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メカニズムに惹かれ、雰囲気に呑まれたいCITROËN GS 1220 BREAK

好きな人は眼に入れても痛くないほど溺愛し、嫌いな人は見向きもしない。だがそんな両者を分ける分水嶺は、案外薄っぺらいモノなのかもしれない。身近にあって、しかし誰も手を差し伸べようとはしないハイドロ・シトロエン。GSはロジカルな糸を手繰っていった先に広がる桃源郷であるに違いない。

TEXT / 吉田拓生 PHOTO / 田中秀宣
SPECIAL THANKS / モダンサプライ(https://garage.modern-supply.com/

メカニズムに惹かれ、雰囲気に呑まれたい

小さなボディに詰め込まれたハイドロニューマティック・システムと走りが評価され、デビュー1年後の1971年にヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤーを獲得したシトロエンGS。エンジンは一貫して空冷水平対向4気筒だが、1979年に改良版であるGSAとなり1986年まで生産された。

シトロエンが好きなヤツはヒゲが濃くて、色が白い。というのは昔の個人的な思い込みである。彼らは当然のように理屈臭くて、口プロレス程度は日常茶飯だが、「表に出ろ!」と凄んでも真っ向勝負には乗ってこない。機械というよりもペット感覚でクルマと接しており、室内には私物が散乱している。その散らかり具合にすら愛着を感じているようで、その助手席に乗せてもらうと酷く居心地が悪い。どこか別の惑星にでも住んでいるつもりだろうか? いや彼ら自身もきっとそう考えているに違いない……というのも、単なる思い込みである。

長らく好きではなかったはずのシトロエンというクルマに恋い焦がれるようになったのはいつの頃からだろうか。ヒトを憎んでクルマ憎まずではないけれど、クルマ単体と対峙した時の印象は違った。神憑っていたと言ってもいい。エグザンティアでメーターを振り切った時のハイドロニューマティックの平滑な走りに心打たれ、BX、XM、CX、DS、SM、GSに乗せてもらい、シトロエンが何たるかを覚った。2CVもアミ6も素晴らしかった。緑色の血は通っていないが、目指すところはそれと一緒だ。

パワートレインと車室を結ぶバルクヘッド部をしっかりと作り込んで、その先端に重心が低く軽いエンジンを載せる。バルクヘッド以降は必要に応じて長く作り、4肢に血液を通わせる。なんてわかったようなことを書いたら、理屈臭い人に何を言われるかわからないけれど、門外漢から見たシトロエンとはそのようなものだ。DSやSMは、正直なところ「ハイドロが過ぎる」と感じていて荷が重い。カタチとしては長大なCXに大いにシンパシーを感じているが、エンコしたときにとてもひとりで押し切れる自信がない。エグザンティアやXMは、エアコンをはじめとする補器類(余計なもの)が多く樹脂パーツもふんだんで、一生の相棒という感覚では見ることができない。BXもどちらかと言えばその部類に入る。私の“目の粗い”フィルターに残ったシトロエンはGSだけだった。極めてロジカルな思考を源泉としつつ、しかし目の当たりにしてしまうとどこか埃っぽい、地に腹の付いた独特の雰囲気に絆される。

大きな声じゃ言えないが、赤いオープンカーより好きかもしれない。けれど入れ替える勇気は到底ない。もしGSが我がガレージにやって来ても「いつでもスタンバイ!」というわけにはいかないだろう。できれば赤いオープンカーの隣に住まわせて、天気の良い日だけ散歩させてあげる……って、これじゃあペット扱いか? この感情はおそらく、永遠の浮気だ。

シトロエンGSは2CVとDSの間を埋める1台として1970年に誕生しているが、そこに妥協と呼べる要素はない。もし1973年に第一次オイルショックが来なければ、バンケルロータリーを搭載したGSビロトールが世界制覇を成し遂げていたに違いない……と考えていたのは当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったシトロエンのエンジニアだけだろう。空冷、水平対向、縦置きエンジンとハイドロが組み合わさったシトロエンはこれ1台であり、個人的にはそれで十分だ。空冷水平対向・前輪駆動という機構にパナールの存在を色濃く感じるあたりもマニア心をくすぐる。本当のパナールは荷が重いが、その匂いぐらいは嗅ぎたいのである。

茨城県下妻市にあるモダンサプライのファクトリーが近づき、あの匂いが漂ってくるだけで心がざわつく。そこには翼をもがれ、胴体着陸してしまったようなシトロエンたちで溢れかえっているのである。他の国のクルマがこれだけ大量に雨に打たれているとやるせない気持ちになるのが通例だが、それがシトロエンだと退廃的だが趣があって、まるで復活祭までのほんの少しの間じっとしているだけ、という感覚に囚われるのはなぜだろう。

今回のお目当てのGS1220ブレークは、屋根の下にいた。CXファミリアールのような長い長~いシトロエンに愛着を感じる私としては、普通のGSよりブレークの方に愛着が湧く。座ったらダメ、触れたらダメだと思いグッと我慢をした。取材に訪れておきながら、こういうコトは珍しい。本当に好きだと、頬が赤くなって手も握れないというパターンである。

その隣には、初めて見る2ドアのシューティングブレーク、GSセルビスも鎮座していた。大きなクォーターガラスの中にはプライウッドのフロアが見える。これは素のGSブレーク以上の心中グルマだ! もうダメだ。

緑色の血液に火がついて躁状態になって、呼吸が荒くなって、モダンサプライの鈴木さんにあれこれと質問したのだが、その内容は断片的にしか記憶していない。それでもタマゴッチというキーワードは、古くて新鮮だった。

「信頼性の部分は……個体によって異なるので何とも言えません。けれど何も起こらないと返って不安になることもあります。タマゴッチのように定期的に世話をしてあげているほうが安心するというか……」

そう、それですよねぇ”シトロエンはタマゴッチ!”。結局のところGSをペットだと思い込み、今日も悶々とする自分がいるのである。

今回撮影した1973年式のブレークはノンレストアの極上車である。内装の程度も良く、メーターは初期のボビンメーターが装備されている。
現代の眼で見るとそのマニアック度は恐ろしく高いが、DSやCXと比べればベーシックカーの域を出ないため、使い倒されて朽ちてしまったGSも多い。
ボディの錆とも無縁ではないので、コンディションの良い個体と出会う確率は決して高くはないだろう。
特にブレークは正規輸入されていなかったこともあり数が少ない。

エンジンルームの眺めは特異で、水平対向4気筒SOHCのエンジンは極めてコンパクトに作られてフロントグリルの直後に配され、2本のメンバーがパワートレインとサスペンションを懸架している。