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1961年、シチリア島からの手紙ALFA ROMEO GIULIETTA TI

グローブボックスに搭載されている車検証に、1961年9月13日の日付と、シラクーザ(SIRACUSA)の地名が書かれていた。シラクーザはシチリア島の南東にある、小さな港町。約60年前に始まった車歴は2021年、日本で受け継がれようとしている。

TEXT / 平井大介 PHOTO / 神村 聖
SPECIAL THANKS / ガレージMM(http://garagemm.com/

1961年、シチリア島からの手紙

縁あって巡ってきた、1961年式アルファロメオ・ジュリエッタTIの試乗。取材当日ガレージMMに到着すると、既に準備は整っていた。暖気をするか尋ねると、「今朝も乗ってきたから大丈夫よ」と宮内社長。気を付けるところは? などと聞いてみるも特になさそうな雰囲気。結局スイッチ類の説明だけ受けてすぐに出発となったが、今になって思えば、気軽に乗って欲しいという宮内社長のウエルカムな雰囲気は、ジュリエッタというアルファロメオの特長を表していた。

乗る前に予習してきた話をちょっと共有しておこう。第二次世界大戦後、復興に向かうイタリアにおいて1900を起点に乗用車を展開していたアルファロメオが、1954年にその”妹分”としてデビューさせたクーペ(ベルリネッタ)。それがジュリエッタ・スプリントであった。その後セダン(ベルリーナ)、オープン(スパイダー)も加え一大ファミリーを形成していくのだが、1900に比べ2/3程度に抑えられた価格は衝撃を持って受け入れられ、大ヒット作となったのである。

ジュリエッタTIは1957年に登場したハイパワー版で、1958年にはベルリーナ自体が750から101シリーズに移行し、ノーマルとTIの間にサイドマーカーデザインの変更などで差別化が図られた。また、1961年にはフロントグリルがメッシュタイプへ変更されるなどした後期型へと移行するから、今回の取材車はそのマイナーチェンジ直前のモデルと言える。もしくはマイチェンを受けたあとディーラーに在庫されていた車両をそのまま購入した? というのはあくまで想像の話だ。

取材車はASI(アウトモトクラブ・ストリコ・イタリアーノ)のタルガドーロ(ゴールドプレート)を装着している。ご存知ない方のために簡単に書くと、ASIはイタリアのオーナーズクラブを束ねるクラシックカー協会、プレートはその出自やオリジナリティを表す証明書みたいなものだ。筆者はASIの会長にもイタリアでインタビュー経験があり、それ以来、タルガドーロへ自然と目が行くようになった。

車内のグローブボックスにはそのASIの証明書のほか、新車当時の保証書と車検証も搭載されていた。この原稿を書く際にイタリア語を確認したところ、1961年9月13日にシラクーザというシチリア島の南東にある港町で登録されたものだった。オーナーはどうやら、ソレンティ・オラッツィオさんという方らしい。

ガレージMMを出発し、第三京浜の入口手前でステアリングを預かり、試乗が始まった。第一印象はとにかく動かしやすいというもの。久しぶりのコラムシフトに戸惑いながら、しかしトルクが充分にあるから本線への合流も苦にならず、高速のクルージングも実に安定。ガレージMMのメンテナンスがいいのであろう。コンディション自体も良好だが、そもそもの品質の高さに驚かされた。それほどクラシックカーの試乗が豊富なわけではない私でもわかるほどで、60年前のクルマとはとても思えない。

以前乗ったランチア・アウレリアを思い出しながら、品質は価格順でフィアット<アルファロメオ<ランチアになるのかなぁと想像しながら、3000回転くらいから高まるジュリアなどで聞き覚えのある、ちょっと太くて乾いたツインカム・サウンドを楽しみつつ撮影場所へ向かう。

乗りながら思ったのは、これを購入した最初のオーナーのことだった。1950~1960年代に購入できるのは、いくらジュリエッタが価格低めの設定とはいえ、少しは裕福だったはず。ベルリーナだから家族がいて、でもTIだからひとりで乗る時はスポーティに走る。シチリア島の港町で、週末は家族を乗せて走るオラッツィオさん(推定42歳)。新車でこれが手元にやってきた日は人生において記憶に残る1日になっただろう。イオニア海とボディの青がシンクロする中で、満面の笑みを浮かべるオラッツィオさん――。

興味深いのは、実はこれが現代のアルファロメオ、ジュリエッタやジュリアに置き換えても成立することと、先日乗る機会のあった1965年代ルノー・ドーフィン・ゴルディーニとの違いだ。ゴルディーニを名乗るがあくまで実用車然としているドーフィンに対して、実用車であっても走る楽しさが優先のアルファロメオ。これもまた現代のルノーとアルファロメオ、もっと大きく書けばフランス車とイタリア車の違いに繋がっているように思える。さらに蛇足ながら、ドライビングポジションが筆者の愛車であるランチア・イプシロンと乗り換えても違和感がなかったのも、どうしても書いておきたいことだ。

60年の時を越えて日本にやってきたジュリエッタTIは、キレイだけどピカピカ過ぎない、いい年の重ね方をしているように見えた。こういった文化やモノを受け継いでいくのは、イタリアを始め欧州では現在も日常で当たり前のように続いていて、日本は得意なようでちょっと苦手なようにも見える。もちろん365日毎日乗ることは難しいけれど、このジュリエッタTIを受け継ぎこの年代のアルファロメオのオーバークオリティとも言える品質を味わい、後世に伝えることは大いに意義があると思う。そんな1961年のシチリア島から届いた”手紙”は、2021年に筆者の心に大きく響くものであった。

シート地と合わせたドアパネルのポケットや助手席のグローブボックスなど、いずれも高い品質を感じる室内。ベンチシートはこの年代までで、後期型ではセパレートに変更される。速度計が160から180km/hまでに変更されたのがTIの特徴で、155km/hと言われる最高速度は今でも出そうな雰囲気だった。
タイヤはオランダのヴェレデステイン・スプリント・クラシックを装着。ホイールはファーガットだ。エンジンルームでも確認できるがTIは『t.i.』と書くのが正式。エンジンはツインカム2バルブヘッドということで1290ccの直4DOHCとなり、TIは65HPを出力。サウンドは白眉と言える部分だ。
ラゲッジスペースにはスペアタイヤを搭載。銘柄はミュシュランXだったので当時の純正だろう。サイドラインと一体化されたマーカーはTIの識別点。TIは後に156などでも採用された”ツーリング・インターナショナル”を意味するイタリア語、『ツーリズモ・インテルナチオナーレ』の略だ。
今回の取材車は1961年式で、横浜市港北区のスペシャルショップ『ガレージMM』で販売中の車両(取材時)。ご覧のように当時の書類も揃った、ASI認定車両という”折り紙つき”だ。
この試乗に備え調べていたらサーキット走行と、2007年北京~パリ・ラリーの写真が出てきた。試乗後の今なら、これだけの高品質ならサーキットや長距離ラリーも楽しいだろうと容易に想像ができる。いずれもTIで、後者は約279時間で完走した模様だ。