用、強力なヒーター、センターコンソールからだけではなくドア側の足元にもある空調の吹出口などの装備は、厳しい冬と戦わねばならない北欧独自の環境が培ったものだ。そしてこれら各種の造形は機能をそのままカタチにしただけ、つまりサーブの特徴的な姿形や装備は、奇をてらった訳ではなく”必然的なカタチの帰結”なのである。

1960年代のクルマはサーブに限らず各国各メーカーともに独自性を持っていたが、時代に合わせてやがて平均化し、かつてよりは個性が薄まったことは否めない。だが、元設計を1960年代まで遡ることが出来るクラシック900にはとびきり濃厚な旧き佳きサーブの味が残っている。デビュー当時からの異端的なスタイリングもほぼそのままだ。 クラシック900はドアを開いて乗り込み、イグニッションキーをひねってエンジンをかける度に、安全と快適を追求し続けて来たサーブの飽くなきこだわりを感じることが出来る。こだわりとはすなわち作り手の想い。コックピットに乗り込み、その真意を体感した瞬間からこのクルマを愛おしく感じることだろう。別にクルマに限らず、趣味人ならば何事にも自分自身のこだわりがあるはず。そして、サーブ900にこだわってみるという選択肢も人生にはあるのだ。

日本仕様では160psを発生するB202型DOHCターボエンジン。ターボにはコンピューターによる過給圧制御機構『APC』を採用している。前輪駆動車ながら縦に置かれるが、さらにベルト類がバルクヘッド側に向く”逆向き”搭載。

3つ穴のディッシュ風ホイールはサーブ・スポーツモデルのアイコン。15インチ径も92から受け継がれるサーブの伝統で、クラシックサーブを語る上の”キーワード”である。

ドアを開けるとサイドシルが無いことに驚くが、これは雪深いスウェーデンの冬にズボンの裾を汚さないための、雪国ならではの工夫。

ワゴン車に匹敵する程の広大なラゲッジルームを誇り、その広さはリアシートを倒すと大人も横になれるほど。バンパーのすぐ上から開くゲートも相まって、積み荷の出し入れも良好だ。

この個体は日本では貴重な5速M/Tモデル。万が一の際には同乗者でも機関停止できるように、という配慮からイグニッションキーがこの位置にレイアウトされている。

異端的なエクステリアに圧倒されがちだが、同車には特筆すべき点がまだまだある。そのひとつがボンネットの開閉方法。一度前が開くので後ろヒンジかと思いきや、そのまま引き出して前に倒すという大胆な動きをする。