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ポルシェのノウハウをつぎ込んだスーパーワゴンAUDI RS2

1993年のフランクフルトショー。主役となったのはポルシェブースに飾られた新型911、タイプ993だが、隣接するアウディのスペースではノガロブルーと呼ばれる鮮やかなボディカラーをまとう1台が注目を集めた。それは、アウディがこだわり続けてきた技術がすべて詰め込まれたモデルであると同時に、ポルシェのノウハウを用いることで高性能化を果たしたスーパーステーションワゴンだったのである。

TEXT / 清水雅史 PHOTO / 内藤敬仁
SPECIAL THANKS / オートモビルアシスト・ブレス(https://themotorbrothers.com/special-shop/12731

ポルシェのノウハウをつぎ込んだスーパーワゴン

さりげなく高性能を主張するRS2。ワイドなタイヤを真後ろから目にしたときや、押し出しの強いフロントマスクがルームミラーに大写しになったときには、さすがにただ者ではないオーラを感じるだろう。しかし、知的でスマートなアウディ80アバントの雰囲気はちゃんと残っている。
逢いたかったんだよなぁ

ジャンルを問わずエンスージァスティックなクルマを扱うオートモービルアシスト・ブレスを訪れると、アルファロメオ164 Q4の姿があった。いやいや、これがお目当てのクルマではない。ちょうど整備のために入庫していたそうで、164を3台乗り継ぐという熱烈なファンのもと、幸せに暮らす1台らしい。ちなみにQ4のデビューは1994年だから、記事の主役として取材に連れ出すアウディRS2と、ほぼ同時期に登場した高性能モデルである。しかも、独自のフルタイム4WDシステムで、ハイパワーを路面へ伝えるというメカニズムにおける特徴も共通する。

そんなところに不思議な縁を感じつつ、ファクトリーの奥にたたずむポーラーシルバーメタリックのRS2に近づいた。”逢いたかったんだよなぁ”と独り言が出そうになるのをグッと飲み込んで、ゆっくり周囲を巡ってみる。角張って見えるが、前後はキュッと絞り込まれ、なかなか空力コンシャスな美しいフォルムだ。

4510×1695×1386mmという5ナンバーサイズの全長、全幅、全高にまとめられたステーションワゴンボディは、想像以上にコンパクト。そのディメンジョンはベースとなったアウディ80アバントとほとんど変わらない。車高を50mmほど下げ、全長が主にフロントバンパーの変更で25mm長くなっているが、改めて驚いたのは全幅が不変なことだ。アウディRS2の見ためで、もっともキャッチーなのはホイールである。「ああコレ、964用のカップデザインだね」と、空冷ポルシェファンならすぐに気づく17インチ大径タイプを装着しているから、きっとボディパネルを大きくいじってあるのだろうと早合点していた。ところがボリュームのある5本スポークは、245/40ZR17のファットなタイヤとともに、フェンダーラインになんの加工もせず、すっきりとホイールハウスに収まっていた。

そして、アウディRS2の成り立ち、魅力を象徴しているのが、このホイールだ。ポルシェとのコラボレーション、それこそがアウディが長年にわたって磨き上げた技術をさらに輝かせ、RS2を特別な存在へと押し上げている。だから、ひとりのポルシェファンとしても、RS2はずっと気になる存在だったのである。

アウディ×ポルシェの意味

アウディRS2のアウトラインを説明すれば、既存のアウディ80アバントをもとにして、ポルシェがパワーユニットを強化。さらに足まわりにスポーティなセッティングを施し、エアロダイナミクスを見直すことで高性能化を果たした特別なモデルである。1993年9月のフランクフルトショーでベールを脱ぎ(このときポルシェは993をお披露目した)、94〜95年にわたり2000台を生産するとアナウンスされたが、最終的には2900台前後が販売されたという。

バイザッハの研究所を中心に、ポルシェが世界の自動車メーカーに技術協力を行っていたのはよく知られている。RS2のプロジェクトはそれを積極的にアピールすることで、高性能を印象づけるものだが、この計画にはアウディ側のメリットだけでなく、ポルシェにも意味があった。RS2の塗装済みのボディはポルシェのツッフェンハウゼン工場に送られ、エンジンや足まわり、内装などの組み付けが行われた。これによりRS2の販売による利益は両者で折半するという好条件を、ポルシェは得ている。この少し前、ツッフェンハウゼン工場ではメルセデス・ベンツ500Eが同じような流れで生産されており、どちらも当時経営が苦しかったポルシェに手をさしのべる意味合いが濃かったとされる。ポルシェがメルセデスからアウディに乗り換えたと見る向きもあるが、いずれにしてもポルシェにとって重要な仕事だったことは間違いない。

ポルシェが磨き上げたもの

当時のアウディに与えられていた独自性や技術的アドバンテージは、72年にポルシェから移籍し、’88年から社長に就いたフェルディナント・ピエヒ博士が道筋をつけたものである。それは、空力性能を追求したスタイリング、直列5気筒エンジン、そして4輪駆動システムの3つで、RS2にはこれがすべて与えられている。なかでもクワトロシステム、つまりフルタイム4WD機構は、’80年に現れラリーフィールドを席捲したアウディ・クワトロによって、その意味合いがまったく変えられてしまった。アウディは悪路を走破するためだけのものではなく、ハイパワーをより安全・確実に手の内に収め、オンロードで高性能を発揮するための手段として、一般化してみせたのである。そして、縦置きFFをベースにセンターデフを持つ4輪駆動というレイアウトは、このRS2にも受け継がれている。

