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ベルトーネ・デザインの優越VOLVO 780

セーフティに敏感で質実剛健、実用主義的な北欧の自動車メーカーといえばボルボだが、80年代いっぱいまでは"イタリア番外地"とでも呼ぶべきイタリアン・カロッツェリアがデザインし組み立てた美しいクーペが、ラインナップに華を添えていた。ベルトーネの手による名作クーペを今一度、眺めてみる……。

TEXT / 南陽一浩 PHOTO / 藤井元輔
SPECIAL THANKS / ドクターV(http://doctorv.jp/

ベルトーネ・デザインの優越

240や740、760エステートといった80年代的でカクカクしたボルボに囲まれても、780クーペのスマートな塊感は異彩を放つ。きわめて控えめな80sデザインの白眉だ。

ボルボといえば四角くてナンボ、20~30年前は、クルマ好きでもないほとんどの人まで、そんな風に思っていたはずだ。街を平野ノラっぽい女子がホントに闊歩していて、その後ろをバブルなおじさんたちが追っていたような時代である。豊かになって潤ったと、ある程度の大人なら誰もが実感していたあの頃、フロントグリルからリアハッチまで四角四面のボディラインを備え、スペース効率と安全性を突き詰めたボルボの一連のワゴンを選ぶとは、何と賢い”ツウ”な選択肢なのかと。要はボルボの四角いワゴンに乗る行為が、一種のおしゃれ記号になっていた時代だ。

240ワゴンから740、760シリーズのエステートやセダンだけでなく、エントリーモデルとして360や480ターボまで正規輸入されていた80年代末、ボルボのラインナップの頂点を占めていたのは、じつはクーペだった。それが1985~90年にかけて、8518台が生産された780クーペだ。

ここに紹介するのは神奈川県相模原市のドクターVが在庫する個体で、四角いボルボなのに日本ではクーペの価値は理解されづらいのか、その分、恐ろしく手頃な価格で出回っている……という好例である。

780クーペはデザインと生産組立をイタリアでカロッツェリア・ベルトーネが担当した別誂えのクーペという、贅沢な成り立ちの1台だ。ベルトーネとボルボの関係は前世代、262Cクーペと264TEリムジンの’70年代にまで遡る。

ボルボにはクーペといえば60年代、P1800が世界的にヒットした成功経験があり、ラインナップの頂点に優雅なクーペを用意するのは必然だった。ただしP1800のデザインをギアとフルアに発注したにも関わらず、当時の技術畑のトップだったヘルマー・ペテルソンの息子で、イタリアで働いていたペレ・ペテルソンのスケッチが紛れ込み、結果的に”非イタリアン・デザイン”が世に出た。トラウマになった訳ではないだろうが、ボルボがイタリアン・デザインを重視した原点として、このエピソードは避けて通れない。一方でP1800は当初、英国のジェンセンに組立を任せクオリティに満足できなかった経緯がある。よって262Cはボルボがデザインし、ベルトーネは1977年より生産のみ請け負ったに過ぎない。それは少量生産モデルを持つというオペレーションだったが、充分な実績を積んだベルトーネと2度目の協業という成熟した関係より、デザインも組立も悲願のイタリアンというクーペが生まれた。それが780クーペというわけだ。

クーペだがウェッジシェイプ的ではなく、ボンネットラインと峻別したルーフラインで車内空間を強調したシルエットは、むしろサルーンのそれであり、実際にボルボは『ツーリング・スポーツ・サルーン』と定義していた。コンポーネントの多くは760GLEセダンと共有しており、2770mmのホイールベース、前1470mm、後1520mmのトレッドも共通だ。パワーユニットはV6水冷のSOHC 2848cc、つまりプジョー・ルノー・ボルボの共同開発にちなみ各社の頭文字をとったPRVユニットを搭載する。これに4速A/Tを介し、リア・アクスル側を駆動するFRで、1988年式からはリア・サスペンションにマルチリンク式を採用していた。

パーソナル性、そしてプレステージ性を謳ったフラッグシップだけに、インテリアも豪奢。4人の乗員のために張られた肉厚レザーシートの面積は、約20㎡にも及び、ダッシュボードやドアに張られたウッドパネルには楡やブナが用いられた。車内に腰を下ろすと、チャコール×グレーの落ち着いたツートンのレザー内装の中に、今日のクルマではありえないクッション・ストロークの厚い座り心地と、後方視界や開放感を妨げない中空のヘッドレストを認めることができる。

加えてさすがベルトーネ、イタリア的と唸らされたディティールが個人的にふたつあった。まずはA・Cピラーのウインドー枠に張られたクロームモール。下に近づくほど太く、ルーフラインの側は細くテーパードしており、まるでウインドーが内側に入り込むような奥行きを与えている。

もうひとつはカギ穴のないトランクリッド。荷室へのアクセスにはドアキャッチ上に配されたレバーを引く。キーによるロックもここだ。確かにオーナーが車外に足を踏み出さない限り、トランクリッドは開ける必要がない、そんなパーソナル感あふれる演出でもある。

現在は車検切れ状態だが、ボルボ車を常時200台近く在庫しているドクターVは、旧いボルボを廃車やドナーにせず、直しながら乗るのがそもそものコンセプト。ちなみにアメリカでは、この年代のボルボのパーツ在庫はまだまだ豊富で、心配はないとのこと。それにしても現役当時、780クーペは945万円の高級車だったが、このベルトーネ・デザインの卓越したクーペが今や乗り出し約150万円……(取材時)。日本人のクーペ審美眼がいまだひと回りしていない今こそ、成熟した趣味人には最後のチャンスではないか?

Cピラーに誇らしく拝されたベルトーネのエンブレム。ジウジアーロやガンディーニを輩出し、幾多のエキゾチック・カーを作り出したベルトーネがデザインも組立も行ったクーペ、それが780クーペなのだ。
クーペのオーナーが小粋でいるためには?と考え出された工夫が随所に光る。ドアパネルの直線的グラフィックも凄いが、スピーカー下の乗降時に靴先をブツけがちな部分には、なんとフロアと同色のモケット張りが。
ダッシュボードは直線基調だが、生硬さより落ち着きを感じさせる。チャコール×グレーのコンビレザーに明るいウッドパネル。
ボンネットの下にはPRVのV6ユニット。
シリアルナンバーの隣には、イェーテボリのボルボ本社からコンポーネントを供給され、トリノのベルトーネで組み立てられていたことを誇らしげに示すプレートが貼られている。
トランクオープナーはドライバー側のドアを開けてキャッチの上、オープナーレバーが設けられる。もう片方はフューエルリッドだ。トランクは深く奥行きも十分で、ゴルフバッグも悠々と積み込めるキャパシティを誇る。