OTHERS

<その他コンテンツ>
ニューカー、ヤングタイマー、クラシック、オーナー、ライフスタイル、
カタログ、100ドロ、ミニカーなどなど
NEW CAR

東欧テイスト満載のミニバンDACIA DOKKER

潔いまでの割り切り。でもちゃんと走る。少し前のフランス車の美点を今なお受け継ぎ、シンプルで実用的、かつ共産圏時代の東欧車の雰囲気をも残すダチア・ドッカーは、現代のクルマへのアンチテーゼなのかもしれない。

TEXT / 遠藤イヅル PHOTO / 宮越孝政

カングーの初代以上、2代目以下のちょうど使いやすいボディサイズはとても乗りやすい。尻上がりの車体は本家フランス車では消えつつある“伝統”を受け継ぐ。リアドアスライドレールも車体に埋めこもうという気もない。全てが”これで充分”という割り切りで清々しい。

必要最小限の美学
クルマはこれでいい!?

ダチア。東欧ルーマニアの自動車メーカーで、現在はルノー傘下にあり1960年代からルノーのノックダウン生産を開始している。代表的な車種はルノー12のダチア版『1300/1310』でこちらは2000年代まで延々と作られていた。

その後、ルノーの既存コンポーネンツをかき集めてリーズナブルに開発された『ロガン』のリリースを皮切りに独自の新型車を続々と発表。ルノーをユニクロとすればダチアはGUという立ち位置で、開発費と人件費の安さゆえの廉価を武器とする。ダチアのクルマは、当サイトでは他にSUVの『ダスター』を取り上げている。ダスターは現在のクルマとしては驚異的にチープシックなクルマで、必須装備であるパワーウインドウとエアコン、パワステがあるだけ。まさに必要最小限、これでいいじゃないという言葉がぴったりだった。

今回取り上げる『ドッカー』は、2012年に登場した“ダチア版カングー”で、2人乗りの商用モデルと5人乗りの乗用モデルがリリースされた。2014年になってSUV風に仕立てた『ステップウェイ』を新たに設定。仕向け地によってはルノー・ブランドでも売られ、南米のアルゼンチンでは『ルノー・カングー』として販売されている。特記すべきはボディサイズで、全幅1.8mを超える現行のカングーよりも細く初代カングーより広い1750mm。また全長は現行カングーより80mmほど短く、初代カングーよりは300mmほど長い4363mmという絶妙な寸法なのだ。リアドアがスライドで、ハッチドアは観音開き、それぞれを畳むことができる独立した3つのリアシートという基本構造を持つ。だから、カタチがちょっと違うカングーといっても差し支えないほどに作りが共通している。

おっとりとしたフェイスマスク。面積の大きな黒バンパーは、グレードやオプションによってはボディ同色もチョイス可能だ。

日産先代リーフ用と思われるドアミラー。ダチア車は流用パーツの元ネタ探しも楽しい。

大きく使いやすいドアノブ。ザ・プラスチックなことを隠しもしない仕上げにむしろ感動さえ覚える。

タイヤサイズは185/65R15。取材車のグレードは『アンビアンス』で、フルホイールキャップを装着。

ロゴや車名には拘りがあるらしく、ステッカーではなくて立体造形のパーツを使うという凝りよう。

“必要最小限”というコトバがぴったりのクルマだが、テールライトのサイズもまさにそれ。これ以上何を望もうというのか。

実用車かくあるべし!
素っ気なさが最大の魅力

だけど、ドッカーと現行カングー最大の違いは”とにかく素っ気ない”ことだ。カングーだってベースが商用車なんだから素っ気ないじゃないか、と思われるかもしれないが、ドッカーを見るとカングーの内装って高級だな、って思い知らされる(笑)くらいシンプル。カングーに比べてラゲッジスペース周辺の内装材が省略されて剥き出し部位が多いのだ。床のマットなどもリーズナブルな素材を用いている。上下可動式の前席シートベルトアンカーはBピラーに直づけで、内装で覆い隠そうともしない。

……そうだ、何か見覚えあるなと思ったら、この内装の雰囲気って商用車感がいっそう強かった初代カングーそのものだ。そういえばシートベルトアンカーって同じ部品かもしれないぞ……。そう思うと、乗用車に近づいた現行のカングーよりも、むしろドッカーの方が初代カングーのフィロソフィ、さらに遡ればサンクのバン『エクスプレス』、キャトルのバン『F4』、『F6』から続くフルゴネットの正統な後継車ではないか、という気さえする。

取材車は日産HR16DE/ルノーH4M型の1.6リッターのガソリンエンジンを搭載する。カタログ値102psは1.2トンほどの車重には必要十分、ではあるけれど、正直なところちょっとパンチが欲しい。低速、中速域のトルクももう少しあるといいなと思うのだが、そんな時はマニュアルトランスミッションを駆使して回し気味に乗ればいい。それって、基本的に”車体が大きいのにエンジンが小さく非力”というかつてのフランス車の乗り方を彷彿とさせるところがある。

さらに、ドッカーには、”簡潔に作る”ために天才的ともいえる発想が遺憾なく発揮され、溢れている。例えばトノカバーの引き手は布に切り込みを入れてあるだけ。凝ったことなんかしなくても、機能は満たせる。これこそフランス車だ。過剰なモノはいらないという割り切りが、心地よいまでに貫かれている。そんな昨今のフランス車が無くしかけている旧来の味わいが、ドッカーにはある。そして加飾の少なさは、共産圏だった歴史を持つ東欧車独特の雰囲気をも漂わせている。まるで、装備満艦飾で自動化も進む現代のクルマへのアンチテーゼのようではないか。

だから、座り心地の良いシート、商用車かつリーズナブルブランドなのに妥協のない走りなど、「走りのレベルが高いなら多くは求めない」という合理的なフランス車や、シンプルな実用車を愛して止まない好事家、日本では珍しいクルマが好きな人なら、東欧生まれの希少性、東欧テイストのドッカーは、とても魅力的なクルマに映るはずだ。

エンジンバリエーションはガソリン/ディーゼルの2種類で、この個体はルノーではH4Mと呼ばれるガソリンの1.6リッターDOHC16バルブエンジンを搭載。最高出力102ps、最大トルク15.9kg-mを発揮する。

これまた必要最小限の造形。シンプルゆえ逆に長く飽きの来ないデザインともいえる。ダッシュボード上面には大きな棚が備わる。

メーターも素っ気ないが必要な情報は充分に伝わる。水温計はない。

シフトノブはカングーと同じ。そこここにルノーの部品流用が見出せる。トランスミッションは5速M/Tしか設定されていない。商用車でさえATが多い日本では考えられないことだ。

あたりは少し硬いが、商用車ベースだと思うと座り心地抜群のシートはルノー系特有の味わい。
カングーと同じ3席独立のリアシート。サイドの窓はヒンジ式で少しだけ開く。
リアシートをダブルフォールディングでパタパタと畳めば、低く広いラゲッジスペースが拡大。カングーの美点を受け継ぐ。
1 2