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英伊混血の"ボーイズレーサー"INNOCENTI MINI DE TOMASO

1980年代ホットハッチとして、そして異色のイタリア車として忘れられない1台としてここではイノチェンティ・ミニ・デ・トマソをピックアップしたい。ベルトーネらしいエッジの効いたスタイリングは、今見ても独特の迫力を周囲に放っている。

TEXT / 武田公実 PHOTO / 山本佳吾
SPECIAL THANKS / ミニクラフト(http://www.mini-craft.com/)

英伊混血の”ボーイズレーサー”

今やあらゆる場面で喧伝される”若者のクルマ離れ”を象徴するかのように、近年の自動車界であまり聞かれなくなったフレーズのひとつに”ボーイズレーサー”というものがある。

1960年代以降、スポーツドライブを好む愛好家のニーズを満たしてきたライトウェイトスポーツカーの多くが、1970年代も中盤を迎える時期になると、受動安全対策や排ガス規制などでフェードアウトを余儀なくされた。そこで、2BOXボディを持つ大衆車のスポーティバージョンが、若年層あるいは”ヤング・アット・ハート”な中高年層にとっても、従来のスポーツカーの代わりを果たしたことからボーイズレーサーなる愛称で呼ばれていたのだ。

そんなボーイズレーサーのイタリア代表と言えば、現在においても多くの方がアウトビアンキA112アバルトを連想されよう。しかしもう1台、忘れてはならない、あるいは忘れられないモデルがある。それが今回の主役、『イノチェンティ・ミニ・デ・トマソ』だ。

スクーターブランド、ランブレッタで名を成したイノチェンティ社は、1965年から英BMCミニのノックダウン生産を開始した。独自の内外装を与えたイノチェンティ・ミニには、高性能版のクーパーも設定。1971年をもって、本家英国BLMC(旧BMC)でミニ・クーパーSの生産が終わったのちも、高性能ミニの血統をクーパーの名とともに独りで護り続けた。

イノチェンティ・ミニは1974年に、ベルトーネが内外装を完全リニューアルした新世代モデル『90/120』へと進化を果たすと、1976年には、高性能モデルも新型に移行。同年からイノチェンティの親会社になったデ・トマソのスポーツカー、パンテーラなどを思わせるコスメチューンが盛り込まれたイノチェンティ・ミニ・デ・トマソとして誕生した。

パワーユニットはミニ一族に共通するBMC系Aタイプの1275cc版。旧イノチェンティ・クーパー時代のSUツインキャブは、当時のエミッションコントロールも意識してかSUシングルに変更されたものの、HS2型からHS6型に大径化されたこともあって、最高出力は71psから74psへとスープアップしていた。

新車時には、この時代のパンテーラを連想させるデザインの12インチアロイホイールを履き、テールエンドにはイタリアンスポーツの象徴ANSA製2本出しマフラーが与えられた。さらに、ボディ下半身をマットブラックとするカラーリングも、パンテーラGTSを思わせるもの。小さいながら迫力満点で洒脱な雰囲気も漂わせるルックスは、中期以降のアウトビアンキA112アバルトをはじめ、こののち世界各国に登場したイタリア様式のボーイズレーサーたちにも多大な影響を与えることになるまさしく、英伊混血のボーイズレーサーだったのだ。

ちなみに今回の取材車はガレーヂ伊太利屋が新車で輸入・販売したと推測される1983年式。現在、ミニやロータスを得意とする英国車スペシャルショップ『ミニクラフト』で取り扱われていることもあって、スペクトラムレーシングの10インチワイドホイールやミニマルヤマのエアロキットなど、この時代のミニ・カフェレーサーでは定番だったドレスアップが施される一方で、ステアリングは同時代に人気を博したイタルボランテの4本スポークが装着されるなど、英伊混血がさらに際立つ1台と言えよう。

まるでトラックのそれのように寝かされたステアリングを抱え込むようなドライビングポジションは、古くからのミニ愛好家の間では”ナッフィールドスタンス”と称された。しかし今、このクルマのコックピットでその姿勢をとると、不思議とイタリア車特有のポジションであるかのような錯覚を覚えてしまう。

1980年代のボーイズレーサー全盛期を体験した世代のエンスージアストにとってイノチェンティ・ミニ・デ・トマソは、熱き時代を追体験させてくれる1台、ということなのだろう。まさに忘れられないホットハッチだ。

取材車はクラシック・ミニや英国車を扱うスペシャルショップ、ミニクラフトが在庫していた1台。1983年式、走行距離7.1万km。同店は袖ヶ浦フォレストレースウェイの近くにあるので、その前を通過した方も多いだろう。
残念ながら当日はエンジン音を聞くことができなかったが、HS6型のSUシングルキャブを搭載し74psを発揮するパワーユニットは、いかにも元気よく走りそうな雰囲気だ。
イタルボランテの4本スポークステアリングやカーボンパネルが際立つ室内。ミニに近い、しかしどこか異なるドライビングポジションはこのクルマの美点のひとつであろう。
シートはダイハツ・シャレード・デ・トマソ用に換装されていたが違和感なし。編集担当が標準と勘違いしたほどだ。当時のパーツも少なく、賢い変更と現場で意見が一致した。
ブリティッシュ・レイランド・フランス社が当時発行したカタログでは、『イノチェンティ・デ・トマソ』と表記。見比べると取材車はエアロキット装着など、さまざまなモディファイを受けているのがわかる。