RS2は、前述の通り通常ラインナップの80アバントを高性能化したモデルといえるが、じつは『S2』というお手本がある。90年にS2クーペ、93にはS2セダン/アバントが登場したが、これら80シリーズに用意された高性能バージョンたるS2にもポルシェが関わっている。S2アバントを例にとれば、230psを発揮する直5ターボにフルタイム4WDシステムを組み合わせ、最高速度242km/hを実現。その正常進化版としてRSは存在するのである。

さて、それではポルシェはどんなふうに手を加えたのか? まず2226cc直5DOHC20Vエンジンは、エンジン制御の見直し、カムシャフトの変更、ターボチャージャーの大径化、そして吸排気系チューンにより、最高出力315ps、最大トルク41.8kg-mへスープアップ。一方、サスペンションはポルシェがリセッティングを行い、ブレーキシステムも前後ブレンボ製4ポット・キャリパーに、フロント304×32mm、リア299×24mmのベンチレーテッドディスクが奢られるのだが、これは’92年までのポルシェ928GT用のブレーキシステムを流用したもの。赤いキャリパーの”PORSCHE”の文字は伊達ではない。

そして、極めつけがカップデザインホイール。964カレラ2のオプションとして用意された17インチ・フロント用で、7J×17、インセット55とまったく同一サイズだ。964用とは一部仕様が異なり品番も別に与えられるが、ポルシェの純正部品として用意されている。そしてもうひとつ。ドアには専用ステーを介して964後期以降の”ターボミラー”が取り付けられているのも、ポルシェファンにはたまらないモディファイだ。加えて外観に精悍さをプラスしているのがフロントバンパースポイラー。大型インタークーラーを収めるため前方へ張り出し、大胆にエアスクープが口を開けるが、左右コーナーに配されたターンシグナル&フォグランプは、なんと993用! 300psオーバーの強心臓によって、0-100km/h加速:5.4秒、最高時速:262km/hをマークするハイパフォーマンスを獲得したことこそハイライトなのだけれど、絶妙のさじ加減でちりばめられたポルシェの面影もまた、アウディRS2の魅力を輝かせているのである。

インテークチャンバーに”powerd by PORSCHE”の文字が刻まれるように、エンジンのスープアップはポルシェの手で行われた(文字の赤い着色はノンオリジナル)。直列5気筒ユニットは右に傾けて搭載され、ターボチャージャーは右前方下部にレイアウトされている。全長が長いためメインラジエターはエンジンルーム左にレイアウトされ、コンパクトなサブラジエターがグリル側に収まる。グループBのホモロゲモデル、スポーツクワトロの5気筒ターボが306ps、35.7kg-mだから、このパワーユニットのチューンの高さはなかなかのものだ。
エアバッグ内蔵の専用3スポークステアリングには、フォー・シルバーリングと”RS2″、そして”PORSCHE”の文字が刻まれたエンブレムが備わる。取材車はウッドトリムがあしらわれていたが、カーボン調素材も選ぶことができた。マニュアルトランスミッションは6速で、かっちりとした感触が好ましい。ステアリング、クラッチなど、総じて操作フィールは重めだ。
センターデフを採用したフルタイム4WDシステムはアウディ・クワトロに始まり、通常の前後トルク配分は50:50となる。RS2のベースとなるB4と通称される第5世代のアウディ80は、先代B3からメカニズムの多くを受け継いでおり、センターデフ機構がベベルギアによるものからトルセン式に変更されたのもB3から。トルセンは”トルクセンシング”の略で、最大の長所は応答性に優れていること。アウディが機械式のトルセンデフを使い続けているのは、そこにこだわっているからだ。
ホワイトの文字盤が標準で、ドライバーの目の前には回転、速度、水温、燃料の各メーターが並ぶ。速度計は300k m/hまで刻まれる。センターコンソールには電圧、油圧、油温の3連メーターが収まる。サイドブレーキレバーの脇にはデフロックスイッチをレイアウト。低速で1輪が空転したときなどにセンターデフの差動制限を行い、25km/hまで使用できる。
もともと積載能力第一ではなく、スタイリッシュな見た目も魅力のステーションワゴンだけれど、ラゲッジスペースの使い勝手は悪くない。
ダブルフォールディング&6:4分割可倒式シートのため、積み込む荷物と乗車人数に合わせ多様なレイアウトで対応することができる。取材車はパーセルシェルフのほか愛犬を乗せるためのガードネットも装備していた。
左右フロントシートはレカロ製で、座面高とシートバック角度が電動調節できるため、ステアリングに調節機構は備わらないものの適切なポジションがとれる。サイドサポートは強めで張りもあるが、どこまでも走っていきたくなる心地よさを感じる。
後席のシートバックはかなり立っているが、このあたりはその後のB5『A4』と同様だ。
ポルシェ911用のパーツを用いて高性能を強くイメージさせていることも、アウディRS2の大きな特徴だ。964の後期モデルから採用されたラウンド形状のドアミラーは、運転中にも目に入る部分だから、そういう面からも効果的。迫力ある専用バンパーに備わるターンシグナルとフォグランプは993から。そして17インチ・カップデザインホイールが足もとを引き締める。

SPECIFICATION
AUDI RS2
●全長×全幅×全高:4510×1695×1386mm
●トレッド(F/R):1448/1474mm
●ホイールベース:2597mm
●車両重量:1595kg
●エンジン形式:水冷直列5気筒+ターボチャージャー
●総排気量:2226cc

●ボア×ストローク:81×86.4mm
●最高出力:315ps/6500r.p.m.
●最大トルク:41.8kg-m/3000r.p.m.
●変速機:6速M/T
●懸架装置(F/R):マクファーソンストラット/ダブルウィッシュボーン
●制動装置(F&R):ベンチレーテッド・ディスク
●タイヤ(F&R):245/40R17