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仕事と遊びの境目なんてぶっ飛ばせ!Styer-Puch
PINZGAUER 710 4×4

道無き道を行き、生き残るために設計された軍用車を仕事に使う。そんなオーナーのお仕事とは、スポーツやアウトドアのプロデュースだという。アイデアにあふれるオーナーと、どこか可愛らしい軍用車には「アソビ」という共通項があった。

TEXT / 遠藤イヅル PHOTO / 神村 聖

白と黄色に塗られた直線定規だけでデザインしたような、ワンボックス的な可愛らしいクルマが新緑美しい中を走って来た。大きなタイヤと高い最低地上高からは、道無き道をどんどん進む性能を感じさせるが、真四角のボディを柔らかな表情に見せるまん丸お目目はとてもプリティだ。でもこのクルマ『ピンツガウアー710』は、ズバリ世界各国で採用されるホンモノの軍用車である。軍用と言っても戦車のような戦闘車両ではなく、いわゆる米軍のジープやトラックのような汎用車両だが、軍用であるからには悪路走破性は高くなければならない。ピンツガウアーはもちろんその性能を極めて高い水準で備えている。軍用車は過酷な戦場で生き残り、生きて帰ってくることを目的とする。”生きるか死ぬか”という究極の環境だ。だから快適性をはじめ、華美で余計なデザインは一切ない。いらないのだ。そこにはただ機能重視の装備があるだけだから、四角い外観やすべての部品は機能が導き出したもの。そして軍用車の最大の魅力はそこにある。

しかしこのクルマのオーナー酒井智啓さんは、軍用車マニアではない。酒井さんは現在ピンツガウアー以外にも、先代ジムニーとフォード・ブロンコを所有する。これらのクルマに共通する点は、本格的なRV、クロスカントリービークルであることと、装備は少ないものの機能に優れ、プリミティブさがむしろ大きな魅力になっているというところだ。さぞかし酒井さんはヨンク好きなのだろうと思っていたらそうではなく、十数年前はスポーツカーに乗っていたという。ある時誘われて、スポーツカーでバーベキューに行ったのだが、ちょっとスポーツカーではそのシーンには似合わない。それを機会にバーベキューにハマった酒井さんは、バーベキューのシーンに似合うヨンクに興味を示したのが、今に続く流れの契機だったそうだ。そして酒井さんは最初のヨンクである三菱デリカスターワゴン4WDを手に入れる。デリカで「クルマで遊ぶ」ことを知った酒井さんはどんどんハマっていき、やがて興味は林道を走ることに移行していったという。

「ヨンクにはまってライフスタイルが変わりました。でも林道を走るにはデリカではちょっと物足りない。そこでジープ・ラングラー(TJ)に乗り換えました。そんな中でアーリーブロンコに出会ってしまったのです。お金のない中探して、ネットオークションで即決したブロンコは本当にボロボロでした。でもここで諦めなかったのが良かった。クロカンの先駆けモデルであるブロンコを直し直し乗ることで、アナログなモノ、シンプルなモノとの付き合い方を知りました」と語る。

だがこの後、酒井さんは、とあるキャンプに乗り付けてきた「究極にシンプルなクロカン」、ピンツガウアーと出会ってしまう。これは約7年前のことだ。「このピンツガウアーもネットオークションで購入しました。もう即決でした。現金を持って長野まで買いに行きました。標高が高い地域で使えるようにインジェクション化されていましたが、オリジナルのゼニスキャブに戻し、後付けの内装を全部剥いで本来の姿に戻しました。元色のグリーンのままだとまんま軍用車なので、白と黄色の塗装は購入後に施しました」。

1971年生まれの酒井さんは47歳(取材時)。30代で立ち上げた映像制作会社の代表を務めつつ、現在はスポーツアウトドア分野に特化したプロモーションを行う会社『あそぶ(Asov)』も主宰している。同社が開催する”屋外で仕事をする”という斬新な”アウトドアオフィス”は、屋外という非日常的空間で刺激を受けて発想力を高めたり、不便なキャンプ場で過ごすことで結束力やコミュニケーション能力の向上が図れるイベントだ。その根底には社名の通りに”あそび(好奇心や向上心)”がある。スポーツとアウトドアが大好きという酒井さんは、「あそぶことで感性が反応する」、「あそびこそがクリエイティブの原点」と語る。それはクリエイティブ・コミュニケーション・ハブを目指す同社の原点でもある。つまり酒井さんにとって遊びと仕事は極めて近いところにあるのだ。

可愛らしい外観でありながら実は機能美にあふれていてどんな道でも走れてしまう軍用車という意外性、しかもそれをアウトドアやキャンプなどの”あそび”に使用する面白さなど、酒井さんのピンツガウアーには遊びココロがたくさんあふれている。仕事にポップなカラーのピンツガウアーで乗り付けたら、確かに仕事も楽しくなる。来てもらった会社のスタッフも笑顔になるし、感性が刺激されるに違いない。快適装備を一切持たない軍用のピンツガウアーを運転することは、ちょっとしたスポーツのような楽しさがある。またピンツガウアー自体が、複雑で凝ったメカニズムで走破性を得るというクリエイティビティあふれたクルマなので、酒井さんとキャラがとても合っている。

仕事をする前提にあそびが必要と考える『あそぶ』=酒井さんが目指す方向性を考えれば、ピンツガウアーはまさしく同社の看板でありコンセプトカーにふさわしい存在と言えるのだ。

OWNER/酒井智啓さん

映像制作会社と『あそぶ』の代表を務める酒井さんは、スポーツやアウトドアをクリエイティブの力で活性化し、自然に触れたり不便を体感して想像力を育む”リアル”を大切にしたいと考えている人。スポーツとアウトドアをこよなく愛し、遊びが大好き。実際にピンツガウアーで色々なところへ出かけるそうで、名古屋や新潟といった遠方にもガンガン乗って行ってしまうんだとか。「高速では105km/hで精一杯。しかもうるさいです(笑)」。あそぶがリリースした焚き火を眺めるアプリ『焚き火』、見ていると妙に落ち着くのでオススメ!

ピンツガウアーとは?

フィアット・パンダ4×4やメルセデス・ベンツGクラスの4輪駆動を開発したオーストリアの企業シュタイア・プフ(シュタイア・ダイムラー・プフ)が、1971年から2000年まで製造していた軍用車がピンツガウアーである。当初4輪駆動を710、6輪駆動を712と呼んだ。四角いキャブオーバーのため写真では大きなクルマに見えるが、しかし実際は全長4.2mに満たない。710の前身である『ハフリンガー』は643ccの空冷フラットツインエンジンを積んださらに小さなモデルだった。710/712ともに当初は自社開発の2.5リッター空冷直4ガソリンエンジン、80年からはVW製の水冷直6ターボディーゼルが積まれた。細部が変更され第二世代の716(4輪)/718(6輪)へとチェンジ。2000年以降は英国のBAEシステムズで生産中。

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