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一世風靡"フライングブリック"VOLVO 850T5-R

1990〜2000年代初頭に作られた、いわゆる"スーパー"ヤングタイマーカーをピックアップする当企画。今回はボルボ850T5-Rが登場。ちなみにこちらは、ボルボ・カー・ジャパンが所有していた"広報車"である。当時、英国ツーリングカー選手権(BTCC)で"フライングブリック"、つまり"空飛ぶレンガ"と呼ばれたその存在感は、今でも輝きを失うことがない。

TEXT / 南陽一浩 PHOTO / 佐藤正勝
SPECIAL THANKS / ボルボ・カー・ジャパン(https://www.volvocars.com/jp

一世風靡”フライングブリック”

最近の新車にすっかり目が慣れていたのか、ボルボ850T5-Rの実車と対面してまず驚かされたのは、そのサイズ感だ。あのカクカクボディとプロポーションに現役当時の1990年代半ば、コンパクトという印象を抱いたことはない。だが、久々の850T5-Rはイエローの膨張色のはずがスリークでボンネットの低さが際立つ。

意外にも今回の撮影車はレッキとした広報車だ。ボルボ・カー・ジャパンがクラシックサービスの立ち上げていることはご存知の方も多いと思うが、この850T5-Rも同様で、ディーラーでの整備歴や来歴のキチンとしたワンオーナー車をフルレストアした個体だ。ボディカラーは再塗装され、眩しいばかりのオーラを放つ。このボディが当時、空力的にはドラッグ抵抗値0.29を誇っていたことは、なぜかよく覚えている。

850シリーズはそれまで、サルーンやエステートではFRしか作っていなかったボルボにとって初のFFであり、歴史的に重要な転換点となったヒット作だ。中でも850T5-Rはハイパフォーマンスモデルで最大出力240ps、最大トルク34.7kg-mを与えられていた。今日からすれば控えめな数値だが、ポルシェが開発の一翼を担った直列5気筒DOHC 20バルブ2.3リッターターボは、安全で丈夫だが鈍重というボルボのイメージを一新した。

しかもそんな元祖イケイケワゴンを市販するだけに飽き足らず、ボルボは850エステートをレーシングカーに仕立て、トム・ウォーキンショーとBTCCを戦ったことでも話題を蒔いた。1994年からの3年契約で、最初の1年はエステートを走らせたが、1995年からはレギュレーション変更でリアウイングが認められ、より大きなダウンフォースが得られるサルーンにとって代わられた。だが元F1ドライバーのヤン・ラマースのドライブで、内輪をリフトさせて文字通りカッ飛んでいた四角四面の850エステートの勇姿は、サルーン以上に鮮烈な印象を残した。その印象とパラレルにある1台、それがまさしく850T5-Rなのだ。

手袋をしていても握りやすいであろう、大ぶりで頑丈なドアハンドルを手前に引いて、キャッチが解かれた感触を楽しみながら、シートに腰を下ろす。アルカンターラとレザーのコンビシートは850T5-R用のスポーツ仕様とはいえ、クッションストロークが長く、柔らかさすら感じさせる座り心地だ。レストアが施されたとのことだが、走行距離24万kmを超えた21年前のボルボが不快な経年変化を感じさせず、ここまでキチンと内装の質感クオリティを保っているのはグッドサプライズだ。それにしても物理的ボタンの多さ、そしてその重厚な感触や操作タッチに圧倒される。ボタンを少なくして中央のタッチスクリーンが目立つ今日のクルマがトレーダーの仕事机とすれば、こちらはまだまだ操縦士とコックピットの世界だ。

今日の感覚からすれば、ブレーキペダルの踏みしろなど、操作系のストロークは大きめ。だがスロットルペダルをゆっくり踏み込んでいくと、アイドリング付近ではくぐもったエグゾースト音だった直5ターボユニットが俄然、軽やかにビートを奏で始める。少し強く踏めば、昔ながらのハイプレッシャーターボのヒュイーンとした音が混じり出し、いわゆる2段目の加速が興を添える。こうしたドラマのある回転フィールは古いといえばそれまでだが、懐かしいだけでなく皮膚感覚としてしっくりくる。当然、首都高速の上で周囲の流れを悠々とリードするような速度レベルだ。

ダンパー&スプリングはもちろん、ブッシュやアームなど足まわりもリフレッシュされたとのことだが、大径の4本スポークステアリングは中立付近でかなりダルに感じる。当時はそういうものだったかもしれないし、今日のアジリティ方向の味つけにもはや自分の体が毒されているのだろう、もっと足の固いクルマだった記憶すらあるが、コーナーでは俊敏ではないなりに、やさしく操舵すれば適度なロールと安定した手ごたえを返してくれる。

それでいて高速での直進安定性は矢のごとく、今日のようなロックアップガチガチでないトルコン4速A/Tの柔らかなフィールも手伝って、パワフルかつ大らかなクルーズ感が心地よい。段差を乗り越えるとさすが21年を経た老体だけに、内装が時折、ギシッと鳴くこともあるが、ダンピング自体には節度感がある。確か当時も純正タイヤはピレリPゼロで、今回の広報車両もPゼロ・ネロを履いていた。

撮影の帰り道、高速道路の上でコックピットのボタンを色々試していたら、ボタン数こそ多くてもインターフェイスのロジックは現行世代のボルボに共通すること、さらにメーターパネル内下部のごく小さな液晶上に、瞬間燃費まで表示されることに気づいた。

確かに850T5-Rは、それ以前の960らと断絶を演じたクルマで、後のV70に繋がっていく過渡期の系譜にある。今日のクルマほどドライバーを喜ばせんがための(過剰な)演出はなくとも、考え方や要素として、すでに現代のクルマに相通じるものが多々あり、そのインターフェイスたるや、まるでデトックスセラピーのようですらある。そして、マルチエアバッグやリアシート中央のチャイルドシートなど、いつの時代も安全面では先んじていて当然、といわんばかりの態度も頼もしい。

だが何より際立つのは、走る・止まる・曲がるのタッチや手ごたえがストレートな点だ。平たくいえば、クルマという機械がドライバーに媚びていなかった時代の産物によって、自分の身に染み着いた癖や垢が明らかになって落ちていった、そんな体験だ。

21年は遠いようでまだ近い過去ながら、良質のスーパーヤングタイマーの旬はこれからであることを確信させる1台だった。そもそもボルボ自体、恐ろしく長持ちするクルマなのだ。

INTERIOR

ウッドのシフトレバー握りとセンターコンソールに時代を感じさせる。スピードメーターのスケールは260km/h、レッドゾーンは6000r.p.m.から、インストゥルメンタルパネル左上にはブースト圧がアナログ針で示される。ボタンの数に圧倒されるが、ロジックに慣れれば使いやすい。
デッドスペースのないトランクは容量、使い勝手とも模範的。
グレー基調のシートは座面や背面にレザー、サポートにアルカンターラ。
リアシートは7:3の分割可倒式だ。

ENGINE

5-Rに搭載された直列5気筒2318ccターボパワーユニットの型式はB5234T3。排気側にバリアブルのバルブタイミング機構を備えていた。850ターボと異なるECUを用いて+0.1barのブースト圧を得つつ、+15psの240psを発揮した。後にターボチャージャーやインタークーラー周りの取り回しを改良しながら、初代V70は無論V70IIやS60まで使われた。

EXTERIOR

フロントのリップスポイラー、サイドカッター、リアウイングなど、1995年の現役当時は武闘派ステーションワゴンの名を欲しいままにしたが、今見ると実に控えめ。5本スポークのホイールもいぶし銀の輝きだ。クリームイエロー以外は、ブラックやエメラルドグリーンメタリックがあった。

SPECIFICATION
VOLVO 850T5-R
●全長×全幅×全高:4710×1760×1440mm
●トレッド(F/R):1520/1465
●ホイールベース:2665mm
●車両重量:1510kg
●エンジン形式:直列5気筒DOHCターボ
●ボア×ストローク:81.0×90.0mm

●総排気量:2318cc
●最高出力:240ps/5600r.p.m.
●最大トルク:34.7kg-m/2000〜5600r.p.m.
●変速機:4速A/T
●懸架装置(F/R):マクファーソンストラット/デルタリンク
●制動装置(F&R):ディスク
●シリーズ生産台数:71万6903台